プレイバック北条時宗・(09)決闘由比ヶ浜
安達屋敷が炎に包まれ、落ちてきた梁の下敷きになって讃岐局が犠牲になりました。北条時宗の元に無事に戻った祝子は実家に帰った非礼を詫びますが、讃岐局が助け出してくれた時に北条時輔の名をつぶやいていたその声が、脳裏から離れません。涙をこぼす祝子の手を握り、無事でよかったと安堵の表情を浮かべる時宗。ようやく夫婦が本当の夫婦になれた瞬間でした。
讃岐局の亡骸を前にひざから崩れ落ちる時輔は、自分が弔いを行うと言い出します。付け火は罪が重いことながら、時頼が情けをかけていれば母は命を絶つこともなかったわけで、母を罪人扱いする時頼を許せなかったのです。そしてお悔やみに訪れた涼子にまで噛みついて、涼子が相手にしなかったから母は自分の家督相続にこだわったと、涼子も罪人扱いします。「そして、それがしは一番の大罪人じゃ」
安達屋敷の焼け跡でひとり佇む時輔に、時宗がお悔やみと祝子の命を救ってくれた讃岐局への感謝を伝えます。「時輔……いま助けてやります」という讃岐局の最期の言葉を伝えると、時輔は目に涙をいっぱい浮かべて天を見上げます。「時宗、わしと果たし合いをせぬか」と時輔は提案します。これまではどんな戦いでも正室の子の時宗が勝ちと決まっていたので、ひとりの男同士として戦いをしたいというのです。
失火で屋敷を失った安達泰盛に、北条実時が屋敷の貸与を申し出ます。執権北条長時も北条政村も、そんな実時の対応に驚きますが、「盛りのついた猿を檻に入れようとしたまで」と笑います。そんな実時に政村は、長女貴子との縁組を強く求めます。泰盛は時宗の舅、長時は時輔に接近、あちこちに火種が散らばっている今、自分と実時が手を結ぶしかないとあっさりと言う政村に、実時はあきれ果てています。
最長老の北条重時は時頼に面会を求め、幕府を批判し念仏を貶める僧・日蓮に涼子が施しをしたことの真偽を問い詰めます。時頼はやれやれという表情で否定するのですが、重時は全く納得しません。本当のことを打ち明けてくれない悔しさもあり、重時は席を蹴って出ていきますが、たちまち胸を押さえて卒倒します。その日蓮は身の危険を感じて一度は鎌倉を離れていましたが、新たな覚悟で戻ってきていました。
謝国明の屋敷に入った時宗と泰盛は、そのことを謝 国明の子・謝 太郎から聞きます。時宗はできれば兄とは戦いたくないのですが、男の意地として受けなければと考えています。男の意地の張りどころをまちがえるなと泰盛から諭されますが、モンゴルでも兄クビライと弟アリクブケが皇帝の座を争っていると聞き、同じにするなと時宗は言いますが、商人からすれば同じことです。
6代将軍宗尊親王の元へ失火のお詫びに訪問する長時と時輔ですが、幼くして母を亡くした時輔が哀れと、足利の桔梗が親代わりを申し出たそうです。時輔の烏帽子親は当主足利頼氏なので、足利が親代わりを務めても何の不思議もありません。先代足利泰氏や桔梗は、時宗との果たし合いを楽しみにしています。男の意地で提案した果たし合いが政治に悪用されていくようで、時輔は戸惑っています。
寝かされている重時を、娘の梨子が甲斐甲斐しく世話をしています。そこに鎌倉御所から戻ってきた長時は、将軍と示し合わせて時輔を次期執権に押し立てていく決意をしたと父に打ち明けます。時宗成長までの眼代という約束で執権に就任したはずの長時のまさかの言葉に重時は必死になって引き止めますが、日蓮をかばう時頼に遠慮することはないと逆に説得されてしまいます。
涼子が日蓮に施しをしたかどうか、時宗も屋敷に戻って時頼にぶつけてみますが、母を信じられぬかと遠回しに言うばかりです。時宗は、時輔や讃岐局、涼子の苦しみも何も分かっていないと反発します。時宗・時輔兄弟に何かあったかと時頼は察知しますが時宗はそれには答えず、兄弟を争わせようとすることばかりと吐き捨てて出ていってしまいます。
