大河ドラマどうする家康・(39)太閤、くたばる ~無念! 家康へ、秀吉の遺言~
名護屋城から大坂城へ慌てて帰って来た豊臣秀吉。その視線の先には、茶々の腕に抱かれて眠る赤子の姿があります。玉のような男の子にございます、と寧々も秀吉の帰りを待ち望んでいました。秀吉は、多くの者を殺めてきた手だと抱き上げるのを躊躇します。秀吉は振り返り、若君誕生に沸き立つ家臣たちを睨みつけます。「穢れた者を近づけるな! これに粗相した者おれば、誰であろうと成敗してよい」
太閤秀吉に再び子が生まれたのは、壮大な夢である唐入りを和議を持って終結すると決めた直後にございました。秀吉は、7か条を示し明国と和議を結ぶと宣言します。小西行長は自分たちの意見も取り入れてほしいと主張しますが、最大の譲歩である、と秀吉は聞き入れません。
石田三成は徳川家康の元を尋ね、7か条の文書を見せます。「明国皇女を天皇の妃とすること」「朝鮮皇子を人質に差し出させる」「朝鮮の南半分の領地を得る」など、このような和平案を明国が受け入れるとは到底思えません。三成は、力ではなく知恵、合議によって政を行っていくという新たな仕組みが必要だと夢を語りますが、家康は夢を語っているだけでは夢のままで終わってしまうと三成の背中を押します。
文禄4(1595)年・京──。神の君がお訪ねになったのは、隠居して久しいこのお方のお屋敷。よろよろと姿を現したのは酒井忠次です。頭はすっかり白くなり、視力もほとんどありません。後ろから登与がからかいますが、忠次はその声の主を聞いてしっかりと人を判別しているのはさすがです。
家康は訪問に際して、息子の徳川秀忠も同行して挨拶をさせます。秀吉のたっての願いにより、秀忠は茶々の妹・江と結婚することになったのです。秀吉は豊臣と徳川をつなぎ止めるのに必死だと苦笑します。どうやら秀忠は「えびすくい」を見たことがなく、忠次に舞ってほしいわけですが、無理させてはならないと家康が止めるのも聞かず、忠次は背筋をピンと伸ばして舞い始めます。
海老すくい 海老すくい (よっ)
川また (はっ)どこら ほどにおりゃしゃあす (はっ)
ふな あゆ ふな あゆ ふな あゆ ふな あゆ (はっ)
海老すくい 海老すくい (それ)
海老すくい 海老すくい (はっ)
海老すくい 海老すくい (それ)
海老すくい 海老すくい (はっ)……
夕暮れ。よく耐え忍んだと、まるで子どもを褒めるように忠次は家康に抱きついて労わります。家康にすれば忠次がいたからの一言に尽きますが、家康がいくつもの困難をこらえてきたから徳川は生き延びて来られたと諭します。「一つだけ願いを……天下をお取りなされ。秀吉を見限って、殿がおやりなされ」 家康は、天下人は嫌われるばかりだとつぶやくと、忠次は浮かない表情になります。
その3か月後、雪の降る日。登与の視線の先には鎧に身を包んだ忠次の姿がありました。家康から陣触れがあったと、嬉しそうです。しかし忠次が立ち上がるも、すぐによろめき座り込んでしまいます。登与はそんな忠次を止めもせず、お手伝いいたしましょ、と鎧の緒をしっかりと締めます。できた、とばかりに肩をポンと叩く登与ですが、忠次はそのままこと切れていました。「ご苦労さまでございました……」
文禄5(1596)年9月1日。ついに明国皇帝の返事が秀吉の元にもたらされました。朝鮮使節が詔書を読み上げ、西笑承兌が同時通訳します。その内容に秀吉は「満足である」と穏やかな表情です。しかしこれは、戦を終わらせるために小西らがでっちあげた偽物で。それを知った秀吉は行長に刀を振り上げ、大広間は大混乱。秀吉は再び開戦を主張します。
たまらず家康は秀吉に再考を促します。秀吉は前の戦で何も得られなかったがゆえに、再び戦を仕掛けると悪びれる様子もなくつぶやきます。徳川は兵を出さないと迫っても、勝手にせえと聞き流されます。戦いに勝てずとも利を得る方法はいくらでもあると、秀吉は自分に任せておけばいいと聞きません。秀吉は三成に朝鮮攻めの用意を始めさせます。
かくして……。慶長2(1597)年6月、秀吉が諸大名たちに下知します。歯向かうものは老若男女、僧俗にかかわらずなで斬りを命じます。……だれも望まぬ戦が再び始まりましてございます。「第二次朝鮮出兵」の開始です。
伏見城には無数の桶が届けられます。本多正信は、朝鮮の戦地から送られてきた“鼻切り”だと説明します。通常であれば討ち取った首を持ち帰るものですが、それが困難な場合に鼻と耳を切り落としてその代用とし、手柄とする習わしです。戦は外だけではなく、国の内外もめちゃくちゃになっていると正信は呆れていますが、家康は、策は無限にあると言った秀吉を信じるしかありません。
そのころ拾は豊臣秀頼と名を改め、羽子板をして遊んでいました。その羽根が秀吉の目の前に飛んでくると、ゆっくりとかがんで羽根を取ってやります。礼を言う秀頼に羽根を渡そうとすると、そのまま庭に倒れてしまいます。寧々や近習、侍女たちが秀吉の周りに駆け寄り、秀吉の名を呼び、あるいは薬師を呼びに行ったりと騒然としますが、茶々だけは遠くからその様子を眺め、慌てる様子はありません。
