プレイバック北条時宗・(39)ねらわれた姫君
予想に反して高麗出兵を宣言した北条時宗、クビライに日本の力を示せば状況も変わると賛同する北条実時に対し、安達泰盛や北条宗政は猛反発します。海を渡る戦など未経験で兵を無駄死にさせるだけですが、やってみなければ勝ち負けは分からないと時宗は意見を引きません。時宗は念押しします。「高麗に出兵する。時期は来春」 時宗の意見に賛同した平 頼綱を侍所所司に任じ、戦の準備の一切を任せることにします。
幕府が高麗出兵の検討を始めたらしいという情報は、博多にまで届いていました。少弐景資は九州からも出兵することになるだろうと考えますが、戦が終わったばかりで出兵の余裕なく、菊池武房は「無理ばい」と即座に拒否します。そこにうわさを聞き付けた竹崎季長は参戦して恩賞を手にすると意気込みます。
高麗出兵を聞いた謝 国明は北条時輔と桐子に知らせます。ようやく博多も復興が始まり人が戻ってきたのに、と衝撃を受けるふたりですが、謝 国明も信じたくない気持ちでいっぱいです。時輔は高麗出兵を時宗が承知しているのか尋ねます。「今度の高麗出兵は……時宗どのが発案だそうじゃ」 あまりのことに、ふたりとも言葉を失います。
時宗は7代将軍惟康王に出兵決議に至った経緯を報告します。蒙古が拠点とする高麗を攻撃し分断させれば、蒙古が今後日本を攻めてこないと思われます。広く兵を募って力を合わせれば勝てない戦ではないと胸を張る時宗に、惟康王はあっさりと「おやりなさい」と認めます。時宗は高麗出兵の総大将を務めてもらいたいと、傍らに控える足利家時に伝えます。
桔梗は、家時を総大将にさせて足利を潰してしまおうという魂胆だと騒ぎますが、家時はその言動に腹を立てて出て行ってしまいます。桔梗は高 師氏に、足利泰氏の落とし種を早く探して家時とすげ替えろと催促しますが、流れを辿っても目ぼしいものはいなかったそうです。ひとりは建長2年生まれの米屋松太郎、ひとりは正嘉元年生まれの絹屋竹次郎、そしてもうひとりは建長5年生まれの桐子──。
3人の子のうちひとりが姫君で、桔梗はその姫君のもらわれ先に目を付けます。桐子の欄には“佐志 房の養女”と書かれています。博多にいる、あの桐子です。房が先日、鎌倉に赴いて時宗を諫めたらしいと知り、桐子も時宗を恨んでいるだろうとニヤリとします。姫では天下は取れないという師氏に、桔梗は言い放ちます。「つまらぬ男より、女子のほうがよっぽど使い道がある」
商いのために海を渡る準備を始めた時輔に、日本が高麗出兵をすれば船を受け入れないと桐子は忠告しますが、幕府が出兵する前に向こうに着いて商いを成功させれば動かせることもあると、時輔はマイペースです。桐子は時輔と出会った頃のことを思い返します。父の名すら知らなかった桐子にとって、父親に反抗する時輔と時宗は驚きでもあり憧れでもありました。だからこそ時宗を許せないのです。
幼い幸寿丸と明寿丸に小さな弓を持たせて矢の稽古を施す時宗ですが、弓は人を殺める道具だと祝子が取り上げてしまいました。祝子はさらに、時宗が高麗出兵を決めたことに異を唱えます。出兵する兵たちにも母がいて、妻がいる……。そう諭す祝子をじっと見上げる幸寿丸と明寿丸です。意見は許さないと耳を貸さない時宗に、祝子は信じられないという表情で出ていきます。
夜遅く、時宗のいないところで話したいと自邸に頼綱を呼び出した泰盛は、侍所所司に上り詰めた頼綱に横柄な態度を取られて掴みかかります。間に梨子が入ったことで冷静さを取り戻した泰盛は、蒙古軍と直接戦った頼綱だからこそ感じたことがあるはずと、本心ではどう考えているのかを尋ねます。「時宗どのに従うておるだけでは務まらぬぞ。我らが揉めておるようでは国は守れぬ」
家時は時宗の元に赴き、桔梗が泰氏の落とし種を探し回っていることを打ち明けます。その事情はよく分からないながら家時は少し気がかりに感じ、時宗の耳に入れておいた方がよいと感じたのです。さらに家時は高麗出兵の総大将を辞退したいと言ってきました。若輩者ゆえに異国で兵を率いる大役はとてもできないと言う家時に、時宗は国が一つとなるためにも是非にもお願いしたいと肩に手を乗せます。
