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2022年4月22日 (金)

プレイバック武蔵坊弁慶・(32)衣川立往生 [終]

武蔵坊弁慶は、奥州に向かって来ていることを期待して、置き手紙をしておくことにしました。やむなき事情により奥州を立ち去るので、玉虫も小玉虫を連れて北を目指してほしい──。あと何を書こう? と天を仰いでいると、澄が青ざめた様子で飛び込んできました。新婚の夫・片岡経春が澄は連れていけないと言う、迷惑をかけないから連れて行ってほしいと訴えます。

そこへ経春が追いかけてきて、無理やり連れ戻そうとするのですが、夫婦なら離れるでない! と弁慶は経春を一喝します。弁慶自身、妻子を都に残してきたので後悔しているわけです。連れて行ってやってくれと改めて諭し、ふたりの手をつながせます。

藤原忠衡が兄の泰衡に殺害されたことを知った弁慶は、奥州を出て北へ向かうことを決意します。しかしこの時すでに弁慶たちは、3,000の兵で包囲されていたのです。加えてくれと家出してきた佐藤忠信の忘れ形見・太郎丸には、大きくなったら北へ来いと言って帰すことにします。そして弁慶を訪ねて玉虫と小玉虫の親子が来たら渡してほしいと手紙を託します。

 

伽羅(きゃら)御所で待っていた泰衡は、義経主従が北へ向かったとの報告を受けると、全軍を北に集めてひとり残さず討ち取れと命じます。そんな泰衡をじっと見つめる後藤新兵衛です。

 

林の中を進む一行ですが、弁慶はふと歩を止めます。「敵がおる……突っ切るぞ」と、弁慶、伊勢三郎、常陸坊海尊を先頭に、その敵に向かって駆けだします。道の両脇に隠れていた兵たちが雨のように矢を降らし、荷車に乗っていたうらや行方六郎が矢に当たってしまいます。それでも弁慶は薙刀を振るって敵兵をなぎ倒し、あっという間に囲みを突破するのです。

 

しかし囲みを突破したとはいえ、次なる敵が迫って来ています。同行する女たちがうらと行方を手当てしている間、弁慶は義経に戦法について進言します。義経、弁慶、海尊、鷲尾三郎、片岡為春は、囮(おとり)として脇にある山を目指し、残りの者は伊勢三郎の指揮のもとで進む。念のため経春と喜三太は伊勢側に残します。

義経は若の前に、別々に行動することを伝えます。自分と一緒にいたら危ないのだと諭すのですが、若の前は承服しません。義経がいなければ生きる価値がなくなる、お慈悲を……と訴える若の前に、義経はもはやダメだとは言えなくなり、同行を認めます。遠くからそのふたりを眺めている伊勢は、俺の役目は終わったと実感します。

為春は兄と別行動になるので、うらの手当てをしていた澄に「姉上」と声をかけ、兄をよろしくと言葉をかけます。
矢を受けながら必死に応戦していた行方ですが、意識がもうろうとし始めました。義経や弁慶たちが駆け寄りますが、何ごとか言葉を発すると、そのまま力尽きます。みな行方の名前を叫びますが、戻って来ませんでした。

大声を出して敵の目を引きつける別動隊は、弁慶の振るう薙刀のえじきとなって多くの兵たちが崖から落ちていくわけですが、鷲尾が敵に囲まれてしまいました。その間、本隊は急いで駆け抜けます。

 

そのころ玉虫と小玉虫は少し急ぎ気味に奥州を目指します。玉虫は息切れしていますが、それは急ぎすぎと、もう少しで愛する弁慶に会えるというドキドキからです。小玉虫は休息を提案しますが、玉虫は先を急ぎます。

 

迫りくる敵に弁慶たちは必死に応戦します。義経も若の前をかばいながら戦います。しかし海尊が槍で刺されて倒れます。弁慶はその怒りを、荷車を担ぎ上げて敵兵に向かって投げつけ、敵兵が一目散に逃げていきます。

 

伊勢を先頭とする本隊が浅い川を渡り終えたところで、澄が実家の場所を教えてくれます。そこに行けば匿ってくれるだろうと進言する頼もしさに、経春に「お前 良い女房もらったな」とほほ笑みます。そして伊勢は、馬を探して弁慶の元に戻ると別行動をとることにします。経春も喜三太も戻ると言いますが、そうなったら弁慶の気持ちは無駄になると断り、一人で離れていきます。

 

とぼとぼと実家に戻っていく太郎丸ですが、十数人の兵を見つけると草むらに隠れてやり過ごします。彼らの通過後、辺りをよく確認して再び実家へと急ぐのでした。しかし太郎丸は、弁慶から預かった文をそこに落として行ってしまいます。

 

