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2022年12月26日 (月)

放送80周年ドラマ・ハルとナツ Haru e Natsu ~届かなかった手紙~ (04)日本よ、運命の愛と哀(かな)しみ

5夜連続放送~放送80周年ドラマ・平成17年度文化庁芸術祭参加

昭和9年、ともにブラジルへの移民を夢見たハルとナツの姉妹は、神戸の港で生き別れに。ブラジルのハルは、コーヒー園を逃れ新天地へ。一時の成功もつかの間、戦争が始まり再び苦難の道を歩みます。一方、日本のナツは、命の恩人・牛飼いの徳治を亡くし、牛を家族にたくましく生きていました。そして今、出し続けていた届かなかった手紙に初めて触れ、互いの真実を知ったハルとナツは、70年ぶりに絆を取り戻そうとしています。

あたしに……会いに来てくれたのね──


原作・脚本:橋田 壽賀子

音楽:渡辺 俊幸

テーマ音楽演奏:NHK交響楽団
テーマ音楽指揮:岩城 宏之
テーマ音楽ソプラノ:増田 いずみ
演奏:コンセール・レニエ

 

[出演] 現代編

森 光子 (髙倉ハル)

今井 翼 (髙倉大和)

 

野際 陽子 (山辺ナツ)

 

時代考証:天野 隆子
    :田辺 安一
    :ブラジル日本移民史料館 (サンパウロ市)
    :サンパウロ州立博物館
美術考証:ユリカ・ヤマザキ
ポルトガル語翻訳監修:二宮 正人

北海道ことば指導:曽川 留三子
広島ことば指導:大原 穣子
ポルトガル語指導:長島 幸子
        :上田 郁香 マリア
チーズ指導:秋田 定夫
菓子指導:針谷 順子

撮影協力:北海道別海町
(ブラジル):「ハルとナツ」撮影支援委員会
     :東山農場
     :カーザブランカ
コーディネーター:塚本 恭子

 

[出演] 昭和編

米倉 涼子 (髙倉ハル)

村田 雄浩 (髙倉忠次)

姿 晴香 (髙倉シズ)

岡田 義徳 (中山隆太)

小橋 賢児 (金太)

大森 南朋 (ジョージ原田)

吉見 一豊 (髙倉洋三)
水町 レイコ (髙倉キヨ)

原 千晶 (律子)
遊井 亮子 (アイ子)

斎藤 歩 (中山昭三)
松本 実 (勉)

松橋 勝巳
永江 智明
マヤ・ハセガワ
パトリシア・ノムラ
ファビオ・ヨシハラ
ケン・ヨコイ
ソランジ・メンデス

ペドロ・ナシメント
ウリアス・ガルシア
カリー ニョス
蔵本 隆史
大門 マキ
滝口 侑子

エンゼルプロ
劇団ひまわり
劇団東俳
テアトルアカデミー

高嶋 政宏 (山下拓也)

石橋 凌 (海野)

由紀 さおり (中山トキ)

柄本 明 (中山耕太郎)

仲間 由紀恵 (髙倉ナツ)

 

制作統括:阿部 康彦
    :金澤 宏次

美術:深井 保夫
技術:高橋 太
音響効果:林 幸夫
編集:佐藤 秀城

照明:水野 富裕
音声:山本 哲伸
映像技術:市川 尚志
CG合成:工藤 薫裕季
美術進行:毛尾 喜泰

共同制作:NHKエンタープライズ
技術協力:NHKテクニカルサービス
美術協力:NHKアート

演出:田中 健二


平成17(2005)年4月・東京。今夜の飛行機でブラジルに帰る予約を入れた、その日のナツ(78)の訪問にハル(80)は驚きを隠せません。ブラジルで日本人はひどい目に遭って、父親がブラジルで警察に連れて行かれたという話も知らなかったとナツは弁明し、日本に帰ってきたという気持ちになってもらおうと箱根に誘います。「お父ちゃんが警察に連れて行かれたってこと、ナツどうして知ってるの」

ナツは照れながらカバンの中から封筒の束を手渡します。ハルがブラジルから出した手紙です。いとこのイネが伯母のカネから預かっていたという経緯を話し、ハルもブラジルで見つかった手紙の束を手渡します。もしもハルからの手紙を読まなかったら、このままハルと別れていて、恨みながら死ぬことになっていたと涙を浮かべます。「お姉ちゃんに捨てられたんじゃない、愛されてたんだってこと分かって」

