プレイバック北条時宗・(41)斬るべからず
蒙古の使節団が九州で襲われ、9名の使節が消息を絶って1ヶ月。今度は北条時宗が足利の姫君・桐子とともに館から姿を消しました。桐子の大事な家族を失ったことで時宗は膝をついて謝罪します。そこまで苦しんでいたとは と桐子は時宗を慮ります。戦で取り残された者たちは、悲しみを背負って生きて行かなければならないだけに、「もう殺されるのも殺すのもたくさんじゃ……」と時宗は本音を吐露します。
北条時輔は使節たちを鎌倉へ連れてきて、北条実時と対面させます。なぜこのような大それたことをと実時は愕然としますが、時輔は「賭けたのでござる」と実時を見据えます。
時輔が執権職を継いでいたらどうなっていたか? と時宗は桐子に尋ねます。戦は起こらないながら、日本は蒙古に飲み込まれていたかもしれないと桐子は率直に答えます。「確かなのは、時宗どの、時輔どのも必死になって国を思うておられること。それを私が知っておること」 時宗の身体を労わる桐子に、時宗はいっそ桐子とどこかへ行ってしまいたいと願っていますが、放り出せば日本は終わると考え直します。
「今宵は戻られぬような気がするのでございます」 心配性の祝子が梨子に訴えますが、まさかと一笑に付されます。時宗に限ってそんなことはないと思うし、国だ蒙古だと追い詰められた毎日を送る時宗にも、息をつける場がなければ参ってしまうと祝子を諭します。「夫婦の暮らしは長い。少々のことでうろたえるな」
謝 太郎は使節たちと時輔を鎌倉の屋敷でもてなします。時宗と会い、溝を埋めることが出来ればなんとかなると考えていました。しかし世忠は、時宗が使節を追い返しクビライの国書を拒絶した恐ろしい人物と聞かされていて不安に感じていますが、日本の民にとってはクビライを恐ろしい鬼だと考えていると諭します。「時宗はきっと、あなたの思いを受け止めてくれます」
実時はさっそく安達泰盛に伝えます。泰盛は時輔が生きていること、捜索していた使節9人を匿って鎌倉へ来たことに衝撃を受け、時宗に引き合わせる実時の意見に反対します。実時は、大宰府へ送り返すか、時輔もろとも抹殺するかの二者択一を泰盛に提示しますが、そんなことよりも、時輔と時宗の兄弟にとって最後の機会だと考える実時は、泰盛に協力を仰ぎます。
日暮れ近く、時宗は戻って来ました。心配していた祝子はやんわりと、どこへ、誰と出かけていたのか尋ねてみますが、時輔は床に寝転がり目を瞑ったままで答えてくれません。そこに平 頼綱が、実時と泰盛が待っていると伝えに来ました。
実時は時輔と使節団の件を聞き、明朝、両者に会うことにします。心づもりが整ってからでもいいと泰盛は思いやりますが、どれだけ時が経ても心づもりは整わないと答えます。幼いころより時輔と競い合い、クビライの影と戦ってきた時宗は、一生そこから逃れられないのなら早いうちに会ってその姿を確かめたいと言うのです。
謝 国明の鎌倉屋敷に入った時宗は時輔と対面します。時輔を討てと命じて以来の兄弟の長い旅をお互い労わります。赤子だった明寿丸が、今では弓や馬を操れるほどに成長したと、時輔は感慨に耽(ふけ)ります。明寿丸と幸寿丸のためにも新しい国を作りたいと、蒙古の使節を連れてきたと時輔に時宗は頷きます。「ただ、兄上とは時宗としてお会いできますが、蒙古の使節には幕府執権として相対せねばなりませぬ」
対面の場で世忠は、和睦を勧めに来たと言いながら“大元のもとで”ともに栄えようと呼びかけます。大元を中心に人や物が自由に行き来できる世界を作りたいと説明する世忠に、なぜ兵をよこしたのかと訴えます。「償いなくして和睦などありえようか。そなたらは降伏を促しに参ったのじゃ」 時輔が慌てて止めに入り歩み寄りを勧めますが、武力で国を開かせようとする者に下ることはできないと申し出を蹴ります。
