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2024年2月23日 (金)

プレイバック風と雲と虹と・(16)恋の訣(わか)れ

宇和の板島で海賊が新たな行動を起こしたという知らせに、小次郎将門は純友と共に伊予の道をさらに西に向かっていた。純友はこの夜、愛する武蔵の身の上に何が起こっているか知らない。

武蔵が植木のところに忍ばせた仕掛けに引っかかり、あちこちで鳴子が鳴ってしまいます。その知らせで警護の武士が駆けつけ、手下2人で相対します。仕掛けを取り外そうと必死の武蔵ですが、ふと振り返ると刀を突き付けられています。その主は子高でした。子高は手下に刀を捨てなければ女の鼻をそぎ落とす! と言って刀を当てます。手下は抗(あらが)えず刀を捨て、捕縛されます。

そのころ伊予の中島に潜むという海賊一軍を捕らえるべく、海賊追捕使・佐伯清辰の率いる軍勢は、密かに中島に近づいていた。もう間もなく中島に着くと思われますが、霧が濃すぎて辺りが良く見えません。しかし敵からも追捕使軍が近づいていることを悟られないわけで、清辰はいいように考えています。

中島に向かう小舟に鹿島玄明が忍び込んでいて、船首に乗っている兵を刺し殺した玄明は、「あなたがたを傷つけたくない」と、同船している船頭の兵に音を立てずに岸に戻るよう伝えます。そして息絶えた兵を海に突き落とします。それは他の船でも同様で、同船している海賊が兵を次々と刺し殺し、海に突き落としていきます。清辰と漢部倉麻呂は、その水音に海賊の襲来を疑います。

板島に向かう純友と将門は、途中で小休止を取ります。将門はふと、中島に向かった清辰らを心配しますが、純友はそれには答えず、焚火で焼いた魚を将門にも分け、かぶりついています。

清辰の周りには軍勢の舟がなく、清辰は船頭に速度を緩めるように命じます。そうしているうちに別の船がこちらに近づいてきて、安心するのもつかの間。それが海賊の乗った船だと気づいたときにはすでに遅く、海賊からの襲撃を受けます。清辰は真っ青ですが、舟を操っていた船頭もくらげ丸で、かかれ! と戦闘が始まります。

あっという間に清辰の舟は海賊たちに取り囲まれ、同舟していた兵たちは次々と倒されていきます。ああっ……と声を上げている間に、清辰は海賊たちの集中攻撃でたくさんの矢を受けます。

将門は、人の声がしたような気がして辺りを凝視していますが、横に座る純友は「気のせいでしょう」と笑います。しかし何か変事が起こっているような気がして、将門は先を急ぐように純友に提案。純友もともに立ち上がります。

 

伊予の大津で兵を集め、小次郎と純友の一行は宇和の板島に差し掛かっていた。一本道を無数の民人が歩いています。なんでも、戦になるから避難しろと海賊に言われて山に籠っていたものの、戦は終わったとの知らせに山から下りて来たところなのです。純友はこちらを信じ込ませるための海賊たちによる罠だと笑いますが、民人は海賊が嘘をついたことはないと言い張ります。

小次郎は衝撃を受けた。この人々は海賊衆と呼んでいる。彼らに敬意と親しみを表している。老人の言葉は正しかった。その先、旅を重ねても、海賊たちの跳梁(ちょうりょう)する気配は全くなく、平穏な漁師たちの姿があるばかりであった。

板島に海賊がいたことは事実らしいですが、それがいなくなったということは、海賊たちは将門の武勇に恐れて逃げたと純友が笑いますが、将門は純友がいたからだと謙遜します。将門は純友が言っていた「海賊は本来民人だ」という言葉通り、どの民人に尋ねても海賊との間に隔てはなく、憎んでいないと実感します。

純友は、民人に恨まれれば海賊は仕事ができないと頷きます。海賊たちが襲うのは都へ財物を運ぶ船だけです。船が港に入ればそこの役人が貢物を取り、陸地の関所でもそこの役人が貢物を取る中で、海賊たちが海の上で財物を取っても大した違いがないわけです。将門は、純友の心がすでに海賊とひとつになっているとニヤリとすると、純友はハッと我に返ります。

そこに早馬で鮫が駆けつけます。鮫は将門の顔を見て言いにくそうですが、純友は全てを報告させます。中島に向かった追捕使一行が全滅、と。伊予で集められた兵たちは無事ですが、都から来た武士たちは全て戦死したとのことです。純友にとってはかねて予想通りの報告である。しかし小次郎には大きな打撃であった。

将門は純友が仕組んだのかと怒りをにじませます。黙ってうなずく純友に、「なぜ私だけ……!!」と将門は掴みかかります。これは戦だ、戦が始まったのだ──。将門は、涙を浮かべ怒りに震えながら、海を見つめています。

 

伊予国府では、平 維久と藤原正経が大騒ぎです。国府の人間では漢部倉麻呂のみが命を落として民人は全て無事。一方、追捕使一行は将門を除いて全て戦死という結果に、伊予で集めた兵たちが海賊たちと示し合わせたと都の人々に疑われると戦々恐々とし、責任のなすりつけ合いを繰り広げます。

