プレイバック風と雲と虹と・(23)あだ桜
戦う? 俺と小次郎が──。平 貞盛の問いに弟の繁盛が力強く頷きます。彼らの父・平 国香を小次郎将門が討った。貞盛の弟・繁盛の知らせはそこまでであった。急いで屋敷に戻る貞盛に、貴子姫は自分のせいだと不安げに打ち明けますが、貞盛は姫には関わりないことだと伝えます。「バカな。あなたを巡っての恋争いに敗れたからといって、それで父を殺すような小次郎ではありません」
屋敷に戻って来た貞盛と繁盛に、佗田真樹は自分が付き従えばよかったと詫びます。貞盛には父の非業の死を悲しむ心も、小次郎を憎む気持ちもまだ湧かなかった。あるのはただ困惑だけであった。国香が背中に矢を受け落命したと聞いて、まずいな、と貞盛はつぶやきます。東人は額に矢を立てても背中には立てるなという考えがあり、そうした死にざまに国香の評判は悪いだろうと考えたのです。
貞盛は、源家の三兄弟が討たれたからといってなぜ国香がそれに与して出馬しなければならなかったのかと吐き捨てます。繁盛は貞盛の妻小督の実家だからだと反論しますが、それを言うなら将門は国香の甥であり自分たちにとっては従兄弟にあたり、より血が濃いわけです。どこまでも付き従って主を守れなかったことよりも、なぜ止めなかったかと貞盛は真樹を叱責します。
真樹は貞盛の言うことがいちいちごもっともと頷きますが、こうなった以上は敵討ちをしなければならないと貞盛を見据えます。「だから俺は坂東は嫌いだ」 都の司人である貞盛は、主の許しを得ないまま坂東へ帰るわけにもいかないわけです。とはいえ自分は嫡男でもあり、父の死は繁盛や真樹以上に感じています。貞盛はむせび泣きます。
貞盛が“主”と言ったのは、小一条院の忠平である。貞盛は京へ出て初めて仕えた三条の定方が病没したのちは、以前小次郎の主でもあった左大臣・藤原忠平の家人となっていた。忠平にとって貞盛は今や気に入りの家人であった。争いを好まない忠平は、地方の豪族の私闘で平和を擾乱(じょうらん)された罪は、将門にも源家の兄弟にも国香にも双方にあると考えています。
いずれ国府から正式の使者が来るまで、貞盛には軽々に動かないようにくぎを刺しておきます。忠平は貞盛が父の死に対して感情的にならず、主たる自分の意向を第一にしようとしている様子を見て満足であった。だが貞盛の本心はといえば、彼はどうしても都を離れたくなかったのである。都への栄達に背を向けて、坂東での争いに巻き込まれることなどまっぴらであった。
都のはずれ、東山の武蔵の家。主のいないここを訪れたのは伊予にいるはずの純友である。純友はここで武蔵の元を離れた季重と再会します。純友は なぜ? と感じつつ、言いにくそうにしている季重に「まぁいい」と問わないことにします。純友は察していた。季重は密かに武蔵を慕っている。その武蔵が愛しているのは純友である。季重にはそれが耐えられなくなったのではないか──。
伊予に海賊の追捕使の第二陣が来るはずなのに、未だに来ません。純友は第二陣をたきつけて“海賊大将軍”として旗を掲げようと、そのきっかけとして伊予で追捕使を待っていたわけです。しびれを切らして出て来た純友は、武蔵の家を借りて打ち合わせしたいと季重に伝えます。
集まってきたのは鹿島玄明と螻蛄婆(けらばあ)でした。季重はかつて対決をした螻蛄婆に評定を固まらせますが、かつて武蔵らを助けてくれた礼を伝えます。純友は武蔵の消息を尋ねますが、生国の武蔵にでも落ちたのでは? とあいまいな返事です。三人の男は、それぞれに行方のしれぬ武蔵に思いをはせていた。
「将門のやつ、思い切ったことを……!」 螻蛄婆に関東の戦のことを聞いた純友はニヤリとします。せっかく燃え上がったこの火を消さないためには、貞盛を坂東へ帰す必要があります。玄明曰く、貞盛は坂東に帰りそうにないわけですが、しばらく考えていた純友はニヤリとします。「策がある」
