大河ドラマどうする家康・(12)氏真 ~今川滅亡~
永禄11(1568)年12月13日、武田信玄軍の侵攻により駿府は制圧されてしまいます。幼いころ鳥居元忠や平岩親吉らとともに過ごした、きらびやかな駿府が落ち、徳川家康は衝撃で言葉もありません。駿府では信玄の指揮の下、武田兵が駿府の兵や民衆たちに容赦なく斬りかかり、次々と倒していきます。武田と徳川双方から攻められ、栄華を誇った今川も、終わりの時を迎えようとしていました。
家臣団に陣触れを出したはずですが、無数に並べられた床几(しょうぎ)に座っているのは岡部元信のみです。他の家臣たちはみな武田方へ寝返ったそうで、見捨てられた現実を氏真は見せつけられます。元信は今川義元に賜った短刀を差し出し自害を勧め、氏真は刀を首にあてますが、ふと義元の言葉が脳裏をかすめ、くやし涙を流します。「そなたに将としての才は……ない」
駿府の府中に入った信玄は氏真を取り逃がしたと、見つけ次第 首を刎ねよと山県昌景に命じます。そのころ引間城から遠江への侵攻を進めていた家康ですが、心ここにあらずです。逃亡した氏真は妻が北条氏康の娘でもあるし、相模に逃げたのではないかと疑われますが、酒井忠次が服部半蔵に命じて探索させているところです。その半蔵は腹ごしらえに握り飯をほおばっていて、探索は後回しというのん気さです。
駿府を落ち延びた氏真らは林の中を急いで移動していきますが、行動をともにする糸が遅くて待たされてしまいます。氏真は軽蔑の目で糸を見、見捨てて先を急ぎます。
14年前、家康が元信と名乗って駿府に人質としていたころ、瀬名に恋慕した氏真は、妻にしたいと義元に申し出るのですが、あっさりと却下されます。甲斐─駿府─相模の三国で同盟を結んだため、氏真の妻は北条から迎えることになったのです。こうして迎えた妻の糸は石段から落ちたケガがもとで右足が不自由で、家臣たちも「若君さまもお気の毒」と口々につぶやいています。氏真との生活では、糸はけなげに氏真に尽くしますが、氏真は糸に決して心を開こうとしませんでした。
懸川城攻めを前に、腕が鳴るわい、と忠次や元忠らは気合十分です。半蔵は、氏真が懸川城にいることを突き止め戻ってきました。そして信玄からも、氏真の首を挙げるように催促の書状が届けられます。半ば脅迫めいた内容に「えらそうに」と吐き捨てる家康は、徳川全軍で懸川城に攻撃を仕掛ける準備に入ります。家臣たちの前では強く振る舞う家康を見て、元忠は躊躇する家康の胸中を推し量ります。
懸川城では氏真が軍議を開いていました。相模の北条氏康と氏政が氏真を迎え入れることを承諾し、糸が相模ゆきを勧めるのですが、氏真は面倒そうに糸を睨みつけ、「逃げるのはあり得ぬ!」と聞き入れようとしません。糸は何も言うことが出来ず、ただ黙って氏真の背中を見送るのみです。
「元康……余と氏真を、末永く支えてほしい」 義元から下された金陀美(きんだみ)の兜を見ると、義元の声が脳裏をよぎります。未だに躊躇する家康に、元忠は氏真がしてきた仕打ちを思い出してほしいと訴えます。織田との戦場に松平軍を取り残し、駿府に残る三河衆を始末し、瀬名たちも危うく命を奪われるところでした。家康は何度も頷き、氏真は憎き仇だとつぶやいて全軍に懸川攻めを下知します。
徳川軍は氏真を包囲するも、氏真の手ごわさに全く歯が立たず。4ヶ月が経っても懸川城を落とすことが出来ません。家康は家臣の提案通りに攻撃をさせるので、さすがの榊原康政も異論を差しはさみたくなりますが、家臣たちも半ばヤケになって戦に出向いていきます。懸川城の図面を前に、家康はジッと睨みつけています。「なぜそこまで戦う……氏真」
14年前、これまで元信との対決では氏真に軍配が上がっていましたが、瀬名を賭けた対決でようやく元信が勝ちを収めます。氏真はとても悔しくて日夜鍛錬に励んできました。元信がこれまでわざと負けていたと見抜いた義元は、それは人質として育った元信が顔色を窺って生きて来たからで、わざと負け氏真のご機嫌を取ることこそが人質として生きる術であると氏真に諭します。
9年前、西進する義元は、桶狭間を前に氏真を留守居役として残すことにします。元康は大高城に兵糧を運び入れる大役を任されているというのに、自分は留守居役であることに納得がいかない氏真は、自分が織田と戦って義元がここに残るべきと主張しますが、義元は氏真を見据えてつぶやきます。「有り体に言おう。そなたに将としての才は……ない」
今の氏真にはその時の悔しさが根底にあります。
信玄たちは討ち取った武将の首実検中です。何度も総攻撃をかける徳川軍に対し、懸川城の氏真は自ら槍を振るって善戦していると、武田軍内ではもっぱらの評判です。それよりも、徳川軍が氏真を取り逃がし、相模の北条へ引っ込んでしまったら、氏真を討ち取る機会を永遠に失ってしまうかもしれません。信玄は昌景に遠江の手薄なところをつついて、家康へプレッシャーをかけます。
