プレイバック徳川家康・(05)人質交換
ウオーッという雄たけびを上げながら突進してくる槍の兵、そして無数の騎馬隊も駆け抜けていきます。竹千代奪還を目指す岡崎衆の必死の働きで安祥城を落とし、織田信広を捕らえた今川の太原雪斎から、信広と竹千代の人質交換が提案された。その安祥城へ入った雪斎から人質交換の使者が往復していたころ、信長も父の居城古渡へ出向いていた。
人質交換の提案に対し威勢よく「信広を勝手に斬るべし」と答えた信秀へ、信長は人質を交換しなくても信広は斬られないのと主張します。信広を斬って竹千代も斬れば岡崎衆は必ず離散してしまうわけで、その事態を避けたい今川方は信広を絶対に斬れないのです。織田は強いと今川に見せつけるためにも、人質交換などという安易な交渉に乗ってはならないと信長は言いたいのです。
那古野城に戻った信長は、客人として来訪していた竹之内波太郎に、竹千代によく似た首をひとつ用意するよう命じます。「あやつ(竹千代)は後の世のために手放しとうはない」という信長の考えは、実は波太郎からの強い勧めがあったのです。天下を治めるには果敢な決断の武将・信長と、忍ぶ術を身に着けた竹千代が加わって初めて成し得ることだと信じています。
しかし信秀は、親子の情に負けて人質交換に応じてしまいます。父はもっと強い武将であったはずと信長は悔しがります。もし織田が負けて信秀が死んだときは乱暴甚だしい信長を差し置いて、信長の弟・織田信行を擁立しようという側近たちの動きも見え隠れしています。織田にとって敵は今川ではなく、織田の内側にいると思い知った信長は、平手中務に雪斎との駆け引きは一歩も引けを取るなとクギを刺します。
信長はすぐさま波太郎のいる熊屋敷へ出向き、信広を殺すように伝えます。竹千代が今川へ渡れば岡崎衆はますます今川へ忠誠を誓い、織田に反抗することになるわけで、人質交換は間違いなく織田に不利なのです。波太郎は、今川義元が竹千代を得ればこれからの戦の大義名分が立たなくなり、雪斎は駿府に帰るしかなくなります。天下統一を目指すなら今川に関わっている暇はないと波太郎は信長を見据えます。
信長は阿古居(あぐい)の於大を訪ねます。於大は信長がこれまで竹千代を弟と考え、馬も与え手習いもさせてくれてとても可愛がってくれたことは充分知っています。今回の人質交換で今川へ行く竹千代に一目会わせる約束をした上で、信長は竹千代といつか手を取り合って昔語りをできるように、於大が母の心で取り計らうように命じます。
竹千代と信広の人質交換の交渉は雪斎と平手によって安祥城で行われていましたが、自軍に有利に導く必要がありなかなか長引いています。夕刻になってようやく、交換の場所選定まで話が進みます。酒井雅楽助も加わって、場所は尾張領笠寺、信広の身柄を護送する役目には大久保新八郎が務めることになりました。
於大は波太郎の手引きで農民の姿に化け、群衆の中に紛れ込んでいました。笠寺へ先に着いた新八郎は、竹千代が後から到着すると輿に駆け寄り、大きくなったと涙を流します。大将は泣かぬものだと新八郎をたしなめる竹千代の凛々しい姿に、於大もつい顔をほころばせます。こうして人質交換は無事に終了しました。
竹千代たちは父祖歴代の墓に詣でるという口実で、尾張から駿府へ向かう途中、松平家の菩提寺である岡崎の大樹寺に入ります。新八郎はせっかく取り返した主君をまた駿府へ送り出さなければならないことにはらわた煮えくりかえる思いですが、それは家臣全員が心のうちに思っていることで、今は辛抱強く運命を渡り歩かなければなりません。ともかく、譜代家臣たちとの短いふれあいの間となりました。
波太郎は、於大が信長との約束を果たすために駿府とどうつながりを持つか思案しています。人質交換の場に波太郎とともに見守っていた随風は、竹千代の人相に「運の強い子」と強烈な思いを抱きます。運の強い子だけに試練の嵐は次々と竹千代の身に襲い掛かるでしょうが、それをどう凌いでいくのか見ものだと笑います。
駿府の今川義元は、関口刑部少輔親永の娘・瀬名を「鶴姫」、吉良義安の娘・椿を「亀姫」と呼んで、香道を楽しんでいました。信長が竹千代に馬を贈った話を聞いた義元は、織田が竹千代に取り入るほど立派に育っているとみて、早くから食や女人を与えて褒めちぎることで竹千代をむごく育てるつもりです。しかし瀬名も亀姫も、竹千代の妻になれとの義元の言葉に首を横に振ります。
天文18(1549)年の暮れ、竹千代が駿府の人質館へ入ります。その竹千代を迎えたのは祖母の華陽院でした。「おばばさま……」と予期しない再会に、華陽院は柔和な微笑みで竹千代を迎え入れます。
天文19(1550)年も明け、駿府御所では年賀の宴が開かれます。義元は竹千代に、瀬名を妻にと勧められます。一回り年上の女性だけに竹千代は大して興味は示しませんが、義元の言いつけなら仕方なくといった感じです。一方で亀姫には「美しい」とつぶやき、瀬名は不機嫌そうな表情を浮かべます。下がった竹千代は神殿から立小便をし周囲はざわつきますが、義元はその姿を睨みつつ、「おもしろい」と笑います。