蒙古に渡る用意が整い、時輔は一刻も早く出発したがりますが、商いに焦りは禁物だと謝 国明は引き止めます。よくよく考えてみれば時宗は無謀な戦を仕掛けるような人物ではないわけで、何か別の意味があると謝 国明は勘繰ります。そこに桐子を訪ねて客人が来たそうで、会ってみると師氏と桔梗でした。どうした? と庭に出てきた時輔は、ふたりの顔を見るなり表情がこわばります。
自分が足利の姫と聞いて一笑に付す桐子ですが、対面した師氏と桔梗は、桐子の母・ふきが泰氏のお手付きとなっていたことを明かします。桐子がどれだけ違うと否定してみせても桔梗は軽く受け流し、足利の姫となれば時宗を責めも諫めもできる立場になれると、息子たちを亡くして嘆く房のためにも鎌倉へ行こうと強く勧めるのです。父のためと聞き、桐子の心は揺れ動きます。
“お前には鱗を食らう龍の血が流れておる” 北条の家紋は三つ鱗、足利の家紋は2つ引両──。ふきの遺言を聞いた時輔は、それを言ったのは恐らく泰氏だと推測します。実父のことを知りたがっていましたが、今後も房の娘として生きたい桐子は出自を知ってしまった罪悪感でパニックになります。時輔は、今日のことは忘れればいいし、足利などには行ってはならないと言い置いて出ていきます。
時宗は実時と酒を酌み交わしていました。うまく行くだろうかと時宗は心配していますが、実時は「知恵を絞りに絞った名案じゃ」とニッコリほほ笑み、もしうまく行かなければ隠居すると言い出します。蒙古との戦が終わるまではいてもらわなければ困ると時宗が酒を勧めると、クイッと盃を傾けた実時はつぶやきます。「この策がうまく行ったら、わしなど要らぬようになりまする」
評定衆が集まり、高麗出兵に反対という意見になりました。出兵の策に賛成した頼綱までもが反対に転じたのは、あの場では時宗のために下知に従ったまでで、諫めるのが時宗のためであればそれに従うというわけです。問題は誰が時宗に言上するかですが、舅として自分が申し出ると泰盛が言い出します。ほかの評定衆には特に異論なく、その大役をお願いされます。
桔梗と師氏が宿としている博多の寺に、突然時輔が現れます。桐子は足利には行かないと伝える時輔は、恨みに生きる桔梗は醜いと言い放ち逆上させます。時輔につかみかかってこれまで得宗家に受けた恨みを羅列し、時輔の父・時頼に毒を盛ったのは自分だと明かすのです。愕然とする時輔の近くで、切りつける音がしました。桔梗の背後から師氏が刀を振り下ろしたのです。
評定衆を代表して泰盛が時宗に進言します。全員の総意かを確かめた上で、時宗は出兵せぬとあっさり翻します。蒙古と戦った者とない者の意見をひとつにするのは容易ではなく、実時と図ってバカげた案を出したわけです。戦はまだ続いていると知らしめ、自分たちの力でまとまろうとする動きに期待したのです。なるほどと納得する中で、泰盛ただ一人は憮然とした表情です。
蒙古から船がやって来ました。降伏を認めさせ交易を促す使節の船でした。桐子は考え抜いた末に、足利行きを決断します。時輔は桐子を見据えます。「今度こそ、時宗どのの目を覚まさせる」 桐子の眼がまっすぐ向いていました。
脚本:井上 由美子
高橋 克彦「時宗」より
音楽:栗山 和樹
語り(覚山尼):十朱 幸代
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[出演]
和泉 元彌 (北条時宗)
渡部 篤郎 (北条時輔)
柳葉 敏郎 (安達泰盛)
木村 佳乃 (桐子)
西田 ひかる (祝子)
池畑 慎之介 (北条実時)
牧瀬 里穂 (梨子)
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原田 美枝子 (桔梗)
渡辺 徹 (北条義政)
江原 真二郎 (高 師氏)
川野 太郎 (少弐景資)
うじき つよし (竹崎季長)
小西 博之 (菊池武房)
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石橋 蓮司 (北条時広)
北大路 欣也 (謝 国明)
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制作統括:阿部 康彦
演出:城谷 厚司
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