プレイバック北条時宗・(45)わが祖国
弘安2(1279)年・夏。謝 国明の反対を押し切って海を渡った北条時輔は、ようやく大元の大都にたどり着きます。クビライに会って戦を止めたいという強い意志を持ってはるばるやって来た時輔は、ベネチアの商人・マルコポーロに案内されて宮殿の大明殿に入ります。初めて見る景色に、時輔は感慨深げです。
そのころ博多では、蒙古から新たな使節団が到着していました。霊泉(りょうせん)という日本からの留学僧を案内役に、クビライの許しを得て宋の将軍・范 文虎(はん・ぶんこ)が書状をしたためたのです。いくら宋でも無礼だと激怒する景資ですが、書状に目を通した謝 国明は、かつて日本とよしみを通じていた文虎が“早く蒙古に歩み寄れ” “宋の二の舞になるな”と助言していると解説します。「大国・宋は滅び申した」
鎌倉の謝 太郎の見世では、北条時宗は宋からの書状の件を太郎に聞かされます。博多には宋から来日して住み着いた謝 国明のような人も少なくなく、蒙古に滅ぼされた宋の者が蒙古の使いで来日したことにちょっとした騒ぎになっているのです。時宗は、宋からでも高麗からでも蒙古からでも、クビライが一方的に攻めたことを詫び、対等な国交を示さない限りは考えを変えるつもりはありません。
景資は、かつて使節団が博多で襲撃された一件もあり、早いうちに鎌倉へ送りたいと謝 国明に伝えますが、鎌倉へ行っても使節団は首を刎ねられるだけで、謝 国明は難色を示します。しかし景資は、鎌倉でのことは執権が決めることだと主張します。鎌倉へ送る船を用立てる約束をした謝 国明ですが、使節団と話をさせてほしいと条件を出します。
霊泉と対面した謝 国明は、使節団を鎌倉へ連れていき書状を差し出せば、待っているのは処刑だと伝えます。宋出身の謝 国明による、宋を見捨てるような発言に、時宗の過ちを正すために来日した霊泉は反発しますが、謝 国明は日本出身の霊泉も日本を率いる執権を批判していると反論します。今度蒙古が攻め込む時は宋の人間が駆り出されるわけで、霊泉も謝 国明も日本と宋の2つの祖国を失うと訴えます。
数日後、謝 国明の船は鎌倉を目指して博多を出港します。その船には見世の女・蓮華が乗船していて謝 国明は驚きますが、蓮華は今回の船出は謝 国明が命を捨てる覚悟の旅だと察知して、それを見届けるために無断で乗り込んだのです。「そなたも、祖国を無くした者であったな」 謝 国明は蓮華の思いを受け取ります。
博多からの早馬で使節団が船で鎌倉に向かったことを知った時宗は、前回同様使節団を斬るつもりですが、今回も殺害すれば蒙古はすぐに攻め込むと安達泰盛は危惧します。石垣も完成していないし、御家人たちの結束もまだまだなのです。時宗が会えば使節は殺さざるを得なくなるので、使節に会わず書状も受け取らないことを提案しますが、時宗は納得しません。
足利家時の館に御家人たちが集結し、泰盛を迎えます。現在の幕府は、北条得宗家以外の者を政から遠ざけているため、何をどう話し合っているのか全く見えないと不安なのです。御家人たちはかつて源 頼朝に直に忠誠を誓った者の子孫であり、その不安に合点がいった泰盛は、北条も幕府を支える一御家人であるとし、万が一執権が道を逸れるようなことがあれば正すと宣言します。御家人たちは大いに沸き立ちます。
ひとり考えにふける時宗に、祝子は兄泰盛がひとり別の方向を見ているような気がすると気持ちを慮りますが、時宗の心配はそうではありません。蒙古に対するために現在の仕組みを変えようとしている時宗の行動が、泰盛から見れば御家人たちを蔑ろにしているように写っているわけです。生まれてこのかた泰盛を信頼し続けた時宗ですが、それが揺らぎつつあります。
足利屋敷での宴が終わり、自邸に戻って酔いを醒ます泰盛ですが、屋敷には梨子も滝子もいません。これまで幕府に尽くしてきた自負がある泰盛は、その果てが御家人を蔑ろにする姿であると自嘲します。松下禅尼はたしなめますが、北条と安達が戦うことになったら松下禅尼はどちらに味方するのかと泰盛は現実を突きつけます。「北条と安達が戦う時は幕府が終わる時、私は命を絶つ!」
数日後、謝 国明が鎌倉に到着し、宋の使節(の代理)として時宗と対面します。謝 国明であれば時宗でも斬れまいと踏んだのです。謝 国明は宋の将軍からの書状であると念押しし、今なら宋を仲介して蒙古と手を組むことが出来ると言いますが、時宗は相手が誰であっても蒙古へ服属を求めるのであれば、交渉に応じるつもりはありません。謝 国明は、宋からの使節を守るため、自分を斬れと時宗に迫ります。
