プレイバック草 燃える・(04)政子略奪
治承2(1178)年3月、北条政子と伊豆目代・山木兼隆の婚儀まで約10日、京の都から届いた家財道具は家人たちが運び入れ、政子の妹たちは調度品の確認作業に追われています。政子の衣装は牧の方が見繕い、紅梅・柳・すみれ・青山吹・萌黄(もえぎ)・臙脂(えんじ)と多数揃えました。北条保子は、牧の方が北条館に来た時はこんなに揃えなかったとチクリ。気の進まない結婚と言われて牧の方も「流人風情よりマシ」と言い返します。
時政は、政子の嫁入りにここまで用意した満足からか「見栄えがするだろうなぁ」と自画自賛します。ただそれに反比例して政子のテンションはだだ下がりで、笑顔一つも出せません。そこに政子には内緒で兼隆が来ました。政子は道で兼隆に会ってもそっぽを向くとかで、時政はそういうことがないように念押ししますが、政子の表情はさらに固くなります。
北条宗時は、源 頼朝の書状を伊豆山権現の覚淵律師に渡すよう北条義時に依頼します。中身は重要なことが書いてあるらしく、人に見られることなく律師に直接手渡すように念押しする宗時ですが、義時がどういうことか尋ねてもそれには答えません。ただそのカギとして、政子のために何かすることがひいては北条家のためになると信じている、ということだけ伝えます。
兼隆が館に来た政子は宗時に助けを求めてきますが、横でニコニコしていろと言うだけです。日取りは近づくし調度品は次々とやってくるしで、政子はもう引き返せないのではないかと内心焦っているのです。俺に任せておけば大丈夫なんだよ、と宗時は優しい表情を見せるのですが、そう言われても困惑しきりです。
北条館に来た兼隆は時政と酒を酌み交わしていますが、肝心の政子はまだ現れません。兼隆は「妙な噂を聞いた」と、政子が頼朝に懸想しているという話をしてきました。その場で固まる時政と牧の方ですが、器量のいい娘を持つと父親としては大変だと引きつって笑うのを、兼隆はしらじらしく感じて聞き流しています。
ようやく政子が入ってきました。政子は宗時の指示通りに愛想よく振る舞い、兼隆はそんなギャップにすっかり目を奪われてしまっています。時政は坂東の風習として、婚礼の前の晩は必ず婿が嫁の家に通ってくるものだと言って、兼隆はすっかり気分が良くなっています。照れ笑いのような感じでケラケラ笑う兼隆ですが、政子はその横で「前の晩……」と頭の中に深くとどめておきます。
満足げに帰っていく兼隆を見送り、牧の方は政子に、男はとかく愛らしい娘を気に入るからいつも今日のように振る舞った方がいいと意見します。北条館に来て初めて娘を嫁に出すと張り切っている牧の方ですが、その母親ぶる感じが政子には気に入りません。私の前で母親ぶるのは今後やめていただきます! と言ってケンカ別れです。
「駆け落ち!?」 政子はとても甲高い声を出して驚きます。宗時が言うには、婚礼の前の晩、政子はこの館を出て伊豆山権現へ向かい、頼朝と落ち合う。宗時が義時を伊豆山権現へ派遣したのは、その手はずを整えるためだったのです。伊豆山権現に駆け込めば僧兵たちが守ってくれるので兼隆も手を出せないし、時政も認めざるを得なくなります。政子にはもう迷いはありません。
伊豆山権現へたどり着いた義時は文陽坊覚淵に会い、頼朝からの書状を手渡します。伊豆山権現は北条の姫との関わりもあるらしく、信心深い頼朝の頼みならばと受けることにします。覚淵は多少面白がっているようにも見えます。その覚淵律師が頼朝に返事を書く間、義時が参道を見てみると、茜が参拝に訪れているのが目に入ります。
手を合わせて祈願する茜は、義時の姿を見かけるとサッと近づき、先日の非礼を詫びます。実は伊東祐之が大庭景親に全てを話したそうで、義時の無実が晴れたわけです。茜は中宮徳子と写経をしてそれを収めに伊豆山権現へ偶然やってきたそうで、3~4日滞在して京へ戻ることになっています。「もう一度お会いしたいのです。ここにいる間にもう一度」と思いを伝えますが、茜は吹っ切って去っていきます。
義時が北条館に戻ってくると、門はかがり火が明々と焚かれ物々しい雰囲気です。政子が館から出ないように見張っていろとは門番への時政からの命ですが、宗時や義時がコソコソと何かを画策しているのを察知したようです。時政は帰ってきた義時のところに駆けつけ、下馬した義時の懐から運悪く書状が落ちてしまい、それを目ざとく見つけて動かぬ証拠と義時を問い詰めます。「女からですよ!」と言って父の手から文をもぎ取った義時ですが、そんな歳になったか……と時政は目を細め、笑って不問に付します。
時政が去っていったのを見計らって義時から書状をもらう宗時ですが、義時の内心はなんだかモヤモヤしています。遅い食事を摂っていて、このモヤモヤを抑えきれなくなった義時は、政子に思い切って、すべてを伝えることにします。
宗時や三浦義村たちが集まる地蔵堂に頼朝が来ました。覚淵律師はおおむねこちらの要望通りなので策は順調としても、問題は政子を伊豆山権現に匿った後です。兼隆が北条を恨んで何か行動を起こす可能性は十分にあります。宗時はその時はその時と気にもしていませんが、義村としては政子の駆け落ちに自分たちが関わっていると思われないようにしたほうがいい、と言います。
