プレイバック北条時宗・(10)ひとり立ち
北条時宗と北条時輔の果たし合いの時。由比ヶ浜(前浜)で小笠懸です。二人だけの果たし合いなので、従者も立ち入らせないほどのピリピリした空間です。一直線に並べられた小さなオレンジ色の的を射抜きます。「ハイッ」と時宗の声が響き渡ります。腰かけた時輔は砂で遊びながら、目で時宗の姿を追います。1枚目、2枚目と見事に射抜きますが、突然の雷鳴に手元が狂って3枚目を惜しくも外してしまいます。
時輔は黒の的を射抜きます。馬上の人となった時輔は、しばらく地面を見てじっとしていましたが、「ハイッ」と駆け出します。1枚目、2枚目と順調に射抜き、時宗は来たる結末に思わず目を背けますが、時輔は3本目の矢を天に向かって射ます。アッと声を出しそうになる時宗を、時輔はじっと見つめ、そのまま立ち去ります。時宗は膝から崩れ落ち、悔しがります。
家臣たちが出迎えるのを時宗は急ぎ足で戻ります。祝子は小笠懸の結果を聞き出そうとつきまといますが、あまりのしつこさに「黙れ!」と大声を出してしまいます。案の定、涙を流す祝子ですが、子どものころとは違って「泣くなら部屋に戻って泣け」と突き放し、祝子への対処ももはや手慣れたものです。
勝ち負けはこだわらない涼子でも、やはり心配です。そこに時宗の弟・北条宗政が来て、勝負は人の器で決まるもの、正室の子が側室の子に負けるわけがないと言います。人は生まれや運命からはみ出すもの、宗政の役目は二人の兄の絆を結び付けることだと涼子は諭します。いたずらにあおり立てないようにくぎを刺します。クスッと笑う喜々に、唇をとがらす宗政です。
勝った負けたと笑い飛ばせばいいのにと愚痴を言う北条政村ですが、どちらの勝ちが望みかと北条実時に答えにくい質問をぶつけられます。勝った者に人はつき、負けた者から人は離れる……。この勝負を二人の家督争いと考えるとどちらに味方するかという質問にも聞こえます。政村は、娘の享子(たかこ)を娶って縁続きになった時に答えようと言って出ていってしまいます。
一方、時輔屋敷では、祥子が雷鳴が恐ろしかったと言って時輔を笑わせています。しかし祥子は、讃岐局が亡くなってから時輔がすっかり変わってしまったように思えて仕方ないわけです。たとえ北条の名を捨ててもどこででも暮らしていけるとつぶやいた祥子の言葉に、時輔は「考えたこともなかった……鎌倉を離れてそなたとともに暮らすのもよいかもしれぬな」と祥子を抱き寄せます。
謝 国明の館を訪問していた北条時頼と安達泰盛は、二人の勝負を隠れて見届けた謝 太郎に詳細を聞きます。時輔が時宗に負けさせまいとしたと泰盛はニッコリしますが、太郎はこのまま勝負を持ち越しにして、終わらせなかったのではないかと心配しています。勝負が終わらなければ、御所の人々が喜ぶのです。琵琶のばちを落とし、手を見つめる時頼です。
6代将軍宗尊親王が上洛すると内々に決めたようです。鎌倉に下って11年、今や政治的権力が皆無の宗尊親王は、権威を示したいわけです。帝になった弟に勝ち目はないというのは、時輔にも分かります。そこで宗尊親王は供奉人(ぐぶにん)の筆頭に時輔を推挙することにします。時頼の力を借りず、上洛して驚いてもらう。宗尊親王は時輔の覚悟を見るために答えを促し、時輔は従うと頭を下げます。
時頼は時宗に「なぜ果たし合いをしたか」を問います。筆を持つ右手が震え、立ち上がるのもおぼつかなく、時宗を平手打ちしようにも力が入らないことに戸惑いつつ、時宗を嫡男だと触れて回ったのは時輔と諍(いさか)いを起こさないためだと諭しますが、時宗は自らの手で家督を奪い取りたかったと反発します。政はすさまじいものとつぶやく時頼は、宗尊親王が企む上洛を阻止してみよと時宗に命じます。
実時は正室周子に離縁を言い渡します。周子の心配は嫡男の北条顕時ですが、顕時は「鬼じゃ!」と乱入してきました。出世のために母を離縁するのは納得できないわけです。しかし実時には出世意欲は全くなく、時宗と安達が縁づいた釣り合いを取るために家臣たちが結束を固めなければならないのです。跡を継ぐものとしてそれは理解してほしい実時と、理解できない顕時。周子はふたりを引き離します。
時頼は、長時、政村、実時、泰盛の4人を招集して、幕府の重要ごとを決める5人衆から時頼が抜け、新たに時宗を加えると伝えます。時宗はさっそく長時に将軍上洛の件を持ち出し、天候不順と飢饉が続くこの時期に1万を超える民に負担を強いるのは、幕府に対する不満が噴出するだけと、上洛の時期が来るまで控えるように強く申し入れます。
