プレイバック草 燃える・(11)兄の涙 弟の涙
治承4(1180)年10月20日、源 頼朝は30万の軍勢を率いて富士川に到着しました。その時すでに対岸には、平 維盛を総大将とする平家の大軍が布陣していました。見張りの兵とともに無数の赤い幟旗(のぼりばた)がひらめき、頼朝はじっと見つめています。頼朝が初めて目の当たりにする平家の正規軍です。いよいよ平家源氏激突の本格的戦いが始まろうとしていました。
その夜、先駆けを狙った甲斐源氏の一団が密かに川を渡り始めます。その音に気付いた水鳥が一斉に飛び立ち、その羽音を敵の夜襲と勘違いした平家の兵士たちは大騒ぎしだします。酒を飲んでいた者、女を抱き眠っていた者、皆が大混乱に陥り、かがり火や幟旗、武具を倒し踏みつけながら逃亡していきます。維盛もガクガク震えるありさまです。平家軍は夜のうちに京へ引き上げ、頼朝は一戦も交えずして戦いに勝利します。
頼朝はそのまま平家軍を京まで追っていきたかったのですが、上総介広常や千葉常胤らは反発します。京に深追いするよりもまずは坂東の地固め──頼朝旗揚げに参加しなかった源氏の佐竹を討つこと──が大事と言うのです。広常も常胤も佐竹の領地に接しているので、頼朝の旗印を借りて佐竹を倒したがっているのは分かったうえで、頼朝は佐竹を討つと方針転換します。
富士川に2名の武者の姿がありました。一方は頼朝を追って東北から駆け付けた源 義経、そしてもう一人は平家本陣の無残な跡地にただ呆然と立ち尽くす伊東祐之です。義経は対岸にかすかに見える祐之に、戦が終わったのか、源氏の軍団はどこに行ったのかと大声で尋ねますが、その声は遠すぎて祐之には届かず、祐之の声も義経には少しも聞こえてきません。
黄瀬川の陣では、今回の戦の論功行賞が初めて行われます。北条親子をはじめ、当初から頼朝軍に多運を賭けて戦った者たちが新しい領地を得、あるいは本領安堵などの恩賞を与えられます。そんな中、頼朝軍を追ってきた義経は陣を探し当て、見張りに取り次ぎを求めますが、弟というのを怪しんでなかなか取り次いでくれず。仲介に入った土肥実平も取り次ぎを約束しながら、義経が呼ばれる気配はありませんでした。
酒が振る舞われて皆が大いに楽しむ中、義経のことを思い出した実平は頼朝に報告しようとしますが、そこに大庭景親が降伏してきたとの知らせが入り、大いに沸き立ちます。頼朝は縁起がいいと座を盛り上げますが、北条義時はその知らせに衝撃を受けたのか、三浦義村に酒を勧められてもなかなか飲もうともせず、ずっと思いにふけっています。
その後、義経が奥州から来ていると知った頼朝はすぐに通し、兄弟の対面となりました。頼朝は、弟が鞍馬寺に預けられその後奥州平泉に行っていたことを知っており、いつか会える日がくるとは思っていましたが、こんなに早く実現するとは考えもしなかったようです。頼朝は涙を流して義経を受け入れます。
父が頼朝に下り、相模の屋敷を出た茜と小波は、建設が急がれる鎌倉の町までやってきました。不安いっぱいの茜は、そこを偶然通りかかった北条保子に話しかけ、北条政子に会ってお願いしたいことがあると仲介を頼みます。茜のその表情は、どこか決死の覚悟が見て取れ、保子は一瞬とまどっています。
そのころ頼朝の前には、捕縛された景親が連れてこられていました。石橋山の合戦の名乗りの場面で「頼朝は犬にも劣る」と景親に言われたことを頼朝は恨みに思っているのです。首を刎ねよと声を絞り出す景親に、挑むような目を向ける頼朝ですが、敵の総大将にはそれ相応に遇するのが武士の情けと、景親の身柄を北条に預けてほしいと申し出ます。
政子と対面が叶った茜は、もし景親が捕らわれたら何とかすると義時が約束してくれたことを打ち明けます。義時がそう約束したということは彼なりの明るい展望があるのだろうと推測した政子ですが、政子からも頼朝にどうかとりなしをと頭を下げる茜に、政子は黙り込んでしまいます。茜はなお食い下がり、お願いし続けます。
