大河ドラマどうする家康・(18)真・三方ヶ原合戦 ~徳川の命運は? 激戦の真相~
エイエイオーという鬨の声を上げる武田軍を目の当たりにし、井伊虎松は愕然としています。金陀美(きんだみ)具足の鎧を着た遺体にはむしろがかぶせられ、大八車で運ばれていくのを目撃します。それだけではなく、その兜をかぶった首級が高々と掲げられています。金陀美具足を着用していたのは徳川家康なので、家康が討たれたということなのでしょう。
「まことなのか!?」 三河・岡崎城では、急報を聞いた瀬名が築山御殿から城に急ぎます。松平信康は言葉を失い、平岩親吉も立っているのがやっとなほど狼狽(うろた)えています。五徳はショックで目を泳がせ、亀姫は今にも泣きそうな表情です。瀬名は気丈に振る舞い、戦場ではさまざまな噂が流れるため、虚説に惑わされず仔細を見極めよと諭します。
家康討たれるの報は信長の元にも届いていました。木下藤吉郎もそれを聞き、戦場を離れて信長の元へ駆けつけます。聞けば徳川軍は武田軍が衝突してあっという間に壊滅的敗北を迎えたそうで、“えれえことになりましたな”(藤吉郎)と落ち着きをなくすほどのことが起きているのは間違いありません。「やはり……桶狭間など二度は起きぬか」
みな家康の死を落胆し、悲しみに打ちひしがれる中、大喜びしていたのは第15代将軍の足利義昭です。報告に上がった明智光秀に対し、もう信長の元へは行かなくていいと言う義昭は、信長はすでに用なしで、今後は信玄を頼るつもりでいるのです。光秀は、信長と信玄が戦えばどうなるか分からないし、徳川が滅んだとはまだ決まっていないと反論しますが、義昭は聞く耳を持ちません。
「徳川家康、討ち取りましてございます!」と運び込まれた首を実検する山県昌景と穴山信君、そして信玄ですが、その首を見て信玄はフッフッフッと不気味な笑みを浮かべます。とここで、時を半日ほどさかのぼりまする。
腕を組んで考え続ける家康は、「我らが武田に勝る点があるとすれば1つ、この地についてじゃ」とつぶやきます。夏目広次は地図を引っ張り出し、坂道を登りきった先は三方ヶ原があり、その先には祝田(ほうだ)の崖道があると説明します。崖道は狭すぎて身動きが取れませんが、そこに差し掛かった時に背後から軍勢をつつけば武田方でも大きな損害を与えることができそうです。
家康は出陣を下知し、広次と久松長家に留守居役を命じます。本多忠勝は出陣しようとする叔父の本多忠真を止めますが、若い者には引けを取らないと出て行ってしまいます。家康はなぜ広次の名を覚えられないのかと当の本人に尋ねますが、きっと影が薄いからだと本人に言わせるあたり、家康の人心掌握はまだまだ遠い道のりです。「さ、行ってらっしゃいませ。殿はきっと大丈夫」
しかしある地点に到達すると、徳川軍が全員足を止め、目の前の景色に絶句します。武田の大軍1万が魚鱗の陣を敷いて万全の構えで待ち構えていたのです。鳥居元忠は撤退を進言し、家康も引けの下知を出しますが、完璧な布陣の武田軍は徳川軍を追いうちにかかります。武田の赤備え隊はめっぽう強く、徳川軍は次々と倒されていきます。武田勝頼は「家康を捕らえよ!」と刀を振るいます。
三方ヶ原で徳川軍と武田軍が衝突したことは、逐一長家と広次のもとに知らせが入ってきていましたが、徳川軍総崩れで家康の消息は不明という報告を聞き、長家は目をつぶって絶句します。
織田方からの援軍として参陣している水野信元は、戦いの様子を傍観し「こりゃだめだ、強すぎらぁ」とつぶやきます。佐久間信盛は実害が出る前に撤収して信長の指示を仰ぐと帰ってしまいました。信元も戦線離脱を決めます。
家康の姿がありません。渡辺守綱は必死になって探しますが、大久保忠世は家康は先に城に戻ったはずと答え、「もう無理じゃ」と首を横に振ります。そして家康を探しているのは忠勝も榊原康政もそうでして、その必死さは最強の赤備え隊を3人抱えても長槍でなぎ倒してしまうほどです。その中でも忠真の働きは目覚ましく、酒をあおっても忠勝は何も言えなくなってしまいます。