信濃と遠江の国境あたりでは、武田軍が陣を張って今にも攻め込む姿勢を見せます。徳川が懸川攻めに手こずる間に遠江を切り取られてしまう恐れがあります。大久保忠世は軍勢を懸川攻めに加わらせようと申し出ますが、家康はそれを断ります。それでも食い下がる忠世に、元忠らは氏真と対峙している家康をかばって忠世を突き飛ばします。不満顔の忠世に、本多忠勝はその肩をポンポンと叩いて同情します。
康政軍が必死に矢板に飛びかかっても、まるで城壁のように頑として動きません。遠くでその戦いを見ていた忠勝は、そこから離れていこうとしますが、目ざとく見つけた氏真の弓の標的にされます。自分に矢を向けられていると気づいた忠勝はひらりと身をかわして矢をやり過ごすと、地面にあった槍を力いっぱい投げつけます。槍は柵の目をくぐり抜け、氏真の身に刺さります。
夜、氏真は肩の傷を手当てしてもらいながら、明日の総攻撃を糸に伝えます。そして抜け穴から落ち延びて北条に身を寄せるように命じます。もう十分だと糸は言葉をかけますが、氏真は聞き入れません。氏真の肩に置こうとした手がピタッと止まります。
そしてそのころ、満天の星空を見上げている家康を、草むらから心配そうに見つめる元忠たちの姿がありました。そこに康政が、懸川城の抜け穴を発見し女たちが出てきたと報告しに来ました。その女たちの一人は氏真の妻女らしいと聞いて、元忠はアッと声を上げます。そして家康は、複雑そうな表情を浮かべます。
なかなかに
世をも人をも 恨むまじ
時に合わぬを 身の咎(とが)にして
氏真が辞世を詠んでいると、いきなりの襲撃を受けます。攻め手が元忠や親吉であることに気づく氏真ですが、後からやってきた家康を見るや、槍を投げ渡して対決を挑みます。
対決はあっという間に結末を迎え、氏真が倒されてしまいます。家康は、短刀で自害しようとする氏真を押しとどめます。必死に抵抗する氏真ですが、家康はその手から短刀を取り上げます。氏真は家臣の誰にも評価されず、義元でさえ認めてくれなかった悔しさを吐露します。そして手にした刀を首に当てますが、逃げたはずの糸が戻ってきていました。
糸によると、義元は氏真が日夜鍛錬に励んでいることを知っており、糸にだけ本音を漏らしていました。「己を鍛え上げることを惜しまぬ者は、いずれ必ず天賦(てんぶ=生まれながら)の才ある者を凌ぐ」 今川をますます栄えさせる姿を期待しての義元の言葉に、氏真は涙を流します。弓引いたことを詫びる家康に、氏真は糸とともに北条に行きたいと伝えます。
織田の人質生活を終え、駿府にやって来た竹千代(家康)は、義元の嫡男・龍王丸(氏真)と対面します。竹千代は、蹴鞠も優しく丁寧に教えてくれる龍王丸を兄と慕い、ともに育ってきた仲だったのです。それが義元の一言で狂い始め、ついには今川家の滅亡という形で終焉を迎える皮肉な結果となってしまいました。
しかし最悪なことに、氏真を助け身柄を北条に預けたことが信玄の耳に入ってしまいます。武田との約定を破り、北条と手を結んだことになるわけで、「わしにけんかを売っているらしい」と信玄は大激怒です。
武田からの書状が家康の元に届けられ、近々信玄が侵攻してくる恐れが出て来ました。忠次は詫びの使者を名乗り出ますが、険しい顔の家康は「いらん」と突っぱねます。忠勝は、いま北条と手を結べば武田を挟み撃ちすることが出来ると、攻められる前に攻める道を模索します。親吉が同調しますが、家康は頬杖ついて思案に暮れています。
永禄12(1569)年5月17日、今川氏真が家臣の助命と引き換えに掛川城を開城する。
慶長8(1603)年2月12日、徳川家康が後陽成天皇から征夷大将軍に任命されるまで、
あと33年8ヶ月──。
作:古沢 良太
音楽:稲本 響
語り:寺島 しのぶ
題字:GOO CHOKI PAR
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松本 潤 (徳川家康)
有村 架純 (瀬名)
岡田 准一 (織田信長(回想))
大森 南朋 (酒井忠次(左衛門尉))
山田 裕貴 (本多忠勝(平八郎))
杉野 遥亮 (榊原康政(小平太))
音尾 琢真 (鳥居元忠(彦右衛門))
小手 伸也 (大久保忠世)
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溝端 淳平 (今川氏真)
志田 未来 (糸)
田辺 誠一 (穴山信君)
橋本 さとし (山県昌景)
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山田 孝之 (服部半蔵)
渡部 篤郎 (関口氏純(回想))
真矢 ミキ (巴(回想))
松重 豊 (石川数正)
野村 萬斎 (今川義元)
阿部 寛 (武田信玄)
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制作統括:磯 智明・村山 峻平
プロデューサー:大橋 守・釜谷 正一郎
演出:村橋 直樹
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『どうする家康』
第13回「家康、都へゆく」
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