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2022年6月 3日 (金)

プレイバック草 燃える・(12)飢餓亡者

養和元(1181)年一月、平 清盛は前の年の11月に都を福原から京に戻していました。比叡山や園城寺の勢力と手を組んで、政治を一新したいという清盛の願いもむなしく、半年後の還路でした。

その京に伊東祐之が来ていました。伊東の名前を出して平家に加わりたいと屋敷に掛け合いますが、ボロボロに破れた直垂に髷(まげ)は散切りで、辺りに転がる民たちの死体と同じような格好に、門番は祐之の申し出を一切受け付けず足蹴にします。追い出された祐之は失意のまま、うっすら雪が積もる京をとぼとぼと歩き出します。非常な祐之でさえ、飢餓のあまり人肉を食らう乞食に目をそむけたくなる光景です。

清盛は、高倉上皇の病気が深刻だとして、27歳の中宮徳子を預けたいと後白河法皇に提案します。法皇は丹後局と酒を楽しみながら、清盛も年を食ったなと笑うのですが、上皇がもし身罷った場合に平家と朝廷とのつながりが切れることを恐れた清盛が、この先を案じて提案してきたことは法皇でも分かります。丹後局は「あざとすぎる」と清盛を批判します。

1月14日、上皇崩御。徳子は清盛の意向に激しく抵抗し、その日のうちに落飾して仏門に入ります。したがって徳子を法皇の後宮(こうきゅう)にという話は立ち消えになりました。どうにかして平家と朝廷をつなげておきたい清盛は、上皇崩御に諦めることはなく、なおさら法皇とのつながりに執着するようになりました。

 

土肥実平は石橋山の合戦で大庭方に与した梶原景時を連れて鎌倉御所にやって来ます。戦に敗れて洞穴に隠れていた源 頼朝を落ち武者狩りで発見しながら、みすみす見逃して命を助けた大恩人なので、頼朝は敵方で戦った前歴を不問に付して歓迎します。景時はもともと鎌倉が所領なので、鎌倉のことなら一番詳しいという景時を重宝するようになります。

頼朝に会うべく早くから御所で待たされていた源 義経は、頼朝への不満をくすぶらせながら浜辺を歩いています。父の仇が取りたいという思いが強すぎて、一日でも早く戦をしたいと義経は焦っているのです。阿野全成は、血気にはやって戦をしたところで世の中は飢饉であり、兵糧が確保できない今はしばらく待つ時と諭しますが、燃え上がる思いの義経を全成はただ見つめるばかりです。

苔丸や小観音は炊き出しをして民に汁物をふるまいます。そこに祐之が割り込んできてお椀並々に注げと命令してきます。はじめこそ「頼み方ってのがあるだろ」と抵抗する苔丸ですが、刀を突きつけられたら仕方ありません。渡された汁物をガツガツと食す祐之を見下ろして、乞食たちは不気味に笑うだけです。祐之が食べていたのは、人肉だったのです。

鎌倉では頼朝の声かけで、北条時政の三女・高子と足利義兼の祝言が執り行われます。続いて四女・栄子は稲毛重成に、五女・元子は畠山重忠に嫁ぎます。いわゆる政略結婚であり、時政は坂東の有力豪族たちと血縁関係を結ぶことで力を強大にし、北条家の安泰を図ったのです。高笑いする時政の声が館中に響きわたります。

牧の方は、年嵩(としかさ)の順に嫁がせるべきだと主張したわけですが、時政と政子が勝手に話を進めていく現状に不満がくすぶり、姉妹でただ一人嫁いでいない保子に愚痴をこぼします。次は保子を嫁がせるらしいと聞いて初耳だった保子は驚きますが、その相手が全成と明かし、この縁談はやめた方がいいと勧めてきました。複雑な表情を浮かべる保子です。

保子は政子のところに赴き、事実を確認します。政子が言うには、高子らの縁談が上がる前から 保子には全成をと考えていたようなのです。妹たちを豪族に嫁がせては政子も一人きりになるので、全成の妻であればこれまで通り御所に出入りすることもできると、政子は笑顔で説得します。保子も政子のそばにという気持ちは持ちつつ、保子の心の中には何かもやもやしたものが残っています。

政子の侍女・さつきは、保子の着物を調えながら楽しげに全成との婚儀について盛り上がっています。男前だし、頼朝の兄弟の中では一番の器量よしなのです。うふふ…と笑みが絶えないさつきに、普段温厚な保子にしては珍しく「おだまり!」と平手打ちしてしまいます。誰も自分の複雑な気持ちなんて分かってもらえない、そういう悲しみが爆発した瞬間でした。

