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2024年1月30日 (火)

プレイバック風と雲と虹と・(09)火雷(からい)天神

小一条院への行き帰りに、その脇を通る荒れ屋敷。その主である姫君の看病をすることになろうとは。初めてしげしげと眺めるその横顔は、高い熱に襲われて見ている小次郎の胸が切なくなるほど苦し気であった。朝を迎えると姫の呼吸も落ち着き、乳母は看病疲れで眠っています。貴子姫の額に手を当てる将門は、熱が下がってホッと胸をなでおろし、表へ出て大きく伸びをします。

都にも、こんな静かな朝があったのかと小次郎は思った。無論、前夜からの雪がもたらした静けさに違いない。しかし、いま彼の心に訪れている安らかさは、そのためばかりではないに違いなかった。部屋に戻ると、眠っていた貴子姫はじっと将門を見つめていました。緊張で引きつった笑顔を見せると、貴子姫も笑みを浮かべますが、姫はそのまま眠ってしまいます。

皇子の姫君ということもあり、将門は大工を入れて荒れ屋敷を修繕します。その様子を脇から眺める将門ですが、伊和員経は修繕にかなり金がかかり、付け届けも考えれば金子が足りないと言いたげですが、差し出た物言いに将門はムッとします。そこに慌てて乳母が駆けつけ、どうして立ち寄ってくれないのかと食い下がります。姫にとって将門は恩人であり、対面を願っているようなのです。

いざ対面すると貴子姫はよく笑い、こんなに明るく快活な姫だったかと将門はとても驚きます。乳母は、まるで童のようだと笑いますが、それも将門と会えた嬉しさかもしれません。発熱した雪の翌朝も、将門の顔を見て微笑んだ貴子姫。「なぜだか安心したの。あなたのお顔を見て」 しかし、何かにつけて世話をしてくれていると思い出した貴子姫は、表情を硬くします。

その会話を裏で聞いていた乳母は、姫の元を辞する将門に駆け寄ります。将門は貴子姫にできるだけのことはしてあげたいという気持ちでやったことで、他意はないわけですが、乳母にはそれも十分承知しています。ただ、これからもたびたび立ち寄ってほしいと頭を下げます。姫は長らく孤独で、話し相手は乳母だけだったので、その話し相手になってもらいたいというのです。

 

東の市では、大工として屋敷に入っている傀儡(くぐつ)の男が、藤原純友に報告します。坂東武者が女に恋か……と純友は感心します。「はじめは甘く楽しく、やがては心を狂わせる底なし沼だ。女というやつは」 美濃は、その恋を壊そうかと純友に提案しますが、放っておけ! と純友は笑います。話を聞いていた鹿島玄明は、将門が通うその女がどんな人か気になります。

将門は、朱雀大路の右近馬場の火雷(からい)天神へ、貴子姫を連れて病気平癒のお礼参りに向かいます。玄明とともにその様子を物陰に隠れて見ている純友は、あれは恋だなとニヤリとします。ふと将門と目が合ってしまい、気まずそうに目を背ける純友と玄明ですが、すれ違いざまに一礼する将門に、純友は「や」と手を上げて見送ります。玄明は土壁と木の間に入ってうまく隠れます。

右近馬場の火雷天神は、菅原道真を祀った社である。道真が藤原一門によって都を追われ、九州の大宰府に憤死したのは、小次郎の産まれた年のことであった。参拝を終えた貴子姫ですが、そのまま神殿に上がって自分の運勢を巫女に占ってもらいます。乳母は将門にも同席を依頼しますが、言葉を濁す乳母に将門は困惑します。

巫女・多治比の文子は、坂東の男についていけば道は開けると占い、卒倒します。お祈りしながら貴子姫は我が意を得たりとニンマリし、将門は巫女に圧倒されます。その様子を玄明と螻蛞婆(けらばあ)は天井裏から見ています。玄明は、将門をつけ狙う男の存在に気づいていて、滅多なことでは不意打ちを食らうような男ではないが、と言いつつ気になって後をついていくことにします。

