プレイバック北条時宗・(08)逃げた花嫁
弘長元(1261)年・春。北条時宗は、本人の意向に関係なく勝手に縁談が進められていることを怒っていました。安達家には不満はないものの、祝子は泣き虫で気が強く、仲睦まじくなれそうな気がしないわけです。北条時頼は、男には「元服で」「婚儀で」「官に就いて」魂を尽くすものだと諭します。涼子と別々に暮らしても娶ったことは悔いていないと言われ、時宗も黙り込んでしまいます。
泣いている祝子を慰める松下禅尼と梨子ですが、北条得宗家に嫁ぐことになれば亡き父母も喜ぶと微笑みかけます。そこに讃岐局が現れ、時宗と祝子の縁組が成れば安達も安泰と皮肉たっぷりにいいのけます。よくやりましたなぁ、と不気味な笑みを浮かべる讃岐局は、その「安達を参考に」時輔を盛り立てる道を見つけると宣戦布告するようにキッと松下禅尼を睨みつけます。
呼び出された安達泰盛は、北条政村からのお祝いの言葉を受けます。不愛想に頭を下げる泰盛に、それでよく時頼をくどき落としたと北条実時は冷ややかです。執権北条長時は北条に断りもなく縁談を進めたことを非難しますが、泰盛は全く動じません。長時は「執権はそれがしじゃ!」と吐き捨て出ていきます。子なしの梨子と離縁して末娘貴子を娶ってくれと政村は言いますが、泰盛は即座に断ります。
矢を放ち大きく的を外した時宗に、心が乱れておるようだと涼子は微笑みます。時宗は自身を一本の矢に例え、引き手に操られて飛ばされるだけの己の姿を嘆いているのです。「矢は弓を選ぶ。引く者を選ぶ」と涼子は諭しますが、時宗は母に憎しみは捨てて父と仲睦まじく暮らしてくれるか迫ります。何も言葉を発しないでいると、時頼も涼子も言葉ばかりで自分自身は動こうとしないと、時宗はムッとします。
3ヶ月後、時宗と祝子の婚儀が行われました。祝子が待つ居室に向かう時宗ですが、その足取りは重く家臣に促されるほどです。ちなみに祝子には、北条得宗家を支える一門の者たち全員がこの婚儀を心から祝ってくれているわけではないこと、時宗自身がこの婚儀に不満を抱いていることは伏せられていました。
同じころ、時頼は涼子の居室を訪ねていました。酒を酌み交わしともに最明寺で暮らそうと提案を受けるのですが、涼子が時頼のそばに行くときは、涼子の心の中の恨みを全て洗い流した時であり、そのような時は来ないと断言して提案を突っぱねます。「お慕いしていた方を憎まねばならない運命に落ち、憎むべき方の子を成した我が身、支えて参ったのは……意地にございます」
祝子は不安で不安で仕方ないのですが、向かい合わせに座っている時宗は一言も話してくれません。時宗の緊張をときほぐそうと祝子は努めますが、ムッとする時宗につい反抗してしまい、売り言葉に買い言葉で口げんかが始まります。そして時宗から「そなたと縁組などしとうなかった」と言われ、ひどい……と泣き始めます。時宗は慰めもできず、背中を向けて座っています。
数日後、北条重時の館で、6代将軍宗孝親王の正室・宰子の退屈しのぎに長時は遠笠懸を用意し、時輔にその腕を披露させます。時宗は祝言直後ということもあり参加を見合わせたとのことで、この場は時輔の独壇場となりますが、時頼は遠笠懸より難易度の高い小笠懸を提案し、時宗が得意と宗尊親王に紹介します。長時はギョッとした目で時頼を見据えます。
そのころ祝子が実家の安達家へ帰ると言い出し、ちょっとした騒動になっています。祝子が嫌いだと言ってしまったことを時宗に聞いた平 盛綱と、実家へ帰る祝子を引き止める侍女の若菜で仲直りの場が設定されます。しかしそこに実時が「将軍さまがお呼び」とやってきて、謝罪の言葉をかけることなく重時の館に向かうことにします。
馬上の人となって現れた時宗は宗尊親王の前で一礼をし、時頼のアドバイスも聞かずに出発地点に向かいます。ハイッ! と掛け声をかけて駆け出すと、小さな的に向かって弓を引き矢を放ちます。矢は見事に的を射抜き、方々からどよめきが上がります。時頼はその歓声を背中で聞きニヤリとしていますが、長時は大きくため息をつきます。
安達の館に祝子が帰ってきたと聞いて、松下禅尼は自分がついていくから一緒に戻ろうと手を引きますが、「時宗さまの元に戻るのなら死んだ方がマシです!」と祝子は動こうとしません。そして小笠懸を終えて喜び勇んで屋敷に戻った時宗は、居室に祝子の姿がないのを認めるとガッカリして、何も言わずに引き返していきます。
