プレイバック草 燃える・(10)鎌倉へ
治承4(1180)年10月、京。静まった夜に公家の屋敷に松明が投げ込まれ、たちまち燃え広がります。公家や侍女たちが慌てて外に飛び出して人がいなくなった屋敷に苔丸の一団が駆け込み、手分けして財宝を奪っていきます。平 清盛が福原で都づくりに勤しむ中、警護の薄くなった京は盗賊たちの巣窟となっていたわけです。
乞食たちは1個のもちを取り合いもみくちゃになっています。その人の波をかき分け、苔丸たちは蔵の中に奪ってきた財宝を入れていきます。奥州の金売り吉次がいれば叩き売って換金できるのですが、坂東で戦があっているからか、入京したという知らせは聞きません。小観音は、いっそ奥州に運んで売りに行こうと言い出します。
伊豆山権現に避難していた北条政子と妹たちは、いつまでも厄介になるわけにもいかず、秋戸郷(あきとのごう)にある 侍女のさつきの実家に身を寄せていました。牧の方は里に帰ったので、久々にのびのびと暮らしていて政子たちにも笑顔が戻ってきていますが、安房に退いた源 頼朝たちが大軍に膨れ上がっているという情報を最後に連絡が途絶えていて、それはそれで不安材料ではあります。
遠くから馬の早掛けの音が聞こえてきて身構える政子たちですが、その主が北条義時であると分かると、安心して駆け寄ります。「さあ、鎌倉へ行くぞ」と笑顔の義時に大盛り上がりの政子たちです。政子は鎌倉では御台所となるわけで、そのように振る舞ってくれなければ困ると義時は笑いますが、政子は「御台所……この私がねぇ。へぇー」とまるで他人事のようです。
途中で安達盛長が迎えに現れ、政子たちを宿に案内します。鎌倉とは目と鼻の先なのですぐに頼朝に会いたいと言う政子ですが、どうやら方角がよくないようで、「御所さま(=頼朝)の仰せで」と盛長は片膝つきます。ここで一泊後、明日鎌倉入りすることになりましたが、政子は御台所らしからぬ格好に、鏡を見てはため息ばかりで、もっと高貴な着物を持ってくるんだったと後悔しきりです。
頼朝は鎌倉の区割りを作成していました。当然、後に御所を建てるのを念頭にしていますが、その場所を明らかにすれば皆が御所の近くの地を奪い合うことになるので、文句が出ないようにと周到に練って作っています。上総介広常は、頼朝のことを御所さまと呼ぶ呼び方が腑に落ちませんが、三浦義澄が武衛(ぶえい)という呼び方もあると教えてやります。広常はその方が大将らしい、と好んで使うようになります。
頼朝は皆を集め、まずは鶴岡八幡宮を由比郷鶴岡から小林郷北山へ移設するためにそれぞれ負担を求めます。その八幡宮の跡地近くに鎌倉御所を建てる予定ですが、頼朝はそこで鎌倉区割りを発表し、その割り当てられた場所の中で住まいを建てるように命じます。皆、食い入るようにその区割りを見つめていますが、頼朝は区割りについての不満は言わないように厳命します。
義時から頼朝の耳に入ったのか、翌朝、頼朝から政子の袿(うちき)が届けられます。それを身に着け、政子は輿で鎌倉入りを果たします。片膝をつく家人たちの中に北条時政の姿もありつい声を上げる政子ですが、政子を上位とする言葉遣いにとまどいを感じつつ頼朝が待つ部屋へ足を踏み入れます。頼朝は、乳母比企尼の婿・比企能員を呼び、政子に引き合わせておきます。
建物の造営は急ピッチで進められています。そんな鎌倉の中を見物する北条保子たちですが、途中で僧とすれ違い、義時は一礼しています。保子はその僧がとても美しくて気になる様子ですが、義時によれば頼朝の弟・阿野全成だそうです。頼朝が旗揚げしたのを聞き、居ても立ってもいられずに醍醐寺から鎌倉へやってきたそうで、頼朝よりもいい男、と黄色い声を上げています。
頼朝と政子の居室では、大姫の寝顔を見るいつもの頼朝の表情に戻っていました。鎌倉殿や御所さまと呼ばれる以上、威厳を保った振る舞いを求められていましたが、頼朝も政子もようやく二人きりになれたとホッとしています。ただ、袿を送ったのは頼朝ではないらしく、しかも戦が始まると言う頼朝に、やはり変わってしまわれたと政子はがっかりし、自分から離れるのはイヤ、と頼朝の胸に顔をうずめます。
10月12日、頼朝はかねてからの希望通り鶴岡八幡宮を由比ヶ浜から小林郷に移し、伊豆山権現の良暹(りょうぜん)を呼んで栄典を催します。出陣も迫る頼朝は、合わせて戦勝祈願も兼ねたのです。
その数日後、義時は良暹を送りに伊豆山に来ると、捕らえられた伊東祐親と祐清父子が鎌倉へ護送されるところに出くわします。三浦義村によると伊豆から舟を出して平家軍に合流しようとしたところを捕まえたそうです。ただし祐之は取り逃がしたとかで、義村はとても悔しがっています。義時は祐之が逃げたと聞いて、少しだけ安堵した表情を浮かべます。
再び伊豆山に向かう義時一行ですが、「どろぼうじゃ、助けてくれ」と女が義時に泣きついてきました。義時がおそるおそる家の中に足を踏み入れると、肉を食らう祐之がいました。兄貴(宗時)と同じ目に遭わせてやろうかと祐之は脅してきますが、憐れみを見せた義時に逆上し斬りかかってきます。しかし義時にあっという間に負けてしまい、とぼとぼと彷徨っていきます。
──10月16日、平 維盛軍進発の知らせを受けた頼朝は大軍を率いて鎌倉を発った。目指すは駿河国、いよいよ平家源氏両軍衝突の本格的な戦いが始まろうとしていた──。
ちょうどそのころ苔丸一行は、奥州に向かう途中で小休止を取っていますが、その横を騎馬武者3騎が駆け抜けていきます。それが源 義経だと気づいた苔丸らは義経を追いかけ、久しぶりの再会を果たします。義経は頼朝が挙兵したと聞いて鎌倉へ急ぐ途中だったのです。「やっと来たんだ、晴れてわが父の仇、平家を討つときがな!」 家来になりたければいつでも来いと言い残し、再び出発する義経です。
原作:永井 路子
脚本:中島 丈博
音楽:湯浅 譲二
語り:森本 毅郎
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[出演]
石坂 浩二 (源 頼朝)
松平 健 (北条義時)
真野 響子 (北条保子)
滝田 栄 (伊東祐之)
武田 鉄矢 (安達盛長)
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金田 龍之介 (北条時政)
藤岡 弘 (三浦義村)
黒沢 年男 (苔丸)
伊吹 吾郎 (和田義盛)
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国広 富之 (源 義経)
伊藤 孝雄 (阿野全成)
佐藤 慶 (比企能員)
岩下 志麻 (北条政子)
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制作:斎藤 暁
演出:伊予田 静弘
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