プレイバック風と雲と虹と・(02)恋あらし
成人した小次郎将門は、陸奥胆沢城から故郷の豊田に向けて駆けていた。小次郎が母に会うのは数年ぶりのことである。帰ってきた将門は、相撲を取って三郎将頼をぶん投げます。一方、四郎将平は学問好きで、身体も弱いからと母の正子はかばいますが、坂東武者も学問は必要だと将門は応援します。ただ、学問を見てやると言ったものの、論語をすらすら読むなどはるかに先を行く内容に、将門は閉口します。
父・良将に代わって荘を預かって管理していた平 国香に、挨拶に行くように正子に勧められます。管理してくれていたのだからありがたいと感じていた将門ですが、その実態は国香の管理が行き過ぎているようです。国香への不満もたまり、将頼や乳母たちは口に出さぬとも目で訴え、ただならぬものを感じた将門は、ともかく国香へ挨拶に出向くことにします。
筑波山麓の西、現在の茨城県明野町東石田は、このドラマの時代には「石田(しだ)」と呼ばれ、常陸前大掾(ひたちのさきのだいじょう)・平 国香の館の所在地であった。国香は平 小次郎将門の父・平 良将の長兄であり、一族の長であった人物である。来訪を聞いた国香は、しばらく太郎貞盛に相手をさせておくように命じますが、貞盛はいつものように不在で国香は呆れます。
池のほとりで娘と密会する男。これは平 国香の嫡男・太郎貞盛である。娘は貞盛を慕っているわけですが、貞盛はどうやら本気ではないらしく、今日行われる筑波明神の祭りで会う約束をした姫君がいると打ち明けます。焼きもちで娘がふくれ、今度はいつ会えるの? と問いかけますが、貞盛はそれには答えずに帰っていってしまいます。
屋敷に帰ってきた貞盛を出迎える幼なじみの将門です。久々の再会を喜びますが、貞盛家来の佗田真樹(わびた・まき)は、将門に比べて貞盛の女遊びが過ぎると説教します。将門は女遊びを知らない純情少年ですが、真樹は貞盛といつまでもよい友であってほしいと願っています。女について貞盛がいろいろと教えていると、ふたりは国香に呼ばれます。
立派になったと国香は目を細めます。笑顔で出迎えながら、その用件が気になって仕方がありません。筑波明神の祭りに連れて行けと将門がせがむと貞盛がウソをつき、将門に早く帰ってもらいたい国香も、若いうちはいいことだと賛同して貞盛に連れていかせます。貞盛と将門が出ていき、真樹を呼び寄せた国香は、良将が将門を差し向けた本当の来訪理由は、預けている土地のことかと勘繰りだします。
弓矢を手に館を後にする貞盛と将門は、道中の屋敷に弓矢と馬を預け、明神の祭りに向かいます。その途中、鹿島玄道(かしまの・はるみち)がいて、貞盛は思わず身を隠します。悪行を働くお尋ね者ながら、なぜか捕まらない玄道に将門は興味を示します。そしてそこに加わった笛吹きの若者に将門は驚きます。貞盛曰く、玄道の弟の鹿島玄明(かしま・はるあき)で、兄の玄道よりも凶暴なのだそうです。
そのうち玄道に見つかった貞盛は、以前玄道の女を横取りしたからと逃げようとします。一方の玄明も、貞盛の女を横取りしたと主張し喧嘩に持ち込みます。玄明は、貞盛より玄道の方が女に好かれた、それだけのことで喧嘩をするのはつまらないと冷めていますが、男と女のことがよく分からない将門は、女を好きになったのかと直球で玄道に尋ねます。「俺が恋!? 女がみんな惚れるんだ!」
結局は喧嘩に発展せず、みんなで笑い合って解散します。しかしその様子を見ていた源家の郎党が、お尋ね者の玄道の姿を認めます。ただ郎党と行動を共にしていた源 扶(みなもとの・たすく)は、目的は玄道ではなく、源家の領地に堂々と入り込んでいる貞盛にあるようです。扶は祭りに向かう貞盛の後ろ姿を睨みつけます。「夜が明けたら……夜が明けたらな」
祭りに到着すると、貞盛は将門に女に目星をつけておけと助言します。しかし何をどうしたらいいのか、おろおろするばかりの将門です。そのうち祭事が始まると巫女が御神木の周りで奇声を上げ始め、将門をはじめその場の者たちが固唾を呑みます。そして巫女が卒倒すると、男女が歌に合わせてかがり火を中心に舞い始めます。貞盛もその輪の中に入り、将門だけがその場に立ち尽くします。
小次郎は、太郎貞盛が羨ましかった。自分もあんなにこだわりなく振る舞えたらと思った。ほんの少し気軽になって、いっとき少年の日のような素直な心になれば、そうなれば自分だって入ってゆける。しかし小次郎にはそれができなかった。彼は、巧みな人を見てはあんなに踊れればよいと思い、下手な人を見てはあの無邪気さがほしいと思いながら、ただ見ていた。
祭りが終わり、かがり火も消え、周りの草むらには抱き合う男女の姿があちらこちらに。ひとりとぼとぼ歩く将門は岩に腰かけますが、その後方ではまた別の男女がいて、邪魔するなと笑われます。気まずくなって、将門はまた夜道をとぼとぼと歩くしかありません。小次郎は行くところがなかった。どこへ行っても叱られるが、なぜかその林を立ち去る気にはなれなかった。不思議なものが身体中に燃えていた。
ふと遠くから、平手打ちする音と、女が嫌がっている声が聞こえてきました。その声を頼りに将門が駆けつけると、玄道が女を手籠めにしようとしていました。逃げる女を追おうとする玄道の前に立ちはだかり、将門と玄道の喧嘩が始まります。ただ、殴られてよろめいた先には男女がいて、かなり周囲の迷惑になっています。しぶといほど喧嘩が続いた後、両者とも力尽きて座り込んでしまいます。
健闘をたたえ合っていると、音も立てずに玄明が現れます。聞けばずっと喧嘩を見ていたそうで、兄の玄道としてもなかなか気色悪い弟です。 将門は玄明にまた笛を聞かせてほしいと声をかけますが、玄明はそれには反応せず行ってしまいます。小次郎は、久しぶりに全力を尽くして戦ったと思った。その後は心地よい疲れだけが残るはずであった。だが今夜は、何か檻のように不快なものが身体の中に深くたまっているようであった。
将門が歩いていると、ふと女に手をつながれます。見れば玄道から逃げた女でした。男は強くなければ、という女は、将門の手を引いて林の奥に駆けていきます。しばらく座って時を過ごした将門は、女がどこの姫かを尋ねますが、女は空を見上げたまま「今宵は恋の夜」と名乗らず。将門は女を胸に抱き、女と過ごす初めての夜が更けていきます。
娘と密会していた貞盛は、会う約束をした姫君がいるといって娘を置き去りにします。その貞盛の姿を見た途端、女は走って逃げていきますが、女を見つけた貞盛は追いかけていきます。その場に残った将門は、ハッとした表情を浮かべます。今の名の知れぬ姫のものとはまた違った香りであった。その香りに小次郎は確かに覚えがあった。
夜明けです。武装した扶ら一団が次々と進んでいきます。そういう者たちがいることも知らず、将門は林の中から出て来ます。小次郎にとっては全てが夢のような一夜であった。
原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 貞盛)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
多岐川 裕美 (小督)
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佐野 浅夫 (平 国香)
宍戸 錠 (鹿島玄道)
新珠 三千代 (将門の母 正子)
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制作:小川 淳一
演出:大原 誠
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第3回「矢風」
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