プレイバック北条時宗・(24)高麗からの文
文永6(1269)年9月、人質として蒙古へ連れ去られた対馬の民が、高麗の船で日本へ送り届けられます。ふたりの無事の帰国は、人質の命を心配していた多くの人たちを安堵させるとともに、新たな驚きを運んできたわけです。
博多・少弐館では、人質となった塔二郎が蒙古のすごさを興奮気味にしゃべり、横に憮然と座る勇は、通訳として座る謝 太郎にギッと睨まれて思わず目を背けます。少弐資能と景資は塔二郎の発言が本当か疑いますが、クビライがくれたという土産を見ると信じるしかなさそうです。高麗使節は、改めて国書を日本国王に届けるように求め、間を取り持つ高麗の立場も察してもらいたいとすがります。
高麗の父母の仇は討てなかった──。佐志 房と再会し取っ組み合いをする勇は、蒙古が大きくて広くて、クビライどころか兵の1人すらも殺められなかったと悔し涙を流します。「松浦へ帰ろう」と房は言いますが、自分を育ててくれた房を裏切った勇は従えません。何も申すな、と房はこれまでのことを水に流すつもりです。
10月、時宗が望んだ クビライからの“ふたたびの国書”が鎌倉へ届けられます。北条時宗は喜々として国書を開きますが、読み進めるうちに評定がみるみる沈んでいきます。前回のものとまったく同じ内容で、変わった箇所といえば差出人が「大蒙古皇帝」から文書管理を担う「中書省」になったぐらいです。この国書を歩み寄りと理解するか再度の脅しととるか。「ここが肝心でござる」と北条実時は冷静につぶやきます。
従わなければ出兵するという脅しがある限り応じないと返したのに、再度の国書が同じ内容とはやはり甘かったのか……。蒙古に日本と対等に付き合うつもりはない、と時宗は唇をかみます。祝子は属国でも国として存続するならいいのでは?と提案しますが、属国になれば民から幕府を信用されなくなり、幕府を治める者がいなくなれば国が滅びると悲壮感さえ漂っています。
六波羅探題北殿を訪れた一条実経と西園寺実氏は、新関白の鷹司基忠が蒙古への返書の準備に入ったと伝えますが、北条時茂は異を唱えます。日本国王とは天皇のことだと実経は反論しますが、そこに入ってきた北条時輔は蒙古に返書を送るべきだと主張します。蒙古を前に幕府も朝廷もなく、天下を守るためには蒙古に歩み寄るしかないと訴えるのです。
朝廷では、文書博士の菅原長成と書の名人の藤原経朝に命じ、返書の文案を作成させます。国交を強要し兵を用いるとほのめかす穏やかではない表現の蒙古に対し、他国に武力で争うつもりはない日本を理解してほしいという下手に出た表現でまとめられました。
それを時茂が鎌倉に届け時宗が確認しますが、到底認められるものではありません。対等に付き合う相手に送るような内容ではなく、これでは戦が怖いと公言しているようです。しかし時茂は、日本国王が天皇であることを逆手にとって、朝廷が幕府に対抗して返書を作成したと報告。これを制するにも邪魔立てする者がいては仕事がしづらいと訴えます。「時輔どのがおる限り役目は果たせぬ!」
町では、蒙古襲来に怯え政に不満を抱く民が礫(つぶて)を投げ不満を晴らす行為が横行していました。京からふたたび鎌倉に入った桐子は、命の恩人でもある日蓮の庵で世話になりながら鎌倉御所へ通っています。「戦は必ず起こる」と断言する日蓮に、人の痛みが分かる時宗は戦をしないと胸を張る桐子です。人の上に立つ者の考えを変えるという大それたことではなく、単に時宗を守りたいのです。
「自信を持たれよ」と安達泰盛は時宗を励まします。時宗は日本を守るためなら引き下がってはならないと強く考えていますが、数万数十万の民の命がかかっていると思うと、身震いするほど恐ろしくなることもあります。しかし戦にだけはしたくありません。泰盛は、時宗のその弱腰の姿勢が朝廷をのさばらせてしまうと忠告します。「“戦も辞さぬ”の覚悟も、頭のどこから入れて置かれたほうがよい」
鎌倉から戻ったばかりの時茂が、これまでの心労がたたり息を引き取ってしまったのです。幕府と朝廷の間に立ち、時宗と時輔の間に立って身も心もすり減らした上の哀れな最期でした。
目をつぶり手を合わせる時輔。動向に目を光らせていた時茂がいなくなり、半ば自由に動けるようになった足利泰氏と桔梗は、凝りもせず再び時輔のもとを訪れます。蒙古の一件で幕府への不満がくすぶる今、時輔が時宗に代わって執権の座をつかみ取れとそそのかす桔梗に、時輔は桔梗を見据えて言い放ちます。「あなた方と手を結ぶ気などまったくない」
