プレイバック風と雲と虹と・(10)純友 西へ
去る3月、太郎貞盛は官位を得ることが出来た。小次郎将門はできなかった。同じ坂東から都に上がってきたこの親友同士にとって、早くも道は隔たり始めていた。わずか一年で従八位上の官位を得たことを乳母はたたえます。貴子には、乳母の饒舌が煩わしかった。貞盛が説明するまでもなく、貴子姫は将門の素晴らしさを理解しているつもりです。
将門は2つのことを同時に進める器用さはなく、貴子姫に夢中になったから除目のことを忘れたとずいぶんな言い草ですが、それはかえって貴子姫を喜ばせます。貞盛は、将門に引き換え10人の女性を同時に愛し愛され、適当にやる人間なのだと自虐しつつ、ともに喜んでくれる人がいる将門を羨ましく感じます。小次郎は、太郎貞盛が貴子を気に入ってくれたらしいと思うと、ただ嬉しかった。
傀儡(くぐつ)は、旅から旅へとさすらう人々である。だが、このところ螻蛞婆(けらばあ)を頭とする一党は、都を動く様子がなかった。先日、武蔵らと戦った玄明ですが、武蔵らも藤原純友が大事になる盗賊たちで、螻蛞婆からの忠告で殺しませんでした。傀儡は人を殺さないものだと言う螻蛞婆ですが、玄明はそう言い切る人は冷たいと考えています。
ここは“琵琶どのの大臣”と呼ばれる藤原仲平の屋敷である。純友はいちおう仲平に捧げた家人だが、もう長らく仲平には会っていない。彼は自分がここに呼び出された理由について、まるで見当がつかなかった。仲平は左大臣忠平の兄であるが、出世の点では弟に後れを取っていた。しかしその分だけ溜め込んで、懐具合の豊かさは朝廷で随一と噂されている人物である。
仲平は純友がかねてから望んでいたことを叶えてやると言い出します。純友の生まれた伊予国の掾(じょう)に任じるというわけです。掾とは、地方の国司のうち国の長官に当たる守(かみ)、次官に当たる輔(すけ)に次いで、第三位の役職であった。このごろ瀬戸内に海賊が現れるようになり、仲平は純友に掾として討伐の軍功を立てるよう命じます。
館で純友の衣類を縫っている武蔵は、夜の活動からするととても珍しい光景ですが、そこにふらりと純友がやってきて、これまた来訪は珍しいことです。ただ純友が伊予の掾を任官してなるだけ早く西に発つと知り、突然の別れに驚きつつ、早く仕上げてしまわねばと涙をこらえています。純友は武蔵をじっと見つめています。
将門は今夜も貴子姫の屋敷を訪問するつもりです。最近では貞盛も頻繁に姫の屋敷を訪問しているようで、進物も贈っているらしいのです。将門はそれを好意的に受け入れますが、伊和員経はもし不快なら拒むことを勧めます。小次郎の正直な心は、それが好ましくないと告げていた。太郎貞盛の貴子姫への接近には、何かしら小次郎を不安にさせるものがあった。
将門が夜道を歩いていると、目の前に美濃がひらりと現れます。純友が呼んでいるのだろうと将門は見当をつけますが、相手を気に入っているからこそ、近づくのが少し怖くもあります。「ねえ……殿がいなくなってしまうんだよォ……都から」 美濃のつぶやきに えっ!? と将門は衝撃を受け、将門は純友の屋敷へ急行します。
そのころ、貴子姫の屋敷には貞盛が訪問していました。将門が不在と聞いて、進物だけ置いて去ろうとしますが、乳母は姫の相手をと貞盛に求めます。
70年前、瀬戸内の海では海賊の勢いがすさまじく、目的の港に船がたどり着くことすらまれで、当時の政府は国司たちを使って取り締まりを強化します。それが14~15年後には往来の船が途絶えて海賊たちは瀬戸内から高麗の方へ消えてしまいました。しばらくは瀬戸内の海は穏やかでしたが、その海賊たちが代も代わって瀬戸内に戻ってきたわけです。
純友がその瀬戸内へ、伊予国の掾として赴くのです。海賊たちをどうしようというのか。今の純友にはまだ考えられていませんが、海が好きな純友は、この飲み会に参加している将門、三宅清忠、紀 豊之に、いずれまた京に戻ってくると宣言します。また会いましょう、と力強く言われ、みな大きく頷きます。
純友は京を発った。川下りの船は桂川と鴨川の合流する下鳥羽から出る。これで山崎まで下り、船を乗り換えて淀川を下るのである。山崎は後世に豊臣秀吉が明智光秀と決戦して、天下を取る道を開いたところとして有名である。このころは西から京へ上ってくる荷が、全てここで陸揚げされ、もっとも盛んな経済都市のひとつであった。
山崎で陸に上がった純友ですが、武蔵が純友を追いかけてきていました。純友は武蔵を草むらに連れ出し、一緒に伊予に行こうと誘います。純友の子・重太丸(じゅうたまる)は母が出産直後に亡くなり、6歳の少年ながら純友の帰りを待っています。純友は武蔵に母代わりになってほしいと思っていますが、もし自分が行ったら手下たちが路頭に迷ってしまうので、頷けません。
純友を愛しているがゆえに、純友についていかなかった武蔵。季重はなぜと武蔵に尋ねます。季重はただ恐ろしいだけの盗賊は放っておいていいから、純友とともに伊予へ向かってほしかったわけです。それは3年前のことであった。必死に逃げる武蔵を囲む季重の盗賊たちですが、窮鼠のような武蔵の反撃に季重たちはうろたえます。
民人に恨まれている司人を襲う、義によって起つ誇りを教えてくれたのは武蔵でした。武蔵は、純友が好きなのは夜の街を走り回っている自分であり、そんな荒くれものの自分が海では役に立たない、ということは武蔵自身分かっているつもりです。武蔵は、純友の大望が何であるにせよ、そのために働きたいわけです。
伊予に向かう船には、玄明が乗っていました。螻蛞婆に言われて純友に内緒で船に乗り込んだわけですが、純友は伊予に行かないか? と玄明を誘います。「さあ……どうするかな」と、玄明は態度を明らかにしません。それは、純友のことも気になるし、あの男──将門のことも気になるわけです。純友はそれが分かるだけに、強くは勧めません。
将門は貴子姫の屋敷で貞盛と合流します。貞盛は“恋多き男”在原業平が、浮気ではなく真剣な恋愛で人を愛していったという説を唱えますが、貴子姫はどう言おうと女から見れば浮気としか言わないと笑います。一人の人しか愛さない男こそ頼もしく、貞盛には分かってもらえず、将門にならきっと分かってもらえるはずと、期待を込めて微笑みます。
小次郎は嬉しかった。この貴子が、ひとすじに自分を信じていると思った。貞盛は将門に、早く姫を手に入れてしまえと背中を押します。「さもないと俺は……」と言いかけて、あわてて打ち消す貞盛は、あわよくば姫を手に入れたいと狙っているのかもしれません。しかし将門は、俺には俺の生き方があると主張します。
純友は、一路西へ。しかし運命は彼と小次郎将門とを、そう長く引き離してはおかない。
原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 貞盛)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
木の実 ナナ (美濃)
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緒形 拳 (藤原純友)
太地 喜和子 (武蔵)
吉行 和子 (螻蛞)
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奈良岡 朋子 (乳母)
永井 智雄 (藤原仲平)
吉永 小百合 (貴子)
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制作:小川 淳一
演出:岸田 利彦
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第11回「餓狼の頭目」
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