遠方から武田武士たちの落ち武者狩りをする声が聞こえ、大将首を見つけたと掛け声が上がります。忠真は忠勝らに逃げるよう伝えますが、撤退する康政に対して、忠勝は忠真ひとりを死なせないと従おうとします。忠真は忠勝を殴りつけ、ギュッと抱きしめます。「おめえの夢は主君を守って死ぬことじゃろうが! 殿を守れ。おめえの大好きな殿を」
浜松城・城門近くでは、命からがら逃げかえって来た徳川の兵たちが集まっていました。大ケガを追っている兵も多く、うめき声が方々から聞こえてきます。広次が迎え入れ、手当てもしていますが、そこに酒井忠次がフラフラになりながら戻って来ました。忠次は家康がまだ戻ってきていないことを知り、無理な身体で戦場に戻ろうとしますが、広次が必死に止めます。
そのころ家康は元忠らと必死に戦っていましたが、康政や忠勝が加わり逃亡を図ります。しかし敵に見つかり、あばら家に身を潜めて隠れます。敵はしばらく探索していましたが、姿が見えないため範囲を広げて探そうと行ってしまいました。行ったかと元忠は出ていこうとしますが、馬のひづめの音がすると忠勝が止め、しばらく動かず様子を窺っています。
数名の兵とともに名のある武士のような男が近くをうろつき、家康たちが隠れている方へ目星をつけて近づいてきました。もはやこれまでか──。家康がそう諦めかけたとき、近づいてきたのは広次でした。「今のうちに、早く」と家康たちを誘導しますが、坂道を一気に駆け上がるしかなく、広次は家康が身に着けている具足を脱ぐように促します。
意味がよく分かっていない家康ですが、いち早く理解した忠勝や元忠らによって、家康が身に着ける具足を取り外しにかかります。そして背中を向ける広次も着けていた鎧を脱ぎます。忠勝が具足を着けようと手にしたとき、広次は忠勝を蹴り飛ばします。「すまん……お主はまだ先じゃ」
家康が竹千代と名乗っていた幼いころ、家臣たちの前から姿を消した竹千代を総出で探しますが、見つかりません。足元に落ちている藁の人形を見つけ、床下にもぐって来たのが吉信でした。吉信は自分が弱い人間だと打ち明ける竹千代は素晴らしいと認め、かみ砕くように諭します。「若はきっと、大丈夫」
家康は、広次が幼いころに遊んでくれた吉信であるとつながります。身代わりになろうとする広次を必死に止めますが、家康を二度も危ない目に遭わせたという負い目がある広次には、これぐらいの恩返しでは足りない気持ちなのです。「せめて24年前に果たせなかったお約束を……今度こそ、殿をお守りいたします」
一度目は竹千代が織田方へ人質として略奪された時、吉信は責めを負って自害しようとしますが、竹千代の父・松平広忠に死んだつもりで奉公せよと、改名を勧められたのです。そして二度目は三河一向一揆に加担して家康に対抗した時です。再び相対するとき、家康は広次の謀反の罪を不問とし、広次は感涙にむせびました。
家康は涙を流して抵抗しますが、広次はゆっくり諭します。家康が死ななければ徳川は滅びない、家康が生きてさえいればいつか信玄を倒せる……。「殿は……きっと大丈夫」 そして敵陣に向かっていき、徳川三河守家康ここにあり! と刀を振り上げます。
家康に「広信」「信広」と何度も名前を間違えられてきたこと、幼い竹千代に「ありがとう、吉信」と笑顔を見せてくれたこと、いろんなシーンが走馬灯のように広次の脳裏を駆け巡ります。敵を斬り倒していく広次でしたが、多勢に無勢、串刺しにされてしまいます。ニッコリほほ笑んだ広次は、その場に崩れ落ちます。
夜になり、浜松城城門付近では戻って来る徳川勢の数は増しています。そして遠くに見える武田軍の松明が明らかに浜松城に向かって進んでくるのが分かります。最期の一兵になっても戦うぞ! と守綱は鼓舞しますが、大半が大けがで動くことすらできない兵士たちばかりです。兵法三十六計はどうかと忠次は石川数正に提案します。「門を開けよ! かがり火を焚いて息を潜めよ!」
