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2022年12月 9日 (金)

放送80周年ドラマ・ハルとナツ Haru e Natsu ~届かなかった手紙~ [新] (01)姉妹

5夜連続放送~放送80周年ドラマ・平成17年度文化庁芸術祭参加


希望の大地へ──。かつて、海を渡った多くの日本人移民たちがいた


明治末期から昭和10年代にかけ、南米ブラジルへと19万人もの日本人が移民として海を渡りました(日本からのブラジル移民 戦前…19万人、戦後5万人)。その多くはコーヒー園でかせぎ、故郷に錦を飾れると信じていました。しかし夢破れ、戦争で日本との連絡も絶たれ、望郷の思いが募るまま異国の地に取り残されてしまいます。


日本から捨てられたんです──。
家族とともにブラジルに渡った姉・ハルは、過酷な労働の日日に追われ各地を流転。祖国に帰る日を夢見ながら、ブラジルの大地で70年生きていきます。


日本で待っていたいの──。
一方、ひとり日本に取り残された妹・ナツは、家族を待ちわびながら戦中戦後の激動の中をたくましく這い上がっていきます。


これは、ある姉妹の海を越え時代を超え国を超えた愛情の物語です。



原作・脚本:橋田 壽賀子

音楽:渡辺 俊幸

テーマ音楽演奏:NHK交響楽団
テーマ音楽指揮:岩城 宏之
テーマ音楽ソプラノ:増田 いずみ
演奏:コンセール・レニエ

 

[出演] 現代編

森 光子 (髙倉ハル)

今井 翼 (髙倉大和)

西田 健 (山辺照彦)

矢島 健一 (大田秘書)
尾崎 英二郎 (髙倉邦男)
曽川 留三子 (家政婦・幸子(声))

池田 昌子 (浅野秘書)
福地 香代 (会社受付)
竹山 メリー (会社受付)

野村 昭子 (中原イネ)

泉 ピン子 (中原ミサ)

野際 陽子 (山辺ナツ)

 

時代考証:天野 隆子
    :田辺 安一
    :ブラジル日本移民史料館 (サンパウロ市)
    :サンパウロ州立博物館
美術考証:ユリカ・ヤマザキ

ポルトガル語翻訳監修:二宮 正人
北海道ことば指導:曽川 留三子
広島・大阪ことば指導:大原 穣子
ポルトガル語指導:長島 幸子
        :上田 郁香 マリア

撮影協力:北海道新得町
    :   小樽市
    :兵庫県神戸市
(ブラジル):「ハルとナツ」撮影支援委員会
     :東山農場
     :カーザブランカ
コーディネーター:塚本 恭子

 

[出演] 昭和編

米倉 涼子 (髙倉ハル)

村田 雄浩 (髙倉忠次)

姿 晴香 (髙倉シズ)

斉藤 奈々 (髙倉ハル(少女))
志田 未来 (髙倉ナツ(少女))

田山 涼成 (髙倉与作)
根岸 季衣 (髙倉カネ)

吉見 一豊 (髙倉洋三)
水町 レイコ (髙倉キヨ)

徳井 優 (栗田彦次)
斎藤 歩 (中山昭三)
金内 喜久夫 (医師)

小林 宏至 (髙倉 茂)
椿 直 (髙倉 実)
桑原 匠吾 (山下拓也)

タモト 清嵐
石川 眞吾
池澤 ひとみ
𡈽橋 恵
ユキコ・コレヤス
熊本 小次郎

ペドロ・ナシメント
ウリアス・ガルシア
オリデス・ビセンチ
カッシア・ルミ・アベ
パトリシア・ノムラ
蔵本 隆史

サッポロシンフォニックバンド
エンゼルプロ
劇団ひまわり
テアトルアカデミー
セントラル子供タレント
麗タレントプロモーション
劇団エッグ

斎藤 洋介 (山下平造)

渡辺 美佐子 (髙倉ノブ)

仲間 由紀恵 (髙倉(山辺)ナツ)

 

