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2024年3月10日 (日)

大河ドラマ光る君へ・(10)月夜の陰謀 ~兼家の策略に花山天皇は…~

決行は寛和2(986)年6月23日、丑の刻から寅の刻までが藤原兼家にとって運気隆盛の時……。安倍晴明の発言に、すぐではないか! 支度が間に合わぬ! と焦りを隠せない藤原兼家ですが、この日を逃せば謀(はかりごと)は成し遂げられず、帝はずっと帝にとどまるとまで言われては、兼家は決断せざるを得ません。兼家はその夜 一同を集め、帝を内裏から連れ出し、出家させる企みの全貌を明かした。

「丑の刻までに──」 藤原兼家は、清涼殿から玄輝門を抜け朔平門へ帝を連れ出す役には道兼を指名します。目をあざむくために帝に羽織らせる女の袿(うちき)は、道兼が手懐けた女官に準備させることにします。藤原道隆には朔平門の外に牛車を用意させます。時の知らせと同時に御所のすべての門が閉じ、道兼には山科の元慶寺を目指させます。

と同時に、典侍(ないしのすけ)が剣璽(けんじ)を運び出すので、道隆と藤原道綱で梅壺の東宮の元へ運ばせます。万が一 剣璽を見た者があれば道綱に始末させることにします。そして道長は、梅壺に剣璽が運ばれるのを見届けたら、関白の屋敷に走り帝の譲位を伝えさせます。「われらに許された時は丑の刻から寅の刻までだ。頼んだぞ」 わずか2時間で帝を出家させ、神器である剣璽を手に入れる。途方もない陰謀であった。

忯子(よしこ)を失った花山天皇は、無気力に出家をほのめかすようになりました。藤原義懐は女子はいくらでも用意するから皇子をと食い下がり、出家を必死に止めますが、それでは忯子の霊が嘆くと義懐を避けるようになります。道兼は、帝が出家するならお供しますと頭を下げます。「お前だけだな、朕の気持ちが分かるのは」

道長が月を見上げていると、兼家が近づいてきました。今回の謀では、道長は関白の屋敷に走って譲位を知らせるだけですが、それには兼家なりの理由がありました。「ことをしくじった折には、お前は何も知らなかったことにして家を守れ。父の謀を関白に知らせに走るのだ。さすればお前だけは生き残れる」

部屋で琵琶を弾くまひろですが、途中で弾くのを止め、いとのところに行きます。父藤原為時の姿はなく、今夜も高倉の女のところのようです。このまま為時が帰らず、藤原惟規(のぶのり=若様)も誰かの婿に入ったら、いとは用なしとなって生きる場所を失いますが、まひろは惟規の婿入りについていけばいいと提案します。いとはたちまち明るい表情になります。「高倉の人、どんな人なんだろう……」

まひろは乙丸を伴い、高倉の女の家を探しています。貧しそうな長屋が並ぶその奥に小さな家があり、まひろはそっと足を踏み入れます。庭から中を窺ってみると、病気の女に為時が食事を食べさせてやっていました。あまりに意外なことに、まひろはその場に立ち尽くしてその様子を見つめます。ふと、為時の目と合ってしまいます。

為時はすまないとまひろに頭を下げますが、病が重く、まもなく命も尽きるだろうという為時は、送ってやりたいとまひろに打ち明けます。まひろは力になりたいと、為時が内裏に上がっている間、為時の代わりに看病をしてもいいと考えますが、娘の世話を受けるのは向こうの気づまりだろうと断ります。「父上のお姿を見て、胸が熱くなりました。父上はご立派でございます」

屋敷に戻るまひろは、門の前に立つ百舌彦の姿を見かけます。百舌彦は道長の歌を持参していました。それを受け取ると、まひろはいとの声掛けにも反応せず、一目散に屋敷に戻り自分の部屋にこもります。「そなたを恋しいと思う気持ちを隠そうとしたが、俺にはできない──」道長が贈った歌は古今和歌集からです。

“あの人”(直秀)の心はまだそこに……。まひろは返歌をしたためます。まひろが贈ったのは陶 淵明(とう えんめい)の漢詩でした。「これまで心を体のしもべとしていたのだから、どうして一人くよくよ嘆き悲しむことがあろうか──」

「そなたが恋しくて死にそうな俺の命、そなたが少しでも会おうと言ってくれたら、生き返るかもしれない──」

「過ぎ去ったことは、悔やんでも仕方がないけれど、これから先のことは、いかようにもなる──」

「命とは、はかない露のようなものだ。そなたに会うことが出来るなら、命なんて少しも惜しくはない──」

「道に迷っていたとしても、それほど遠くまで来てはいない。今が正しくて、昨日までの自分が間違っていたと気づいたのだから──」

女子に歌を送ったら漢詩が返って来た、と道長は藤原行成に打ち明けます。どんな歌を送ってどんな漢詩が返って来たか、行成は道長から聞き出そうとしますが、言えないと固まります。ただ、それが分からなければ女子の意図するところが分析できないわけで、道長に好きな女子がいるんだ、などとほぐした会話をしますが、道長は身体を固めたままです。「それも……言えぬ」

それでも行成は、いま分かっている情報だけでその分析をしようとします。人の心を見るもの聞くものに託して言葉で表す和歌に対して、漢詩は志を言葉に表します。「つまり漢詩を送るということは、送り手は何らかの志を詩に託しているのではないでしょうか」 行成の分析に、道長はふーんといいながら、少し分かったと答えます。

