プレイバック風と雲と虹と・(04)筑波の楓(かえで)
小次郎は、追われるようにして陸奥の胆沢へ戻った。坂東で従兄の貞盛と源家の人々との争いに巻き込まれたからである。父の平 良将は、男の生涯にはいろいろなことがあるが、堂々と振る舞えとだけ諭します。小次郎が皆に請われて酒席に呼ばれている間、平 国香の書状を読んだ良将は、源 護への進物をどうするかと佗田真樹と相談します。
真樹が坂東に戻り、多くの進物を持って屋敷に謝罪に訪れた国香に、護は諍(いさか)いは無用にしたいと提案します。呆然とする国香に、源家と平家が親しみ合わなければならないと微笑みます。国香は思いがけない言葉に内から笑顔が出て、護の提案に同調しますが、面白くないのは同席している源 扶です。せっかくの機会をとムッとしたまま座しています。
鎮守府の外は猛吹雪です。将門は館の中にあって鎧の手入れをしていますが、いろりの奥には坂東で出会った女の顔が浮かんでくるようで、将門は火をじっと見つめています。北国の冬は長い。小次郎の胸からなお筑波の女の面影は消えない。だが、夢のように会って夢のように別れた女……そう割り切ることもできそうであった。
春になり、鷹狩りを楽しむ将門ですが、父の良将が大量に吐血し倒れたとの知らせで館に戻ります。薬師の難しそうな表情に、父の病状が重篤であると悟った将門は、寝ずに父の看病を続けます。民人たちも館の庭に集まり、良将の平癒を祈ります。良将はうっすら目を開け、将門の名を呼びます。「人は所詮、人としか生きられぬものだ。人々とともに生きよ。ともに働き……」 良将は息を引き取ります。
民人たちが見守る中、部屋内から出てきた将門は、たった今の父の死を伝えます。民人たちはそれぞれ手を合わせて冥福を祈り、そんな姿を目の当たりにした将門は、これまでの父が世話になった礼を伝え、深々と頭を下げます。鎮守府の館が悲しみに包まれます。平 良将は今、坂東へ帰る。小次郎将門の胸に抱かれて。
坂東は梅雨であった。降り続く雨に増水した川はともすれば氾濫して、人々がせっかく切り開いた公地を押し流す危険があった。父良将の葬儀をひとまず置いて、小次郎は民人たちと働いた。小次郎は常に先頭に立って働いた。一家を背負う身になったという自覚が、彼を怠けさせなかった。
梅雨が明けて間もなく、豊田で良将の葬儀が行われた。喪主の席に将門、続いて一門の国香、平 良兼、平 良文、平 良正、そして平 三郎将頼、平 四郎将平、正子が参列します。館には平氏一族の主だった人々が残った。この一家の将来について議するためである。
高望王が坂東に下って広げた土地を、分配してそれぞれ預かる現在の形ですが、良将が陸奥へ赴任している間、国香たちが代わりに面倒を見てきました。今回将門が後を継ぐにあたり、良兼や良文は土地も将門に継がせることに賛成します。国香は渋りますが、結局は押し切られます。「父の遺訓を守り叔父上方にご迷惑をかけぬよう、一家の頭領として坂東の男として生きていくつもりでございます」
真樹は、亡き良将が陸奥に赴任した際に国香に預けていた所領の手形を持ってきました。この手形を調べれば、将門の所領がどこで境界がどこかが判別するわけですが、手形が一部足りない事態になっています。正子も嫁入りの際に持ってきた土地だから、記憶違いはないと言い、将門は石田の国香館へ再訪することにします。
しかし将門は、国香が府中に行っていると言われ、そちらに向かうことにします。府中とは国の国府のある地を言う。このころ常陸国の府中は今の茨城県石岡市であった。将門の訪問に土地のことだと察知した国香は、平 貞盛も不在のことだし、風邪(仮病)を押して将門に対面することにします。
目の前でゲホゲホせきをされては、さすがの将門も心配になります。早く休むように勧める将門に、国香は忙しいさなかをわざわざ府中まで来たのだからと断りますが、自分の用件は後回しでもいいと言葉をかけます。「幾日も滞在するつもりで参りましたので」 国香はそこまで考えていなかったようで、幾日も滞在するのか? と慌てながら、ここはひとまず将門の勧めに従って休むことにします。
それから2日、熱が高いと称して国香は小次郎に会おうとしなかった。池のほとりで困った表情を浮かべる将門のところへ、貞盛がやって来ました。風邪で対面してくれず、将門が困っていると真樹が貞盛に知らせたようで、貞盛は国香に“キツイ”薬を運んできたと胸を張ります。「母上さ」
国香の妻・秀子は、国香に熱などないことを見抜き、将門に会うように勧めます。将門は土地の一つひとつを国香に確認していきますが、将門が知らないところで土地を譲られたり、馬と取り換えたりと勝手なことをされていました。せき込む国香を休ませるために立ち上がった秀子は、将門にいつまでも滞在するようにとクスクス笑います。
小次郎の家の土地は、下総にも常陸にもある。小次郎はまずこの常陸の国府の台帳を調べにかかったが、管理の悪い書類庫から関係書類を抜き出すのは、それだけて気の遠くなるような面倒であった。その帰り道、すれ違った姫君たちの一行に、筑波の祭りで出会った女がいました。将門は下馬し、姫君たちの後を追いかけます。
姫君たちは屋敷の中に吸い込まれるように入っていきますが、将門が門の前で行ったり来たりして中の様子をうかがっていると、そこに鹿島玄明が現れます。上洛する途上である玄明は、ここが常陸大掾(だいじょう)の源 護の屋敷だと教えてくれました。そして筑波に来ていたのは護の三の姫にあたり、小督(こごう)という名も教えてくれます。
俺はどうしたらいいんだ、と将門は貞盛に助言を求めます。しかしその相手を「常陸大掾の三の姫で小督」と言ったとき、貞盛は小督が小唄を歌って契りを交わした男が別にいるとそれとなく匂わせたのが、この将門であるとようやくつながります。思わず大笑いする貞盛ですが、将門は小督のことを思い出すと、今でも身体が焼けるような熱さになります。
筑波山 茂きがもとに 木が暮れし 楓は色に あらわれにけり──秋になれば紅葉するから楓がひときわ目立ってくる。今までどこのどなたか分からなかったが、やっと正体が分かった──貞盛は将門のために歌を作ります。楓の木の枝に結び付けておき、夜になったら忍んでいくというストーリーです。太郎貞盛の心は穏やかではなかった。小督は以前から、そして今も彼の恋人であったからである。
文を信頼の置けるものに預け、小督は文を受け取ったと聞き、貞盛は将門を連れて屋敷の崩れたところまでやってきます。緊張で震える将門を叱咤し、貞盛は立ち去ります。将門は屋敷内に侵入し、奥へ奥へと進んでいきますが、「誰だ! この夜更けに!」と咎められます。振り返ると咎めたのは、屋敷の主・源 護でした。
原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 貞盛)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
多岐川 裕美 (小督)
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星 由里子 (詮子)
藤巻 潤 (佗田真樹)
丹阿弥 谷津子 (国香の妻 秀子)
佐野 浅夫 (平 国香)
宍戸 錠 (鹿島玄道)
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新珠 三千代 (将門の母 正子)
長門 勇 (平 良兼)
西村 晃 (源 護)
小林 桂樹 (平 良将)
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制作:小川 淳一
演出:重光 亨彦
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第5回「平安の都」
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