プレイバック北条時宗・(26)兄弟の絆(きずな)
「我が蒙古の国号を大いなるテングリの国『大元』と改める」 天を仰ぎ見よ とのクビライの号令で両手を天に高く掲げた民衆たちは、改名を喜び合います。万物の源・大元──クビライはその大元の国王になる一方、世界全ての国々を大元のもとに治めようとする意志を、あまねく人々に知らしめようとしていたのです。
博多では、謝 国明が改名のことを太郎から聞きます。世界を大元のもとに治めるということは、日本を押さえて宋を孤立させる必要があるわけで、3度目の国書を届けた蒙古使節・趙 良弼の強気の態度も、そのクビライの意思の表れであると謝 国明は見ています。
趙 良弼が日本に返答を迫っていますが、間もなくその返答期限を迎えつつあります。
4年ぶりに鎌倉に戻った北条時輔は最明寺亭に入り父の菩提を弔います。日本を思う兄弟の大事な話し合いを前に、まず父への恨みを解かなければ北条時宗とは腹を割って話せないと考えたのです。“兵を用いる”という文言が国書から消えない限り返書は送らない時宗ですが、それが戦をしないという考えに逆行していること、さらには戦をするつもりがないのに西国へ兵を送ったことを時輔はズバリ指摘します。
時輔もかつては返書不要派でした。下手に返書を送れば蒙古に日本を荒らされると考えたからです。鎌倉から出たことで各方面からのしがらみから解放されていた時輔は、意地で事を構えてはならないと諭します。実母・讃岐局の最期のように、意地は戦いを呼び絶望を産むのです。「意地を捨て、国の扉を開け放ってみよ、時宗!」
そのころ祝子は、実家の安達屋敷で初めての子の出産を迎えようとしていました。梨子と侍女の若菜が寄り添い松下禅尼が激励する中で、天井から吊るされた力綱を掴み、荒れた呼吸を調えながら頑張っています。
時宗は、蒙古に屈すれば蹂躙されると主張します。幕府の柱があるから大きな戦はなくきましたが、屈すれば民は幕府を信じぬようになります。とはいえ、これまで多くの者が醜い心のために命を奪われていったのも事実です。幕府の柱を守り抜くのが使命と言う時宗に、時輔はその柱を息子に背負わせるのかと迫ります。「わしの子には新しい柱を引き継がせたい。父上に引き裂かれた兄弟の絆を取り戻したい」
柱の頂点に立った時宗としては、90年間 柱を支えてくれた者たちを捨てることが出来ません。物事を支えるのなら2本の方がいいと、時宗は時輔に新しい柱を建てるように勧めます。柱が2本並び立つのは難しいことで、現に父時頼は時輔を遠ざけ殺すように時宗に命じたぐらいです。それでも兄弟がそれぞれの信じる道を進み、2本柱で天下を支えられるかやってみようということになりました。
その日の夜遅く、祝子は待望の男子を出産します。北条得宗家が待ち望んだ嫡男です。そしてなんという巡りあわせか、その数刻後には京の祥子も男子を産みました。
日蓮が流罪となって以降、鎌倉の別の寺の世話になる桐子は、そこで平 頼綱が孤児たちに施しをしているのを目撃します。慈悲の心を持つ頼綱がなぜ日蓮を憎むのか、桐子はその疑問をぶつけますが、日蓮は頼綱の賤しさを見抜いたからという理由に唖然とします。頼綱が孤児だった過去を時宗は知っているのか尋ねる桐子に、それは答えず嫡男誕生を祝す赤飯を手渡します。「二度と時宗さまに会おうと思うな」
生まれた我が子を抱く時宗は、この子がやがて幕府を率いて国を背負う運命にあると考えると、何やら不憫に思えてなりません。見守っていた松下禅尼は、時頼も時宗が生まれた時にそう言っていたと笑います。そこに入ってきた安達泰盛は、早く名を決めてこれまでにない盛大な祝いの宴をするよう勧めます。その目論見の裏には、時輔の男子誕生があったのは言うまでもありません。
時輔の屋敷には、「会わぬ」と言ったにもかかわらず桔梗がズカズカと上がり込んでいました。時輔は何度もお引き取りを求めますが、そんな言葉には一切聞かず、祥子から半ば子どもを取り上げてあやしながら、京の人たちが子どもの誕生祝いをしたいと言うから来るように伝えます。「若君の将来について話したいのじゃ」
そのころ京では一大事が起こっていました。朝廷で力を振るっていた後嵯峨法皇が病の床に就いたのです。この出来事は鎌倉幕府に大きな影を落とそうとしていました。法皇の跡を継ぐ亀山天皇は幕府に対して強硬な態度をとる人物であり、相談された先代将軍の宗尊親王は政を幕府から朝廷に取り返す機会として、宗尊親王は一条実経や足利泰氏らを集めて歌の会を催します
歌の会とは名ばかりで、反幕府派の宗尊親王が立ち上がるための説得の機会だったのです。幕府寄りだった法皇が崩御すれば朝廷は帝の天下となり、北条得宗家に従うつもりはないと一人ひとりを説得して回ります。50年前の承久の乱に敗れて以降、政を幕府に奪われた朝廷は、いつ取り返そうかと時を伺っていたわけです。