見舞いに訪れた三成に、幼い秀頼に代わり誰が天下人になるかと秀吉が尋ねると、三成はフッと息を吐くとうっすら笑みを浮かべ「天下人は無用」と返答します。豊臣への忠義と知恵ある者たちが話し合いで政を進める──かつて家康に打ち明けた、三成の夢を披露するのです。秀吉が願うのは世の安寧と民の幸せであり、三成と同じことを考えていた秀吉は、三成に一任することにします。
さっそく三成は家康の元に報告に上がります。家康は三成を励ましますが、前田利家は野心を隠し持つ大名をどう抑え込むかが肝要だと発言します。三成は膝を進め、家康と利家には力のある大名をまとめ上げてもらい、五奉行を支えてもらいたいと頭を下げます。家康には異論などなく、三成は大喜びです。ともかく秀吉の快癒はめでたいことであり、利家は朝鮮出兵もうまく収まることを期待しつつ、家康と利家、そして三成で祝杯を挙げます。
しかし、太閤の容態は再び悪化していったのでございます。せきこむ秀吉の枕元で、茶々が必死に看病しています。秀吉がどうしても話がしたいと家康が呼ばれ、寧々の計らいで人払いをされて二人きりです。「秀頼を頼む……」と秀吉は力なくつぶやきます。秀吉は家康の孫である千姫と秀頼をくっつけてくれ(=婚約)と言い出し、家康も二つ返事で了承します。
家康が知りたいのは、この戦の始末をどうつけるかです。世の安寧や民の幸せを願うのであれば、最期まで天下人の役目を全うするよう迫ります。しかし秀吉の口から出たのは、“世の安寧や民の幸せを願う”と言ったのはうそだということでした。秀頼が幸せに過ごしていけるなら世の安寧などどうでもよいとつぶやき、家康は愕然とします。
天下はどうせ家康に取られてしまう、と秀吉がつぶやくと、フフ……と家康は笑いを漏らします。そんなことはしない──三成らの政を支えるというのです。秀吉は家康を小突き、合議制の政治はうまくいかないと見据えます。「今の世は、今のこの世はそんなに甘くねえ……豊臣の天下は、わし一代で終わりだわ。あとはおめえがどうにかせえ」
唐入りして朝鮮や明から反感を買い、誰も得をしない戦をして民も怒っている。そんな天下を投げだす秀吉に怒りが湧いてくる家康です。おまけに猿芝居で死んだふりをするなど、家康は秀吉のことが大嫌いになりかけます。信長は没後に後を継ぐのが家康だと信じていた節があり、秀吉はそれが悔しいわけですが、それでも家康のことは好きだったようです。
「二度と戦乱の世には戻さぬ。あとは任せよ」 そう言う家康に安堵したのか、秀吉は鈴を鳴らして家康を下がらせます。
再び秀吉は病床につき、せき込んで苦しむ日々が続きます。吐血し、あまりの苦しさに呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばしますが、枕元に座す茶々は呼び鈴をわざと遠ざけ、手の届かないところにやってしまいます。「秀頼は……あなたの子だとお思い? 秀頼は、この私の子。天下は渡さぬ……あとは私に任せよ、猿!」 秀吉は、茶々の胸で息を引き取ります。
家康はひとり思案にふけっていました。信長にも秀吉にもできなかったことが、自分にできるか? そう問いかける家康に、会いに行った時の忠次はにっこり微笑みます。「殿だからできるのでござる。戦が嫌いな殿だからこそ……嫌われなされ」 家康を見つける忠次は、力強く励まします。天下をとりなされ!
慶長3年(1598)年8月18日、太閤豊臣秀吉が薨去。享年62。
慶長8(1603)年2月12日、徳川家康が後陽成天皇から征夷大将軍に任命されるまで、
あと4年5か月──。
作:古沢 良太
音楽:稲本 響
語り:寺島 しのぶ
題字:GOO CHOKI PAR
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松本 潤 (徳川家康)
大森 南朋 (酒井忠次)
山田 裕貴 (本多忠勝)
板垣 李光人 (井伊直政)
松本 若菜 (阿茶局)
猫背 椿 (登与)
森崎 ウィン (徳川秀忠)
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中村 七之助 (石田三成)
でんでん (西笑承兌)
忍成 修吾 (大谷吉継)
池内 万作 (小西行長)
佐藤 隆太 (豊臣秀長(回想))
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北川 景子 (茶々)
ムロ ツヨシ (豊臣秀吉)
宅麻 伸 (前田利家)
松山 ケンイチ (本多正信)
和久井 映見 (寧々)
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制作統括:磯 智明・村山 峻平
プロデューサー:堀内 裕介・国友 茜
演出:村橋 直樹
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『どうする家康』
第40回「天下人家康」
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