制作統括:阿部 康彦
    :金澤 宏次

美術:深井 保夫
技術:高橋 太
音響効果:林 幸夫
編集:佐藤 秀城
CG制作:中村 真治

撮影:清水 博巳
照明:水野 富裕
音声:松本 恒雄
  :深田 晃
映像技術:石丸 亮
美術進行:大野 輝雄

共同制作:NHKエンタープライズ
技術協力:NHKテクニカルサービス
美術協力:NHKアート

演出:佐藤 峰世



平成17(2005)年3月・東京──。閑静な住宅街の中を、1枚の紙に記された 交番で教えてもらった住所を頼りにゆっくり進む髙倉ハル(80)と、その孫の髙倉大和。ようやくたどり着いた家は想像をはるかに超える大きさで、大和は「大きな家だなぁ!」と感嘆の声を上げます。70年ぶりに尋ねる妹ですが、こんな家で暮らしていることで、ハルがナツに対して背負ってきた辛い思いも忘れられそうです。


インターホンを押しますが、家政婦からナツは北王製菓本社にいると教えられ、ブチッと乱暴に切られてしまいます。こんな大きな家に住んでいたら、簡単には会わせてもらえないと納得する大和ですが、ともかく会社に行けば会わせてもらった方が早いと切り替えは早いです。しかしハルの2歳下のナツは78歳のはずで、そんなおばあちゃんが会社に何の用だと不思議に思うハルです。


北王製菓は、戦後にボラッシャー(クッキー)を作り始めて大手の菓子メーカーになった会社です。受付スタッフに尋ねると「社長をお訪ねでしょうか」と聞かれ、ハルはビックリします。妹がいる……。ともかく自分が来たことを伝えてもらおうと依頼しますが、スタッフは顔を見合わせて困惑しています。クスクス笑うスタッフの様子を見て、大和は表情が曇ります。


待っていると、社長室の大田秘書がハルたちの元へ駆けつけます。しかしナツが“髙倉ハル”という人は知らないと言っているとかで、大田は丁寧にお引き取りを求めます。そんなはずはない、ともかく会えばすべて分かるとハルは説明を尽くすのですが、ビジネスマンたちが行きかうところで動かないハルたちに、警察沙汰にはしたくないと強く注意を与えます。


大和は手にしていた会社パンフレットを受付に叩きつけ、ハルの腕を掴んでその場を離れます。戸籍を辿ってここまで来ましたが、どこかで間違えていたのかもしれません。諦めようと勧める大和に、諦めるわけにはいかないとハルは涙声です。「どんなことがあっても、死ぬまでに妹に話しておかなければならないことがあるの!」


 


社長室に戻った大田は、山辺ナツ(78)にハルには帰ってもらったと報告します。そんな人は知らないとナツが言ったからか、ハルが思い違いをしていると笑う大田は、この後の予定がないため家に帰ろうと社長室を後にするナツに、銀行との打ち合わせでの愚痴をこぼしていますが、ナツはそれには反応せずスタスタと歩を進めます。そして二人が地下駐車場で送迎の車を待っています。


その姿に確信を得たハルが柱の陰から出て来ました。再会の感激でナツを抱きしめ喜びますが、慌てて止めに入る大田にナツは目配せします。3年経ったら日本に帰って来ると言っていたのに置き去りにされ、一通の手紙もくれずに70年間放っておかれた……。その辛かった思い出をぶつけるナツに、ハルは手紙を出したと必死に弁解します。


70年も経って思い出したように帰国した姉を不審に思ったナツは、自分を頼ってもそうはいかないと突き放します。ブラジルから手紙が届かないのに、ナツは必死で手紙を出し続けていたのです。驚くハルは、お互いに出した手紙をお互いが受け取っていなかったという事実に衝撃を受けます。「私には親も兄弟もいない。もう会うこともないでしょうけど、お達者で」


ハルと大和は失意のまま宿泊しているホテルに戻ります。ナツに「出稼ぎ」「頼る」などとぞんざいな扱いを受けたことに大和は立腹しますが、自分が悪いとハルは自分を責めます。そもそも70年前、ハルとナツの間に何があったのか? 大和が訪ねると、ハルは「想像もつかないだろうし、愚痴にしか聞こえないだろうから黙っていたんだけど」と断りつつ、ポツリポツリと語り始めます。