翌2日、竹千代は手習い初めに臨済寺の雪斎を訪ねます。雪斎は昨日の小便事件を持ち出し、尾張では不作法だと習わなかったかとたしなめますが、竹千代は信長からどこでも遠慮なくやれと教わったと胸を張ります。雪斎は、一度で全員に自分を知らしめた手法は見事だと認めつつ、その度胸の据わった小童は厳しい監視に遭う、虎を野に放つ行為だから危険だと諭します。
雪斎は論語の孔子の話をします。国家には食・兵・信が必要だと説く孔子に、国家がその3つを備えられないときはどれを捨てるべきかと弟子が尋ねた、と。竹千代は一瞬考え、兵を捨てると答えます。食がなければ生きていけないが、槍がなくても生きていけると言うのです。果たして孔子もそう答えたわけですが、残りの2つのどちらかを取らねばならないとしたらと弟子は尋ねた、と雪斎は続けます。
それでも竹千代は腹を空かせば機嫌が悪くなるからと食を選びます。ようやく得た食べ物を、始めは三之助、竹千代、徳千代の順で食べたのですが、それ以降は三之助は竹千代の後に食べるようになりました。雪斎は、幼少の三之助は竹千代が平らげると危惧して先に食べてしまいますが、徳千代は竹千代を信じたからこそ食べるまで待てたと説きます。信頼する心がなかったら食が争いの種となる獣の世界なのです。
手習い初めを終え、雪斎は華陽院によい正月を迎えたと笑顔です。義元の家臣でもある雪斎はいろいろ多忙ながら、月3日は手習いの相手をさせてもらうつもりです。竹千代は利発な子で、雪斎としてもこれから楽しい日日になりそうな気がします。ただ、華陽院にはくれぐれも目立たないように繰り返し戒めます。
翌3日、竹千代の身柄預かり役であり義元の妹婿でもある親永は、竹千代を自邸に招きます。瀬名は竹千代の手を握って気を引こうとしますが、竹千代の視線の先には亀姫がいました。それに気づいた瀬名は居室に連れ出し、どうして他の姫に心を奪われているのかとやんわりたしなめ、あっけにとられる竹千代をギュッと抱きしめる瀬名です。竹千代は政とは全く違った世界へ投げ込まれます。
尾張末森城では信秀が急逝します。信長が好む敦盛の「人生五十年」よりも8年も短い生涯に、さすがの信長も言葉を失います。涙をこらえる濃姫に着替えの支度をさせながら、信長の涙を笑うなよとつぶやきます。「父はたった一つ、この信長に大きな遺産を残してくれた……信長こそ、父の見残した夢を見るヤツと!」
天文20(1551)年3月7日、信秀の葬儀は亀岳林万松寺で営まれます。喪主の信長の姿がなく、重臣たちはここぞと平手を責め立てます。ようやく信長は姿を現しますが、髪は茶筅で巻き立て、袴も着用していないという出で立ちです。信長は父の位牌に抹香を投げつけると、家臣たちを見渡し「ご苦労」と一言だけ発して帰っていきます。
帰っていく信長の後ろ姿に愕然と膝から崩れ落ちる平手は、傅役(もりやく)として信長の育て方に間違いがなかったかと自問します。平手は、度々諫言してきたもののひとつも聞き入れてもらえなかったのは己の不祥と、自らの死をもってそれを詫び、不憫に思うのであれば諫言を聞き入れてほしいと諫状をしたためます。
いつもの姿で馬で川に向かった信長は、その水を全身いっぱいに浴びて天を仰ぎ、いつか平手の名がついた寺を建て供養すると約束します。「爺のバカ! それまで地獄に落ちとれッ! 爺……爺!」 外にも敵、内にもまた敵の苦難の中で、信長はいま、父信秀と傅役平手中務というふたりの大きな理解者を失って、竹千代と同じ戦国の孤児となった。
天文18(1549)年12月27日、人質交換により松平竹千代が駿府に入城する。
慶長8(1603)年2月12日、徳川家康が後陽成天皇から征夷大将軍に任命されるまで、
あと53年1ヶ月──。
原作:山岡 荘八
脚本:小山内 美江子
音楽:冨田 勲
語り:館野 直光 アナウンサー
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[出演]
加瀬 悦孝 (松平竹千代)
大竹 しのぶ (於大)
役所 広司 (織田信長)
藤 真利子 (濃姫)
宮口 精二 (鳥居忠吉)
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八千草 薫 (華陽院)
池上 季実子 (瀬名)
竹下 景子 (亀姫)
伊藤 孝雄 (織田信秀)
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小林 桂樹 (雪斎禅師)
竜 雷太 (随風)
成田 三樹夫 (今川義元)
石坂 浩二 (竹之内波太郎)
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制作:澁谷 康生
演出:加藤 郁雄
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『徳川家康』
第6回「試練の時」
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