プレイバック草 燃える・(16)人質
寿永2(1183)年7月、鎌倉の海で木曽義高と大姫が無邪気に遊んでいます。大姫の、婿さまに対する恋ごころは日に日に膨らんでいき、義高もその思いにこたえるように大姫に付き合って一緒の時間を過ごします。義高についてきた従者たちも特に邪魔するでもなく、2人の様子を遠巻きに見守っています。風が強くなってきたからとさつきが呼びに来ると、2人は仲良く手をつないで御所に帰ってきました。
北条政子も2人の仲睦まじさには目を細めつつ、たまには義高をひとりにしてあげようと大姫を諭して義高を解放(?)します。義高を見送りながら、大姫は「わたしね、義高さまが大好き」とまっすぐに政子を見つめて言うのですが、さつきに言わせれば、年上の兄を慕うような気持ちなのかもしれません。そうねぇ、と頷く政子は、兄を慕う気持ちを考えてみています。
京の三善康信から木曽義仲がいよいよ入京するとの情報を得た源 頼朝ですが、義仲と手を組んで平家を追い落としたい源 義経と、坂東さえ守っていればいいと主張する上総介広常がいがみ合います。義仲が京で何をしようが坂東では知らぬことであり、もし義仲が坂東へ攻め込んだり不穏な動きをすれば、人質の義高を殺してやればいいと暴言を吐く広常に、梶原景時の目が光ります。
景時は土肥実平の館を訪問します。腰を据えて盆栽などの手入れに余念がない実平は、盆栽のひとつを御所に献上しようかと笑っています。頼朝は今では立派な源家の棟梁なのですが、石橋山の合戦に敗れてほら穴に隠れていた時、景時に見つかった実平と頼朝はガタガタ震えていました。みすみす見逃したことは景時も覚えていますが、実はその景時は、頼朝のそばで仕えるほど裏切られていく感覚になっています。
それを聞いて実平は衝撃を隠せません。神仏を頼り女グセがひどすぎるのもどうにかしてほしいのですが、景時は、頼朝は御家人に対して毅然な態度を取るべきだと熱く語ります。特に広常はこれまで、頼朝に対して下馬しなかったり負け戦をとことんこき下ろしたりなど何度となく頼朝に無礼な行いを働いてきているわけです。物言わぬ頼朝の威光を守る……。「それ以外にはないのだ」と景時はつぶやきます。
7月24日、都落ちを前にした平家の六波羅邸に、後白河法皇が失踪したとの知らせが飛び込んできました。法住寺殿に慌てて駆けつける平 宗盛は、残ってさめざめと泣き崩れる丹後局に法皇の逃亡先を詰問しますが、丹後局も知らないらしく憔悴している始末です。宗盛は、法皇はついに平家を見限ったと青ざめます。
山道を進む輿の一行がありました。平家の手から逃れた法皇は、法住寺殿から鞍馬を経由して比叡山へ向かっていたのです。そばにぴったりと付き従う平 知康は、法住寺殿に残った丹後局が時間稼ぎをしていると打ち明け、平家の者たちにも見つからず追っ手も来ません。とりあえずの言葉に安堵しながら、比叡山に入った法皇は東塔の南谷円融坊に院御所を移します。
その日の夜、平家軍は六波羅、池殿、小松殿、八条、西八条、以下平家一門の公卿殿上人の住む一帯の邸宅を焼き払います。そして安徳天皇と建礼門院徳子を奉じて都落ちし、福原へ西進することにします。屋敷から運び出される大量の荷物や都落ちする人々、その中に、暗闇を赤く照らすほどの炎を、清盛の妻・平 時子や、天皇と建礼門院徳子、そして女房の茜が複雑な思いで見つめています。
盗賊の小観音や猿太は無人になり炎に包まれる屋敷に押し入りますが、火の回りが早くお宝に手出しできずにいます。苔丸は諦めて屋敷から脱出するように指示しますが、伊東祐之はあれだけ栄華を誇った平家の屋敷がいとも容易(たやす)く焼け落ちるさまに愕然としています。「だらしがねぇぞ平家!」と叫ぶ祐之です。
比叡山の法皇と丹後局は、燃え盛る都の街並みを笑って眺めています。20年もの間居座った平家に対する反抗の気持ちの表れなのです。しかし平家が都落ちし義仲が入京しても、丹後局は義仲が田舎育ちの獣のようで若干不安がっています。その方が扱いやすいという法皇は、とりあえずはしばらく比叡山でゆっくりするつもりです。「なんという良い眺めじゃ。この眺めは見飽かぬのう」
4日後の28日、義仲は叔父の新宮十郎行家とともに入京を果たします。その様子を何食わぬ顔で眺めている苔丸たちですが、祐之は複雑な面持ちで義仲を睨みつけます。「とうとう源氏の世の中になってきたぜ、なぁ?」 オレはどっちでもいいけどよ、とつぶやく苔丸の言葉に、祐之の眼光はますます鋭くなっていきます。
義高を迎えに行くと言う大姫は壁に開いた穴から御所を抜け出し、急流に架けられた丸太の橋を危なげに渡っていきますが、足を滑らせて川に転落してしまいます。あっぷあっぷと溺れるうちに大姫の姿が見えなくなり、さつきの叫び声に気づいた義高が駆けつけてきて急流に飛び込み、沈んでいた大姫を抱き上げて救助し、水を吐かせます。