 


70年前、ハルとナツら一家15名は北海道に住んでいました。何年も凶作が続き飢え死にしそうな危機の中、ブラジル移民の話が出てきたのです。兄・茂(15)と実(12)、ハル(9)とナツ(7)の4人兄妹、そして父・忠次と母・シズ、叔父・洋三と叔母・キヨの8人でのブラジル行きでした。昭和9(1934)年冬の話です。


忠次一家と洋三夫妻が出ていくことで長兄の与作は責任を感じていますが、好景気のブラジルで3年も働けば、家を建てられるほどの稼ぎになると忠次は与作をかばいます。ハルも平気だと笑いますが、与作の子のどもたちとケンカしなくて済むという思惑もあります。母のノブは自分の無力さに涙を流しますが、船賃から宿賃、支度金まで国から支給があるので心配いらないと忠次は母を気遣います。


ブラジルに行ったらうさぎが食べられてしまうと、ハルはナツと飼っていたうさぎを返しに行こうとしますが、与作の子・久作がもらっといちゃると立ちふさがります。拒絶するハルはうさぎを放り投げてウサギを逃がしますが、与作に掴みかかられ何度も突き飛ばされます。ハルはナツをかばい、久作を睨みつけます。「どんな時だってナツと私は一緒だ。姉ちゃんがナツを守る」


ハルとナツは地神にこけしを並べ、兄たちと一緒に手を合わせます。ハルにとってこの時はブラジルが天国のように思えて、食べるものもろくにない北海道から、親子水入らずで腹いっぱい食べて楽しい毎日が送れるようになると信じていました。だから北海道を離れるのも悲しくも寂しくもなかったのです。4月、まだ雪深い線路を力強く走る蒸気機関車に引かれ、まるで遠足のようにはしゃぐハルです。


ブラジル行きの船が出る神戸に着き、一週間だけ宿泊する「移住教養所」に入った一家は身体検査を受けます。ハルは栄養失調との診断を受け、忠次はブラジルへ行けないのかとしょんぼりしますが、医師は40日程度の船旅で食べるものをしっかり食べればよくなると笑います。しかし、次に診察されたナツは「こらあかんわ。ひどいトラホームや」と医師に言われ、別室へ連れて行かれます。


宿泊部屋で待機していると、世話係に話をしに行った忠次が戻って来ました。トラホーム(角結膜炎)罹患者はブラジル入国ができない決まりで、短期間で治せる病気ではないため、ナツを日本に置いて行くしかないと忠次は苦渋の決断をします。ナツだけを北海道に帰せば与作の妻・カネのいびりが待っていると、ハルは涙ながらに訴えますが、忠次に言わせれば無一文の一家が暮らせる場所は日本にはないのです。


ナツがかわいそう! と食い下がりますが、ハルも北海道に残ればナツも心強いと言われて、ハルは黙り込んでしまいます。泣きじゃくるナツに、忠次は一家が日本に残ればみんな飢え死にしてしまう、3年経てば帰ってきて迎えにいくからそれまで我慢してくれと説得します。コクリと頷くナツを、シズは抱きしめて涙を流します。


教養所の前で写真撮影を済ませ、一週間があわただしく過ぎ去ります。北海道のノブには事情をすでに連絡してあり、神戸まで迎えに行くとの電報も受け取っています。シズはナツの荷物をまとめ、首にお守りをかけます。黙っていたハルは、ナツひとり日本に置いてけない! と残ろうとしますが、ナツは待ってると姉を送り出します。忠次はブラジルの住所を記した紙と撮影した家族写真をナツに渡します。


さんとす丸に乗り込む移民たち、ふ頭で見送る人たち。ショックを隠せないハルは、思い立って船の甲板に出てナツを見つけます。「私も行く! 一緒に行く!」 降りようとするハルと乗ろうとするナツ、係の人に掴まれて二人とも身動きが取れませんが、振り払ってタラップの中央で抱きしめます。忠次に見つかって引き離され、船は離岸します。「姉ちゃん! 姉ちゃん!」 ナツの叫び声が悲鳴に変わっていきます。


