大河ドラマどうする家康・(09)守るべきもの ~家康vs正信~
兵士にぶつかり、すり抜けていく弥八郎少年。「向こうでは物盗りが始まっとるぞ!」という声を背中に受けながら、お玉の家に駆けつけると、家はすでに物盗りによって荒らされ、主は倒されていました。兵士に連れ去られるお玉を見つけた弥八郎は全力で体当たりし、投げ出されたお玉を掴めるとこまで近づきますが、あと一歩のところで兵士にひょいと持ち上げられ、連れ去られてしまいます。
そんなことを思い出しながら、本多正信は涙を浮かべています。横では民衆が一揆で踊り狂っています。景気づけじゃ! と民衆をあおり、正信もやけになって踊り始めます。不入の権を犯し、寺から年貢を取り立てたことで始まった三河一向一揆。民をも巻き込み戦は泥沼化、さらに敵対勢力の便乗により三河国は内戦へと突入したのです。家臣の裏切りも相次ぎ、絶体絶命の危機に陥った我らが神の君でありました。
本證寺に立てこもる軍師が正信らしいことは、岡崎城の台所に立つ女たちも知るところとなっています。そして吉良義昭からの裏切りを勧める書状は、松平家康の重臣・石川数正や酒井忠次の元にも届けられていました。正信や夏目広次の裏切りもあって、家臣たちを信じることが出来なくなっていた家康は完全にふさぎこんでしまいます。
一方、本證寺でニヤリとするのは義昭と松平昌久です。この寺は一向宗の一揆の動きもあって、家康ごときでは倒せない堅固な守りとなっているのです。家康が力を失えば松平家当主の座は昌久に移ると、千代は昌久に寄り添います。もし当主の座を奪えたら千代を妻に迎えると約束する昌久ですが、権力者に近づく女の存在はやめておいたほうがいいと個人的には思います。
本證寺の盛り上がりとは裏腹に、岡崎城は士気が下がって静まり返っています。本證寺攻めをしようとしても兵が戦いにつかれていたり、そもそも数が足りなかったりで立ち上がる武将がいません。本多忠勝は、兵士をつぎ込むだけでは終わりが見えず士気は下がる一方だと、一揆をどういう手順で鎮めていくのかを示してほしいと苛立ちます。
“ひとつの家”だなんて嘘ばっかりとぼやく瀬名は、いつまでふさぎ込んでいるのかと家康を促しますが、家康はどうすればいいのか道を見失っているのです。そこに鳥居忠吉が無理やり入ってきます。忠吉は家康に、家臣を信じるか、疑いのある家臣たちをことごとく討つかの2つの道を提示します。「殺すことに決めたのなら、まずはわしからにしてくだされ。病で死ぬより楽そうだで」
鎧を身に着けた家康が家臣たちの前に現れますが、忠勝は睨みつけ、数正や忠次は冷めた目で家康を眺めています。好きな主君を選べと言い出した家康は、家臣を信じると宣言したうえで「供をしたいものだけ参れ!」と出陣していきます。家臣たちは顔を見合わせ、重い腰をようやく上げて家康についていきます。数正と忠次は、義昭からの書状を破り捨てます。
家康軍は敵を次々と制圧し、戦況は家康軍優勢となっていきます。戦の流れが完全に家康軍に向き、一揆軍は次第に追い詰められていきます。昌久は、ぼろ布に身を包み逃亡の機会を伺っていますが、ふりかえると夫婦の約束を交わした千代の姿がありません。ほらやっぱり。
命を落とした者たちが運ばれ、沈痛な面持ちの空誓上人ですが、そこに現れた正信は我らは負けないと激励します。空誓は正信がどうしてこの寺にいるのか尋ねますが、正信から明確な答えが返って来ません。正信はこの寺を利用しているだけなのかもしれない……そう空誓が疑いかけた時、本證寺の半鐘が鳴り響きます。
家康が本證寺に迫って来た合図でした。睨みつけていた正信は、御仏の子らが殺されればその子やその孫が永遠に戦い続けるだけで、必ず負けると言い放ちます。「諦めなされ、殿に勝ち目はござらぬ!」 そう言って鉄砲を構える正信ですが、銃を放とうとした瞬間、大久保忠世が正信を銃撃して倒します。
8年前──、あえて盗賊たちに盗みを働かせ、その根城を一網打尽にする作戦で、正信と忠世は組んでいました。忠世は盗賊たちに斬りかかり、正信は弓矢で応戦していました。息も絶え絶えに根城から脱出する女を見て、遊び女かと短刀を取り出す正信でしたが、口元にあったほくろを見て、その女がお玉の成長した姿であることに気が付きます。お玉は正信を思い出しますが、違う! と這って逃げ出そうとします。
「早よ殺せ!」と叫ぶお玉を抱えて場所を移動した正信は、あばら家でお玉を寝かせます。その家の柱にお札があり、それを見つけたお玉はたちまち体を起こして数珠を手に仏にすがっています。薬師を呼んでこようとしていた正信は、早く仏の元に行きたいとつぶやくお玉をじっと見つめて、固まっています──。気絶していた正信が目を覚まします。
「信長さまはお怒りじゃぞ」 伯父・水野信元がわざわざ忠告しに来ました。こんな不毛な戦を続けていれば、三河国内がどんどん衰退していき、仮に戦に勝ったとしても三河国としてはボロボロの状態になってしまうのです。一度は拒否をする家康に、バカ! と大声で罵った信元は、これまで通りに戻すと手打ちにしろと和睦を強い口調で家康に迫ります。