海尊は生き絶え絶えに、自分が書いていた義経記の続きを書いてくれ と、握りしめていた巻物を弁慶に渡そうとしますが、弱気を出すなと励まします。しかし直後、海尊は意識をなくしだし、頼むぞと弁慶に再度言って巻物を託します。静かに念仏を唱える海尊でしたが、「いかん……後を忘れてしもうた」と言って落命します。義経にとっては弁慶よりも長い付き合いの常陸坊海尊の最期でした。

本来であれば荼毘に付し、墓を建ててやりたいところですが、敵がもうそこまで迫っています。仕方ないですが亡き骸をここに残していくしかありません。義経は後ろ髪引かれる思いで先を急ぎます。

 

敵の攻撃は無情にも続きます。弁慶はまたも薙刀を振るいに振るって敵を蹴散らし、義経も善戦します。驚きなのは、伊勢に習った手裏剣投げで若の前が敵兵を倒していくところでした。そこに弁慶の名前を叫ぶ喜三太が「弁慶どの! ただ今戻りましたァ」と言って膝から崩れ落ち、倒れます。背中には矢が刺さっていました。

転んだ若の前を義経が助け、そのスキに敵兵が義経に斬りかかりますが、その窮地を救った為春が刺されて倒されます。弟が死んだことも知らず、弁慶の元に戻ってきた経春は敵を次々と斬っていきますが、実家から飛び出してきた澄まで経春の後を追いかけてきたのです。
遠巻きに夫の戦いぶりを見ていた澄でしたが、斬り倒されてしまうと見るや、敵兵の中から夫の元に飛び出してきます。振り向いた弁慶はとっさに「来るな!」と叫びますが、敵兵の刀で斬られ、夫まであと一歩のところで力尽きます。弁慶は澄の手に経春の手を重ね、涙をためて立ち上がります。

 

休みなく歩き続ける玉虫と小玉虫は、戦った男たちの死骸を見つけて一瞬足がすくみますが、なるだけ目に入らないようにして前進します。すると倒れている鷲尾がカッと目を見開き、弁慶の名を口にします。慌てて駆け寄った玉虫が「判官さまのご家来か」と尋ねますが、それに答えることなく果ててしまいます。玉虫は、夫の身に起こっていることを把握します。

仲間たちが次々と斬り倒されていく中で奮闘する義経と弁慶、そこに伊勢が馬を3頭つれて戻って来ます。義経は馬上の人となり若の前を一緒に乗せ、弁慶も乗馬して敵を蹴散らして囲みを脱出します。

 

途中で大事な預かりものを落としたと気づいたのでしょうか。太郎丸が来た道を急いで戻って来ます。草むらに落ちている文を見つけ、表情が明るくなる太郎丸でしたが、落ち武者狩りの兵たちに囲まれてしまいました。ウロチョロせんと早く帰れッ!! と怒鳴られる間に、文は風に乗って飛んで行ってしまいます。

 

ある程度走ったところで馬から下りますが、敵兵の雄叫びが近づいてきました。義経は若の前を連れて丘を登って行き、弁慶は伊勢にも行くように言いますが、伊勢にその気はありません。「俺はお前の弟だ! 武蔵坊、お前がいなかったら俺はただの馬泥棒で終わってた!」 礼を言うぜ! と騎乗したまま敵に向かっていきます。

敵兵の中に新兵衛の姿を見つけた伊勢は、新兵衛めがけて突進していきます。二人とも落馬し、取っ組み合いをしますが、伊勢は別の兵に刀で突き殺されてしまいます。

 

鎌倉の頼朝館では、縁側に頼朝と北条時政、北条政子が座っておかきを食べています。奥州では今ごろ……と時政がつぶやくと、頼朝は無表情のまま「弁慶という男、一度会うておきたかった……」と言って立ち上がり、大あくびをします。

 

義経と若の前、弁慶は必死に逃げますが、敵兵たちはその3人をどこまでも追いかけてきます。倒して減るどころか、少しずつ増えていっている印象です。

 

玉虫と小玉虫の表情から笑顔が消え、とにもかくにも先を急がなければという焦りでいっぱいです。太郎丸が落とし、風に乗って飛ばされた文にも気づかずに玉虫たちは先を急ぎます。

 

夕暮れ──持仏堂に入る3人、みなハアハアと息切れがひどいです。しばらくここで休息し、弁慶が敵を防いでいる間にお立ち退きをと義経に伝えますが、もうよい とつぶやいた義経は、弁慶に介錯を頼みます。

「殿……一同の者が命を懸けて殿にお仕え申した。ただ忠義心からだけではございませぬ。恐れながら……皆は一途な殿のお姿に、己の姿を見たからにございます。殿は我らの望みなのじゃ……。滅んではなりませぬ……滅んではなりませぬ。どのように苦しくとも生き延びることこそ、天から与えられた殿の使命なのじゃ!」

