プレイバック北条時宗・(47)弘安の役
北条時宗は謝 太郎から、“大変な荷を乗せて”大陸からの船が到着した報告を受けます。大変な荷とは言わずもがな、クビライによる出兵命令の情報です。先陣として4万、第二陣として10万の兵を送り込むそうで、4月中に出陣の準備を整え、博多を目指して海を渡ってくると思われます。時宗は14万を撃退してみせると言いますが、迎え撃つのも間に合わせると意気込みます。
時宗は評定を開き、蒙古襲来について説明します。敵の刃に晒さぬためにも対馬と壱岐の民を避難させるよう命じます。博多湾の入り口にある志賀島を敵に明け渡し、博多へ誘い込む作戦です。敵に明け渡すと言っても潮が引けば地続きになる志賀島へは、博多側から攻撃することも可能になります。「武力ではもはや日本を奪えぬこと、何としても蒙古に思い知らせるのじゃ」
安達泰盛は娘婿の北条顕時と酒を呑みながら、時宗は執権という道を踏み外していると非難します。執権とは御家人をまとめ将軍を支える役目ながら、時宗は思うがままに進んでいるわけで、幕府を滅ぼすものを担ぐことはできないと苦々しく思っています。顕時は、道を外しているのは泰盛も同じとチクリと刺します。顕時は、時宗の独走は認めつつも、蒙古が迫る今は時宗の元に一丸となることだと諫めます。
そんな時宗と泰盛の関係を、祝子はズバリ見抜きます。時宗と泰盛は別の方向を見ているような気がするのです。時宗は言いにくそうに、もう泰盛とは手を携えられないと打ち明けます。祝子はヤケを起こしているように見えますが、時宗は泰盛のことを大事に思いつつ、見下されず小国と侮られないような国を、一から作り直さなければならないと思っているのです。
無学祖元と対面した時宗は、蒙古との戦が終わるまで命をつなぎとめてほしいと言いますが、戦を見ずに済ませる方が楽だと言われてしまいます。得宗家や幕府がなくなるとしても戦に勝たねばならない。日本が生きるなら執権という立場を失ってもいいというわけです。祖元は、ただ信じる道を進めと言葉を授けます。
大元・大都では、北条時輔が趙 良弼と再会します。時輔は戦を止める手段を尋ねますが、良弼は首を横に振ります。クビライの政策に次男・チンキムは喜んでいないわけですが、良弼は、この国は一代限りかもしれないと大きくため息をつきます。しかしたとえ一代で滅びても、クビライが開いた敗戦国も小国も受け入れる扉はなくなりません。「この扉から、新しい時代が作られるのです」
良弼の言葉に目からうろこが落ちた時輔は、幕府に新時代の扉をつけたいと日本に戻ることを考え始めます。時輔は、旅行記をつけ始めたマルコポーロに日本のことを紹介してもらいたいと希望を伝えますが、「黄金の国」についてはすでに書き始めているそうです。東の果ての国では、日の出が金のごとく美しい……。いつか日の出を見に行くというマルコポーロと、再会を約して固い握手を交わします。
マルコポーロは日本を訪れませんでしたが、後に彼が著した『東方見聞録』は、西の世界に初めて日本──黄金の国・日本 (Zipangu)──のことを紹介することになります。「ジパングは、大陸の東1,500マイルの海上にあり、とても大きな島である。この国ではいたるところに黄金が見つかり、住む者はみな莫大な黄金を持っている。ジパングへは誰も訪れていなかったので、その黄金は国の外へ出て行ったことがない」
謝 国明の館に久しぶりに戻った桐子は、1つの巾着袋を謝 国明に手渡します。たった一握りぶんの、佐志 房の遺灰です。これがあの剛直な佐志 房か……。手に取った謝 国明は、房との関わりが走馬灯のように頭をよぎり「バカじゃ」と涙を流します。桐子は文永の役で親を亡くした孤児たちを引き取り、房の後を継いで、松浦を自分の手で立て直すと意欲を燃やします。桐子を見据える謝 国明です。
時宗の読み通り蒙古軍が対馬に攻め込みました。竹崎季長は腕が鳴るとやる気に満ちあふれ、また恩賞かと菊池武房はからかっています。北条宗政は、文永の役での自分たちの動きはあまりにまちまちで、それが被害を広げたという反省から、今回はみんなが団結して蒙古軍を迎え撃とうと叱咤します。
蒙古軍第一陣「東路軍」42,000は5月3日に高麗を出発し、21日に対馬、26日に壱岐に達します。そして6月6日──。
博多の陸から海を見つめる宗政の目に、数百艘の船が映ります。号令一下、無数の兵たちが槍を手に取り配置場所に急ぎます。船から海岸線の石垣を見て驚く蒙古兵は、それでもひるまず大砲を飛ばしますが、大砲は石垣で遮られ、コロコロと砂浜へ転がって破裂。破壊力の強い大砲にも関わらず石垣はまったく崩れていません。矢の応戦でも海から陸地には届かず、陸からの無数の攻撃になすすべもありません。
蒙古軍はなんとか矢を防ぎながら小舟に乗り換え、次々と上陸を始めますが、陸地に上がった大勢が矢に倒れ、はしごを持って運よく石垣にたどり着けた兵も、石垣の上からの槍の攻撃や石垣から突き落とされるなどして、あえなく倒れていきます。蒙古兵は大砲に火をつけ、石垣の向こう側へ投げ始めます。大砲が破裂して鎮西奉行の少弐景能も石垣から飛ばされ、地面に叩きつけられ命を落とします。
