プレイバック北条時宗・(36)蒙古襲来③ ~博多炎上~
佐志 房は桐子を救い出した北条時輔に礼を言いますが、そもそも博多の外に上陸拠点を設けるよう進言したのは時輔であり、この戦いで房の大事な息子たちも死なせてしまいました。殺してくれと懇願に満ちた目で見つめる時輔ですが、房は桐子を助け出してくれた男を斬ることはできません。松浦党がバラバラになり、去っていく房を見送りながら、桐子は一人にしないでくれといたく悲しみます。
蒙古が迫ってくるという不安か、鎌倉幕府の統制に従わず略奪したり通行料などを取り立てたりする悪党が後を絶たず。不安に駆られる民をたきつけて町を混乱に陥れていたのです。その話を聞いていた北条時宗は市中に出て行き、民の声を聴くことで混乱を押さえようと必死です。
鎌倉を、日本を、そして時宗の生涯を激変させる一日がはじまろうとしていました。
博多に近づく蒙古軍の船。今津を守る北条宗政、豊後の御家人・日田永基は大軍の士気を高めていますが、「一番手柄じゃあ!」と声を張り上げる竹崎季長に従うのはわずかに4名。そのひとり浅川平八郎は早まらないようにと主を落ち着かせますが、その忠告はまるで届かず、手柄手柄と連呼する季長に呆れています。
博多の港には少弐景資や菊池武房、平 頼綱の軍勢が集結し、それとすれ違いに民たちが海から離れて逃げていきます。謝 国明は物々しい雰囲気の町中に立ち、複雑な思いで兵たちを見送ります。準備は整ったと胸を張る景資に、武房は港に到着した武房は蒙古兵など斬り捨ててくれる! と高笑いですが、頼綱は不安な表情です。
謝 国明の館はすでに荷物など持ち出されていて何も残っていません。そこに盃を2つ用意してどっかと座った謝 国明は、亡き美岬が身に着けていた髪飾りを懐から取り出し、博多最後の酒になるやもしれないと献杯します。「美岬……必ずここに戻って参る……そなたと築いたこの博多の町に」
船が見え始めました。宗政は戦の作法として矢を空高く放ちますが、その意味を知らない蒙古兵は馬鹿にして笑っています。続いて永基が名乗りを上げ、季長は一番名乗りを取られたと膝から崩れ落ちます。しかしその名乗りの途中、船から投げられた大きな弾が永基の目の前で破裂し、馬は転び永基は大砲に当たってしまいます。駆け寄る宗政と季長ですが、何発も大砲が投げられ日本軍は大混乱に陥ります。
それに続いて矢が雨のように降り注ぎます。急所を外して矢に当たった兵が泡を吹いて倒れるのを見て、宗政は射かけられているのが毒矢と知ります。恐れおののいて引き始める兵たちを大声で叱咤する宗政です。季長は矢を射かけて応戦しますが、無数の矢が飛んできて避けるのに必死です。
大きな船から小舟に乗り移った蒙古兵が数百艘で浜辺に近づいてきます。宗政や季長は浜辺に駆け寄って上陸を阻止しますが、次々と上陸してくる蒙古兵に斬り倒され、馬上の武士は引きずりおろされて討たれていきます。矢や礫(つぶて)、それに大砲の攻撃で日本の兵は大混乱。果敢に戦う宗政ですが、破裂した大砲の破片が当たったか、目を押さえて絶叫します。
鎌倉の時宗は、民衆相手に必死に説明を続けていました。しかしどれだけ言葉を尽くしても、民衆の不安を取り除くまでには至りません。時宗は、実弟や第一の家臣を博多へ遣わせたのは、勝つと信じたからこそなのです。全力で蒙古と戦っている博多の武士たちのためにも、ともに勝利を祈ってほしいと言うと、少しずつですが民衆は落ち着き始めます。
「この執権には騙されてはならぬ」 そのやり取りを後方から見ていた男が口を開きます。笠を外すと、男は服部正左衛門でした。執権は調子のいいことばかり言って、兄とその妻を手にかけた男に国を任せられるか! と声を上げる正左衛門に、政の過ちを挙げて不安をあおるのではなく、堂々と自分に言えと諭しますが、正左衛門は時宗をギロリと睨みつけたままです。
