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2024年2月20日 (火)

プレイバック風と雲と虹と・(15)伊予の海霧(うみぎり)

佐伯清辰(きよたつ)は海賊討伐のための追捕使として、一路伊予国へと船を進めていた。その武者たちの中に、小次郎将門の姿もあった。追捕使一行は沖で小舟に乗り換え、伊予の浜に上陸した。清辰が先に上陸し、将門も後を追ってきました。「また会えましたな」と藤原純友は将門を笑顔で迎え、手配した宿へ案内します。

民人たちは、戦が始まるのけ? と恐々としています。太政官より権限を与えられた清辰は、平 維久にひと月分の食料と船30艘、兵300人を求めます。浜辺から戻ったくらげ丸は、追捕使か到着したことを大浦秀成に知らせます。螻蛄婆(けらばあ)は武者たちが出世を遂げようと目を血走らせていると報告すると、秀成はニヤリとします。

宴会が始まりますが、男ばかりでは酒がまずい! と武者のひとりが言い出します。その情報は藤原正経から漢部倉麻呂を経て純友に伝わりますが、ここは都ではないのだから放っておいたらと倉麻呂に勧めます。そこで名乗りを上げたのは千載でした。純友はこのまま宴会に上がれば夜のお伽(とぎ)までしなければならないと止めますが、倉麻呂は喜んで千載の手を引いて連れていきます。

純友は、鹿島玄明が呼んだ螻蛄婆と大浦秀成、それにくらげ丸を加えて密談をします。追捕使側に純友がいるため、海賊たちには追捕使の動きは筒抜けです。一気に討ち取ろうと秀成は鼻息荒いですが、純友は追捕使たちは非常に強く、海賊側の被害は最小にしておきたい思いがあります。くらげ丸は斎灘(いつきなだ)の中島に海賊がいるとうわさを流し、追捕使をおびき出して取り囲む策を提案します。

追捕使はこの地で兵を集めての公の戦いのため、まだ正面から逆らうわけにもいきません。かつて藤原子高が純友に神崎の港で言っていた、民人と海賊を区別なく殺せというのが役人の本性であり、だからこそこちらは民人と追捕使を区別しなければならないのです。民人は殺さず追捕使を討つ、とても難しい話ですが、純友は「やってみよう」という秀成に任せることにします。

その上で純友は秀成に、追捕使の中に殺したくない武者がいると打ち明けます。将門のことです。「俺は、俺自身のためにこの男を殺したくないのだ」 そのためには将門を追捕使たちと別行動させなければなりません。斎灘の中島で追捕使たちを引き付ける時、そこから離れた板島あたりで別の騒ぎを起こし、純友と将門で向かわせるわけです。

宴会は、武者たちが酔いつぶれてお開きになります。将門は彼らに愛想が尽きて、ひとり宴会を抜け出します。いくら酒を飲んでも酔えない。それが小次郎の現在であった。都のことを思い出すたびに、なぜか心が重くなるのであった。京に残してきた貴子姫の存在、そして玄明が突き付けた 海賊と民人を区別して殺せるかとの問いかけが、将門を苦しませます。

 

正経ら役人と武者たちによる、民人の無理な徴集が始まります。年寄りでも武器が持てれば誰でもいい……。300人という帳尻合わせのために首根っこを掴まれて連れていかれる男たち。将門もその任にあたりますが、怯える民人を前に無理な徴集ができません。理想と現実とのはざまで将門はひとり悩み続けますが、力を振り絞って立ち上がります。「賊は賊だ。殺さねばならぬ」

振り返ると、そこには美濃が立っていました。京で出会った傀儡の一員ですが、純友が懇意にしていたことを思い出します。美濃は将門が苦しんでいるのが分かるようで、「あんた苦しんでる。恋をしてる」と言い当てます。いいなぁ……と羨む美濃は、小次郎のために美しい舞を披露して将門を慰めます。

海賊が斎灘を西に進んだという情報がもたらされます。京から派遣された追捕使に恐れをなして他国へ逃げたと維久と正経は手放しで喜びます。他国へ逃げれば他国が対処すべき事案になり、伊予が負担することはなくなるのです。しかし純友は、海賊たちが中島に集結している可能性を示唆します。正経は清辰へ報告に向かいます。

