プレイバックおんな太閤記・(23)女人悲願
織田信長の突然の死は多くの人たちの運命を変えることになった。信長の跡継ぎと遺領分配のために、織田家の宿老たちによって開かれた清洲会議で、信長の妹・お市は柴田勝家と再婚することになり、秀吉の領国であった北近江は山城と引き換えに勝家に譲られ、羽柴一族は長浜城を明け渡して急きょ姫路城へ移ることになった。
天正10(1582)年・秋。8年にわたり住み慣れた長浜城の隅々を見て回りながら、ねねは初めて長浜城に入ったころのことを思い出していました。秀吉がひげを生やしていたこと、打掛が歩きにくく世話役のこほに注意を受けたこと、夫婦喧嘩して仲直りしたこと。ねねは次に暮らすことになるお市に、この長浜城を愛おしんでくれたらとつぶやきます。
だがお市は、元浅井の所領であった近江に暮らすことを拒んで長浜城へは入らず、勝家とともに越前北ノ庄にある勝家の居城へ移っていった。北ノ庄城に入った勝家とお市を、前田利家とまつが挨拶に出向きます。そこには茶々・初・小督の三姉妹とまあも並んでいます。まあは利家とまつの子で人質として送られていて、勝家は4人の娘たちの父親になりうかうかしていられないと笑います。
北ノ庄は冬になると雪に埋もれてしまうような土地で、まつはそれとなくお市を気遣いますが、お市には勝家も娘たちもいるし、ひっそりと日日暮らしていければそれだけでいいと考えています。「雪に埋もれて暮らすのも、幸せかもしれませぬ」と、お市は勝家の横顔を見つめています。
利家とまつは能登・七尾城に戻ります。まつは、信長亡き後のお市が頼る者もなく、仕方なく勝家に嫁いだとばかり思っていましたが、今日の対面でことのほか幸せそうで安堵の表情を浮かべます。勝家にとっても、お市と結婚したことで織田一門となり、勢力争いで一歩有利に運ぶと考えての結婚ですが、勝家もお市にほれ込んでいます。
勢力争いに加わるのであれば京に近い長浜城のほうが有利ですが、小谷城は目と鼻の先であり、あの出来事を思い出したくないお市を慮(おもんばか)って、不利を承知で北ノ庄城に引きこもったものです。秀吉は山崎に城を築いているというし、もし雪のさなかに事が起これば、雪に阻まれて軍勢を動かすことが出来ません。
秀吉と勝家が敵対するようなことになったら、とまつは顔から血の気が引いていきます。秀吉のところには豪が、勝家のところにはまあがいるのです。「案じるな」と利家は諭します。北に上杉、東に徳川と北条、西に毛利と天下を狙うものがひしめいている中で、内輪もめをしている場合ではないのです。しかし豪はいいとして、まあは三姉妹がいるし不憫でならないと涙を流します。
ねねたちはようやく姫路城に到着しました。浅野長政と秀長の妻・しのが出迎え、ねねもなかも懐かしそうにしのを見つめます。そしてややも長政と久々の対面です。備中高松城を攻めていたころは毛利は敵でしたが、今では秀吉の味方となり、戦のない時が過ごせるとややは笑っていますが、長政はそれには答えず話をはぐらかします。
そこに山崎にいるはずの秀吉が現れます。秀吉は「長政とゆっくりと別れを惜しまれたらよい」と意味深な言葉を投げかけて去っていきます。長政によれば、杉原家次とともに京都奉行に命じられ、翌朝にも京へ発たねばなりません。やっと姫路に来て一緒に暮らせると思ったのに、また離れ離れになってしまうと、ややは駄々っ子のように反発します。「やじゃやじゃやじゃ……オニ!」
秀吉はねねたちが休んでいる広間に赴きます。山崎築城に忙しいと聞いていたので、思いもよらぬ再会です。秀吉は上機嫌に豪を呼び、婿を決めたと言い出します。相手は宇喜多秀家で、宇喜多家を継ぎはしましたが秀吉の養子としていた子です。「何よりの縁組じゃ。いずれ天下は治まろう。その折には盛大な祝言じゃ」
夕方になると、ねねは庭の草木に水を上げながら浮かない表情で、手にしていた柄杓を離して放心状態です。秀吉の姿に気づいたねねは、播磨に山崎に京にと多忙を極める秀吉に、山崎に兵を集めている現状、まだ戦をするつもりなのかと問い詰めます。清洲会議によって信雄も信孝も勝家も秀吉も領国が決まり、三法師が後継と決まったのだから、その所領を治めるということでいいではないかと言いたいのです。
勝家は越前に引きこもったのに、秀吉にはできないとはどういうことか。山崎を居城にするならともかく、他に築城の目的があるなら……。秀吉はねねをたしなめますが、昔の秀吉ならどんなことでも話してくれたとねねは寂しそうにつぶやきます。秀吉はねねを日本一の幸せ者にしてやると豪語しますが、ねねは冷めた目で首を横に振ります。「今のお前さまは……遠い遠いところにおいでのような気がいたします」
冬、城内でともの子・孫七郎と小吉が弓の稽古中です。二人ともメキメキ上達してともの笑いが止まりません。あさひは目を細めつつ、侍のたしなみである弓が、戦で役に立つようなことにはなってほしくないとつぶやきます。戦がないのが一番となかは諭しますが、最近は戦の話を聞かなくなりました。
ねねは城下の様子を見に行っていたようで、米も豊作だそうです。戦がなければ田畑が荒らされることもないのですが、自分の領地を放っておいて秀吉は何をしているのかとなかが尋ねると、秀吉はいろいろ多忙らしいとねねは話をぼかします。そこに隠密のみつが現れ、ねねは部屋に招き入れます。孫七郎と小吉の弓の稽古は続いていますが、たくさん射ても的の真ん中には矢が刺さっていません。
10月15日、秀吉が執り行った大徳寺での信長の葬儀について報告します。1万の兵による警護の中、秀勝が棺を担ぎ、秀吉は太刀持ちを務めたそうです。ただ、信雄や信孝、勝家やお市は参列しなかったものの、名だたる武将や民衆も集まり、秀吉の権勢がうかがえる葬儀だったようです。そして帝は秀吉の武功を褒めたたえ、秀吉は気従五位下 左近衛権少将に任ぜられることになりました。
