プレイバック北条時宗・(42)いのち尽きるとも
「時宗どのの中の石、いずれ砕けてお命を奪い去ることになりましょう」 余命5年という無学祖元の診立てに、北条時宗は言葉を失います。使いようによっては5年が50年にもなると祖元はフォローしますが、たくさんの人たちの命を奪ったから仕方ないことだと落胆する時宗です。祖元は、死ぬことは罰ではなく人間にとって大仕事と励まします。時宗は25歳で己の余命を知らされてしまったのです。
北条時輔は謝 国明の鎌倉屋敷で涼泉尼と対面します。涼泉尼は時輔の怒りや無念は察して余りあると理解を示しつつ、時宗の立場を分かってと頭を下げます。時宗の辛い立場は分かっているつもりですが、時輔は時宗を許すことが出来ません。執権という立場が、鎌倉が時宗を鬼にさせたなら、鎌倉ごと時宗を倒さなければ戦は終わらない。「わしは時宗を倒すために旅に出るのでござる。一刻も早く戦を終わらせたいだけ」
時輔は鎌倉を出発します。そして桐子も、足利から離れる決意を固めます。足利の鎧を利用して時宗に訴え出て戦を止めるのではなかったかと、桐子の足利入りに尽力した高 師氏に責められますが、時宗の本音を知ってしまった以上、彼を動かすことはできないと悟ったのです。桐子も時輔も、武士の世のひずみを感じていました。
時宗は、武士の世を蒙古から守り抜くことに残りの日日のすべてを賭けます。書物を元に地図に朱で書き入れるなど多忙の時宗のところへ祝子が来て、懐妊したことを伝えます。脳裏に祖元の言葉がよぎった時宗は、侍女の若菜に促されて我に返り、祝子のほほに手を当てながら「立派でのうてもよい、身も心も健やかな子を育てるのじゃ」と言葉をかけます。祝子はその言葉に一抹の不安を感じ取ります。
北条実時は、祝子の懐妊をとても喜んでくれました。新しい者が生まれ古いものが去る、とつぶやいた実時は、自らの引退を認めてほしいと時宗に懇願します。和解させたいと時輔と対面させたものの溝をさらに深めてしまい、蒙古との関係も悪化させた、その責任を取るのです。時宗は実時が未来を見据えて出た賭けに負けたからと引く人ではないと、本当の引退理由を問い詰めます。
安達屋敷を訪れた祝子を松下禅尼や安達泰盛は褒めたたえますが、松下禅尼の言葉に不吉な予感を感じるなど祝子の様子が変です。時宗の様子が変だとこぼすのですが、正室たる者、夫の身に何かが起こった時は……と泰盛は説教します。横に座る梨子は、夫婦でも心の内が分からないこともあるし、妻が知らないほうがいいこともあると言い、泰盛は黙り込んでしまいます。
泰盛の館に竹崎季長が訪ねてきていました。どうしても時宗に訴えたいことがあると、売れるものは全て売ってはるばる鎌倉までやってきたのですが、どれだけ待っても対面してもらえず、泰盛に取り次ぎを求めたのです。時宗は多忙だから今は無理だと泰盛は断りますが、いつまでも待つと食い下がる季長の熱意に負け、しばらく待つように伝えます。
季長の元を去り平 頼綱と対面した泰盛は、時宗の様子がおかしい事情を探ります。頼綱からは、実時が六浦へ隠居する申し出があったことを教えてもらいます。泰盛は自分に一言も相談もなく決定したことにムッとします。「実時どのが去られたら、泰盛どのに並ぶものは もはやおりませぬ」 恭しく頭を下げる頼綱の肩をポンと叩き泰盛は対面所を出ていきます。頼綱はニヤリとします。
父の引退を聞いて、北条顕時は慌てて反対しますが、実時は心穏やかに六浦へ送って語り尽くそうと笑います。その時入れ替わりに泰盛がやってきて実時の引退の撤回を求めますが、武士に二言はないと断られます。実時の身体は病魔にむしばまれているようで、悟られる前に身を引きたいのです。実時が作成した博多に作る石垣の起案も、自分で出せと泰盛は涙を浮かべますが、実時は首を横に振ります。
それよりも時宗の身を案じてやってほしいと実時は言います。時宗は内緒にしていた実時の病気のことも見抜けるほど研ぎ澄まされていて、身体の負担が心配されるのです。そんな実時と泰盛のやり取りを廊下で聞いていた顕時は、涙を流しています。その数日後、実時は住み慣れた鎌倉を離れ、海の美しい六浦の里へ隠居します。二度と誰にも会わないと決意しての旅立ちでした。