話はとんとん拍子に進み、あっという間に婚儀が執り行われるのですが、保子には笑顔は全くありません。そして笑顔がないのは義経も同じです。北条義時は、今は領地を離れて鎌倉に集まる豪族たちの結束を固めることが先決と説明しますが、血気に逸る義経は、誰も平家を討つことを考えていないと嘆き、時政にも「お前から御所に言え!」と下に扱います。みな、横柄な態度の義経にあきれ果てています。

法皇御所を訪れた清盛は、末娘を法皇のもとに送り込もうと画策します。もう女を求めることはしなくなったと清盛の申し出に戸惑う法皇ですが、姉妹が高貴な公家たちに嫁ぐ中、不憫な末娘の行く末を高齢な清盛は案じていて、どうにか法皇の猶子としてほしいと食い下がります。法皇は「女はもういいのにの」と態度を明らかにしません。

ところが、是非にと勧めたのは意外にも丹後局でした。若い局が入ってくることなどはもはやどうでもよく、清盛の申し出を受け入れれば清盛から大量の寄進を期待できるわけで、法皇には決して損にはならないと言うのです。頭の回転が速い丹後局に感心しながら、法皇は清盛の進言を受け入れることにします。

しかしその直後、平 知康が飛び込んできて清盛が倒れたと知らせます。院御所から清盛館に戻ってほどなく、高熱を発して病の床についたとのことで、清盛はのたうち回り苦しんでいます。平 時子の弟・時忠は、出陣の支度にとりかかっていた平 宗盛と相談し、出陣をしばらく見合わせることにします。頼朝に無駄に時を与えては不利ですが、仕方がありません。

祐之は苔丸に伴われて、夜の京を徘徊します。通りかかった荷物運びの担夫に目星をつけ、斬るように祐之をけしかけますが、物盗りのために人は殺さないと祐之は動こうとしません。苔丸は食わなければならねえと祐之を説得し、大八車の男を見つけると背中を押します。祐之は勢いで男の前に飛び出し、刀で斬り倒してしまいます。とうとう渡ってはいけないところを渡ってしまいました。

ねぐらに戻った祐之は、ついにやったかと小観音たちに出迎えられますが、興奮冷めやらぬ祐之は感情が高ぶって小観音に襲い掛かります。清盛が間もなく死ぬらしいという情報を猿太が持ってきて、清盛が死ねば源氏が攻め込んできて戦になるから稼ぎ時だとほくほく顔なのですが、祐之はその情報が信じられず、本当のことなのか猿太の首を絞めて問い詰めます。

清盛のところに建礼門院と天皇が見舞いに駆け付けます。清盛の目は視点が定まらず何かうわごとをつぶやいていますが、ふたりが見舞いに来てくれたことを時子が伝えると、清盛はカッと目を見開きます。「供養は不要、頼朝の首を我が墓前に──」

 

安達盛長は慌てた様子で頼朝のところに駆け込むのですが、頼朝は義経を呼び出し、豪族たちにもう少し敬意を持って接してもらいたいと叱っていました。頼朝の家人に敬意を持つなんてと義経は不満顔ですが、頼朝は一方的に話を打ち切ります。そして改めて盛長からの報告を聞きます。三善康信からの急使で、清盛が怒り病で亡くなったのです。

皆が興奮気味に清盛の死を喜ぶ中、義経は怒りに震え、拳を床にたたきつけて悔しさをにじませます。「俺たちがうろうろしてる間に源氏の仇は、とうとうこの世にいなくなってしまった……だから早く出陣をと言ったのに! 清盛の首を取る機会は永久に失われてしまった……!!」 頼朝は、義経の必死の訴えにも表情を無にしています。


原作:永井 路子
脚本:中島 丈博
音楽:湯浅 譲二
語り:森本 毅郎
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[出演]
石坂 浩二 (源 頼朝)
松平 健 (北条義時)
真野 響子 (北条保子)
滝田 栄 (伊東祐之)
武田 鉄矢 (安達盛長)
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金田 龍之介 (北条時政)
大谷 直子 (牧の方)
江原 真二郎 (梶原景時)
黒沢 年男 (苔丸)
金子 信雄 (平 清盛)
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松坂 慶子 (茜)
伊藤 孝雄 (阿野全成)
国広 富之 (源 義経)
尾上 松緑 (後白河法皇)
岩下 志麻 (北条政子)
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制作:斎藤 暁
演出:江口 浩之

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