博多での戦は続いています。蒙古軍はやがて博多の港にも上陸し、戦う構えを見せていた兵たちは一斉に逃げ出し始めます。武房や景資は軍勢を立て直し蒙古軍を迎え討ちますが、犠牲を抑えるために大宰府まで撤退することにします。その指示に従いません頼綱は食って掛かりますが、景資は全軍の指揮を執る者として撤退を頼綱に命じます。
櫓の上にいた蒙古兵を倒した景資が博多の海岸を見ると、整然と並ぶ大勢の蒙古兵です。そこに敵の大将である副元帥・劉 復亨の姿を見た景資は矢を射かけ命中させます。落馬した劉 復亨は重傷を負い海に浮かぶ小舟に運ばれ、先ほどまで勢いづいていた蒙古兵は瞬く間に兵を引いていきます。景資は、この間に軍勢を立て直そうと撤退を命じます。
時宗はお堂で正左衛門と対峙します。慌てて駆けつけた安達泰盛は北条義政に止められています。正左衛門は戦を止めて執権職から引けと要求しますが、時宗は拒否。国を率いる者として戦を終わらせる役目を誰かに押し付けるのは本意ではなく、半端な姿勢では戦の意義も失われるのです。時宗は正左衛門に今後も自分を正してほしいと伝えますが、兄の名を貶めることだけは許さぬとくぎを刺します。
蒙古軍は地の利のない土地での夜襲を恐れ、劉 復亨が重傷を負ったのをきっかけに全兵士が船に戻ります。そして博多の町に火をかけ、日没までに陸から離れていきます。夜、人のいなくなった博多の町は夜空を焦がすほどの炎を上げ、焼け落ちていきます。博多の町のみならず今津や百地原も焼け落ち、数千の兵が命を落としたこの戦は、思いがけない結末を迎えようとしていました。
傷に苦しむ宗政を必死に看護する兵たち、それを横目に憮然と座る頼綱です。夜が明ければ蒙古軍は再び襲撃を開始すると思われ、しかし博多には誰もいないので、蒙古軍に奪われるのは時間の問題です。悲しむ武房たちですが、頼綱は屍を積み重ねてでも博多で阻止すると主張します。「この戦には後がない。博多が落ちれば……わしらの負けじゃ」
そこに警護に当たっていた兵が報告に来ました。船に乗った蒙古軍が姿を消したというのです。翌朝、焼け落ちた博多へ赴いてみると、確かに無数に並んでいた蒙古の船が一艘もありません。一体どういうことか? 分かっているのは、900艘あまりの大船団が一晩で博多の海から消えていなくなったことだけです。海を見つめて思案する者、緊張状態から解放されて膝から崩れ落ちる者、さまざまです。
灰になった博多の海岸をひとり歩く謝 国明は、あまりのむごさに言葉を失っています。そして同じく落城した松浦城に立ち、海を見つめる時輔も、複雑な表情を浮かべています。クビライは戦況を知っているのか知らないのか、チェスに熱心に取り組んでいます。そして時宗は目をつぶり、考えを巡らせています。戦の終わりは、新たな戦の始まりでした。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
──────────
[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
──────────
渡辺 徹 (北条義政)
川野 太郎 (少弐景資)
うじき つよし (竹崎季長)
小西 博之 (菊池武房)
バーサンジャブ (クビライ・カアン)
──────────
藤 竜也 (佐志 房)
室田 日出男 (服部正左衛門)
北大路 欣也 (謝 国明)
──────────
制作統括:阿部 康彦
演出:真鍋 斎
| 固定リンク
「NHK大河2001・北条時宗」カテゴリの記事
- プレイバック北条時宗・(49)永遠の旅 [終](2022.12.06)
- プレイバック北条時宗・(48)運命の嵐(2022.12.02)
- プレイバック北条時宗・(46)クビライを討て!(2022.11.25)
- プレイバック北条時宗・(47)弘安の役(2022.11.29)
- プレイバック北条時宗・(45)わが祖国(2022.11.22)
コメント