朝廷とともに足利や名越北条の者たちがおかしな動きをしているらしいという情報は幕府に入ってきていました。時輔に調査させようと提案する時宗に、北条政村や北条実時は幕府を恨む時輔が役立つはずがないと納得しません。担ぎ上げられる可能性を考えて時輔の監視役として、時茂亡き後 空位となっている六波羅探題北殿へ人を送らなければならないと主張します。
宗政、顕時、義宗らといろりを囲んで愚痴を言い合う時宗ですが、六波羅探題北殿へは心が穏やかな義宗を派遣しようと考えていました。幕府最長老の北条重時の孫に当たる義宗は、代々六波羅探題北殿を務めた家柄であるし、宗政は直情に過ぎるところがあるし顕時は頭の回転が速く時輔に感づかれやすいため避けたのです。頼綱は何か言いたげですが、顔を伺うだけで何も発しません。
数日後、19歳の義宗は六波羅探題北殿に向かうために鎌倉を出発します。それに際して時宗は、立派な弓を義宗に遣わして送り出します。初めて赴く京での役目は想像を絶する重いお役目となりますが、この時はまだ知らない時宗と義宗でした。
京では時輔が、宗尊親王の幕府転覆を図る謀反を止めるつもりで対面します。時宗の代わりに執権職を継いで北条を黙らせよと言われても、時輔にそのつもりは全くありません。親王はそれはそれとして、朝廷としては返書を送りたいという意向を、博多にいる趙 良弼に伝えさせる役目を時輔にさせます。親王はここぞとばかりに、幕府側について戦を招くか、蒙古と朝廷を結ぶ役目を果たすかを時輔に迫ります。
時輔は、子どもを産んだばかりですまぬが と断ったうえで、祥子に留守を守ってくれと頼みます。どこへとは答えず、国を開きに行く、我が子の未来を支える新しい柱を見つけに行くとだけ言う時輔に祥子も詳しくは聞かず、涙目になりながら頷きます。時輔は理解を示してくれた祥子に感謝しながら、翌朝早く、雪の中を博多に向けて出発します。誰にも悟られてはならない隠密の旅です。
時輔が京を発った数刻後、義宗が六波羅探題北殿に到着しました。留守を守っていた如月が炭をくべながら、時輔は病で誰も会えないと言ってきました。何の病気か取り次いでほしいと食い下がる義宗でしたが、首を横に振るばかりです。その後も義宗は時輔に会うべく何度も南殿を訪問しますが会えないそうで、その状況を時宗に報告してきました。
博多では太郎が、政に関わりたくないという謝 国明を説得していました。政に関われば自分だけでなく周囲の人たちをも危険に巻き込んでしまうのです。そこに「蒙古の手先め!」と刺客が謝 国明と太郎に襲い掛かります。振り下ろされる刀を避けつつ、しかし囲まれてしまった謝 国明は、蒙古にも日本にも味方をせず、心ある人間の味方をするだけと主張します。それに構わず襲い掛かろうとしたとき──。
「博多には丸腰のものを平気で斬り捨てる男がおるのか?」 現れたのは時輔でした。刺客は目標を時輔に変えて斬りかかりますが、大太刀を奪い取りのど元につきつけられます。不気味な時輔に恐れをなした刺客たちはちりぢりに逃げていきます。
時輔が我々に同心して博多へ赴いたことを明らかにした宗尊親王は、いよいよ北条得宗家を真っ二つに切り裂くことが出来ると鼻息荒く立ち上がります。「いよいよ時が参りました!」 その言葉に、虐げられていた公家たちはみな明るい笑顔です。末席に座る泰氏と師氏も、お互いを見つめて頷き合います。宗尊親王の鋭い目です。後に『二月騒動』と呼ばれる、哀しい戦の始まりでした。
──蒙古襲来まであと1032日──
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
──────────
[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
池畑 慎之介 (北条実時)
ともさか りえ (祥子)
牧瀬 里穂 (梨子)
西岡 徳馬 (足利泰氏)
──────────
原田 美枝子 (桔梗)
江原 真二郎 (高 師氏)
吹越 満 (宗尊親王)
修 宗迪 (趙 良弼)
井上 順 (一条実経)
大木 実 (西園寺実氏)
バーサンジャブ (クビライ・カアン)
室田 日出男 (服部正左衛門)
──────────
伊東 四朗 (北条政村)
清川 虹子 (如月)
富司 純子 (松下禅尼)
北大路 欣也 (謝 国明)
──────────
制作統括:阿部 康彦
演出:吉田 浩樹
| 固定リンク
「NHK大河2001・北条時宗」カテゴリの記事
- プレイバック北条時宗・(49)永遠の旅 [終](2022.12.06)
- プレイバック北条時宗・(48)運命の嵐(2022.12.02)
- プレイバック北条時宗・(46)クビライを討て!(2022.11.25)
- プレイバック北条時宗・(47)弘安の役(2022.11.29)
- プレイバック北条時宗・(45)わが祖国(2022.11.22)
コメント