プレイバック風と雲と虹と・(05)平安の都
小督に会いに屋敷内に侵入した平 将門を咎めたのは、屋敷の主で小督の父・源 護でした。将門は恋をしたと打ち明けますが、護は真っ正直な将門を笑いつつ、父親として受け入れられないと厳しい表情です。ただ護は何が何でも拒絶するわけではなく、将門と小督の間に誰か仲介役を立てよと助言して、将門を屋敷から逃がします。事を構えたことのある源 扶に見つかると、血気盛んがゆえに何かと面倒なのです。
源 護の家には、三女小督の上にまだ嫁がぬ次女定子、そして一度は縁付きながら先ごろ婚家から戻ってきてしまった、気性の激しい長女の詮子がいた。常陸の国司・大掾という高い地位にある護にも、頭の痛いことであった。詮子は護が誰かと会話していたと感づきますが、関わりないことだと護は内容については伏せておきます。直後、扶がニヤリとして屋敷を抜け出して出ていきます。
誰かを仲介役に……と頭のいっぱいの将門が屋敷を後にし、物陰からその様子を見ていた平 貞盛は、ちゃっかり屋敷に忍び込んで侍女の手引きで小督の部屋へもぐり込みます。貞盛は将門が仲介役を立て、きっと結婚を申し込んでくると感じていますが、そうなったらどうするのか小督に尋ねます。小督はうふふと笑ってはぐらかします。
将門の調査の執念に、土地の一件がバレたのかもしれないと平 国香が戦々恐々としていたところ、朝になってやってきた将門は、「私は恋をしました」と頭を下げます。とんだ肩透かしを食らった国香は、土地のことではないと安心したのか、将門のために護のところへ出向いてやろうとたちまち笑顔になります。仮病を装っていた国香が咳をするのも忘れ、妻の秀子はそんな国香を皮肉ります。
護は嵯峨天皇の四代末で現在の大掾ですが、将門は桓武天皇以下五代の末で国香は前の大掾であり、良将は前の鎮守府将軍で家柄に不足はありません。吉報を待てと国香は笑顔で屋敷を後にします。小次郎の領地を横領していた国香にしてみれば、ホッと胸をなでおろす気持ちであった。この話がうまくいけば、諸事円満に片が付く。その上、平氏一族との血縁も源氏が拒むはずはない。
そわそわして国香の帰りを待つ将門ですが、半時もせぬうちに馬のいななきが聞こえます。不首尾に終わったのかと表情を曇らせる将門ですが、いやきっと先方が留守だったに違いないと考え直して、将門は出迎えに行きます。すると年ごろの少女とすれ違います。この少女は誰だろうと必死に思い出しながら、将門は笑って去っていく少女の背中を見つめています。
小次郎の胸に、何か屈託のない明るい、そして温かいものが萌(きざ)していた。彼は当面の心配事を、この瞬間忘れていたのである。佗田真樹が将門に伯父の平 良兼が来たことを伝えると、将門は「ああ!」とたちまち合点がいきます。あの少女が良兼の娘の良子であると思い出したのです。
護の屋敷に出向いた国香ですが、護は将門との縁談を承服しません。仲介役に前の大掾である国香が立っていることも、将門の人柄としても不足はないながら、護は実は小督を嫡男貞盛にもらってもらおうと考えていたのです。護の考えを聞き、国香は意外なことと戸惑いを隠せません。
屋敷に戻った国香を出迎える将門ですが、とても難しい顔をする国香にたちまち心配になります。国香は良兼と二人きりでひざを突き合わせて密談しています。一方、護の屋敷でも扶や詮子たちと話し合いが行われていました。源氏と平氏が手を取り合うことはとても喜ばしいことですが、護は小督を貞盛にと考えていながらも、将門に官位の一つでもあればと国香に伝えたことを打ち明けます。
後に国香に呼び出された将門ですが、国香は官位のことを伝えます。結婚のことにせよ、官位があることは何かと有利に事が運ぶからと、国香と良兼は将門に2~3年京へ行って奉公することを勧めます。そして将門が京へ行くときには、国香から貞盛も一緒に向かわせたいと聞いたうえで、将門は自邸に戻って相談すると帰っていきます。
