プレイバックおんな太閤記・(13)世継秀勝
羽柴秀吉(藤吉郎)は、甲斐の武田勝頼上洛について家臣たちと軍議を開いていますが、なかが来たとの知らせにニヤリとします。あれほど中村から離れるのを嫌がっていたなかが、突然長浜へやって来た。わけのわからぬまま秀吉は飛び出した。息災でなにより! と大笑いしてなかの手を取る秀吉ですが、睨みつけていたなかはその手を振りほどき、「このたわけ!」と平手打ちします。
「お方さまは今までとはご身分が違います!」 ねねがいないと城内を探し回っていたこほにこっぴどく叱られたねねは、小さな声でこほに詫び、今日のところは見合わせようと、岐阜に同行しようと控えるみつに下がるように伝えます。ねねはなかに、岐阜に帰るのは思いとどまるようにと諭されたのです。自分の意向がどうあれ なかには逆らえないわけです。「案じることはない……なるようにしかならぬわ」
長浜12万石の城主夫人として新しい城に迎えられた喜びと戸惑いでただ夢中だったねねに、突然冷や水を浴びせられるようなことが起こった。秀吉が京奉行時代に手を付けた女と、その女が産んだ男の子が何の前触れもなく長浜城に乗り込んできたのである。初めての秀吉の裏切りを知って、さすがのねねもすっかり取り乱した。秀吉と離別するつもりで城を出たねねは、たまたま長浜を訪ねて来たなかと出会った。それがねねの運命を今また変えようとしていた。
城門のところで岐阜に向かうねねとバッタリ……という経緯を聞いて、秀吉はなぜねねが岐阜に戻ろうとしていたのかどうにも腑に落ちません。なかはねねの気持ちを代弁して秀吉を叱責しますが、ああそのことか、と秀吉は拍子抜けした表情です。もう足軽ではなく、側室が何人いようと誰にも文句は言わせぬと反発する秀吉に、なかはねねを連れて中村に帰ると言い出します。
秀長がなかを追ってきます。なかは秀長も秀吉側の人間かと呆れていますが、ねねの気持ちは分かるだけに、岐阜へ帰るのを引き止めなかったのです。ただ結婚して十数年、子が出来なかった秀吉には待望の男子であり、その喜びが今の秀吉をそうさせているのです。そこを責めたら秀吉も気の毒という秀長は、なかにねねをなだめるように懇願します。「ごめんじゃ。一から十まで藤吉郎が悪い」
秀吉は、みんな自分が悪いとねねに土下座します。妻はねね一人などと言葉を並べる秀吉ですが、ねねは自分が妻として役立たずと考え、離別するのがおんなの道と考えを曲げません。そこに秀長となかが居室に入って来ます。なかは涙を浮かべてねねに手をつき、秀長も頭を下げます。「勝手だと腹にも据えかねようが、今度だけはこらえてやってもらえまいか。わしの顔に免じて」
秀吉は秀勝と千種を呼びますが、誰ひとりとして対面しようする者はいません。なかは千種に、秀勝は秀吉とねねの子として育てるから城から出て行けと伝え、千種は反発します。その発言に怒るなかですが、ねねは秀勝から母親を話すのは不憫と言い、やはり至らなかった自分を責めるのです。千種は長居は無用と秀勝を連れて出ていきます。なかは秀吉を監視する意味でも長浜に残ることにします。
これから秀吉は何人もの側室を置くようになるわけで、その覚悟をねねに求めるこほですが、一方でこほ自身も女であるがゆえに、別の女と子どもを作られた時の妻としての辛い気持ちも十分に理解しているつもりです。ねねは涙を浮かべて深いため息をつきます。「もう諦めました。大名のおかかなどなりとうなかった。ああ……昔は良かった」
弥助を武士に仕立てて尻を叩くともは、城持ちになったら側室はいくらでもと笑うし、嘉助を武士にしたくなかったきいは、自分以外の女はあり得ないと言い、姉妹でもこれだけの考えの差が生まれます。なかは、こうなったのもすべて秀吉のせいと目くじらを立てます。そこにイチとトラがなかに会いに来ました。中村の話を聞かせてやりたいと、ねねはイチとトラを同席させて夕餉をとることにします。
秀勝の無邪気な寝顔に秀吉はホッとしています。そろそろ奥に戻らねばとそそくさと出ていこうとしますが、千種は秀吉をひっぱって離しません。いくら秀吉がなかを怖いと思っても、この城で一番偉いのは秀吉であり、秀吉の子を産んだ自分が本当の奥方なのだから、ねねにも大きな顔はさせないというのが千種の考えです。
ねねは書状をしたためています。文章がうまくまとまらないのか気持ちが落ち着かないのか、筆を置いてすずりに墨をすります。イライラする気持ちを墨で少し落ち着かせようとしているのかもしれません。そして雨の音の中、足音が聞こえたなかは、障子を少し開けて秀吉がねねのいる居室に向かうのを目撃します。なかはなかで秀吉夫婦のことをとても心配しているわけです。
秀吉を出迎えたねねですが、秀吉の肩をもみながら、千種どのの方がお若くて美しい、私は古女房と嫌味たっぷりです。イヤなら千種がいる南殿へと戸を開け放つねねに、あんなにおかかを立てておるというに! と秀吉も言葉を荒げます。「人をこれだけ踏み倒しておいて、おかかを立てるも何もあったものでは」 ここまでくると売り言葉に買い言葉で、激しい言い争いに発展してしまいます。