10月25日、頼朝軍は鎌倉に戻ってきました。頼朝は政子に義経を紹介しますが、義経はいきなり握手して政子はちょっとのけぞります。「姉上はお若い」と言って政子を喜ばせたかと思えば、男の子をどしどし産まなきゃ! と物言いにも遠慮がありません。政子と早く二人きりになりたい頼朝の気持ちに気づくことなく、住まいは御所でいいだの、一緒に湯につかって酒でもだの言って、頼朝や政子を困らせます。
自分よりも先に兄の阿野全成が鎌倉に駆け付けていたことを知った義経は、鎌倉の海で全成と語り合います。やはり義経としては、戦いに加わるべく奥州から駆け付けたものの戦に間に合わなかった悔しさとともに、再会の時に頼朝が涙を流して泣いてくれたことですが、話を詳しく聞けば頼朝の反応は全成の時と全く同じです。義経は頼朝が涙もろいと片付けますが、全成は何か感じるものがあったようです。
頼朝は政子から、茜が助命嘆願に訪れたことを聞きます。政子も、いずれは義時の舅になる方だからと考慮を求めますが、頼朝は義時が景親の身柄を預かりたいと言い出した理由がようやく分かりました。その理由を知るまでもなく、頼朝は義時の申し出を許さず景親の身柄を広常に預けたのですが、なおも助命を進める政子に頼朝はいら立ちを見せ、無言で抵抗します。
茜は義時とともに頼朝の前に現れ景親の助命嘆願を行うのですが、頼朝は口を開けて心ここにあらずです。涙ながらの茜の訴えに頼朝はポツリと「……何とかせねばならぬな」とつぶやき、その言葉に義時と茜は歓喜します。しかし茜の姿が見えなくなると、頼朝は今さら、景親を助けるのは無理だと言い出します。しかもそのことは義時から茜に伝えよと……。義時は断崖から突き落とされたような絶望を味わいます。
茜は上総介館に預けられている景親に会いに行き、義時や政子らの力も借りて命は助けられると言いますが、景親にはもはや未練はありません。そもそもは総攻撃の日を義時に漏らしたことから始まった敗北への道に茜は責任を感じていて、どうしても景親を助けたいのですが、父はそのことはむしろ水に流しています。そこへ広常が入ってきて、茜の抵抗もむなしく景親を連れ出してしまいます。
景親の首が片瀬川で刎ねられたことは、保子から政子の耳に入ります。景親の助命に関して念押しのために再度お願いをしようと思っていた矢先、そんなに急いで処刑が行われたことが意外過ぎて政子はとても衝撃を受けます。政子は頼朝の冷酷さに触れ、言葉を失います。
茜は、義時が止めるのも聞かずに景親の首が晒される刑場に急ぎます。追いついた義時は、見てはならぬと茜を抱きしめますが、父のショッキングな姿を見るや、気を失って倒れてしまいます。意識を取り戻した茜に、義時は涙ながらに詫びを入れますが、茜にはもはや何の感情もなくなっていました。
原作:永井 路子
脚本:中島 丈博
音楽:湯浅 譲二
語り:森本 毅郎
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[出演]
石坂 浩二 (源 頼朝)
松平 健 (北条義時)
真野 響子 (北条保子)
滝田 栄 (伊東祐之)
武田 鉄矢 (安達盛長)
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金田 龍之介 (北条時政)
藤岡 弘 (三浦義村)
伊吹 吾郎 (和田義盛)
加藤 武 (大庭景親)
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松坂 慶子 (茜)
伊藤 孝雄 (阿野全成)
国広 富之 (源 義経)
岩下 志麻 (北条政子)
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制作:斎藤 暁
演出:大原 誠
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