下がってゆくみつを追いかけて呼び止めたねねは、秀吉のやりようが解せないと伝えます。勝家を差し置いての信長の葬儀取り仕切り、朝廷から叙任されたことなど、他の重臣たちが黙っていないというのです。自分が信長の後を継ごうと考えているとしか思えず、そのためにいろいろ探っているのかとみつを見据えます。「私とて戦にならぬよう、筑前さまを信じてお務めを果たしておるのでございます」
日没を迎えたというのに、明かりも灯さずねねは外を見つめています。そこにまつから火急の文が届きます。月明かりで一読したねねは、表情を一変させると明日山崎へ発つと言い出します。文を届けたこほは、まつが何を伝えたのかねねに尋ねますが、ねねはそれには答えず、進之介に供をさせ、こほには旅の支度を急がせます。
北ノ庄城では、勝家の家臣・佐久間十蔵をまあ姫と婚約させる内輪の宴が開かれていました。茶々は「ええ男、うらやましい限りじゃ」とからかいお市にたしなめられます。利家は勝家の名代として山崎へ向かうことになっていて、いま事を構えるのは天下を乱す元だという勝家の気持ちを伝える予定です。
北ノ庄では雪が積もり始めます。信長の下で戦ばかり続けてきた勝家は、この年齢になって初めて人を慈しむ気持ちを持ったと照れています。ともかく晩年にようやく得たこの幸せを誰にも壊させたくないのです。自分に味方する信孝は秀吉と対立するようになり、そのために利家を使者に立てたのです。
山城国・山崎城──。ねねが到着したと聞いた秀吉は、女とは気楽なものだと呆れますが、ねねはそれには答えず秀長を呼び出します。秀長にしのからの文を渡し、目が見えないほうが相手の心が見えるのかもしれないとつぶやくねねは、秀吉の心が見えなくなったと秀長に打ち明け、秀吉と勝家がうまくいっていないのは本当なのかと問い詰めます。ねねはまつからの文でその事情を知ったのです。
秀長は、秀吉を引き止める者は誰もいないと認めます。忠勤を励んでいた秀吉が、いざ目の前に天下がぶら下がると……。すっかり人が変わってしまったと秀長はため息交じりです。ねねはすっくと立ちあがり、秀長を見据えます。「よう分かりました。そのようなことはさせませぬ! そのためにここに来たのじゃ」
そこに利家とまつが到着したと進之介が知らせに来ました。利家はねねが山崎城にいることに驚いていますが、ねねとまつが示し合わせてのことのようです。後からついてきた秀長も、利家に一礼します。
何も知らない秀吉を交え、ねねと利家とまつで宴が始まります。利家は信孝との不和は勝家にとっては迷惑な話だと、織田家中が争うことに疑問を呈します。まつは、秀吉の養女の豪も勝家の養女のまあも、どちらも自分が腹を痛めた子だとし、勝家と戦をするのだけは避けてほしいと頭を下げます。ねねも同じ思いで、そのお願いに姫路から山崎まで来たと秀吉に打ち明けます。
「取り越し苦労なされて……勝家どのには何の他意もござりませぬ」 秀吉は途端に笑い出します。しかし秀吉の次の言葉を聞きたい3人は、秀吉を見つめたままです。母親の一念とは岩をも動かすものだと感心する秀吉は、天下のことになると酒がまずくなると利家の盃に酒を注ぎ入れます。3人の表情はいまだに変わっていません。
酒に酔った秀吉は横になって寝ています。ねねは秀吉に声をかけて白湯を渡します。ねねは、秀吉は変わったと秀長が言っていたことを伝え、三法師を支えて織田家を守るのが信長へのご恩返しだと諭します。秀吉は「もうええ」と遮り、おんなは強いと苦笑いです。ねねの膝にごろんと寝転がり、そのまま寝てしまいます。
天正10年11月2日、利家たちを使者に立てた勝家と秀吉との和睦交渉は無事成立。ねねとおまつが胸をなでおろして北と西に分かれ、能登と姫路に帰った。が、天下の趨勢(すうせい)はねねとおまつの願いを裏切り、大きな悲劇へと流れ始めていたのである。
天正10(1582)年6月27日、織田家の継嗣と領地再分配について清洲会議が開かれる。
慶長8(1603)年2月12日、徳川家康が後陽成天皇から征夷大将軍に任命されるまで、
あと20年7ヶ月──。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:山田 誠浩 アナウンサー
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[出演]
佐久間 良子 (ねね)
中村 雅俊 (羽柴秀長)
浅芽 陽子 (やや)
滝田 栄 (前田利家)
音無 美紀子 (まつ)
津島 恵子 (こほ)
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夏目 雅子 (お市)
近藤 洋介 (柴田勝家)
池上 季実子 (茶々)
長山 藍子 (とも)
田中 好子 (しの)
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赤木 春恵 (なか)
泉 ピン子 (あさひ)
尾藤 イサオ (浅野長政)
西田 敏行 (羽柴秀吉)
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制作:伊神 幹
演出:北嶋 隆
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『おんな太閤記』
第24回「北の庄落城」
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