プレイバック徳川家康・(03)人質略奪
天文16(1547)年、この年竹千代6歳。竹千代は本多平八郎による剣の稽古を受けていて、途中からは木刀を放り投げ取っ組み合いです。酒井雅楽助は手荒に過ぎると心配していますが、討ち取られては遅いと厳しい特訓が続きます。竹千代はとても強くなり、於大にもその姿を見せたかったと平八郎は悔やみますが、片や松平広忠には死神が取り憑いていると非難して雅楽助にたしなめられます。
広忠は、安祥城奪還に向けて病を押して出陣するつもりですが、そのお身体では、と鳥居忠吉が見合わせを進言します。織田信秀が美濃の斎藤道三に手を焼いている今こそ、広忠にとっては奪還の唯一の好機なのです。それでもとなお引き止める忠吉を睨みつけ、広忠は脇息を投げ飛ばして出て行ってしまいます。
阿古居(あぐい)の久松弥九郎の屋敷では、広忠に離縁されて竹千代と生き別れとなった於大が再嫁していました。そんな於大に、見慣れぬ旅人が訪問しているようで、門番与助から紹介状を受け取ります。差出人は「熊村 竹之内波太郎」からで、波太郎の身内で心利く者をひとり、佐渡守(=弥九郎)の屋敷で召し抱えてもらえるよう口添えを、とありました。
入って来る男を見て、於大は声を上げそうになります。実兄・水野信近だったのです。信近は目配せし「竹之内久六」と偽名を名乗ります。久六は安祥城で行われる合戦が、城主織田信広(吉法師の異母兄)には信秀が、そして水野信元と久松弥九郎も加わるので、広忠には勝ち目がないと伝えます。そもそも久六の任官の目的は、岡崎への一番乗りを果たして竹千代を奪いたいというわけです。
帰宅した弥九郎は、合戦に向けて対武士と対農民にテキパキと指示し、於大の前では優しい旦那ですが、「広忠どのはたわけたお方じゃ」と言われて於大は思わず顔をこわばらせます。於大は弥九郎に波太郎のことをどう思っているか詮索し、織田の軍師だといい印象を持っていることが分かると、思い切って波太郎推薦の久六を対面させます。
久六を面接した弥九郎は、自分を見つめる久六の目を見て採用を決めます。於大の元に戻った弥九郎は、久六に心を許してはならないと諭します。広忠との戦を構えるにあたり、広忠と縁者だった於大を疑って、信秀が遣わせた忍びかもしれないと疑っているのです。於大大事の弥九郎は、今回の戦で必ず手柄を立てようと約束しますが、久六の正体を知っている於大は、複雑な表情を浮かべています。
竹千代のことを華陽院に託し、広忠は出陣します。物見に出ていた大久保新八郎は、安祥城の城兵600、城の周囲にも敵がいると注意喚起し、広忠は馬印を掲げさせ進軍します。途中で織田軍を見つけますが、野戦は松平の得意とするところと広忠はニンマリします。旗印を見てそれが弥九郎の軍勢であると分かると、「小癪な!」と突進していきます。その際、鉄砲に当たって岩松八弥が大けがを負います。
広忠と弥九郎のすさまじい戦いを、山の上から信秀と平手中務が眺めていました。信秀は広忠をたわけ者と笑い、取り囲んで討ち取れと眼前で戦う軍勢に下知します。広忠が気づいたときには、前方にも敵、後方も敵、弥九郎めがけて突進したことが仇となってしまいました。撤退を勧められながらも、父松平清康を倒した信秀に、広忠は突撃していきます。
突撃する広忠を、危ないと行く手を遮ったのは本多平八郎でした。平八郎は広忠を馬から引きずりおろし、それでも松平の当主かと叱責します。いきなり自分の兜を奪い取った平八郎に怒る広忠ですが、平八郎はそれを自ら付け、「詫びはあの世じゃ! さらば!」と引き返していきます。広忠が平八郎の真意に気づいたときにはすでにいず、織田軍に突撃していく彼の後ろ姿に悔し涙を浮かべます。
