プレイバック風と雲と虹と・(08)京の姫みこ
平 将門の前に現れたのは藤原純友でした。そしてその肩越しに先輩家人の三宅清忠が立っているのを見つけ、驚きます。屋敷に招いた純友は、自身が高橋氏の出身で、将門の主にあたる藤原忠平のいとこにあたる藤原良範の養子に入って藤原姓を名乗っているわけです。この世で藤原と言えば聞こえはいいですが、家柄などは人の値打ちとは関係ないと純友は笑います。
この場にいるのは、純友、将門、清忠のほかに、紀 豊之という学者もいました。口論し諍(いさか)いながらも、みなが楽しげです。将門は純友がなぜこの席に自分を招いたのか不思議ですが、純友は将門を見据えます。「あなたはこの都を、腐り果てているとは思われませぬか」 いかにも、と将門は大きく頷きます。
軽やかな音曲に合わせて舞が始まりますが、そのころ屋敷の外では、将門の命をつけ狙う季重の姿がありました。まだ諦めぬのか? と螻蛞婆は季重を相手にします。季重は石を投げたりして螻蛞婆を追い払おうとしますが、それをあざ笑うかのように螻蛞婆は身軽なさばきで季重を翻弄します。
このような都は自分には合わず、健全な坂東に帰りたいとこぼす将門ですが、官位を得ていない今はまだ帰れそうにありません。「みんなそうですよ、かつての私もそうだった」と純友は打ち明けます。公地公民の制が国家の根幹だったはずなのに、貴族や官位の高い人々が荘という私有地にし始め、税を免れるために公民が貴族の家人になれば、公地は残された公民で支え、税が厳しくなっていくのです。
本来であれば坂東で民人とともに働き食っていくだけでいいはずなのに、嫌な都へ出て来て官位を得なければならないのは、国許(くにもと)での土地争いにも勝ち抜けないという現実との矛盾を純友は指摘します。公地公民の制は形骸化しているのに、これに基づいた政府や組織、法律がなお蔓延(はびこ)るのです。藤原忠平ら貴族はそれを知っていながら荘増やしに躍起になっている状態です。
将門は、そういった現実において純友が何をしようとしているのかを尋ねます。純友は少しうつむき、将門を見つめて微笑みます。「反逆……謀反さ。私はこの国を、根こそぎひっくり返してやろうっていうんです」 体力の限界まで舞い続けた美濃に、純友は惜しみない拍手を贈ります。将門は目を剥き、反逆などするつもりはないと声を荒げます。
屋敷の外では、季重(と加勢した武蔵)と螻蛞婆一派との戦いが続いていました。
都に、台風の季節が来ていた。小次郎が京に来てから、いつの間にか月日が過ぎていたのである。吹きすさぶ嵐を聞きながら、純友は考えていた。なぜ自分は小次郎のような男が気になるのか。小次郎のような素朴で頑固な男が、自分の志に動じてついに起つ時、初めて大望は成る。あのような男が自分と一体にならぬ限り、純友の大望はただの夢語りに終わるわけです。
小次郎もまた純友のことを考えていた。彼にとって純友は不思議な魅力を持つ人間であった。あれはやはり毒虫だと小次郎は思う。その毒がいかに魅力的であるにせよ、自分はそれに侵されはしない。自分にはそんな暇はないのだと小次郎は思い決めていた。
宿直番からの帰り道、将門はいつものように荒れ屋敷の横を通りますが、ただでさえ崩れかけていた屋敷が昨晩の嵐でさらにひどい状態になっていました。様子をうかがう将門はくぎを踏み抜いてしまいます。伊和員経が手当てをするところへ、乳母が水と布を提供してくれます。抱きかかえられながら将門が屋敷を振り返ると、空いた穴からこちらの様子をうかがう若い女性の姿が見えました。
平 貞盛が見舞いに訪れ、将門が荒れ屋敷に興味を持ったことを笑いつつ、付け届けという「運動」はしているかと尋ねます。来年三月の除目で官位を得て坂東へ帰らなければならないわけです。盗賊たちを追い払ったことが点数稼ぎになっていますが、それだけではいけないとはっぱをかける貞盛は、坂東に手紙を書いて進物を送らせろとうるさいです。
将門は員経を伴って、進物を持って荒れ屋敷に現れます。対応した乳母は、贈りものをいただく言われはないと一度は断りますが、その主が将門に対面したうえで、せっかくの思し召しなので、と受け取ります。早々に下がる将門を見送る乳母は名を尋ねますが、将門は「名乗るほどの者ではありませぬ」と微笑んで去っていきます。その後姿を、乳母は頼もしげに見つめています。
そして、また幾日かが過ぎた。雪のちらつく日、いつものように荒れ屋敷の横を通りかかると、乳母が将門を待っていました。「姫君のお命が危ないのです」 驚いた将門は乳母の案内で屋敷に上がり、横たわる姫のもとに座します。初めて見る姫の顔──。将門は外で待つ員経に、墨や薬師などの用意を命じます。
手遅れにならずに済んだと微笑む薬師に、将門と乳母はホッと一安心です。大事な女性をこのようなあばら家に住まわせるとは、今どきの若い者はと薬師はニヤニヤしますが、将門は反論せずにうつむきます。将門は砂金を薬師に渡し、夜道を送ろうとしますが、愛する殿御がそばにいてこそ何よりの薬だと笑って帰っていきます。
将門は、郎党をひとり置いて帰ろうとしますが、乳母はできればこのまま、せめて今宵一夜だけでもいてほしいと慌てて手をつきます。それもそうだと思い直した将門は、姫の名を尋ねます。「貴子、と申し上げます」 ようやく小康を得た姫の横顔を見つめながら、小次郎は京に来て初めて心が安らぐのを感じていた。
原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 貞盛)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
木の実 ナナ (美濃)
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緒形 拳 (藤原純友)
太地 喜和子 (武蔵)
吉行 和子 (螻蛞)
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奈良岡 朋子 (乳母)
吉永 小百合 (貴子)
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制作:小川 淳一
演出:重光 亨彦
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第9回「火雷天神」
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