床を共にした高 師氏と桔梗ですが、時宗の活躍の話が話題にあがります。時宗が活躍すると足利としてはとても困ったことになります。源 義家が遺した「七代のちに生まれ変わって天下を取る」という置文からいけば泰氏が五代目、頼氏が六代目となりますが、桔梗から見ればそのふたりがその器ではないわけです。師氏は桔梗の目的を知りたがりますが、知らぬ方がよいと桔梗のおんなの魅力でうやむやにします。
讃岐局は涼子に面会を求め、正室の子には晴れの舞台が用意されて時輔はくやしい思いばかりすると皮肉を言います。涼子は、時輔に一生得られない家督の座を要求して悔しい思いをさせているのは讃岐局本人であると指摘しますが、讃岐局は涼子が日蓮に施しをしていることを触れ回ると脅しをかけ、時宗に家督を辞退させよと要求します。首を絞められる涼子ですが、そこに泰盛が止めに入ります。
このことはたちまち時頼の耳に入り、正室に手を上げたことで「立場をわきまえよ」と讃岐局に雷を落とします。得宗家の安泰のためには家督は正室の子が継ぐのが一番と諭してきたのに、時輔かわいさにその逆を行く讃岐局に、今後は一切時輔を盛り立てようと考えないようにくぎを刺します。もし時頼の言うことを聞けないなら鎌倉から追放すると言われて、讃岐局は突っ伏して悲しみます。
気持ちがくさっている時輔ですが、祥子の笑顔に気持ちを持ち直します。しかし讃岐局がずかずかと入ってきて「必ずそなたを北条を率いる座に就かせてみせる」と言い出します。あまりのくどさに人のいい時輔も「黙れ!」と声を荒げてしまいます。祥子と屋敷を構えたし、自分の生きる道を必死で模索している時輔は、もうたくさんなのです。
強風の中、讃岐局は放心状態で安達屋敷の居室に戻って来ました。梨子は遠巻きに気にかけながら、心配する祝子にも優しく言葉をかけます。いろいろ辛いことがある時宗のためにも、祝子は明日屋敷に戻ることをつぶやいて今夜は休むことにします。そして祥子は時輔に、寂しいであろう義母の心情を慮って明日讃岐局に会いに行くことを提案します。時輔は すまぬ、と祥子に感謝しています。
祝子が火事と気づきます。望みを失った讃岐局が燭台を倒し出火させたのです。泰盛が指揮して全員屋敷の外へ避難し、火の中に戻ろうとする讃岐局を平手打ちして引き止めます。しかし祝子の姿が見えません。泰盛は屋敷に戻ろうとしますが、火に阻まれて前に進むことができません。讃岐局は火の中から時輔の助けを求める声が聞こえた気がして、泰盛を押しのけて火の中に飛び込みます。
炎の中にひとり取り残されていた祝子を見つけると、讃岐局は唐衣(かりきぬ)を祝子にかぶせ、火の粉がかからないようにしておぶって救出します。追ってきた泰盛は祝子を受け合い、ともに脱出するところで讃岐局は転倒し、そこに梁が落ちてきて下敷きになります。「逃げて……後生じゃ……」 泰盛はやむを得ず讃岐局を残して祝子と脱出します。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
渡辺 謙 (北条時頼)
浅野 温子 (涼子)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
池畑 慎之介 (北条実時)
篠原 涼子 (讃岐局)
牧瀬 里穂 (梨子)
川崎 麻世 (北条長時)
川原 亜矢子 (宰子)
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原田 美枝子 (桔梗)
江原 真二郎 (高 師氏)
吹越 満 (宗尊親王)
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伊東 四朗 (北条政村)
平 幹二朗 (北条重時)
富司 純子 (松下禅尼)
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制作統括:阿部 康彦
演出:吉村 芳之
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