今川義元は広忠を残念がります。平八郎の身代わりの討ち死にがなかったら、広忠が倒れ岡崎城は織田に奪われた結末を迎えていたところでした。それよりも気になるのは、今回の戦で南蛮からの渡来品である種子島(鉄砲)が使用されたことです。爆発音が人を倒す……雪斎禅師は堺に人を遣わせて調べさせています。義元の目的は織田ではなく京にあり、それを成すために、雪斎は岡崎から人質を取ることを勧めます。
岡崎に帰って寝込んでいた広忠は、すっかり起き上がれるようになりました。顔も穏やかな表情で気分も良くなっています。ずっと側で看病していたお春は、休むように言っても「目を離せば御膳に手を付けない」からと断りますが、広忠は八弥を見舞うように勧めます。今回の戦で鉄砲により受傷し、命は助かったものの歩けないほどにけがの程度が重いのです。
於大に代わる正室として岡崎に来た田原御前に、お春について侍女が報告します。お春が八弥の許嫁(いいなずけ)であったのは城中知らぬ者はいないほどなのですが、あろうことかお春が広忠の目を盗んで八弥の元を頻繁に訪れ、しかもお春は身ごもっているというのです。そして前の御部屋さま(=於大)であれば裁いていたであろうと言われ、田原御前は「わらわの示しが緩いとな」とムッとします。
広忠の言いつけで見舞ったお春を、八弥は追い返そうとします。お春は、広忠が自分の受けた傷は八弥のものとは比べ物にならないと与えた貴重な塗り薬も預かってきていたのです。八弥は広忠の気持ちが嬉しく、優しくしてもらっているお春の話も聞かせてもらいますが、それだけに広忠への忠誠を怠らないように、すぐにも帰そうと強い言葉で追い出します。「帰れ! 帰れと申すに!」
お春が戻ると、情勢が一変していました。田原御前の手前、広忠の元から下がるように酒井雅楽助は命じたのです。部屋を返還し端女に戻っても傷がいえるその時までとお春は食い下がります。しかし雅楽助は、戦のことは重臣たちが止めるし、岡崎で何か起こったら今川方の戸田宣光の力も借りねばならない以上、その妹の田原御前の機嫌を損ねるようなことはできないのです。お春は悲しそうな表情を浮かべます。
安祥城について再び戦になりそうな気配です。広忠は今川に助勢を依頼しているらしく、織田でも焦りを隠せない広忠を利用しようと画策していて、どちらにしても広忠は誰か人質を出して義元に頼るしかなさそうです。弥九郎を見送った後、人質という言葉に於大はショックを受けます。「人質……まさか竹千代では」
広忠は竹千代を人質として今川へ送る意向を示します。家臣たちは大反対し、広忠の情けない采配に苦言を呈しますが、嫡子を人質に送ることこそ二心ない忠誠の証を見せられるのだと聞きいれません。死ぬまでに必ず安祥城を奪い返し、義元が広忠の力を見直した時こそ竹千代が戻る時だと、家臣たちを説得します。「武門の倣いじゃ。忍んでくれ」
竹千代を今川へ送ることが決まったと久六から聞き、於大は衝撃のあまり言葉を失っています。久六は、於大にも累が及ぶと岡崎から持ってきた松平ゆかりの品があれば、すぐにでも処分するように勧めます。弥九郎が内通の疑いを抱かれないようにするためにも、そして竹千代のためにも、松平への未練はあってはならないと言われ、於大は涙をぽろぽろこぼします。
死んだ気になって弥九郎に再嫁した於大でしたが、一つひとつが思い出の品であり、竹千代、広忠、そして華陽院への思い出は一日も消えたことがなく、これまで心の支えになっていた於大です。手放さなければならないその一つひとつを抱きしめ、指で感触を確かめる於大はいたたまれなくなり、突っ伏して嗚咽をもらします。
竹千代を駿府へ送る役目は、田原御前の兄・戸田宣光が担うことになりました。陸路では敵も多いと、西郡から海路を取って戸田の領地に入り、そこから家中の者が送り届ける手はずです。広忠は「道中よしなに」と宣光に頭を下げます。華陽院に土下座して顛末を詫びる雅楽助は、於大が知ったらと心配しますが、於大は今は織田方の武将の妻であるし、敵を気遣って味方の士気を損ねてはならないと諭します。