気に入らぬなら出ていけばいい! という秀吉の言葉に、居室を飛び出すねねですが、目の前になかが立っていました。後ろを振り返ればこほたち侍女たちも心配そうに見つめています。秀吉もねねも、引きつった笑いを浮かべて居室に戻っていきます。その場に残ったこほはなかに深々と一礼すると、なかも戸惑いつつ自分の部屋に戻っていきます。
「私にも言わせてくださいまし。別れろと言われれば黙って去りましょう。辛抱せねばと決めたゆえ、恨み言のひとつも言いとうなるのです」 横になった秀吉に言葉をかけますが、秀吉はすでにいびきをかいて眠ってしまいました。その寝顔を眺めてフッとほほ笑んだねねは、秀吉のひげをなでて遊んでいます。
翌朝。出陣! と秀長が駆け込んできます。慌てて飛び起きた秀吉に、勝頼が長篠城を包囲し、織田信長と徳川家康の連合軍で出陣することになったと伝えます。しかし急いで支度をする秀吉の顔に異変が。「あっ……ひげがない!」 1年もかけてたくわえた立派なひげを、命の代わりにねねが剃り上げたのです。秀吉がやったことは女にとって命を取られるほど切ないものと、なかは笑います。
天正3(1575)年5月、甲斐の武田勝頼はついに三河の長篠城外の設楽原で、徳川家康と信長の両軍勢と相まみえることになった。この長篠の合戦は騎馬と鉄砲の戦と言われ、猛威を誇る武田の騎馬隊に信長の新しい鉄砲作戦が功を奏して勝利を収めたことで有名である。信長はその勢いを買って越前の一向宗門徒を攻めた。ねねは長浜に来て初めて、城主夫人として留守を守ることになった。
千種が不在で折り紙をして遊んでいる秀勝を連れ出したねねは、呼び出したイチとトラ、進之介に秀勝の相手をしてほしいと預けます。イチもトラも顔をゆがめますが、秀勝は秀吉の大事な子とたしなめます。男の子には男の子らしい遊びをしてやらなければかわいそうと、秀勝を進之介に預けます。そこに岐阜から長浜入りしたややが挨拶にやって来ました。
12万石の秀吉と120石の浅野長政、月とスッポンだとややは笑いますが、今のねねにはややがうらやましいです。ややも秀吉の側室の件は聞いていて同情します。側室の一人や二人はめをつぶれと諭され、覚悟はできたとねねは笑います。庭にはイチとトラと剣の稽古をする秀勝がいて、ねねは生き生きとする姿に目を細めます。「秀吉どのの子は私の子でもある。羽柴の家のためにも立派に育ってもらわねば」
元気よく遊びまわる秀勝を微笑ましく眺めるなかも加わり、3人で笑いが絶えませんが、そこに城に戻った千種が秀勝をどうしたとねねに文句を言いに来ます。庭で小姓たちと遊ぶ秀勝は、戻るように言う千種にイヤだと言いますが、侍女たちによって小姓たちから引きはがされ、千種の居室に連れ戻されてしまいます。「あのような女子にうつつを抜かしておる藤吉郎は、底抜けのうつけものじゃ!」
越前は平定され、秀吉が帰還した日、越前府中城に赴任する前田利家とまつ夫妻が長浜を訪問します。今度生まれてくる子が女の子なら養女に、という約束を律義に守って、利家はお豪を連れて来たのです。秀吉には今は嫡子があり約束当時と事情が異なるため、ねねの意向を尋ねるわけですが、子がいないねねはとても喜び、お豪を預かって立派に育てると決意します。
やがて、秀吉が長い長い中国遠征に出かけ、留守居役のねねの苦労がまた始まることになるが、それはその前のほんのひととき、ねねに訪れた心温まる出来事であった。
天正3(1575)年、前田利家が羽柴秀吉との仲を深めるため、豪姫が子のなかった秀吉夫婦の養女として出される。
慶長8(1603)年2月12日、徳川家康が後陽成天皇から征夷大将軍に任命されるまで、
あと28年──。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:山田 誠浩 アナウンサー
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[出演]
佐久間 良子 (ねね)
中村 雅俊 (羽柴秀長)
浅芽 陽子 (やや)
音無 美紀子 (まつ)
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滝田 栄 (前田利家)
長山 藍子 (とも)
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赤木 春恵 (なか)
尾藤 イサオ (浅野長政)
前田 吟 (蜂須賀小六)
西田 敏行 (羽柴秀吉)
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制作:伊神 幹
演出:佐藤 幹夫
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『おんな太閤記』
第14回「信長の手紙」
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