 


辛い別れだった……生身の身体が二つに引き裂かれるような──。ハルの話に、大和は涙をこらえます。船が岸壁を離れても、波止場にひとり立ち尽くすナツ、無人となった教養所でノブが迎えに来るまでひとりのナツを思えば、ナツが自分たちを恨むのも無理はないとハルは慮ります。あの日別れたっきり、今日まで70年間会えなかったのです。


でも、とハルは言葉を続けます。ブラジルでの暮らしは決して甘くはなく、想像を絶するほどでした。その暮らしぶりを手紙にしたためて何通も送ったのですが、ナツの手元には届いていません。ハルは、ナツが社長になっていると知れただけで満足とブラジルに帰ると言い出しますが、妹と一緒に老後を送りたいという気持ちで帰国したのです。大和にそう言われて、ハルは寂しそうにフッと笑います。


北王製菓のナツの元には、長男・山辺照彦が来ていました。ハルと大和が来たことを大田から聞いたわけですが、一代で北王製菓を築き上げた女社長とマスコミに持てはやされるから、わけのわからない人間が親戚と名乗って近寄るんだと苦言を呈しますが、照彦も弟の公彦も北王製菓の役員を退任させて口出しする言われはないとナツは突き放します。


送迎の車の中で、ナツはどこかへ電話しています。その手元には中原イネからの封書が握られていました。車はナツの自宅へは戻らず、川崎市のイネの家へ向かいます。呼び鈴を鳴らすと娘のミサが出て来ました。ミサはナツを一目見て北王製菓の女社長と気が付き、母が噂していた人だとすぐに分かります。イネは与作とカネの娘で、ナツとはいとこ同士なのです。


昔ばなしもそこそこに、ナツはブラジルに渡ったハルから手紙が届かなかったか尋ねます。イネは仏壇に大切に保管していた箱から茶封筒を取り出しナツに手渡します。カネの死に際にナツに渡してほしいとイネが預かっていたものです。中に同封されていた金に目がくらんでくすねているうち、手紙をナツに渡せなくなったそうです。その事実にナツは衝撃を受けます。


帰宅したナツは束ねていたひもを外し、封筒から便箋を取り出して目を通します。


──ナツ、やっとブラジルに着きました。47日ぐらい毎日海ばかりで、本当に遠くに来てしまいました。船では大部屋の三等船室に入れられました。千葉県の山下さん4人家族と、広島県の中山さんという夫婦と隣同士になりました。山下さんとこは、お父さんとお母さん、それとうちのお兄ちゃんたちと同じくらいの男の子が二人です。中山さんとこは、もう前にブラジルに行っているおじさんを手伝いに行くのだそうです。船では運動会も開かれました──


 


中山昭三は、ブラジルで農園を持ち人を雇っている伯父から経理面を任せたいと呼び寄せられて出向いています。称賛する山下平造は、まずはブラジルで一旗揚げるために労働者として資金をため、できれば農園より大きな事業をしたいと夢を語ります。ブラジルで骨を埋める覚悟の平造に驚く忠次ですが、日本には何の未練もないと平造はあっけらかんとしています。


運動会の間も家族写真を見つめいるハルに、平造の次男・山下拓也が声をかけます。くよくよしても仕方がないと励ます拓哉に、茂はブラジルに行ったら楽しくというわけにはいかないだろうと現実派です。ブラジルにいろんな夢を持っている拓也に触発されて、ハルも精一杯楽しく暮らしたいと少し元気になります。


──それからインド洋を過ぎ、アフリカの南を回って、やっとブラジルのサントスという港に着きました。陸地に上がってもまだ船に乗っているみたいで、いつまでも体がゆらゆらしていました。中山さん夫婦とはサントスで別れました。私たちはそこから汽車に乗って、サンパウロの移民収容所というところに着きました──