将門の前に現れたのは平 貞盛でした。貞盛は将門が連れていた姫を気にしつつ、去り際に「浮気は大概にしろよ! 国許に待つ人のいる身だからな!」と叫んで意地悪します。途端に貴子姫は屋敷への道を急ぎ足で戻っていきます。将門も必死で追いかけますが、国許で待つ人のことを知った貴子姫は、振り向いてキッと睨みつけます。「あなたはひどい方です!」

将門は、貴子姫の一言がかなり効いたようです。そこに貞盛が再び現れ、除目が来月に迫っていることを伝えますが、すっかり忘れていた将門を見て、貞盛は将門が貴子姫とただならぬ仲と睨みます。しかし一夜を共にしたことがないと知り、もったいないとひどく残念がります。不器用な男だから深入りしない方がいいと納得しつつ、付け届けは忘れないように員経に命じて貞盛は帰っていきます。

翌朝、やはり小次郎は貴子の館を訪れた。将門は、除目で検非違使丞かそれ相当の役職に就くことが出来れば、坂東に戻ると貴子姫に打ち明けます。国元に戻れば、待っている女性がいる……と貴子姫の表情が曇りますが、明日も明後日もその次の日も、京にいる間はこの屋敷に通ってくれると約束する将門に、貴子姫はすぐに笑顔になります。

 

3月の半ば、除目の日が来た。小一条院の侍たちでは5人ほどが望みの官位を得ただけであった。官位を得られなかった三宅清忠は、同じく無官の将門を励ましています。貞盛は上洛して一年というのに、進物のおかげか左衛門府の役職に任じられたようで、世渡りが達者だと清忠に感心されます。将門は衝撃を受けながら、話に合わせて笑っています。

三条の大臣・右大臣藤原定方(さだかた)の家人になっていた太郎貞盛が従八位上。それは分かっていたことだと小次郎は思った。がやはり、それにしても苦いものが胸いっぱいに広がっていくようであった。酒をあおる将門に、員経は「このような時こそ、あの姫君のもとへ」と背中を押します。

屋敷の前まで来て、一瞬躊躇する将門ですが、意を決して中へ入っていきます。その後をつけて、武蔵と季重が追ってきました。死んだ季光の仇、と刀を抜こうとするふたりの前に立ちはだかったのは、玄明でした。「会ったことがあるね?」との武蔵の声に、玄明は女であると気づきます。ともかく場所を変えようと玄明は提案し、空高く飛び上がります。

そんな対決が行われていることも知らず、将門は自分の思いを面白おかしく語って貴子姫と乳母を笑わせます。それでも中に秘めた熱いものがあったのに、貴子姫に会ったらスッと解けて、会ってよかったとつぶやきます。貴子姫も、将門が出世しなければいつまでも京にいられるわけで、さすがに乳母がたしなめますが、悪びれる様子もなくクスクスと笑う貴子姫に、将門は癒されます。

刀を交える玄明と季重ですが、武蔵は面を外して玄明を見据えます。いつか笛を吹いていた。その調べは……。刀を下ろすスキを見て、武蔵は玄明を攻撃します。ほほに切り傷を負った玄明は、武蔵に斬りかかります。激しく相戦う玄明と武蔵。この二人の間をどんな縁(えにし)の糸が結んでいるのか、今はまだ誰も知らない。

将門邸に赴いた貞盛は、員経の案内で貴子姫の屋敷にやって来ました。貞盛は任官を将門に祝ってほしかったわけですが、不在だったのです。乳母は貞盛が将門の従兄弟ならと、この屋敷でご一緒にと貞盛を案内します。貞盛の軽口を心配する将門ですが、口は慎むと言って屋敷の中に足を踏み入れます。

小次郎の胸に、この時なぜか不吉な予感のようなものが兆していた。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 貞盛)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
木の実 ナナ (美濃)
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緒形 拳 (藤原純友)
太地 喜和子 (武蔵)
吉行 和子 (螻蛞)
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奈良岡 朋子 (乳母)
吉永 小百合 (貴子)
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制作:小川 淳一
演出:大原 誠

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第10回「純友 西へ」

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