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2024年2月 9日 (金)

プレイバック風と雲と虹と・(12)剣の舞

歳月の流れは早い。京に再び除目の季節が来ていた。「大臣(おとど)に呼ばれる」とはこの場合、忠平から任官についての内示がある、ということである。小一条院では大中臣康継が平 将門ら3人の家人の名を読み上げます。名前を呼ばれなかった三宅清忠は憮然としていますが、振り向いて将門を祝福します。

忠平へ拝謁するために赴いた将門ですが、返答の仲介役には藤原子高(たねたか)がいました。藤原子高、純友と神崎の厩(うまや)で出会ったこの男は、山陽道巡検使の役目を終えて小一条院に戻り、家司(けいし)の一人になっていたのである。藤原忠平はことの多い坂東出身である将門に、従八位上 右兵衛府少志(しょうさかん)を命じます。

将門は清忠と語り明かしたいと酒の席に誘いますが、あいさつ回りに忙しい将門を気遣って断りを入れつつ、共に任官を祝いたい“お美しい方”と貴子姫の存在をちらつかせます。ただ正直に言えば清忠は藤原純友に影響を受けて、腐った都の官位などくそくらえと考えていたのに、官位を受けた将門を妬ましく感じていて、人間とはおかしなものだと自嘲します。

この時代の官位や官職は、唐の制度をそっくり取り入れたものである。国政を総括する 今の内閣にあたる太政官の下に8つの省があり、政務を司っていた。また軍事警察機構として衛門府や兵衛府という役所もあり、さらに地方には大宰府や国司などがあった。そこに勤める役人は、長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん)という4つの官職があり、それぞれに官位が定められていた。

官位は正一位から初位(そい)まで30に分かれており、この官位によって相当する官職に就くことが出来た。宮中諸門の警備が仕事である右兵衛府の一番下の位・少志になった将門は従八位上であり、極めて低いものであった。自邸に戻った将門を、鹿島玄明が訪ねてきます。小次郎は玄明が純友の意を介して密かに彼を守っていたことなど知らない。

官位を得るために都に来た将門は、官位を得て喜ぶべきところ、かえって暗い気持ちになっています。“都は腐っている。日ノ本の根太を食い荒らすシロアリどもの巣”と純友は言っていましたが、その一部に組み込まれるから喜べないのだろうと玄明は言い当てます。そこに祝いのために平 貞盛が来訪します。玄明は「俺はあの人が嫌いだ」と退散します。

貞盛は左衛門府から左兵衛府に変わりました。少尉なので官位も従八位上から正八位を飛び越して従七位上へ、さらに検非違使庁との兼務で、かなりの出世です。大臣に荘を献上したのが功を奏したと貞盛は笑います。父・国香が領する土地の一部の持ち主の名を変えるだけで実質的支配はこれまで通りなのです。貞盛は将門にそのやり方を勧めますが、将門は厳しい表情で首を横に振ります。

将門は貞盛に誘われて貴子姫の屋敷に向かいます。乳母は貞盛同様、将門も来年の今ごろには検非違使の尉になるのかと笑顔ですが、将門と離れたくない貴子姫は、できれば急いで出世してほしくはないわけです。乳母は貴子姫をたしなめますが、寂しそうに笑うだけです。「いいわ。悲しいことは悲しいことが起きてから考えればいいんですもの」

学問をしたがっている将門の弟・四郎将平が坂東から到着し、貴子姫の許しを得て、出世祝いの宴の席に同席します。今や官僚育成機関となっている大学寮には行く意味がないと考える将平は、付属機関である奨学院や綜芸種智院にも行かず、高名な学者の私塾に入りたいわけですが、誰のというところまではリサーチできておらず、将門はゆっくり都見物をしながら調べるといいと勧めます。

将平は母・正子や兄・三郎将頼からの手紙を預かって来ていますが、貞盛は源 護の家からの言付けはないかと尋ねます。小督の家と小次郎の家が家同士のつきあいに入っているわけではなかったから、四郎が小督からの所信や言付けをもたらさないことに不思議はなかった。しかし今の小次郎は小督からの音沙汰がまるでないことに、むしろホッとする気持ちを覚えていた。

 

これは小野道風(おのの・みちかぜ)、通称「道風(とうふう)」。四郎が熟慮の末に学ぶべき師として選んだ人物である。小野道風は、当時天下第一の書道の名人として知られていたが、学問でも当代一流とは知る人ぞ知る事実であった。しかしその生活ぶりは、いかにも変人としか言いようのないものであった。

屋敷の中が乱雑し、無数の猫に囲まれている道風は、将平に『老子』を投げ渡して読むよう求めます。「聖を絶ち智を棄(す)つれば民の利百倍す。仁を絶ち義を棄つれば民 孝慈に復(かえ)る」 よし、と道風は入門を許し、厨(くりや=台所)から酒を持ってくるように命じ、この部屋の掃除を任せます。