ナツの提案に乗り、ハルとナツ、そして孫の大和は箱根の温泉旅館までやって来ました。今は日本とブラジルは近くていつでも行き来できると笑うナツですが、アメリカとの戦争中はこのような日がくるとは夢にも思わなかったハルです。それにしても日本語を使っただけで留置場に放り込まれるとは、ひどいことをされたとナツはつぶやきます。ハルはその時のことを思い出します。

 

昭和17(1942)年2月、ブラジル・サンパウロ州奥地。中山隆太の口添えで10日程度で帰してもらった髙倉忠次ですが、隆太には礼も言わず家の中に入っていきます。留置場は日本人同士が集まることが禁じられているのに、仲間と食事をしていたとか日本語を話していたとかで逮捕者が増え続け、ぎゅうぎゅう詰めの状態でした。忠次を思いやる隆太に、ハル(17)は頭を下げます。

留置場に入れられて少しは懲りたかと思えば、日本人がブラジル人にペコペコして! と忠次は余計にブラジルへの反発心が生まれてしまいます。他の日本人たちにも迷惑がかかるから、警察に捕まるようなことだけはしないようにとたしなめるシズですが、忠次は酒をあおってフンと軽蔑します。「今に見てれ。日本の勝利の日が来たら、あいつらただではおがねえからな!」

──それでもしばらくはおとなしく働いてたの。おとなしくしてさえいれば畑もちゃんとできて、家も新しく建てられた。けど、日本軍が方々で負けてるというウワサが飛び始めるようになって、またとんでもないことが起きて──

昭和19(1944)年4月・髙倉家の綿畑。収穫に精を出すシズは、日本人仲間の山田に気さくに声をかけますが、挨拶もそこそこに忠次に近づきヒソヒソ話をしています。こちらを気にする様子の山田に、いつもと様子がおかしいとシズは不安になります。たくさんの綿を持ち帰った後で山田と何を話していたか忠次に尋ねても「別に」とそっけない返事です。

ブラジル料理を教わり、ポルトガル語を習いに中山家へ行くというハル(19)に、中山家へ出入りすることは許さんと忠次は食ってかかります。アメリカとの戦争が激化した今、蚕を飼って繭をアメリカに出して儲ける中山家を非国民だとあげつらう忠次ですが、急に非国民呼ばわりして! とハルは反発します。「ブラジルで生きていくためには、そんなことにこだわってはいられないの」

中山家では日本の戦争の話になっていました。日本がなくなってしまう可能性も考えられますが、耕太郎は日本のためにやれることをやらねばと考えているようです。昭三の妻・アキは、神戸の港でのハルとナツの別れを強烈に記憶していて、ナツを残しているハルを気遣いますが、戦争が終わったら前のようにブラジルと日本を行き来できるようになると、隆太はハルを励まします。

帰り道、家路を隆太が送ってくれますが、一緒にナツを探してあげますよと言う隆太は「それがハルさんとの新婚旅行になるといいな」とハルに求婚します。戦争が終わったらお願いに上がるつもりでいるようです。きつねにつままれた表情のハルを、隆太は静かに抱きしめます。そこに遠くから、火事を知らせる叫び声が聞こえてきました。隆太とハルは急いで火事の方へ向かいます。

火事になっていたのは、中山家の蚕小屋でした。激しく燃える蚕小屋になすすべなくただ見つめる耕太郎は放火だと言い、犯人は分かっているとつぶやきます。胸騒ぎを覚えてハルは急いで帰宅しますが、直後に帰ってきた忠次は放火のことを聞いても驚きもしません。愛国心のある者なら誰がやってもおかしくないことだと当たり前のように言います。「中山も思い知ったべな」

 

箱根の温泉旅館で。ナツはハルが隆太と結ばれなかったのか尋ねます。そんなことで諦める隆太ではなく、戦争が終われば非国民でも売国奴でもなくなるから、その時まで待とうと言ってくれたそうです。戦争中はブラジルも大変だったのねとナツはハルを思いやりますが、大変だったのは日本でも同じだったと、ナツは過去を回想します。

 

──徳じいが遺してくれた牛がいたけど、戦争はじまったころ牛乳の統制団体ができて、絞った乳は私たちの自由にはならなくなってた。「牛乳も兵器だ」って言われて、ずいぶんはっぱかけられた。牛乳供出したってろくにお金はもらえないし、食料もないからみんなひもじい思いしてた。すきっ腹抱えて草刈りにも行って──