蒙古の地図を前に、時宗は一度蒙古に渡って 立派な人物とうわさされるクビライに会ってみたいと考えています。蒙古は遠すぎる国なので実際に会いに行くのは無理ですが、国をまとめる者同士、目と目を合わせれば何かを感じ取れるのではないかと平 頼綱に愚痴をこぼします。それに頂点に立つのは自分以外に適任者がいそうな気もするのです。頼綱は時宗をけなげに激励します。
そこに、時宗が一人で悩んでいるのではないかと心配していた北条宗政が入ってきます。国を守るには国を知らなければならない──何を守るか知りもせずに戦はできないのです。時宗の言葉に宗政は大きく頷きます。さらに北条義宗が顕時を誘ってやってきました。「わしはよほど頼りないらしい」と笑う時宗は、ともに蒙古に立ち向かう同志を得て、日本を守る覚悟を新たにしていました。
時宗とは逆の道を選んだ時輔も、日本を守りたいという気持ちが芽生えていました。祥子が心配するのをよそに、中国の書物を読み漁る時輔です。
クビライは、日本が再三にわたる通好の要求に応じないことを、ひとつの大事と捉え始めていました。クビライが皇帝になって以来行政官として支えてきた趙 良弼(ちょう・りょうひつ)の熱い思いが、蒙古と日本の次の扉を開くことになります。
そんな時、景資が博多から持参したのは高麗の三別抄が差し出した文でした。三別抄とは、高麗王朝が蒙古に服属したことに抵抗して朝鮮半島の南関に立てこもり、蒙古と死闘を繰り返した反乱軍です。三別抄はこの文の中で、蒙古は近々日本を攻めると警告し、蒙古を敵とする“同志”として兵糧と援軍を求めてきたのです。しかし幕府要職の者たちはみな、この三別抄という存在を知りませんでした。
蒙古は攻める、ゆえに兵糧と援軍を送れ……どういう意味だ? と時宗らの思考が止まります。評定の機会を与えたいと時宗が呼んだ宗政らは、高麗は蒙古の手先ではなく蒙古への反乱軍であり、日本に助けを求めていると分析。なるほどと合点がいった時宗は、このことについて詳細に調査するように命じます。
時輔も朝廷で、蒙古に服属する軍と反抗する軍があり、反乱軍からの文だと認識しなければ読み解けないと基忠らに説明します。高麗を助けても何の得もないとつぶやく実経に、高麗を助ければ蒙古をけん制することができると時輔は反論しますが、基忠は時輔の勝手な推測には乗せられないと話半分も聞かずに出ていってしまいます。
松浦党に一旦戻った勇でしたが、三別抄に味方して高麗のために何かしたいと母国に渡ろうとします。命を粗末にしてはいけないと、房は長男の直(ただす)と三男の留(とまる)ととともに勇を引き止めます。勇は高麗人でも日本人でもなく佐志 房の息子だと、松浦党に拾われて育った者はみな松浦党が母国だと説得します。「どうせ死ぬなら松浦党のために死のうじゃねぇか」
時宗を中心に、西国の領地の確認が行われています。そこで鎌倉市中に礫騒ぎが起こっていると知り、時宗自らが市中に出向きます。力を尽くして日本を守るから心を鎮めてくれ! と民衆に訴えかける時宗でしたが、その声はまるで届きません。時宗は人垣の向こうで、桐子がじっと見つめているのを見つけます。
そのころ祝子は、時宗に知らせたいことがあってもどかしい思いを押さえつつ時宗の帰りを待っていました。時宗の子を身ごもったのです。
──蒙古襲来まであと1148日──
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
池畑 慎之介 (北条実時)
ともさか りえ (祥子)
西岡 徳馬 (足利泰氏)
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原田 美枝子 (桔梗)
江原 真二郎 (高 師氏)
川野 太郎 (少弐景資)
修 宗迪 (趙 良弼)
白 竜 (北条時章)
井上 順 (一条実経)
大木 実 (西園寺実氏)
バーサンジャブ (クビライ・カアン)
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奥田 瑛二 (日蓮)
清川 虹子 (如月)
藤 竜也 (佐志 房)
伊東 四朗 (北条政村)
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制作統括:阿部 康彦
演出:吉村 芳之
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