将門は道風と酒を酌み交わしながら、謝礼のことを持ち出します。しかし道風は謝礼のことは言うなと表情を変えません。謝礼をもらえば癖になるし、それ以降謝礼をもらわなければ教えないということにつながるわけで、謝礼を持ってきたら破門だと笑います。道風には書という特技があり、神社や仏閣に書を書いて金を得ているので、心配はいらなさそうです。

将門の膝には一匹の猫が居心地よく横たわり、将門は片手で猫を愛でながらもう片方の手で杯を傾けます。小次郎の都での生活ももはや長い。しかしこれまでこの種の人物には会ったことがなかった。やはり都は広い。小次郎にとって、心が現れるようなひと時であった。

 

その夏、京の都には疫病が流行った。日の照り付ける昼は疫病が支配し、そして夜は盗賊たちの跳梁(ちょうりょう)する都であった。これに対して、政府はほとんど成すところがなかった。小次郎は右兵衛府の一員として都の警備に参加していたのである。

斬り捨てられた侍を見て武蔵は痛ましいと嘆きますが、下手人の盗賊は、かつて面をかぶっていた武蔵たちのやり方を真似して暴挙に及んでいるようです。斬られた侍は駆けつけた将門に、盗賊は面をかぶっていると伝えて息を引き取ります。

猛威を振るった疫病もやや下火になる兆しの見えたある夜、右京一帯の警備にあたっていた小次郎は、巡邏(じゅんら)を終えて右兵衛府の侍所に戻っていた。そこに家人が飛び込んできて、左京の市の蔵を無数の盗賊たちが襲撃していると知らせます。右兵衛府の上席役人は何人でどちらからという情報がなければ、向かうことはできないと動こうとしません。

「賊は面を──」 しびれを切らした将門はひとりで弓矢を手に出ていきます。小次郎は思い出していた。小一条院の時も同僚たちは力を貸さなかった。しかしあの時の小次郎は無位無官であったが、今は右兵衛府の少志である。盗賊どもを誅罰するに充分な資格がある。いやこれは彼の役職にとって本来の義務でもある。

盗賊たちが今まさに盗みを働く蔵にたどり着いた将門は、引き絞り盗賊の弓の弦を射抜いて切ってしまいます。将門は盗賊たちに名を名乗り、付き従う伊和員経は右兵衛府の侍に合図しますが、弱々しい声でまるで戦力になりません。盗賊たちの反撃に、将門は一人ひとりを矢で射抜いていきます。上席役人たちが手を出せず見守る中、将門はついに最後の一人になるまで盗賊を斬り倒します。

それほど遠くない屋敷の壁から顔を出した武蔵は、盗賊に立ち向かう役人が将門であると気づきます。「まぁここは、ゆっくり見物していることだな」 いつの間にかすぐ隣にいた玄明は武蔵に告げますが、笛の若造かと武蔵は鼻で笑いつつ、事の成り行きを息をのんで見守っています。

久方ぶりに、小次郎の中の野生がよみがえっていた。戦いのうちに小次郎は全てを忘れていた。しばらく切り結んだあと、飛び上がった将門は盗賊に刀を振り下ろします。盗賊は傷を負い、近くに落ちていた小刀で腹を切って自害します。じっと眺めていた武蔵はホッとした表情を浮かべますが、振り返るとすでに玄明の姿はありませんでした。

戦い終わって、ざわざわと集まってくる役人と侍たちは、参戦できなかった言い訳をしたり将門を持ち上げたりと、口先ばかりです。盗賊の面を取ると、おおっという声が上がります。面の下から現れた顔は、飢えて凶暴な賊の者ではなかった。むしろ氏素性の正しさを思わせる顔立ちであった。

 

この季節に、伊予にある純友は新しい行動を起こし始めていた。純友は螻蛄婆(けらばあ)と小舟に乗り、宮崎の港へ向かっています。この越智半島は日本海賊史上の名所である。その付け根の大井浜からさらに枝のように出ている半島の突端に近い位置に宮崎がある。昔、この地は港であった。

純友が乗った船が見え、寝っ転がって到着を待っていた男たちはムクリと起き出し、その小舟を見据えます。これは、この海に生きる海賊たちの、いずれも名だたる頭領たちである。彼らと誼(よしみ)を通じようという、純友の意図は何か。波のうねりに身を任せながら、この男はかなたの浜辺よりはるかに遠いところを見ている。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
吉永 小百合 (貴子)
山口 崇 (平 太郎貞盛)
永井 智雄 (藤原仲平)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
太地 喜和子 (武蔵)
小池 朝雄 (小野道風)
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仲谷 昇 (藤原忠平)
奈良岡 朋子 (乳母)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:小川 淳一
演出:重光 亨彦

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第13回「酷い季節」

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