昭和17(1942)年1月・北海道。戦地へ赴く若者たちを、民衆が旭日旗を振って送り出します。その中にナツ(15)もいましたが、乳しぼりや運搬、草刈りと励み、時間が経っていきます。

ナツを手伝う金太と勉は、過酷な重労働に牛を売ったらどうだとナツに愚痴を言いますが、2人は牛の世話で必要だからと勤労動員を免除されていて、ナツにはあまり強く言えません。牛もいつ食用に供出させられるか分からない中で、徳じいから預かった牛を大事に育てていくしかないわけです。「少しぐらいはくすねて、乳だって飲めるっしょ」とナツはいたずらっ子っぽく笑います。

しかし命令された供出量には足りておらず、暑くなってきたし一生懸命育てていると弁解するナツですが、乳が出なくなったら食用に供出してもらうと言われ、思わず反発してしまいます。しかし室蘭に軍事工場があって札幌が空襲に遭い、乳しぼりもお国のためだと職員に言われて、ナツは口をとがらせます。

昭和20(1945)年8月15日。正午に天皇陛下による放送があると知り、いよいよアメリカ軍でも上陸してきて竹やり持って戦うのかとナツ(18)は言います。「私らもいよいよ死ぬ時が来たかなぁ。死んだら楽になれる。生きていたっていいことなんて少しもなかった」 ナツがブラジルに行きたがっていたことを金太が指摘すると、ブラジルに行った人は死んだのも同じと言いのけます。

帰り道、道沿いの家に人々が集まりラジオの声に耳を傾ける人たちにナツたちは気づきます。みな一様にうつむき、何かあったのかナツが男に尋ねると、天皇による玉音放送があり、戦争が終わったと教えてもらいます。ギョッとしたナツは、日本が勝ったんですか? と聞いてしまい、「バカ!」と叱られてしまいます。

戦争に負けたのはどうやら本当らしいと、金太はナツに逃げるように勧めますが、逃げたって同じとナツに動じる様子はありません。それよりも、これ以降は軍隊に乳を持っていかれなくて済むと考えれば、ナツは久々にチーズ作りが再開できることのほうがとても嬉しいのです。仮にアメリカ軍がやってきて乳を取られるとしても、こんな田舎までやってくるまでには時間がかかるわけです。

──終戦で、それまで何でもお上に統制されてたのが突然自由になって、毎日毎日夢中でチーズを作ってた。いつの間にかすることなんて忘れてた──

 

──ブラジルにも終戦の知らせは届いた。アメリカと同調して日本と敵対していたブラジルとも終戦で区切りがついて、また自由が戻ってきたの。でもそのころブラジルでは、日本が勝ったといううその情報も流れて、それを信じる“勝ち組”と言われる人たちがたくさんいたの。隆太さんのお父さんは敗戦を冷静に受け止めて、“勝ち組”の人たちを何とか説得しようとしていた──

8月、ブラジル・サンパウロ州奥地では、入植地日本人会の総会が開かれます。会長の中山耕太郎は、日本は激しい空襲で焦土と化したと伝え、祖国の同胞は平和を得て不死鳥のように新しい日本を蘇らせてくれるであろうと述べます。「外地にあって我々は、祖国再建のため尽力していこうではありませんか」と呼びかけます。

忠次は、日本は神の国、神風が吹く国だから負ける道理がないと主張します。日本の敗戦を信じられない気持ちも理解しつつ、天皇陛下自ら敗戦を認める詔勅もラジオで放送されていると耕太郎は説明しますが、これまで連戦連勝と伝え聞いていたのに、それがいきなり無条件降伏というのが納得できないのです。それに昭三も「日本は勝った!」と言い出して場は荒れに荒れ、収拾がつかなくなります。

──それでまたお父ちゃんたちが警察に捕まってしまったの──

忠次が釈放されて家に戻って来ました。酒の席でのケンカだと耕太郎の口添えにより短期間での釈放になり、今さら勝ち負けにこだわるとはどうかしていると、シズは忠次から酒を奪い取ります。ハル(20)もいい加減目を覚ましてほしいわけですが、帝国軍人として日本を守っている実を思えば、日本が負けるわけがないと自説を曲げません。実のためにも日本が勝ったと信じなきゃと、シズは黙って酒を注ぎます。

そこに隆太が尋ねてきました。ハルは父の釈放で世話になったと頭を下げます。隆太は、これからのこともあると忠次に挨拶に赴いたわけですが、忠次は中山家の人間とは付き合うつもりもないし、顔も見たくないと拒絶します。いろいろな思いがこみ上げてきながら隆太は黙って引き下がり、ハルは忠次を睨みつけて隆太を追いかけます。