政子は、自分と頼朝が一緒になれるようみんなが応援してくれていると誤解しているのですが、はっきり言うと政子は利用されただけというところに義時の胸中のモヤモヤがあるのです。宗時たちは頼朝と北条が結びつけさえすればよかったわけで、頼朝に見初められたわけではないという言葉が政子の胸をえぐります。しかし、たとえ始めは政略の具だとしても、今は頼朝は自分を愛していると信じる政子です。
義村は鴨を土産に伊東祐親に挨拶に向かいます。義村の母が祐親の娘なので、義村にとっては祐親は祖父にあたるのです。その祐親と鴨鍋をつつく約束をして、祐之を誘って温泉に連れ出します。政子は頼朝から兼隆へ結婚相手をコロコロ変えて祐之は少し呆れていますが、兼隆ともうまく言っていないらしいと言う義村は、わぬしも今なら何とかなるんじゃないのかと祐之を奮い立たせます。
政子にフラれた祐之でしたが、やっぱり諦めきれるものではありません。この温泉にも、毛むくじゃらな義村とではなく政子と一緒に入りたかったなどと言って照れています。そもそも祐之がきっかけで兼隆との婚儀が決まったようなものなので、義村は味方するように、今ならまだ間に合うと背中を押します。祐之は、どうすればいいか教えてくれと義村に食い下がります。
婚礼の日の前日となりました。時政にとっても父親として晴れ舞台なので豪勢に決めたいところですが、家人は行列の人数から順序までいちいち確認して指示を仰いでくるし、親戚も一日早く館に乗り込んでくるしでイライラが最高潮に達しています。こんな時に宗時も義時もどこに行ったか分からず、まったく頼りになりません。
政子は頼朝との結婚の覚悟をしました。頼朝を武家の棟梁として担ぎ出すために政子との結婚が必要ならばそれも結構だと。義時は大きくため息をつきますが、頼朝を慕うこと、頼朝と夫婦になることは頼朝を我が身に引き受けることだと、自分に言い聞かせるように言います。義時は政子がそこまで決心しているなら何も言わないと言い、政子はいろいろと教えてくれた義時に感謝しています。
義時はふと心配になり、伊豆山に送り届けてやると言い出します。政子は、そのあたりは宗時たちが手はずを整えているからと断りますが、義時は茜に会いにどっちみち伊豆山に行くのです。恥ずかしいのでそこは伏せる義時ですが、政子も義時に好きな人ができたのだと喜び、恋が成就するように祈っていると笑顔を見せます。
予定通り、兼隆が忍び込んで来ました。政子は「外に出たい」と言って布をかぶって表に出ます。兼隆は政子の手を取って外に連れ出すのですが、誰もいないところで兼隆はイチャイチャしだします。そこに馬のひづめの音が近づいてきます。馬上の人は祐之で、兼隆に鞭を当て ひるんだスキに政子をひょいっと馬に乗せて駆けていきます。
伊豆山権現に来た義時は、茜に取り次いでほしいと水干姿の童・須弥王に頼むのですが、茜は大庭から迎えが来て昼過ぎにはこちらを発ったと言われてしまいます。しかし茜は和歌を詠んで童に託していました。
いづ山に 君が姿の 木がくれて 思いやれども 行くかたもなし
義時はショックで、来た道をとぼとぼと帰っていきます。
祐之が政子を乗せて伊豆山までたどり着きました。もうここまで来れば……と言葉をかける祐之ですが、伊豆山から無数の僧兵が松明片手に駆け下りて祐之たちを取り囲みますが、送り届けたのが政子と知って、僧兵は政子を迎え入れます。しかし祐之が中に入ろうとするとこれを阻止。「気の毒な男よな。うぬの役目はここまでで終わったんじゃよ」 祐之は政子を取り返そうとしますが、後の祭りです。
政子の名を叫ぶ祐之の声を振り払うように前をのみ見て歩いていく政子。僧が案内する先には、頼朝がじっと目をつぶり手を合わせていました。「佐どの……」と駆け寄る政子、その声に目を開けて政子を抱きとめる頼朝です。
頭を抱えていた義時は、祐之の政子を呼ぶ声に気づきます。僧兵に囲まれて打ちのめされている祐之をかばう義時でしたが、祐之は左目をつぶされていました。義時をぶん投げる祐之は、北条憎し、頼朝憎しの塊と化していました。「よくも俺をなぶりものにしやがったな……苔にしやがった! みんな俺の敵だっ!!」
原作:永井 路子
脚本:中島 丈博
音楽:湯浅 譲二
語り:森本 毅郎
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[出演]
石坂 浩二 (源 頼朝)
松平 健 (北条義時)
中山 仁 (北条宗時)
滝田 栄 (伊東祐之)
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大谷 直子 (牧の方)
武田 鉄矢 (安達盛長)
藤岡 弘 (三浦義村)
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松坂 慶子 (茜)
真野 響子 (北条保子)
金田 龍之介 (北条時政)
岩下 志麻 (北条政子)
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制作:斎藤 暁
演出:大原 誠
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