船は、神戸から香港、シンガポール、コロンボ、ダーバン、ケープタウンを経由して、リオデジャネイロ、そしてやっとサントスの港に到着します。5月末のことです。


点呼を受けた7名は、MOGIANA(モジアナ)線のPARAISO(パライソ)駅、SANTANNA(サンタナ)農園へ行けと告げられます。確認のため忠次は神戸の移住教養所で係に教えらもらった住所を示しますが、そことは違うようです。ハルは住所が変わったことをナツに知らせてあげようと一通目の手紙をしたため、ブラジルでは使えない日本のお金を同封します。


 


──あわててこの手紙を書いています。手紙の中にお金を入れます。母ちゃんはここでは日本のお金は使えないから、ナツに送ってあげると言いました。父ちゃんも母ちゃんも疲れて手紙を書く気力がないと言うけど、私は何回も手紙を書くつもりです。このお金はナツが使っていいんだよ。一人でさびしいだろうけど、3年辛抱して待っていてね。あと、手紙書くからね──


読み終えた手紙を丁寧に封筒に仕舞い、次の封筒に手を伸ばすナツです。


──あれからあっという間に2ヶ月がたちました。毎日暑くて暑くて、あんなにいやだった雪がなつかしいです。サンパウロの移民収容所を出て、また汽車に乗せられました。船で一緒だった大勢の人たちも、別々のところに行ってしまいました──


 


改札のためブラジル人車掌にチケットを求められて、言葉が分からない忠次はうろたえながら切符を預けます。汽車は農園の中をコトコトと進み、ハルたちが降り立ち駅標を見上げると「PARAISO」(楽園)駅とあります。


──うちと一緒の駅で降りたのはうちの他に3家族で、山下さんとこも一緒でした。私たちはサンパウロから付き添ってきた移民会社の日本の人からブラジル人に引き渡されました。駅から牛が引く車に乗せられ、鉄砲を持って農園から迎えに来たブラジル人に囲まれ、丘や森の中の荒れた道を、休まないで歩かされました。とても心細くなりましたが、やっと農園に着きました。コーヒーの木がずっと向こうまで生えています。これから刈り入れする赤い実がいっぱい生(な)っています──


一家はサンタナ農園に到着しました。ハルと拓也は荷台から飛び降り、初めて見るコーヒーの木に興味津々です。一家は集められますが、支配人と称するブラジル人の男は片言の日本語しか話せません。戸惑う忠次と平造ですが、人のよさそうな日本人が駆けつけます。ブラジルに来て2年の栗田彦次(大阪出身)です。先に来た先輩としていろいろお世話してくれるそうです。


部屋が割り当てられますが、洋三がドアに手をかけると扉ごと崩壊してしまいます。室内もひどいほこりで床も抜け、住まいとはほど遠いありさまです。お腹がすいたとハルは顔をしかめますが、ちょうどその時、栗田は作っておいた握り飯を振る舞ってくれます。ちなみに忠次の家は6人8,000本の受け持ちです。受け持ちが多ければその分給金(1年に1度支給)が多くもらえるというシステムです。


収穫の合間には自足自給用に米や野菜を作れて、たくさん作れば余りを他の家へ売って儲けるコロノ(契約労働者)もいるそうです。塩や豆、油など日用品を買える売店は1軒あるものの金額が高いので、ベッドは転がっている木から作り、とうもろこしの乾いた葉でふとんを作っておのおの自作しているわけです。日本へ手紙を送れば2ヶ月はかかると知り、ハルはナツ宛てに書いておいた便箋を栗田に託します。


──うち中みんなでコーヒー、カフェの実の取入れをしています。ここに着いた次の日から父ちゃんと兄ちゃんたちが寝床を作ってくれて、寝ることが出来ました。ここでは朝5時に鐘が鳴って起きます。6時の鐘で支度をして出かけます。仕事が終わるのは夕方の6時か6時半です。お日さまがカンカンに照って、暑い中を休まないで働くので、終わるとみんな疲れ切ってうちに帰る元気もないくらいです──