遮られた格好の長時は、将軍上洛はなくなったと時輔に吐き捨てます。怒り心頭の長時に、時輔はかみ殺した笑いが止まりません。一方、最明寺亭に赴いていた実時の不在中に、離縁を言い渡された周子は自害していました。女が自害をしても何ひとつ変わることはないと言いつつ、実時はショックを受けて「何ゆえじゃ……何ゆえじゃ」とつぶやきます。
2ヶ月後、止まっていても前には進めないからと、政村は半ば強引に実時と享子の婚儀を進めます。実時には享子、長時の弟・時茂には秀子、そして宗政には芳子が嫁ぐことでこの3人は義兄弟になるわけで、「これで北条一門も安泰」と高笑いの政村ですが、実時は力なく返事し、時頼は頭を撫でまわしながらやれやれといった表情で頷くだけです。
これに噛みついたのは涼子で、周子を亡くして間もない実時に享子を娶らせることが納得できませんが、時宗と安達のつながりをけん制するためなので、時頼でも口を差し挟めません。二度と戦をしないと心に決めた時頼に、そしてその後は時宗に、涼子の厳しい言葉をかけてやってほしいと頼むと、隠居をしたら博多へ、さらに足を伸ばしてモンゴルへ行こうと時頼は涼子を旅に誘い、涼子はじっと見つめています。
鎌倉から博多へ戻った太郎は、謝 国明に鎌倉の情勢について報告をしますが、謝 国明は太郎がいささか政に深く立ち入りすぎると忠告をします。鎌倉の安泰のために力を貸しているつもりの太郎ですが、安泰でなくなり戦になれば銭は動くというのが謝 国明の真髄です。そこに大陸と日本を行き来する桐子がやってきました。蒙古軍に攻められて宋は風前の灯と鼻息荒い桐子は、クビライ・カアンに心酔しているのです。
制圧はせず、他国を従えるときも民に幸せをもたらすと約束をする彼は、いにしえのローマ帝国を目指し陸と海で全ての国々と交易をしたいと願っているのです。ははっ! と佐志 房は鼻で笑いますが、蒲寿庚(ほじゅこう=イスラム商人)はクビライが緑多い日本がお気に入りと、日本の商人を紹介してほしいと頼んできました。何やら恐ろしげだ、と大笑いする佐志 房と蒲寿庚です。
時頼は時輔、時宗、宗政を座禅に誘います。黙って心を研ぎ澄ませば、海の音が聞こえてきます。
その間、祝子は涼子の元を訪れ、出かける前に時宗が預けた書状を手渡します。「我、敗れたり」とあります。どんな戦いに敗れたのかと涼子に尋ねますが、小笠懸の対決についてだけではなさそうな気がしたのです。時輔に敗れたのか、時頼に敗れたのか、己自身に敗れたのか。涼子はありのままの祝子で素直に時宗に聞けば、心通い合う夫婦になれるとニッコリほほ笑みます。
座禅を続ける4人ですが、時頼はもうすぐ自分は死ぬと息子たちに伝えます。毒を盛られたようで、確たる証拠があるわけではありませんが、兄や妹が毒を盛られた時の症状に似ています。しかし時頼が毒殺されれば鎌倉は大騒ぎになるため、病に臥せったことにし、毒を盛られたことは内密にするように命じます。「父亡き後の鎌倉をいかに導けばよいか、3人に申し渡す」
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
渡辺 謙 (北条時頼)
浅野 温子 (涼子)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
池畑 慎之介 (北条実時)
ともさか りえ (祥子)
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原田 美枝子 (桔梗)
江原 真二郎 (高 師氏)
吹越 満 (宗尊親王)
藤 あや子 (美岬)
バーサンジャブ (クビライ・カアン)
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伊東 四朗 (北条政村)
藤 竜也 (佐志 房)
北大路 欣也 (謝 国明)
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制作統括:阿部 康彦
演出:吉村 芳之
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