プレイバック北条時宗・(12)暗殺
弘長3(1263)年の冬、北条時頼の葬儀が執り行われました。北条得宗家の嫡男として葬儀一切を取り仕切った北条時宗ですが、時頼に非情な遺言を受け、その心の中は激しく揺れ動いていました。棺のすぐ後ろからついていきながら、「長時を殺せ」「時頼を殺せ」との時頼の声が、響き渡っていました。そして時宗のすぐ後ろを、その時頼が続いていました。
鎌倉執権館では、北条長時が時頼の死に遺憾の意を表明しますが、安達泰盛は毒殺なのだから下手人を探せとわめき出します。北条政村も北条実時もそれに否定的な考えを示し、下手人探しをすることは身内を疑うことと言う長時と、やましいことがあるからそう言うと主張する泰盛がいがみ合いますが、その空気に耐えかねて時宗が「父上は病で亡くなられたのじゃ!」と座を蹴って出ていきます。
廊下で立ち尽くす時宗に、北条時輔は「逃げてどうする。醜きものを見よ」と背中を押し、北条得宗家の跡を任された時宗を励ましますが、やはり時頼の遺言の存在が時宗には抱えきれないほどに大きなものになってしまっていました。見つめる時輔の目線を避けた時宗は、そのまま自室に戻ります。そしてその二人の会話を実時はじっと聞いていました。
涼子の元を訪れた松下禅尼は、最明寺に移って髪を下ろし時頼の菩提を弔ってほしいと諭しますが、涼子は最明寺に移るつもりはありません。時頼が死んでもなお恨みは消えず と松下禅尼は呆れますが、祝子は病床にあった時頼を心から案じ、今もその死を悼んでいると祝子の気持ちを代弁します。無表情だった涼子は天を仰いで声を上げて涙を流し、松下禅尼も子を失った悲しみがこみ上げています。
時宗の様子がおかしいと感じた泰盛は安達館に案内しますが、そこに入ってきた実時は、時頼を看取った時宗に遺言があったはずと、聞き出そうとします。人には言えないものだからこそ時宗が苦しんでいる、ということは身内の命を狙えと言われたのだろうと実時は分析します。「執権長時殿でござるか?」 しかしその会話を長時の妹・梨子は聞いてしまいました。
長時は時宗が執権になるまでの眼代なのに、野心を持って良からぬ動きをしています。慌てる時宗を見て、実時は次に時輔の名前を挙げます。立ち去ろうとする実時に 兄ではないと否定する時宗ですが、そこまで否定するなら誰の名前を言われたのか答えよと逆に迫られます。観念したように長時の名を口にすると、実時は氷のような表情になります。「時宗殿の苦しみ、代わってお引き受けするまで」
鎌倉御所では、宰子が懐妊した祝いに宴が催されています。桔梗はこの機に、出身名越北条家の兄・時章と教時を6代将軍宗尊親王に引き合わせます。名越家の北条は宗尊親王の力になるように働く者と言って喜ばせますが、心配なのは得宗家に属する長時がいることです。決して裏切らぬという証に、宗尊親王は「得宗家の御旗」つまり時宗の命を奪ってその覚悟を見せよと迫ります。
時輔の館に足利頼氏が訪問し、時宗の家督を奪うつもりはない時輔の気持ちの強さを確認しに来ます。得宗家の息のかからないであろう下野の祥子の里に移ることを表明しますが、時宗が生きていればそんなことは分かりません。そこで時輔は、将軍、足利、名越、そして長時までも時宗の命を狙っていると知ってしまいます。
時頼の遺言を知って政村は、意外にも「遺言とあらば果たすしかあるまい」といたってドライです。時宗が得宗家を背負うには若くて経験が足りなさすぎるし、長時も裏の動きが目に余るわけです。時頼出家時に長時を後継者に推挙した責任を感じる実時は暗殺の準備に取り掛かろうとしますが、泥をかぶるならと泰盛が名乗りを上げます。
長時の屋敷に来ていた梨子は、庭でしきりに剣を振る長時を見つめ、執権職を退くようにすすめます。無理をしているように思えてならないのです。しかし長時は、今さら引けぬと優しく答えます。自分が無能な人間であることはよく分かっています。そして周囲の者がそれを分かって執権にしたことも理解しています。だからこそ武士として人生を全うしたいのです。