謝罪するハルに、隆太は留置場から出てきたばかりで気が立っていると忠次を思いやります。あの件以降、中山家でもゴタゴタ続きで、昭三が“勝ち組”となり忠次にそそのかされたと耕太郎は立腹しているそうですが、時間が経てば父親と娘は違うと理解してくれるだろうと隆太は説明します。

忠次は心の広い父親ではなく、隆太のことも認めてもらえそうにないと、この結婚話も半ばあきらめているハルです。ただ、ブラジルにいれば日本の勝ち負けなんて関係ないと理解しつつ、ハルには、日本が勝ったと信じたい忠次の思いも分かるのです。「私……一生隆太さんのそばにいたかった……どんなバカな父親でも、私にとってはたった一人の父親なんです」

 

ハルにとっては父親は重かったのでしょう。親にもハルにも見捨てられて恨んだりもしたナツは、背負っているものも縛られているものもなく、思う存分生きられたのでかえって幸せだったのかもしれません。

 

──終戦から4ヶ月ぐらい経って、チーズを闇市で売り始めたの。けっこう高い値付けてたのに、持っていくとアッという間に売り切れて、徳じいの牛だけでは足りなくなって、よその牛乳買ってまでチーズを作るくらいになった。おもしろいように儲かった。でもそのうち、大きい会社がチーズをどんどん作るようになって、私たちの商売にも陰りが見えてきたの。そんな時だった──

12月、北海道札幌の闇市の中に、ナツの姿がありました。自家製のチーズを販売しているのです。勉も金太も呼び込みしたりとナツを手伝っています。大人の男性がチーズを懐かしんで買い、別の女性も買っています。米兵の姿を見つけたナツは、積極的に売り込みをしています。雪道の中、重い牛乳を運び、夜はチーズ作りに精を出します。

「チーズください」と声をかけてきたのは、米軍中尉で日系アメリカ人のジョージ原田でした。ナツが作ったチーズはアメリカのもののようにおいしいと言われ、褒めてもらったナツは1つサービスすると袋の中に追加します。ジョージはそのお返しに、クッキーをナツに渡します。初めて見るクッキーに興味津々のナツは、ジョージに作り方を教わることにします。

家に戻ったナツは金太と勉と3人で、儲けた金でこしらえた鍋をつつきます。金太はナツがクッキー屋になるつもりかと冗談を言いますが、チーズ作りも頭打ちなのでナツはけっこう本気です。闇市では進駐軍の菓子が飛ぶように売れ、牛乳からバターも作れるのでいいことづくめです。闇市で高値で売買される砂糖も、進駐軍の中尉がついていればなんとかなると笑います。「渡りに船とはこのことだよ!」

金太と勉が小屋の中に釜を作り、材料をナツが調達してきます。“バターも砂糖も卵も分量は決まっておらず、どういう味のものがいいかは自分で考える。それが作った人の味になる”というジョージの説明が、ナツをいっそうその気にさせます。あまり乗り気でなかった金太と勉も、けっこう楽しんでクッキーを作っています。

出来上がって釜から出したばかりのクッキーを、4人で試食します。サクッという音。こんなうまいもん食ったことないと勉が言えば、うまく焼けてる! と金太も頷きます。やったぁ! と大喜びするナツの笑顔がはじけます。「これが君たちのクッキーなんだ。他の誰にも作れない、君たちのホームクッキーなんだ」

──ナツの会社、そこから始まったんだ……──

──あの小屋からだったんだ。今から思えば、私の人生で最高の時だったのかもしれない──

 

昭和22(1947)年8月・札幌、クッキー作りの工場が完成し、ナツ(20)、金太と勉、ジョージで祝杯を上げます。工場の機械関係はジョージが手配してくれました。この工場でならパンも作れると勉は夢を抱きますが、パンはまだ配給制のため、闇市での取り締まりは厳しいのです。しかしジョージは胸を張ります。「引っかかったら私が何とでもします。私たち、人助けです」

ナツはそっとジョージの横に行き、金太と勉に婚約したと報告します。ご時世は続いていく中、物がない今こそチャンスでもあり、頑張って働いてこの会社をもっと大きくしていこう! とナツは2人を叱咤しますが、先ほどまでの喜びはどこへやら、婚約というあまりのショックなニュースに、金太も勉も急に固まって無言になってしまいます。