鎧をつけ終わった清辰は使者が北条から来たと聞き、目通りを許します。北条からの使者は、海賊船が中島に集結していると伝えた。が、この使者が海賊のひとり鯒麿(こちまろ)であるとは、誰も気づかない。清辰は一同に、一日も早く北条へ出陣することを命じます。

夕方、将門は矢を投げて木の幹に当てています。お見事! と声をかけたのは純友です。純友は盗賊となった公達を将門が斬り捨てたことも、追捕使の武者として伊予に向かったことも聞いていました。だから将門が官位を得て坂東に帰るため、追捕使の武者に応募した事情もおおよそ見当がつきます。「官位などというものは……私はやがて官位など振り捨てるつもりですよ。時が来たら」

いよいよ出陣の時です。国府からは陸路を北条に向かいます。案内役は純友と倉麻呂が務めます。純友は辛い気持ちであった。この人々のほとんどは、やがて海賊たちに皆殺しに遭う運命なのである。伊予の国府から北条までは2日の道のりであった。大井を通りそこから北条まで海沿いの道である。純友は京の都にいる武蔵のことを思った。

武蔵が縫い物に精を出すところへ、手下たちが耳寄りな情報を持ってきました。山陽道巡検使を務めた子高がそうとう貯め込んでいるという話です。しかし武蔵には反応がありません。手下たちはもぬけの殻になっている武蔵を見て、やはりここは純友とともに伊予に向かうべきだったと厳しい表情です。「武蔵どのはただの女になられた……」 失礼します、と手下たちは下がっていきます。

 

海賊船が集結しているという斎灘の中島とは、北条の沖10kmほどのところに浮かぶ島であり、今日の愛媛県温泉郡中島町である。追捕使佐伯清辰は、北条に着くや軍議を招集した。中島に上陸する場合、風向きが大きく影響するそうですが、清辰は今夜の風向きを地元の漁師たちに確認するところを見ると、今夜出陣するつもりのようです。

純友は、板島からの使者が未だに来ていないことに内心焦ります。このままでは将門も中島に行かされます。漁師は風向きを見て、もう一時(2時間)もすれば南からの風になり、軍勢が中島に近づくには好都合の風となりそうです。その時、早駆けの馬の蹄(ひづめ)の音が聞こえてきました。書状を持参したのは鮫(さめ)で、宇和の郡で何か異変が起きたのかもしれないと、純友は軍議の席に戻ります。

板島でも200~300の海賊が乱暴狼藉を働いていて、用意した軍勢を二手に分けることはできません。ここから板島へ向かう途中に在所がある純友は、自身の兵で板島に向かうと提案します。純友自ら向かうのは当然として、せめてあと一人武将がほしいと、チラチラと純友を見ながら遠慮がちに伝えます。純友の武勇は清辰も知っていて、清辰は疑うことなく将門に加勢を命じます。

そのころ武蔵は、酒をあおっていました。手下の者を呼び、今は都にいない純友への思いが募ります。手下の呼びかけに我に返った武蔵は、手下の者が情報をもたらした子高の屋敷に押し入ることにします。手下は武蔵が酒に酔っていて普段の働きが出来るのか不安になりますが、怠けすぎたようです、と武蔵は向かう準備を命じます。

いつもの面をかぶった武蔵は、手下2人と屋敷に忍び込みます。屋敷内には見回りの者が巡回し、突然矢が飛んできて、上から石が落ちてくるなどの仕掛けもあります。それを避けながら武蔵たちは奥へと進んでいきますが、植木のところにあった仕掛けに武蔵が引っかかってしまいます。手下たちとで外そうと悪戦苦闘しますが、カチャカチャいうだけでなかなか外れません。

純友はどこからかカチャカチャと音が聞こえて、「待て!」と進軍を止めますが、我に返って再度出発します。将門と純友は、一路板島へと向かっていた。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
吉永 小百合 (貴子)
太地 喜和子 (武蔵)
五十嵐 淳子 (千載)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
木の実 ナナ (美濃)
渥美 国泰 (佐伯清辰)
吉行 和子 (螻蛄)
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奈良岡 朋子 (乳母)
入川 保則 (藤原子高)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:小川 淳一
演出:松尾 武

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第16回「恋の訣れ」

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