屋敷で、道長は廊で亡き源 高明の姫・明子を見かけます。詮子が万が一、兼家が失脚しても懐仁親王が困らないように作っている、もう一つの後ろ盾です。左大臣源 雅信は宇多帝の孫、源 高明は醍醐帝の子、2人の後ろ盾があれば安心です。道長が雅信の姫・倫子と高明の娘・明子の両方を妻にすればと言い出し、なんということを! と道長は声を荒げますが、「考えておきなさい」と流されます。

詮子は、道長が自分に用があるということは人前では話せない話と察知して、人払いします。兼家からの伝言で、23日は内裏から出ないように、とのことです。詮子は兼家の手法が嫌いだと、何があるのか聞き出そうとしますが、当日になれば分かると道長は口を割りません。「今回のことは姉上と東宮さまに悪い話ではございません」とだけ伝えておきます。

 

まひろは道長から「我もまた、君と相まみえんと欲す」という手紙を受け取り、満月の夜、ひとりで出かけていきます。あたりをキョロキョロしていたまひろに、後ろから抱きしめる道長はまひろにキスをします。都を出よう、海の見える遠くの国へ行こう、と道長はひとり暴走していて、どうしたの? とまひろはたまらずと尋ねます。「藤原を捨てる。お前の母の仇である男の弟であることをやめる」

うれしゅうございます、とまひろはつぶやきます。ただどうすればいいか分からないのが正直なところです。道長は、まひろが家に帰ればきっとあれこれ考えて、自分と一緒に行くことはしないだろうとこの場で決断を迫ります。「2人で都を出ても世の中は変わらないから。道長さまは偉い人になって、よりよき政をする使命があるのよ。私とひっそり幸せになるためじゃないわ」

まひろは、直秀を埋葬する道長を見て、今まで以上にもっともっと好きになっていました。しかし道長の使命は違う場所にある──。遠くの国でひっそりと生きていくことは、まひろ自身は幸せかもしれませんが、まひろはそんな道長が全然思い浮かびません。貧しさを知らない道長が、生きるために魚を取ったり木を切ったり畑を耕したりする姿が、全然思い浮かばないのです。

「己の使命を果たしてください。直秀も、それを望んでいるわ……一緒に遠くの国には行かない!」 まひろは、同じ都で道長のことを見つめ続けると、道長を諭します。しかし、道長の強引ともいえる求愛を、最後にはまひろも受け入れます。人は、幸せでも泣くし、悲しくても泣く。とすれば、まひろが流す涙の意味は? 「どっちも……幸せで、悲しい」

 

決行の夜。詮子のおひざ元には懐仁親王がすやすやと眠っています。そして静かに企てが始まります。道兼が帝を連れて清涼殿を出、静かに歩いていると、道兼はこちらに気づいた女官の姿を見つけます。道兼はすぐに帝が羽織る袿に顔を入れ、女官はそれを横目に通り過ぎていきます。そして朔平門の外に用意していた牛車に帝とともに乗り込み、牛車はゆっくりと動き始めます。

「丑の一刻でございます──」

時を告げる声が響き、道隆は立ち上がります。「これより全ての門を閉める」と兼家は詮子に告げ、詮子は目を閉じて耐えます。典侍(ないしのすけ)が運び出した剣璽(けんじ)を道隆と道綱が手に取り、詮子と懐仁親王のところに移します。それを合図に道長が馬で関白藤原頼忠邸に向かいます。

夜遅くの訪問に頼忠は不満そうですが、道長は帝の退位と東宮践祚(せんそ=帝の位を受け継ぐこと)を報告します。頼忠はとにかく急いで内裏に向かうことにします。眠っているまひろは、遠くに牛車の音を聞き、むくりと起き出します。

山科の元慶寺では、剃髪が行われていました。それも無事に済み、次はお前の番だと花山院は告げますが、道兼はまっすぐに顔を上げます。「私はこれにて失礼いたします。お側にお仕え出来て、楽しゅうございました」 朕をたばかったのか! と花山院は声を荒げますが、時すでに遅く……。そのころ派手に女遊びをする義懐は、花山帝の退位と出家の報告を受けます。先ほどまでの笑顔が、たちまち固まります。

「寅の一刻でございます──」

 

何も知らずに出仕する公卿たちですが、そこに兼家が現れます。「昨夜、帝がにわかにご退位、そして東宮が践祚あそばされた。新しき帝の摂政は、この兼家である」 ここに集まっている先帝の蔵人はすべて倣(なら)いによりその任を解き、新しい蔵人頭(くろうどのとう)には道兼が就任することが発表されます。昨夜何があったのか聞かねばと声を荒げる藤原実資に、「静まりませい!」と道兼の鶴の一声です。

 

作:大石 静
音楽:冬野 ユミ
語り:伊東 敏恵 アナウンサー
題字:根本 知
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[出演]
吉高 由里子 (まひろ)
柄本 佑 (藤原道長)
井浦 新 (藤原道隆)
吉田 羊 (藤原詮子)
玉置 玲央 (藤原道兼)
秋山 竜次 (藤原実資)
渡辺 大知 (藤原行成)
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ユースケ・サンタマリア (安倍晴明)
上地 雄輔 (藤原道綱)
橋爪 淳 (藤原頼忠)
本郷 奏多 (花山天皇)
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岸谷 五朗 (藤原為時)
段田 安則 (藤原兼家)
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制作統括:内田 ゆき・松園 武大
プロデューサー:大越 大士・川口 俊介
演出:黛 りんたろう

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『光る君へ』
第11回「まどう心」

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