夜、ナツは徳治の位牌に手を合わせます。金太は、たくさんの日本人を無差別に殺したアメリカ人との結婚は認めないと言い出します。戦争だから仕方ないと金太を説得しますが、ジョージを利用するだけしてやろうと思っていたのです。どうしても結婚するなら出ていくという金太に、ナツは困惑します。「私のお腹には、ジョージの赤ちゃんがいるんだもの」 見損なったよ、と金太は黙って出ていきます。

翌朝、工場始動の日です。勉も金太を追って出て行き、ガランとした工場でナツは涙を流します。休暇を取って来たジョージは、金太と勉がいないことに気が付きます。ナツは2人が辞めたことを打ち明け、それでもジョージにお菓子の作り方を教わろうとします。一人でもこの工場をやっていくし、日本一のお菓子屋になってみせると決意します。

──日本にも金太さんみたいに誇り高い男の人いたのねぇ。うちのお父ちゃんと同じだ。お父ちゃんはアメリカを憎む前に日本が負けたことを絶対に認めなかった。おかげで村が2つに割れて、いろんな辛い思いした──

昭和21(1946)年8月、ブラジル・サンパウロ州奥地。中山家の結婚式に向かう“勝ち組”の人たちに、畑作業の忠次は不満たらたらですが、シズがそれをなだめます。その帰り道、中山家では結婚式が盛大に行われていました。新郎の隆太は新婦のブラジル人女性からキスされてとても幸せそうです。その祝福の音楽とたくさんの拍手を聞きながら、ハル(21)は見向きもせず歩いていきます。

家に戻って来ると、コーヒー園で生き別れた忠次の弟・洋三とキヨが10年ぶりに会いに来ていました。身なりはとてもお金持ちのような上品さで、コーヒー園のころのボロボロの格好だったのがうそのようです。「何しに来たんだ」と忠次はぶっきらぼうに言いますが、そんな態度の兄も笑って返せるほど、洋三夫妻は余裕さがにじみ出ています。

勝ち組だ負け組だとこだわる忠次に洋三はあきれます。ファゼンダに連れ戻された後、忠次たちの分まで借金を背負わされた洋三夫婦は農園は無理だと訴え、キヨはパトロン(農園主)に下働きに、洋三は支配人に取り入って監督補助の仕事を手伝うことになり、今ではファゼンダの支配人にまで上り詰めたそうです。洋三は支配人をさっぱりと辞め、サンパウロに行ってカフェの販売業を起こすことを考えています。

忠次一家が綿を作っていると知ると、洋三は綿に将来性はないとハッキリ言います。綿が一番身体にいいんだと反発する忠次に、このままだとハルも家を出ていけないとキヨは同情します。帝国軍人となった実が帰ってくればとシズはつぶやきますが、あの戦争だから実もナツもどうなっているか……と洋三は顔を曇らせます。それでも忠次は「日本は勝ったんだ」と言い張ります。

箱根の温泉旅館で会食料理に舌鼓を打ちながら、ナツは生き方がどことなく似ている洋三の血を引いているのかもしれないとハルは笑います。えぇ!? と驚くナツはただ貧乏に懲りていただけで、戦後の混乱の中でチャンスを掴んで抜け出したかったのです。「日本に残されたあたしの方が、恵まれてたのかもしれない」

 

──でも男の子は懲りたので、女の子募集したの。東京の女子大の家政科でお菓子作り勉強した子が2人来た。その人たちのほうがクッキー作りにも熱心だし、技術もあるし、いい仲間になってくれた。毎日が充実してて、忙しくて。けどね、世の中そううまくいくもんじゃないわ。それまでもいろいろ辛い目に遭ってきたけど、あの時がいちばん厳しかった──

昭和22(1947)年11月、ナツは雇った律子とアイ子でクッキー作りを進めます。やはりお菓子作りを勉強してきたこともあって手際がよく、形の整ったクッキーがたくさん焼きあがります。律子が大学時代に作ってみたかった、砕いたアーモンドを使ったクッキーは、ナツにも「大人の味だ!」と言わしめるほど素晴らしい味に仕上がります。そこにジョージが工場を覗きに来ました。

アメリカに帰国することになった……。ジョージはナツを連れてアメリカで生活するつもりです。日本には戻らないし、戻れないというジョージの意向を知ったナツは、自分がアメリカに行けるはずがないと言い合いになります。ナツは家族がブラジルにいる事情を訴えます。「お姉ちゃんたちに私はこうやって一人で生きてきましたって胸を張って言いたい。だから日本で待っていたいの」