かがり火で明々と照らされた浜松城、城門も開いています。立ち止まった勝頼は何かの罠かと疑って撤退してきました。翌朝、そのことを信玄に伝えると、諸葛孔明が採った奇策「空城の計」であると昌景と信君が教えてくれます。勝頼は、すぐに浜松城を落とそうとしますが、信玄は自分たちの敵は徳川ではなく都に巣くう魔物だと、浜松城は見逃すことにします。信玄は浜松に対する時が惜しいのです。
浜松城で、家康は涙に暮れています。元忠は深手を負いつつ女・子どもを励まし、忠勝はかすり傷ひとつないと言い張り軍勢を立て直し、康政はわずかな手勢で南側の敵を追い払い、忠世も犀ヶ崖(さいががけ)にいる武田勢に夜討ちをかけ、みなやれることをやっています。みなに行かされた──。今回の戦で、家康はそう感じずにはいられません。「必ず立て直すぞ。家康は生きておる、そう言いふらせ」
戦をするときはすでに勝ちが決まっているという武田軍を、次に迎え撃つことになる織田方では、信長が重臣たちに訓示を与えます。「俺はお主たちには勝てとは言わぬ。ただ己のなすべきことを全てなせ。さすればあとは天が、この信長か信玄かどちらを選ぶかじゃ」 そこに座して信長の言葉を聞いている藤吉郎のもとに、一報が入ります。天はもう選んでしまったかもしれない──と藤吉郎はニヤリとします。
岡崎城も、迫りくる武田軍と対するために準備に余念がありません。瀬名もみんなを鼓舞しています。そこに急報が舞い込み、平岩親吉が声を荒げます。そして京でも「なぜじゃなぜじゃ!」と義昭は慌てふためきます。光秀に尋ねても要領を得た答えは返ってこず、義昭は光秀を蹴飛ばします。信玄が来ないという事態は、義昭には想定外のことです。
なぜかという詳細は不明ながら、武田勢は進路を変えて甲斐に引き返しています。家康も、信玄に何が起きたのか全く分かりません。
元亀4年(1573)年4月、武田軍の進撃は長篠城で停止し、甲斐に向けて撤退する。
慶長8(1603)年2月12日、徳川家康が後陽成天皇から征夷大将軍に任命されるまで、
あと29年10ヶ月──。
作:古沢 良太
音楽:稲本 響
語り:寺島 しのぶ
題字:GOO CHOKI PAR
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松本 潤 (徳川家康)
有村 架純 (瀬名)
岡田 准一 (織田信長)
大森 南朋 (酒井忠次(左衛門尉))
山田 裕貴 (本多忠勝(平八郎))
杉野 遥亮 (榊原康政(小平太))
音尾 琢真 (鳥居元忠(彦右衛門))
甲本 雅裕 (夏目広次)
小出 伸也 (大久保忠世)
波岡 一喜 (本多忠真)
岡部 大 (平岩親吉(七之助))
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眞栄田 郷敦 (武田四郎勝頼)
酒向 芳 (明智光秀)
橋本 さとし (山県昌景)
吉原 光夫 (柴田勝家)
立川 談春 (佐久間信盛)
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ムロ ツヨシ (木下藤吉郎)
古田 新太 (足利義昭)
田辺 誠一 (穴山信君)
寺島 進 (水野信元)
リリー・フランキー (久松長家)
松重 豊 (石川数正)
阿部 寛 (武田信玄)
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制作統括:磯 智明・村山 峻平
プロデューサー:大橋 守・釜谷 正一郎
演出:村橋 直樹
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『どうする家康』
第19回「お手付きしてどうする!」
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