農園の中を馬に乗って、監督が収穫量が少ないと怒鳴り込んできました。ここのカフェの実の出来が悪いからだと暴れ出した洋三に支配人は激昂し、黙ってピストルを向けます。一触即発の中、キヨが「すいません! すいません!」と土下座して許しを請います。そんな出来事にハルは震え上がります。


くたくたになって帰っても、夕飯は今日も豆の塩煮です。実はこんな飯じゃ力も出ないとこぼしますが、ひもじい思いをしていた北海道を思えば、豆であってもたくさん食べられると忠次は諭します。洋三も割り当てられた農園への不作の愚痴が出てきて、一生懸命励んでも収穫が半分だったらばかばかしくてやってられないし、日本人だからと差別されるのはあんまりだと悔し涙を流します。


──カフェの実の取り入れが終わり、草取りを始めています。次のカフェが実るまで少しは楽になるかと思っていましたが、個々の草は取っても取ってもすぐ生えてきて、すぐに伸びるのです。油断すると間に合わんくて、監督さんに叱られます。それでもみんな休まないで、ただ働いています──


4ヶ月後の9月。みんなで農園を耕し、平造は一輪車で土を運んでいきますが、バランスを崩して土をぶちまけてしまいます。怒鳴り散らす監督に頭を下げて、忠次は一輪車を起こそうとする平造を手伝います。


ハルは自分の野菜畑に運んできた水をやっています。収穫が終わって次の実が生るまで野菜を作っているのです。そこに拓也が近づき、働いて食べるのに精いっぱいだと弱音を吐きます。ブラジルでの暮らしを羨ましがる内容の日本の友だちからの手紙が来たのですが、ハルは手紙が来ていいなとつぶやきます。自分を奮い立たせるためにも、拓也のキャッチボールの相手をして励まします。


「父ちゃん……もうやだ」 突然実はそうつぶやいて農園を後にしますが、キヨに呼び止められて叱咤されます。忠次も洋三も実の気持ちは痛いほどわかるだけに、実を責めるでもなく作業に戻ります。


 


──私は元気です。でも今はナツを日本に置いてきてよかったかなって思います。ナツは元気ですか。伯母さんにいじめられても、へこたれないでがんばってください。ここの住所がナツに教えてきたのと違ったことは前に知らせましたが、ナツからの手紙が来ないのでみんなで心配しています。短くていいから手紙をください。お願いします。待っています──


ハルからの手紙を読み、ナツは複雑そうな表情を浮かべます。


ハルの話に衝撃を受ける大和は、ナツが出した手紙は、もしかしたら別の駅に届いているのでは? と推測します。住所が変わったと知らせたものの、その手紙をナツは受け取っていないので、日本を離れるときに教えた住所に届いているかもしれないのです。その最寄り駅で調べてもらおうと提案しますが、ハルは断ります。ハルが無理しているのを察知した大和は、短いため息をつきます。「やっぱりパパに電話する」


ナツは、思い出したようにたんすの引き出しから、大切にしまっておいた家族写真を取り出し見つめます。ハルも、家族写真を見ていました。「70年前に、7つの私を捨てたの!」「私も行く! 一緒に行く!」「姉ちゃん! 姉ちゃん!」
行け行け同胞海越えて、遠き南米ブラジルに、御国の光輝かす、今日の船出の勇ましさ、万歳万歳万々歳……。


翌朝。大和が大学生活を送る部屋もアルバイトも見つかり、ハルは肩の荷が下りた様子です。大和は柔道をもっと強くなって日本代表としてオリンピックに出てみせると決意を新たにします。そこに大和の携帯電話が鳴ります。父・邦男からで、ナツからの手紙が見つかったと知らせる電話でした。「ナツの手紙が!?」


邦男によると、駅はすでに閉鎖されていましたが、駅員が日系人の店に預けておいたそうで、差出人も「髙倉ナツ」とあります。今から日本に送るという邦男に、ハルは涙を流して喜びます。ナツの手紙を読んでその暮らしぶりが分かったら、もう一度会って話し合えるかもしれない。ハルの心の希望の火が、再び燃えあがった瞬間でした。

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