起案を置き土産に静かに最後の時を迎えたいという実時の気持ちに応えるため、時宗は実時が作成した起案に基づいて、さっそく博多に石垣を建設する指示を出します。泰盛は、実時の起案は素晴らしいが、負担をかけ実際にそれを作り上げる西国の御家人たちの力があればこそと、彼らを大事にするように諭します。その上で泰盛は、季長を時宗に会わせることにします。
季長は起案に目を輝かせますが、この石垣作りに力を貸してほしいという泰盛の言葉に、さらに負担が増えると季長の笑顔はたちまちしぼんでいきます。時宗は、船作りをして兵を調え高麗に攻め込むチームか、領地一丁につき一尺の砦を作るチームか、どちらかでよいと提示します。納得した季長は喜々として頭を下げます。「立派な石の砦を頼み申す」
その上で泰盛に要件を尋ねられた季長は、未だに恩賞に与(あずか)っていないと訴えます。前の文永の役での恩賞も不足しているし、不公平な部分もあるからと泰盛は吟味しなおすと言いますが、一族郎党を守るために飛び出して一番手柄を取ったのにと涙ながらに訴えます。後に泰盛に「奇異之強者(こわもの)」と言わしめた季長は、鞍つきの馬一頭を授けられ肥後国海東郷を恩賞に与ることになります。
博多の謝 国明の屋敷に戻ってきた時輔は険しい表情です。使節たちと鎌倉へ向かった勝手を詫びますが、今度は蒙古に渡りたいと言い出します。時輔が半ば焦っているように見えた謝 国明は、蒙古への船には佐志 房を乗せたと言い、たとえ蒙古行きの船があったとしても今の時輔には任せないと断ります。「今の時輔どのの眼差しには刃がござる」 時輔は、自力で行ってみせると館を後にします。
房は謝 国明の代理として、蒙古との交易のために大元・大都に到着していました。日本からの商いの船が湊に着いたと聞いたクビライは、交易を許可します。そして同じころちょうどベネチアから大元を訪れていた商人マルコポーロはクビライと対面していました。クビライの目に留まり、この後側近として仕えることになります。
秋も深まるころ、時宗の元に実時危篤の知らせが届き、時宗は六浦の実時別邸に駆け付けます。実時は時宗の傅役(もりやく)だったのです。実時は、本当の試練は蒙古が去った後にやってくると諭します。蒙古の波をかぶった日本は、元の姿に戻るのではなく変わっていく未来を見据えることが大事なのです。「目を磨かれよ。人を見る目、物事を見る目、国を見る目」
間もなく実時は亡くなり、評定衆でその死を悼みます。泰盛は時宗に、六波羅探題北殿の北条義宗を鎌倉に戻してはと提案します。顕時も亡き実時が義宗を信頼していたようです。しかし頼綱が異を唱えます。義宗は時輔を討ち損じ、それで時宗も危ない目に遭いました。時宗の命に従わないものを評定衆に加えるのは反対です。時宗は、自分の命をたしなめる者も必要だと泰盛の意見に賛同します。
涼泉尼は花に水を与えながら、実時がいなくなったことで評定衆がバラバラになってしまわないか心配します。執権という立場上、妻の祝子には全てを打ち明けてくれないながら、時宗を察して支えていかなければなりません。執権の妻は大変だと愚痴をこぼす祝子に、同じく執権の妻を務めた涼泉尼は子どもを産むことだけに集中するように優しく微笑みます。建治2(1276)年秋のことでした。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
浅野 温子 (涼泉尼(涼子))
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
池畑 慎之介 (北条実時)
牧瀬 里穂 (梨子)
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渡辺 徹 (北条義政)
江原 真二郎 (高 師氏)
うじき つよし (竹崎季長)
筒井 康隆 (無学祖元)
バーサンジャブ (クビライ・カアン)
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藤 竜也 (佐志 房)
石橋 蓮司 (北条時広)
富司 純子 (松下禅尼)
北大路 欣也 (謝 国明)
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制作統括:阿部 康彦
演出:真鍋 斎
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