時宗は、あの時以来床に伏せる涼子を見舞います。その気持ちを慮り、時宗は髪を下ろすことも最明寺に移ることも無理強いはしません。しかし涼子は、誰も下手人を探そうとしないことに不満がありました。ずっと恨みに思い、時頼に優しい言葉を何ひとつかけてもらえなかった涼子ができる時頼への弔いは、下手人探しだと言い出します。母のただならぬ決意に圧倒される時宗です。
謝 国明の見世では、時頼への弔いとして時宗に大陸渡来の葡萄酒を振る舞います。異国の酒に酔ってみたいと何杯も空ける時宗に「こら!」と叱る桐子。博多の街で別れて以来の久々の再会です。クビライ・カアンに心酔する桐子の話に嫉妬したか、時宗は桐子に反発しますが、その話の途中で時宗は酒に酔ってぶっ倒れてしまいます。
時宗は呼ばれて目を覚ますと、時輔が傍らにいました。しばらくは外に出ないほうがいいと忠告する時輔は、将軍が長時に時宗の命を奪うように命じたというウワサを教えます。時頼亡き今、権力を握りたい者はみんな時宗の命を狙うのです。信じる者は己だけと肝に命じよ──そう言って立ち去る時輔に、時宗は一瞬遺言の話をしようかと迷いますが、ぐっと堪えます。「兄上も……お気をつけて」
泰盛が長時暗殺として助勢を求めたのは、謝 国明の子・太郎でした。太郎は孤児の八郎という男を紹介します。他言無用を求める泰盛に、誰にも言う相手がおらぬと不気味な笑みを浮かべる八郎は、その足で長時屋敷に足を踏み入れ音もなく警護役2人を倒します。
屋敷に戻った泰盛を待っていた梨子は、その背中に抱きつき、北条を受け継ぐものは長生きしないと悲観します。確かに時頼は37歳で亡くなり、先代の兄経時は22歳で落命しています。もしかしたら兄も──そうこぼす梨子に、「そなたの大事な兄上、わしがお守りいたす」と約束する泰盛。梨子はようやく安堵の表情を浮かべます。
しかしそうしている間に、八郎は長時の首を絞めて殺害します。人は時として信じがたいような恐ろしい行いをすることがあり、哀しいことに信じがたい行いをした者が権力を持つことも少なくありません。数奇な運命は、八郎と時宗を引き合わせようとしていました。家臣の平 盛綱から長時が亡くなったことを聞くと、時宗は真夜中の館を飛び出して時輔の館へ馬で駆けていきます。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
──────────
[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
渡辺 謙 (北条時頼(回想))
浅野 温子 (涼子)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
池畑 慎之介 (北条実時)
ともさか りえ (祥子)
牧瀬 里穂 (梨子)
──────────
原田 美枝子 (桔梗)
江原 真二郎 (高 師氏)
吹越 満 (宗尊親王)
藤 あや子 (美岬)
──────────
伊東 四朗 (北条政村)
藤 竜也 (佐志 房)
富司 純子 (松下禅尼)
北大路 欣也 (謝 国明)
──────────
制作統括:阿部 康彦
演出:吉川 邦夫
| 固定リンク
「NHK大河2001・北条時宗」カテゴリの記事
- プレイバック北条時宗・(49)永遠の旅 [終](2022.12.06)
- プレイバック北条時宗・(48)運命の嵐(2022.12.02)
- プレイバック北条時宗・(46)クビライを討て!(2022.11.25)
- プレイバック北条時宗・(47)弘安の役(2022.11.29)
- プレイバック北条時宗・(45)わが祖国(2022.11.22)
コメント