波太郎は宣光に竹千代を奪えとけしかけます。織田の差し金を疑う宣光ですが、神仕えをする波太郎は誰の指図も受けないと笑います。波太郎の予測では、竹千代を人質に義元は広忠に先鋒を務めさせ、広忠は必死に戦うわけですが、義元が上洛した時には岡崎はボロボロになる。そんな所領を竹千代に与えるとは考えにくく、陰険な義元は松平を取り潰す可能性が高いのです。そこで、と波太郎は身を乗り出します。
竹千代を織田へ送り広忠の目を覚まさせるのも、義理の兄としての役割と迫ります。宣光は、裏切れば逆上した広忠が田原御前を斬るだろうし、怒った今川はただでは済ますまいと厳しい表情です。波太郎は、これがそうならないための談合であり、今川と織田のどちらが勝つか見極められないうちは、勢力の均衡を図るしか道はないのです。戸田、松平、水野が同盟を結べば、織田も今川もうかつに手を出せません。
出立の日、華陽院は竹千代の身支度を整えます。どこにいても岡崎の大将であることを忘れないように言葉を送り、広忠は竹千代が松平家と岡崎城を救うための使者だと諭します。「父はそなたに礼を言いたい。そなたを送る時、この父は自分の無力を恥じて、こうして頭を下げる」 竹千代に深々と頭を下げ、駆け寄って竹千代を抱きしめる広忠です。
竹千代の出発には6名の側小姓がつき、警護の任務には金田与三左衛門が選ばれます。床几に腰かけた竹千代は、刀のつばをカチンと鳴らし、勇ましい! と家臣たちを笑顔にします。広忠は小姓たちに、心して他国で恨みを買うでないと訓示を与え、与三左衛門も松平党として結束を固めるように伝えます。
岡崎を出発した竹千代一行は、西郡(蒲郡)より三河湾を対岸の大津へ向かい、戸田家臣に守られて仮陣屋に入ります。宣光は与三左衛門に、母(竹千代から見れば義祖母)が会いたいと訪れているそうです。織田が放った乱波(らっぱ)がいて陣屋も襲撃されることから、今夜だけでもいったん城に入城してもらいたいというので、与三左衛門は宣光の好意に甘えることにします。
夜、竹千代一行は織田の一団に取り囲まれます。突然の宣光の裏切りに逆上した与三左衛門ですが、波太郎は織田へ渡った後の竹千代の身は安全だと保障します。与三左衛門は竹千代を輿へ誘ったあと、松平党の意地と腹を斬って自害します。波太郎は、与三左衛門が略奪された竹千代を追って尾張で討ち死にしたことにするため、その遺骸を引き取ります。竹千代は波太郎の手で信秀の元へ送られた。この暗い海の旅立ちにどのような運命が待っているのか、まだ誰も知らない。
天文16(1547)年8月2日、竹千代は6歳で今川の人質として駿府へ出発する。
慶長8(1603)年2月12日、徳川家康が後陽成天皇から征夷大将軍に任命されるまで、
あと55年6ヶ月──。
原作:山岡 荘八
脚本:小山内 美江子
音楽:冨田 勲
語り:館野 直光 アナウンサー
──────────
[出演]
近藤 正臣 (松平広忠)
大竹 しのぶ (於大)
伊藤 孝雄 (織田信秀)
──────────
八千草 薫 (華陽院)
宮口 精二 (鳥居忠吉)
成田 三樹夫 (今川義元)
──────────
小林 桂樹 (雪斎禅師)
石坂 浩二 (竹之内波太郎)
──────────
制作:澁谷 康生
演出:松本 守正
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『徳川家康』
第4回「忍従無限」
| 固定リンク
「NHK大河1983・徳川家康」カテゴリの記事
- プレイバック徳川家康・(16)無情の風(2023.03.31)
コメント