「自らの愚かさを顧みることしか正しい道を行う術はない!」と辻説法する日蓮を、長時の一軍が捕縛します。日蓮は、自分の庵に付け火をした重罪人を不問にした矛盾を指摘しますが、長時は日蓮を伊豆の俎岩(まないたいわ)という岩場の上で降ろします。潮が満ちれば沈む岩の上という過酷な環境から救い出したのは、船守の弥三郎という漁師でした。洞窟で匿っていることは、幕府には内緒です。
兄重時を見舞う弟政村は、時頼のおごりを諫める目的で行った長時による日蓮への仕打ちを心配します。そこで政村は、次女の秀子を重時の次男・時茂に嫁がせたいと相談します。家臣同士が絆を強めて対抗する目的もあり、兄弟の仲直りをしたいと考えているのです。重時は、自分に死期が迫っていると悟り縁談話を受けますが、その代わりに長時を盛り立てるように迫ります。数日後、重時は息を引き取りました。
重時の葬儀の日、日蓮に施しを行った涼子の件でチクリと時頼を刺しますが、目くじらを立てていた重時は亡くなったからとさほどに大事にはしないつもりです。というのも、政村は今度は時頼に、時宗の弟・北条宗政に末娘の芳子を嫁がせたいと相談したかったのです。時頼は表情を変えず「断る術、なさそうですな」と返すと、そうか! よかった! と政村は安堵した様子です。
心は決まったかとの時輔の問いに、果たし合いを受けない返事をする時宗。「やはり逃げるのか」とけしかけますが、兄と弟で争いたくはないのです。涼子も争わなかったからこそ讃岐局は死を選ぶしかありませんでした。嫡男、正室と常に日の当たる場所にいる時宗に、暗い場所にいて光を浴びたいと願う時輔。兄とこのような会話をしなければならないことを嘆く時宗は、結局は果たし合いを受けることにします。
南宋・泉州の市場を歩く佐志 房と桐子。南蛮人が往来し大道芸人が活躍して活気にあふれ、桐子は目を輝かせています。蒲寿庚(ほじゅこう=イスラム商人)から間もなく戦が始まると情報をもらったふたり。クビライ・カアンが対立する弟を追放するのです。クビライに会ってみたいと桐子がつぶやくと、蒲寿庚はモンゴルへ行ってみますかと誘います。
モンゴルを制すれば、宋に攻め入ることができます。まず高麗を押さえ、次に高麗の先の日本を目標にすること──。クビライの言葉に多くの家臣たちが「日本?」と訝(いぶか)りますが、宋と商いをする日本をモンゴルが独占することで宋を孤立させるのです。息子のチンキムは、およそ5年後には日本に使節を派遣できるだろうと進言し、クビライは力強く頷きます。
そのころ由比ヶ浜(前浜)では──小笠懸用の的が用意されていました。時宗も時輔も、妻に見送られての出発です。前浜に先に到着したのは時宗でした。若年の時宗から小笠懸に挑戦と決まり、後発の時輔は浜辺にどっかと腰かけます。雲行きが怪しくなり風も強いです。浜辺に一直線に並ぶ小笠懸の的。時宗の覚悟を決めた表情。「ハイッ」と時宗の声が響き渡ります。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
渡辺 謙 (北条時頼)
浅野 温子 (涼子)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
西田 ひかる (祝子)
池畑 慎之介 (北条実時)
ともさか りえ (祥子)
篠原 涼子 (讃岐局)
牧瀬 里穂 (梨子)
西岡 徳馬 (足利泰氏)
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原田 美枝子 (桔梗)
江原 真二郎 (高 師氏)
吹越 満 (宗尊親王)
バーサンジャブ (クビライ・カアン)
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平 幹二朗 (北条重時)
奥田 瑛二 (日蓮)
藤 竜也 (佐志 房)
伊東 四朗 (北条政村)
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制作統括:阿部 康彦
演出:吉村 芳之
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