一人たりともここへは寄せ付けない、お発ちの際にはこの持仏堂に火を放たれよと言って、弁慶は持仏堂から飛び出して行きます。

義経主従を追って敵兵が迫ってきました。仁王立ちする弁慶は薙刀をブンブン振り回し、敵兵をなぎ倒し仕留めていきます。新兵衛は次々と斬り倒される兵に埒が明かぬと一旦引かせ、弓隊を前に出して射よと命じます。無数の矢が飛んできますが、薙刀を高速で回して防御する弁慶ですが、ふと後ろを振り返ると持仏堂から煙がモクモク上がっているのに気づきます。

殿は脱出なされた──そう思った弁慶でしたが、1本の矢が弁慶の脇腹に刺さります。それを勢いで折り、薙刀を振り上げたところで全身に矢が無数に刺さり……。新兵衛は「それっ」と掛け声をかけ、一気に攻め掛けますが、それでも弁慶は刺さった矢を折り、これまで通り薙刀で敵兵を倒し続けるのです。敵兵は慌てて引き下がるしかありません。

義経と若の前は無事に脱出したと弁慶は思っていましたが、実際は炎に包まれる持仏堂の中でふたり向き合って座っていました。

 

長い上り坂を早足で進む玉虫たちは、夕暮れの空に黒煙がモクモクと上がっているのを目にします。

 

新兵衛は攻撃の手を緩めず弓隊に次々に射させますが、はじめは薙刀で振り払っていた弁慶も、疲れたのか全身で矢を受けます。それでも止まず次々に射られる矢。弁慶は息が浅くなりながら、遠くで玉虫と小玉虫が「ととさま!」「わが君!」と自分を呼ぶ声を聴いたような気がしていました。

五条の大橋で、水干姿の遮那王(義経)と対決したころ。
竹林の中、遮那王を追っていたころ。
在りし日の義経の笑顔。
京から奥州への道中、仲間が再び揃ったころ。
幼い玉虫を背負って山の中を駆け回っていたころ。
幼い小玉虫に父親として認知され、親子でじゃれあっていたころ。
玉虫と小玉虫のもとに無事に戻れたころ。

それがし、北へ参り候。やむなき事情により奥州を立ち去り候ゆえ、そなたも小玉虫を連れそれがしの後を追い、北を目指していただきたく候。殿や後輩らとともに住みやすき土地を探し、かねてより夢に見し仏法の花咲く理想郷を、かの地に築かんと念願の旅立ちにて候。
北へ参られし時は十分気を付け、厳しい寒さへの備え怠りなきように。小玉虫のためしもやけの薬も必ず必ずご準備お忘れなくお願い申し上げ候。
かような齢となりて誠に恥ずかしきことに候えども、近ごろそなた様への恋しき思い、募るばかりにて候。その思いを胸の奥に閉じ込めし年方を思えば、悔いの残る思いにて候。この上は一刻も早く、そなた様にお会いいたしたく、ただただお会いいたしたく、一日千秋の思いでお待ち申し上げ候べく候──。
玉虫どの 弁慶

新兵衛たちの軍は、攻める術をなくしたかのように立ち尽くします。どれだけ攻撃しても、矢を放っても、弁慶は微動だにせず立ちふさがっています。新兵衛も驚いた表情のまま固まっています。そよそよと悲しむ風の音だけが、あたりで泣き続けます。

 

──完──


原作:富田 常雄

脚本:杉山 義法
  :下川 博

テーマ音楽:芥川 也寸志

音楽:毛利 蔵人
演奏:東京管弦合奏団

タイトル文字:山田 恵諦
監修:鈴木 敬三
語り:山川 静夫 アナウンサー

考証:白井 孝昌
風俗考証:磯目 篤郎
殺陣:林 邦史朗

 

[出演]

中村 吉右衛門 (武蔵坊弁慶)

 

川野 太郎 (源 義経)

荻野目 慶子 (玉虫)

岩下 浩 (常陸坊海尊)

内藤 武敏 (北条時政)
平泉 成 (後藤新兵衛)
──────────
村田 雄浩 (片岡経春)
布施 博 (片岡為春)

中村 吉三郎 (喜三太)
狭間 鉄 (鷲尾三郎)

門田 俊一 (行方六郎)
武藤 積弘 (太郎丸)

高橋 かおり (小玉虫)
戸恒 恵理子 (小玉虫)

伊東 景衣子 (澄)
磯村 千花子 (うら)

 

山咲 千里 (若の前)

津嘉山 正種 (藤原泰衡)
剣持 伴紀 (藤原国衡)

猿田 修二 (家人)
小林 謙司 (家人)

遠藤 英恵 (侍女)
林 佳代子 (侍女)

和泉 史郎 (郎党)
中島 次雄 (郎党)
新 みのる (郎党)

若 駒
劇団いろは
早川プロ
──────────
ジョニー 大倉 (伊勢三郎)

神崎 愛 (北条政子)


菅原 文太 (源 頼朝)

 

制作:村上 慧

美術:越智 和夫
技術:曽我部 宣明
効果:西ノ宮 金之助

照明:市川 隆男
撮影:増田 栄治
音声:若林 政人
記録編集:久松 伊織

演出:重光 亨彦

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