家康から和睦の申し入れがあり、寺は元通り、裏切った家臣も不問と知って渡辺守綱は大喜びしますが、正信は和睦の仲介人が信元と知り、敵の罠だと判断します。一度は許し寺を元通りにすると見せかけて、不問に付した謀反人にはいずれ厳罰が下されるものと、正信は空誓に騙されないように念押しします。
「この子らに言うんか? もっと戦えと……もっと死んでこいと……。わしは言えん」 みんなを、みんなの暮らしを守りたかった空誓は、民衆たちに土下座してとても大きな過ちを犯したことを詫びます。──何度も何度もお玉の名を呼ぶ正信ですが、お玉はこと切れていました。正信はお玉の手を握って供養します──。頭を下げる空誓を、ただ黙って見下ろす正信です。
岡崎城にて家康や空誓が同席の中、誓紙が取り交わされます。こんな誓紙ではなく家康の心を信じたいという空誓の求めに応じて、家康は本證寺を元通りにすると目を見て約束します。空誓は誓紙に目を落として血判を誓紙に押します。これでようやく、半年にわたって続いた三河一向一揆は終結することになりました。
戦後処理として、裏切った家臣たちへの通知がなされます。“夏目吉信”と家康に間違って覚えられていた夏目広次ですが、多くの家臣たちから嘆願が出されていることもあり、不問とすることを家康が直々に伝えます。小刻みに震える広次は寛大な処分に感涙します。一方、服部半蔵によれば、正信は「申し上げることはない」と、岡崎城へ出頭すらしていません。
家康は本證寺にまで出向き、正信を連れてこさせます。家康を銃撃したこともあり、元のさやに収まれば不都合だと考える正信は、過ちを犯したのは家康であって自分ではないからと、弁明は嘘でも言いたくないわけです。苦しみがあるからすがるより他にないのに、その救いの場を奪った家康に罵詈雑言を浴びせます。
「わしはずっと悔いておる……。この国を立て直さねばならぬ。わしは前に進む」 涙を浮かべた家康は、正信を捕縛する縄を切り落とし、三河より追放を命じます。正信はその命に従いますが、誓紙を交わしたとしてもこの寺を取り潰すつもりの家康に、案を授けます。寺があった場所は元の元は野原である……。いかがかな? と言われて、呆気にとられる家康です。
これで三河武士の結束は固まったと、呑兵衛こと本多忠真が榊原康政に「厭離穢土欣求浄土」(おんりえどごんぐじょうど)の幟旗(のぼりばた)を掲げさせます。白々しさが漂う座を蹴って家康は奥に引っ込み、家臣たちにニッコリほほ笑んだ瀬名は、家康を追って奥に向かいます。忠次は残された家臣たちと海老すくいの踊りを踊っています。
「きれいごとにしてはならぬ……わしは愚かなことをした」 守るべきものは民と家臣たちだったのにと涙ぐむ家康は、瀬名にだけ胸中を打ち明けます。瀬名は「厭離穢土欣求浄土」の通りにしようと背中を押します。できるような気がします、との一言に、家康は勇気をもらった気がしています。忠次たちが踊る海老すくいの歌声が、家康の耳にも届いていました。
予想外に家康が早く三河一向一揆を治めてしまったことに、武田信玄は驚きです。三河に潜伏して信玄に報告する壺装束姿の女は、本證寺から抜け出した千代でした。「賽は織田信長に遠く及ばず、最も肝の小さいお方かと」 手厳しいのう と笑う信玄に、それを家康自身が誰よりも分かっていると分析します。信玄と千代の間で、家康は面白い人物だという評価で一致します。
永禄7(1564)年、三河一向一揆との戦いで優位に立った徳川家康が和議に持ち込み、一揆の解体に成功する。
慶長8(1603)年2月12日、徳川家康が後陽成天皇から征夷大将軍に任命されるまで、
あと39年──。
作:古沢 良太
音楽:稲本 響
語り:寺島 しのぶ
題字:GOO CHOKI PAR
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松本 潤 (松平家康)
有村 架純 (瀬名)
大森 南朋 (酒井忠次(左衛門尉))
山田 裕貴 (本多忠勝(平八郎))
杉野 遥亮 (榊原康政(小平太))
音尾 琢真 (鳥居元忠(彦右衛門))
甲本 雅裕 (夏目広次)
イッセー 尾形 (鳥居忠吉)
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市川 右團次 (空誓)
寺島 進 (水野信元)
矢島 健一 (吉良義昭)
角田 晃広 (松平昌久)
古川 琴音 (千代)
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松山 ケンイチ (本多正信)
山田 孝之 (服部半蔵)
松重 豊 (石川数正)
阿部 寛 (武田信玄)
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制作統括:磯 智明・村山 峻平
プロデューサー:大橋 守・釜谷 正一郎
演出:小野 見知
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『どうする家康』
第10回「側室をどうする!」
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