景能の最期を見届けた宗政のところに次の大砲が飛んできますが、フラッシュバックに怯えつつ、時宗の「生きて戻れ」という言葉が脳裏をかすめ、破裂していない大砲を手に石垣に上って蒙古兵に向かって投げつけます。その瞬間に大砲が破裂し、蒙古兵にかなりのダメージを与えます。宗政は全軍出撃の下知を出し、他の御家人たちとともに石垣を飛び降りて敵軍に突っ込んでいきます。
松浦の佐志館で桐子は、孤児たちにいったん山へ避難すると宣言します。子どもたちは口々に、親の仇! と戦う姿勢を見せますが、このままでは勝てないと、この戦をかいくぐって立派な大人になれと諭します。そこに武士たちが乱入してきて、桐子は槍を手に子どもたちを守ります。「わしは水軍松浦党佐志 房の娘・桐子じゃ!」
房の名前を聞いた河野通有は桐子に手をつき、無礼を謝罪します。通有は伊予水軍の武士で、これまでも房に何度となく助けられたため、その恩返しのために救援でかけつけたそうです。「佐志どのに代わって蒙古を追い返すは、わしら瀬戸内水軍の仕事じゃ!」 ここで子どもたちを守られよと言葉をかけられ、桐子は通有に感謝します。
夜、静かに小舟で蒙古船に近づいた瀬戸内水軍は夜陰に紛れて奇襲をかけ、あっという間に蒙古船を乗っ取ります。一艘、また一艘と船を奪われていった蒙古軍は、船同士を縄で結び合わせて船団をひとかたまりにし、小舟が入り込む隙間をなくす作戦に出ます。この作戦は功を奏し、丘と陸地とのにらみ合いが続きます。
しかし、蒙古軍に待ち受けていたのは意外な敵でした。船の中で疫病が発生したのです。結び合わせたことで動きが取れない蒙古軍大船団は、その内部でたちまち疫病が蔓延してしまいます。次々に積みあがっていく病死者の山……。夏の暑さも災いし、最終的に3,000の蒙古兵が命を落とす結果になります。
上陸を阻まれ、十分な補給もできない蒙古軍は、ついに博多湾からの撤退を余儀なくされます。離れていく蒙古船を石垣から眺め、季長や武房は抱き合って喜びますが、その眼には涙が浮かんでいました。宗政も左目を覆う眼帯をはずし、勝利を噛みしめています。
蒙古軍撤退の報に大喜びの評定衆ですが、時宗は厳しい表情です。今回戦ったのは全14万のうちの第一陣4万にすぎず、それを完膚なきまでに叩き潰せなかったのは大いなる失策と激怒したのです。第一陣を逃がしたことで、本隊10万にそれを加えた数が再び襲撃する……。勝利に浮かれていては勝てぬと、時宗は次こそ正念場と宗政に早馬を走らせます。「勝てぬなら鎌倉に戻って来るでない!」
床に投げつけた博多からの書状を手に取り、丁寧にしわを延ばす泰盛は、去っていく時宗の背中をギロリと睨みつけます。そして北条時広は、時宗と泰盛のそうした姿勢にハラハラしています。果たして時宗の言う通り、そのころ高麗と日本の間の海上には、大きな島と見間違うほどの大船団が姿を現していました。3,500艘にも及ぶ新たな「江南軍」が、九州を目指していたのです。
時広は時宗を酒の席に誘い、目まぐるしく変わる情勢で心が休まらない時宗に、動かないものを見せてゆっくり過ごすように穏やかに語り掛けます。時宗の中には宗政とともに博多で戦えないもどかしさが支配していたわけですが、幕府という石に手を出しすぎると言いたいのかと時宗は不満顔です。時広は笑って否定しつつ、やれることはやったのだから下手に手を出すより自然に成り行きを見守るように勧めます。
「世が乱れ明日をも知れぬ時こそ、国を治める者が変わる好機」 泰盛は腕組みして松下禅尼に愚痴をこぼします。源 頼朝によって幕府が成立したことで、将来日本を背負って立つのは源氏の者だと泰盛は主張します。平氏の末裔である北条を終焉にさせたいというわけです。松下禅尼にとって時宗は孫だと牽制しますが、泰盛にとっても婿にあたる時宗を「だまし討ちにはいたしませぬ」と睨みつけます。
頼綱は、泰盛が謀反を起こして時宗を執権の座から引きずりおろす画策をしていると時宗に訴え出ますが、頼綱に争いから身を遠ざけるように注意します。戦いでは国を治められないわけですが、であればなぜ蒙古と戦いを繰り返すのか疑問に感じます。戦をなくすために戦をしていると返事する時宗です。鎌倉で、博多で、哀しい戦は新たな炎を噴き上げようとしていました。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
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川野 太郎 (少弐景資)
うじき つよし (竹崎季長)
小西 博之 (菊池武房)
筒井 康隆 (無学祖元)
修 宗迪 (趙 良弼)
バーサンジャブ (クビライ・カアン)
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石橋 蓮司 (北条時広)
富司 純子 (松下禅尼)
北大路 欣也 (謝 国明)
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制作統括:阿部 康彦
演出:勝田 夏子
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