そしてそのころ、護に呼ばれた小督に縁談の話がもちかけられます。扶は小督が貞盛に嫁ぐよりも将門に嫁いだ方がまだましだという考えですが、このことは小督の気持ちが大事だと考える詮子は、余計な一言ばかり言っている扶をたしなめます。小督は(貞盛も好きだが)将門も好きだと屈託のない笑顔を浮かべ、護や詮子を困惑させます。
将門が帰った後、貞盛は将門がどうであれ自分は京に行くと宣言します。国香や良兼は貞盛の上昇志向に驚き、将門に負けるなとエールを送ります。そして官位の大切さを説くのですが、貞盛にすれば官位など賄賂次第でどうにでもなると考えていて、それには国香と良兼はさすがに驚きます。ただ、あっけらかんとしている貞盛に、国香は貞盛の世渡り上手な一面を垣間見て頼もしく見つめています。
将門は家族にこのことを諮ります。棟梁である将門が2~3年に渡って京に行けば、代理とはいえ三郎将頼に棟梁の立場を任せることにもなります。四郎将平は将門が先に京へ行けば、学問がしたい将平は京へ行きたいという目標が立ちます。そして母の正子は理由はどうあれ将門の気持ちのままにしてほしいと願っています。将門はついに京に行くことを決心します。
その決意を見上げたものだと感心しながら、貞盛も京に行くとすでに決めているわけですが、坂東のために必ず帰ってくるであろう将門に対し、貞盛は必ずしもそうではありません。京に行けば自分の欲しいものが何でも手に入ると、京に対して憧れの気持ちが少なからずありそうです。その考えを聞いて小督は複雑な表情を浮かべます。
日本に中央集権的な国家が成立したのは7世紀半ば以後のことであり、その繁栄の象徴として奈良の都があった。平安京は8世紀末からの都である。それから100年あまり、10世紀はじめのこのころには皇室の権力は藤原氏に奪われ、大化の改新以来の中央集権制度も はや老衰期に入りかけていた。その目で見れば大内裏の広大壮麗さは、いたずらに昔の繁栄を物語る暗い記念物としか見えないはずであった。
だが、生まれて初めてこの往生の地に足を踏み入れた小次郎には、分かろうはずはない。ひたすらに驚嘆して眺めていた。見かけは殷賑を極める花の都でも、一皮むけば物乞いや盗賊ならず者、そのほか得体の知れない者たちの横行する退廃の街であった。
京では大道芸人たちが芸を披露し、螻蛞婆(けらばあ)が京の民人たちから投げ銭をもらっています。その大路の片隅で螻蛞婆や傀儡子(くぐつし)たちの中心にいるのは、酒をあおり飯を食らう武士です。“純友の殿”と呼ばれているその武士は頼もしい若者を探しに来ているようですが、なかなか眼鏡にかなう若者はいないと螻蛞婆はため息をつきます。
大道芸を楽しんで拍手を送る将門ですが、そっと近づいた男が将門の懐に手を伸ばそうとすると、感づいた将門は男の腕を掴みぶん投げます。「喧嘩だッ!」という声に武士はその場に駆けつけ、将門をじっと見つめています。すっかり場を荒らしてしまった将門は、黙ってその場を後にしようとしますが、ふと聞き覚えのある笛の音に来た道を戻ってきます。
藤原純友──この男こそが、やがて“東の将門” “西の純友”として天下を揺り轟かすことになる。すなわち、この物語の第二の主人公である。
原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 貞盛)
多岐川 裕美 (小督)
真野 響子 (良子)
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新珠 三千代 (将門の母 正子)
佐野 浅夫 (平 国香)
長門 勇 (平 良兼)
吉行 和子 (螻蛞)
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西村 晃 (源 護)
木の実 ナナ (美濃)
星 由里子 (詮子)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:小川 淳一
演出:岸田 利彦
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第6回「闇の群」
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