戻って来た純友は、追捕使一行が全滅したのだから海賊たちも壊滅寸前の大打撃を被ったと報告します。海賊の被害は調査しようがなく、維久は至極妙案と頷きます。そして戸籍は国府管理であるのをいいことに、伊予で集めた民人たちも半数以上戦死したことにして、倉麻呂とともに弔いすることにします。清辰の指図で将門と純友が板島に向かったことも含め、純友が報告書を上げることにします。

浜辺に座り海を見つめる将門に千載は、将門の武勇だけで海賊を追い払ったわけで、将門が都に帰還すれば出世間違いなしと微笑みますが、都から派遣された武士の中でただ一人生き残った将門とすれば、これほど恥ずかしい話はありません。「生きることがどうして恥?」と千載に言われてハッと振り返ると、そこには純友がいました。船の都合がつき、明日には帰れると将門に伝えます。

将門と純友は酒を酌み交わします。伊予の海を見ていると、坂東の野や山が思い出されます。純友は将門に坂東に帰ることを勧めます。この伊予で起こり始めたことが、きっと坂東でも起こると予見する純友に、将門は首を横に振ります。また会おうとふたりは再会を約しますが、しかしこの後、二人の生きる道はしばらく相隔たり、運命の糸が二人を再び折り合わせることになるのはいつの日か、それはまだ定かではない。

 

瀬戸内を東へ進む船には、将門と伊和員経、玄明が乗り込んでいます。途中海賊の襲来の恐れもありましたが、くらげ丸が乗っているため、その心配もなさそうです。船は無事に神崎の港に戻り、藤原恒利は千載と再会します。玄明は恒利から、珍しい盗賊が捕らえられ、近いうちにさらし首になると教えてくれました。“珍しい”とは美しい女だからで、玄明は顔色を変え、走り出します。

船は神崎の港を出ると、再び東へ進みます。小次郎は、玄明の姿が不意に消えたことを深く気にすることはなかった。いつものことだと思ったのである。それよりも、やがて近づく京の都と、そこに彼を待っているはずの人のことが、彼の胸を重く締め付けていた。

都では、検非違使によって武蔵と手下2人がお縄について連行されていました。走って京に戻た玄明の呼びかけで、集められた傀儡たちが激しく舞っています。その先頭には美濃が、そして螻蛄婆(けらばあ)は笛を奏でる玄明の陰に隠れて手拍子しています。そして検非違使と武蔵たちを取り囲み、笛の音が止まったと思うと一斉に粉を顔に撒き、ひるんだスキに武蔵たちを救い出します。

玄明は傷を負った武蔵の右足に布を巻き、ひとまず傀儡の隠れ家に連れていきます。螻蛄婆は武蔵に伊予へ行くかと尋ねますが、しくじりをしたから行けないと首を振ります。美濃は純友から預かった武蔵宛ての文を手渡します。身体に気をつけてと愛情あふれる純友の文に、武蔵は食い入るように読み進めます。その美濃の様子を、背後から美濃は嫉妬心でじっと見つめています。

純友は考えていた。必ず第二第三の追捕使はやってくる。果たしていつ、決然と起つ日になるのか。その日のために会場に本拠地が欲しいと思った。彼の胸中に描かれているのは、宇和の海の板島、すなわち今日の宇和島市から会場を七里、この日振島(ひぶりじま)であった。

 

将門は員経たちを先に自邸に帰すと、ひとり貴子姫の屋敷へ向かいます。小次郎が京へ戻ったのは、武蔵たちの事件があった翌日の、もう夜更けであった。やはり、まずこの屋敷へ来ないではいられなかった小次郎だが、この夜更けに訪(おとな)いを入れるのはためらわれた。足音がして将門が身を隠すと、入って来たのは平 貞盛でした。貞盛は将門に気づかず、貴子姫の居室へ。

ずいぶんと遅い訪問に、貞盛は忙しい身だと言い訳しますが、貴子姫はそれが他の姫のところに立ち寄っていて遅くなったからだと拗ねます。貞盛は帰っていいかと意地悪な質問をし、貴子姫はそれには答えることなく自ら貞盛の胸に顔をうずめます。そして居室の明かりが消え……。その一部始終を将門は外から目撃していました。刀を握る手が怒りで小刻みに震えます。

将門は涙を浮かべながら走っていました。転び、声を上げて号泣します。そしてそのまま朝を迎えます。先ほどまでの涙にくれた顔ではなく、朝日のように笑顔になっています。「帰ろう……坂東へ」 怒りも、恋の炎も、この時彼の胸から消えていた。ただこのまま坂東へ、故郷に向かって発とうとだけ小次郎は考えていた。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
吉永 小百合 (貴子)
山口 崇 (平 太郎貞盛)
入川 保則 (藤原子高)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
木の実 ナナ (美濃)
吉行 和子 (螻蛄)
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太地 喜和子 (武蔵)
今福 正雄 (藤原恒利)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:小川 淳一
演出:重光 亨彦

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第17回「昿野の蝶」

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