蒙古では国を“ウルス(人の集まり)”と言います。時輔はそれを時宗に伝え、国とは領土ではなく人の集まりのことを指すと説明し、日本もそういう考えができるならもっと国は豊かになると諭します。時宗は、大元に立ちクビライと会ったわけではない時輔に、クビライの心のうちに野心がないとどうして言えるのかと反発します。静かに眠っていた、美しい日本を守るのが自分の役目なのです。
時輔は、自分を討てと命じ祥子を斬った時宗をとても恨んで生きてきました。しかしその一切の恨みを飲み込んで時宗と対面したのも、恨みをぶつけては前に進めないからです。兄弟のことと国同士のこととは別と言う時宗は、蒙古が真に償いを見せぬ限り和睦はあり得ず、断固として交戦すると時宗は告げます。世忠ら使節に斬首を命じるという無情の言葉に、騒ぎ出す使節たちです。
蒙古を離れるとき、妻子に永遠(とわ)の別れを告げてきたと言う世忠は、心静かに斬首の命を受け入れます。厳しい表情を浮かべる時輔と太郎、顔を見合わせる実時と泰盛です。「9人のうち4人には帰国を許す。武力には屈さぬというわしの返事、しかと持ち帰ってくだされ」 カタ……ジケナイ、と手を合わせる世忠に、時輔は涙を流しています。
数日後、5人の使節たちは鎌倉龍ノ口で斬首の刑に処されます。立ち会った北条宗政の、兄時宗を恨まないでくださいとの言葉に世忠は頷きます。
出門妻子贈寒衣 (私が国を出るとき、妻と子が)
問我西行幾日歸 (いつ帰ってくるのですかと聞いた)
來時儻佩黃金印 (私は必ず手柄を立て出世して帰ってくるから) 莫見蘇秦不下機(楽しみに待っていなさいと答えたのだが)」
時宗はこの断固とした処分により、日本はいかなる攻撃にも屈しないと知らしめたのです。このことは、帰国した4人の使節によってすぐに蒙古に知らされます。
時輔は、なぜ蒙古が次々に国を広げられるのか、なぜ日本が国を開くのにこれほどまでの痛みを伴うのか、直に見、クビライに対面するため蒙古へ行く決心を固めます。そこへ祝子が蒙古の地図を見たいと明寿丸を伴って謝 国明の屋敷へやって来ました。太郎は地図を時輔に手渡し、戸惑う時輔ですが、他人のふりをして明寿丸に丁寧に説明します。青い海を指す明寿丸の手を、ギュッと握りしめる時輔です。
時宗は長老の北条時広を呼び、良い薬師を知らないかと尋ねます。時広は、自分に頼むと言うことは大っぴらにしたくないという時宗の思惑を感じ取り、時宗が大陸に詳しい者として呼び寄せた無学祖元という名僧が医者でもないのに薬草にも詳しいと助言します。無学とは知識がないわけではなく「全てを知っていて学ぶものがない」という意味です。
祖元は夜だというのに明かりもつけず、一瞬戸惑う時宗ですが、促されるままに祖元の横に座ります。目をカッと見開き、あごのあたりを触る祖元は、心臓が石のように固くなっていると指摘します。そしてこれから言うことも固い石になると躊躇する祖元に、時宗は遠慮なく言うように求めます。「時宗どのの中の石、いずれ砕けてお命を奪い去ることになりましょう」
この日、祝子が新しい命を宿ったことに気が付きました。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
池畑 慎之介 (北条実時)
牧瀬 里穂 (梨子)
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筒井 康隆 (無学祖元)
バーサンジャブ (クビライ・カアン)
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石橋 蓮司 (北条時広)
北大路 欣也 (謝 国明)
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制作統括:阿部 康彦
演出:吉村 芳之
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