泰盛は改めて、来たる戦を先延ばしにするために使節を斬らずに追い返すことを提案します。しかし時宗は、使節を生かして帰せば次の使節が来るだけと主張を曲げません。貞時が成長するまでには太平の世にしてやりたいという親心があるわけですが、無学祖元に言われた寿命のことが頭から離れないのかもしれません。時がない時がないと時宗は焦るばかりです。
最明寺亭を訪れた謝 国明は、遠くから時宗を見守り ゆく道を照らす光となれと約束されていたのに、成長した時宗は人が変わってしまってそれも叶わぬようになってしまったと、北条時頼の位牌に向かって詫びていました。応対した涼泉尼は、時宗が執権を下りた時は日本が海に沈むと言い、時宗が鬼でも蛇でも母として見守っていくだけとつぶやきます。
時宗の決定は、宋の使節を博多で斬首するという非情なものでした。なぜ斬らねばならぬのかと謝 国明は食い下がりますが、前の戦を蒙古が詫びない以上は自説を曲げるわけにはいかないと頑なです。一方で日本で暮らす謝 国明は斬らないという時宗に、謝 国明は国は関係なく同じ人だと涙ながらに説き続けます。しかしその説得空しく、7月、霊泉を除く宋の使節団は博多で処刑されます。
謝 国明は無気力に、太郎に博多へ引き上げるように伝えます。祖国を無くした謝 国明は、博多を新たな祖国として守り抜かなければならないのです。しかし太郎は、宋出身の謝 国明と日本出身の美岬から生まれた2つの祖国を持つ身であり、祖国にこだわらずに生きるよう教えてくれたのは、誰あろう謝 国明だったのです。納得した謝 国明は、しばしの別れと葡萄酒を太郎に持ってこさせます。
時輔は、マルコポーロの計らいでクビライの次男・チンキムと対面します。クビライの正体を知りたがる時輔が日本を率いる北条の者と知って、チンキムはなぜ使節を斬ったのかと問い詰めます。国を率いる者は時に鬼にもなると答える時輔は、蒙古ではどうかと尋ねます。チンキムは分からないと言葉を濁しつつ、いずれ真実を話す時が来るかもしれないと含みを持たせます。
対面が終わり、大都の町に繰り出したマルコポーロは、パイザという通行証を示しながらこれがあれば安全に商いができると時輔と桐子に教えます。それがクビライが目指す姿なのです。大国も滅び、強大な指導者が現れれば行き着く先なのかもしれないと言うマルコポーロに、時宗は狭い国で狭い武士の世を懸命に守っていると、クビライの考えを教えてやりたいとつぶやきます。
そのころ佐志 房は同じ大都で暮らしながら、一瞬の機会を逃さないために日々鍛錬に明け暮れます。
謝 国明は石垣建造について、割り当てを守って少しずつ構築していくのはいかにも非効率と、みんなで力を合わせて一定の高さを作ることで、要塞が緩むことなく工事自体も早く進めることが出来ると先頭に立って指揮します。謝 国明としては、我が祖国博多を守り抜きたい一心だったのかもしれません。
時宗に寿命を宣告した無学祖元に、時宗は自分の中にある人の心さえも失いかけていると打ち明けると、煩い悩むことなかれと教えを授けます。細い糸の上を危なっかしく歩いているように考えている時宗の心をズバリ言い当てた祖元は、糸はそもそも存在しないので、揺れることもなければ何もないのに失うものもないと説くのです。「恐れずひるまず、己の道を進みなされ」
時宗の心が高みに達した瞬間でした。この日から命の最期の輝きを燃やし続けていくことになります。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
浅野 温子 (涼泉尼(涼子))
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
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川野 太郎 (少弐景資)
江原 真二郎 (高 師氏)
筒井 康隆 (無学祖元)
岸田 敏志 (霊泉)
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石橋 蓮司 (北条時広)
藤 竜也 (佐志 房)
富司 純子 (松下禅尼)
北大路 欣也 (謝 国明)
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制作統括:阿部 康彦
演出:吉村 芳之
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