御所に運ばれた大姫ですが、大きなけがなくじきに元の身体に戻るとの典医の診察を受け、政子は安堵します。庭で大姫の様子を心配そうに見つめる義高の姿に気づくと、政子は義高のところへ走ってきて手を握り、涙ながらに何度も何度もお礼を言っています。照れ隠しなのか目をそらして戸惑う義高ですが、義高も大姫の無事に少し安心したところです。
政子は義高の美談を頼朝に報告しますが、そもそも義高が鎌倉にいなければ大姫が御所を抜け出すこともなかったと頼朝はけんもほろろです。入京した義仲は法皇たちに歓迎されて有頂天になり、官職をもらい天皇家の後継問題にまで口を出す始末。義仲の時代は長くは続かないと吐き捨てる頼朝の言葉に、政子は義高の身を案じますが、頼朝はそれには答えずに出て行ってしまいます。
京に乱入した義高軍の兵たちは兵糧を求めてすさまじい勢いで略奪や暴行を繰り返しています。飢饉続きの京では兵たちがそうするしか生きる方法がなかったわけですが、その狼藉ぶりは洛中の人々の目を覆わせるほどです。苔丸たちも京にいるのは危険と判断、鎌倉へ行って義経の世話になろうかなどと話し合いますが、祐之は鎌倉へ行くはずもありません。
木曽兵の悪行は法皇のもとにまで伝わります。恐ろしいだけの平家とは異なり、木曽兵は屋敷の中にまで上がり込んで略奪するので、公卿たちも困り果てます。法皇は頼朝に上洛を促しますが、平治の乱の折に官位をはく奪されて罪人の身分なのでとへそを曲げます。法皇は頼朝の官位をすぐに復し、頼朝は晴れて朝廷から認められる身分となりました。その後、法皇からの上洛要請が矢継ぎ早に鎌倉にもたらされます。
さっそく噛みついたのは広常です。和田義盛は法皇が助けを求めているのだからと広常を説得しますが、広常は納得しません。京に軍を入れましょうと頼朝に訴えた義経にも、叔父や従兄を殺そうと源氏同士の争いに自分たちは関係ないとけしかけます。無礼な広常に立腹する義経は、口を慎むように注意した頼朝に「私よりも坂東の人間のことばかり!」と怒りを爆発させて出て行ってしまいます。
景時は頼朝のところへ出向き、なんとかしなければと進言します。実平が寄越した盆栽を「見事だろ」と話を逸らす頼朝ですが、景時は乗ってきません。このままでは頼朝の威光にかかわるのです。広常が所持する2万の兵力を考えればうかつに手出しできない頼朝に、景時はすべて自分に任せてほしいと申し出ます。「表向きに介の八郎を責めるのは難しかろうと思われますが、わたくしにお任せくだされば……」
景時は別室で広常と双六をします。景時がズルをしたとわめく広常に、侮辱するのかと絡んだ景時が取っ組み合いのケンカを始めます。よさないか! と止める実平の前で、景時は懐刀で広常を一突きにします。床に倒れた広常に、景時はとどめの一刺しで完全に息の根を止めてしまいます。「上意だ……これで殿も心置きなく木曽をお討ちになれる」
鎌倉の海岸では、すっかり回復した大姫と、大姫を助けた義高がまた無邪気に遊んでいます。その2人を、複雑な面持ちで見つめる政子の姿がありました。
原作:永井 路子
脚本:中島 丈博
音楽:湯浅 譲二
語り:森本 毅郎
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[出演]
石坂 浩二 (源 頼朝)
国広 富之 (源 義経)
滝田 栄 (伊東祐之)
武田 鉄矢 (安達盛長)
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江原 真二郎 (梶原景時)
藤岡 弘 (三浦義村)
黒沢 年男 (苔丸)
伊吹 吾郎 (和田義盛)
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松坂 慶子 (茜)
草笛 光子 (丹後局)
尾上 松緑 (後白河法皇)
岩下 志麻 (北条政子)
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制作:斎藤 暁
演出:伊予田 静弘
[おことわり]「プレイバック草 燃える」は、この第16話でいったん中断いたします。次週からは「プレイバック北条時宗」を第1話からお届けします。
[『草 燃える』この後のあらすじ] 法皇からの義仲追討の要請に満を持していた頼朝は、義経と蒲冠者源 範頼を大将軍として京に差し向けた。そして翌年の正月、佐々木高綱と梶原景季による宇治川の先陣争いによって戦の幕が切って落とされた。義経軍は宇治川の防衛拠点を突破し、義仲軍に突入。圧倒的な兵数を持つ義経の軍勢に対し、義仲軍はひとたまりもなかった。1月27日、戦勝の知らせを携えた景時の飛脚が鎌倉に到着した。その夜、頼朝は主だった御家人を集めた──。
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