──ジョージは、私と子どもを必ず迎えに来るといってアメリカに帰ったの。けど、二度と日本へは戻ってこなかった。手紙を出しても返事もくれなかった──

深い雪の中を、大きなお腹を抱えて重い材料を背負い、とぼとぼと歩くナツ。その足跡だけが寂しく残っています。

──子どもは……どうしたの──

──戻ってきてくれるって信じてたから産んだわ。男の子。認知もしてもらえない、父親の顔も知らない子にしてしまった──

ナツは生まれた長男に「昭彦」と名付け、子育てしながらクッキー作りを続けます。律子やアイ子も赤ちゃんをあやし、可愛がってくれます。

──何も知らんかったけど大変だったな、ナツも──

──罰が当たったのよ。金太や勉を裏切ってアメリカの男なんか信じたから。けど私にはクッキーの工場があった。だから、またどん底から這い上がれた──

 

箱根にも雪がちらつき始めます。こんな旅館でナツといろいろな話ができる時が来るとは、ハルは信じられない気持ちでいっぱいです。両親や兄にも会いたかったとナツはつぶやきますが、お互いに手紙が無事に届いていたらと悔やまれるところです。「でもせめて、お父ちゃんお母ちゃんが生きている間にお姉ちゃんが日本に帰ってきて、私のことを探してくれてたら」

「……ごめん」 ハルは涙声になりながら、ナツに謝ります。早く帰りたいという気持ちはありながら日本に帰る余裕がなく、親子3人ひたすら働いていました。だから必死に働いて両親を置いて嫁に出られるはずもなく、せめて実が帰ってきてくれたらと希望を持ってブラジルで残っていたのです。

 

昭和27(1952)年5月、家の前に干していたシーツを取り込んでいるハル(27)に、日本人が声をかけてきました。海野という男で、実を少年航空兵に誘った海軍中佐です。海野のことは、忠次も実からの手紙でよく知っており、忠次もシズもどことなく表情は明るいです。「今日は、実くんをお連れしました」と、海野は実の遺品である軍帽とハーモニカをテーブルに静かに置きます。

実は特攻隊としてレイテ島沖に出撃し、敵艦に突っ込んで名誉の戦死を遂げた……。戦死の報はすぐに海野のところに届き、すぐにもお知らせせねばと思ってはいたのですが、戦後の混乱で行けずじまいだったのです。国交が回復してようやく海外渡航も許され、この時期になってしまったことを、海野は土下座して謝罪します。

シズは軍帽を胸に抱いて声を上げて号泣しますが、忠次は悲しみをかみ殺してたしなめます。「泣くな! 実は日本帝国のために天皇陛下の赤子(せきし)としての責任を全うして、名誉の戦死を遂げたのだ」 忠次は軍帽をテーブルに置き直し、軍歌『海ゆかば』を歌って実を称えます。土下座し続けていた海野もサッと立ち上がり、敬礼をして忠次に合わせて歌います。ハルは泣き崩れます。

ハルは、日本の敗戦を信じない忠次のことを海野に話しますが、ハルとしてはそのまま信じさせてやりたいと考えています。ブラジルに来て18年経った今でも、帰国できるだけの余裕がないとハルは寂しそうに笑います。「私たちがここに来た時、日本に捨てられたんです」 兄が帰って来たら帰国できるかもという望みに懸けていましたが、今やその望みもなくなり、出ていけないと半ばあきらめています。

海野が帰った夜、忠次は軍帽を前に酒を呑みます。やっぱり日本は勝ったんでねえか、と忠次は胸を張っています。もし負けていたとしたら、軍人はみんな自害していたはずで、わざわざブラジルまで遺品を届けてきてくださったということは、そういうことなのだと信じていたのです。しかしその力説も、シズやハルの前では空しく響くだけでした。

──お父ちゃんとお母ちゃんが生きてるうちは、2人のために生きようと思ってた。でもね、そんな時思いがけない人が突然訪ねてきてくれたの。同じ移民船で同じコーヒー園にコロノとして入って、一番仲の良かった男の子なの。私には忘れられない人だったけど、二度と会うことはないと思ってた。死んだ実兄ちゃんが会わせてくれたの──

綿畑の向こうで、飛び跳ねてハルの名を呼ぶ若い男。遠くからでもそれが山下拓也(31)であるとハルは気づきます。2人駆け寄って久しぶりの再会です。拓也は実が戦死したことを海野から聞き、どうしてもお参りさせてもらいたいと訪問したのです。

──その時私にも、やっと小さな春が来てくれたような気がしてた──

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