そのころ坂東では、小次郎が何ごともなかったかのように毎日の労働に汗を流していた。将門の屋敷を、戦勝を祝いに鹿島玄道が訪ねてきていました。将門は玄道を屋敷に通しますが、将門と源家とのいさかいのきっかけにもなった玄道と関わりを持つことに不吉な予感を抱く郎党や将頼です。彼らの予感は実は的中していた。しかしそれが現実のものとなるのは、まだだいぶ先のことである。
酒を酌み交わしながら、将門の活躍を称える玄道と三宅清忠ですが、将門は伯父を討ったことに後ろめたさを感じています。玄道は、発端は将門が良子に惚れたこととはいえ、この戦いのそもそもの原因は将門の一族の領地に対する飽くなき欲だと主張し、伊和員経もそれに同調し、国香を討ったことを気に病むことはないと将門を励まします。
将門は、父から受け継いだ土地を守り、民人たちと開墾して土地を増やそうとしているだけで、悪いことをしたつもりはありません。伯父たちも土地が欲しければ開墾すればいいだけで、なぜ憎まれなければならないのかと寂しそうに笑います。「正直者だからさお主が。融通の利かぬ男だからだ。それでよいのだ。だからこそ俺たちはみんな、お主のことが好きなんじゃないか」
清忠は、将門のその律義さがいずれ将門自身に仇せねばいいがと心配になります。員経はふと、貞盛は京から帰ってくるかとつぶやきます。小次郎は太郎と戦いたくなかった。彼には苦い思いを味わわされているとはいえ、それはもう忘れたかった。太郎貞盛が最も親しい従兄弟であり、友であることに変わりはない。そう思い込みたい小次郎であった。
都では、やがて妙な歌が流行り始めていた。「帰命頂礼、帰命頂礼、御仏たちよ~」と舞うのは螻蛄婆、笛を吹くのは玄明です。この流行り歌は貞盛のことでありまして、親を討たれても敵討ちに坂東に戻る気配のないことを揶揄しているわけです。坂東武者は強いという京の下々の者が持つイメージを、裏切られたとあざ笑うかのようです。
その流行り歌を聞いた忠平は、第二陣の海賊追捕使に大中臣康継(おおなかとみの やすつぐ)を任命し、ただ一人生きて帰った将門にあやかって? 坂東武者のみ30人を派遣することにしました。忠平に呼ばれた藤原子高は、貞盛を坂東に帰すことを進言します。忠平は貞盛を呼び、言葉をかけます。「さぞ国許へ帰りたかったであろう。しばし暇を許すぞ。早く立ち返り諸事しかるべき始末をせい」
忠平の言葉を貞盛は「弔い合戦などするな」と言っているのだと理解した。屋敷に姿を現した貞盛に、貴子姫は大喜びですが、しばらく坂東へ帰ると告げられるとポロポロと涙を流します。貞盛が将門と戦をする……。それが貴子姫には耐え難いことなのかもしれません。貞盛は流行り歌がこの屋敷にまで伝わっていることに不意を突かれます。
貞盛は坂東に帰り将門に会う。今回のことは一族の不幸だった。ゆえにこれ以上の詮索はせず、これ以降の不幸を食い止めなければならない。将門が国香の死について貞盛に詫び、貞盛はそれを許す。土地の管理は将門に任せ、その上がりを京の貞盛に送ってもらう。貞盛はそれを活用して都で栄達する──。これで円満解決だと胸を張る貞盛に、貴子姫は不安げな表情を浮かべます。
都の下々の者たちは、舞台が京より遠く離れた坂東であるせいか、坂東に帰った貞盛と将門が戦うことを望んでいるようです。貴子姫は帰らないでほしいと貞盛に伝えます。貞盛が坂東に帰れば戦になる気がしてならないわけです。この時、太郎貞盛の心に兆したものは、貴子に対する愛情ではなかった。それは嫉妬であった。「……あなたはまだ小次郎を慕っているのか!」
しばらくして、貞盛はすでに帰っていました。貞盛はもう来ないとつぶやく貴子姫に、そんなことはありませんと乳母は励ましますが、それが叶えばつまり将門を討ったことを意味するわけです。貴子姫の元から将門も貞盛も去ってゆき、「このまま不幸せなままで滅びていきたい」という気持ちになっています。
乳母はそれでも貴子姫を励まそうと、また貞盛が来てくれると言いかけて、将門か貞盛のどちらかが、と言い直します。しかしその言葉が、貴子姫の気持ちをグチャグチャにしてしまいます。貴子の予感もまた正しかった。貴子はこの後、生きて再び太郎貞盛の腕に抱かれることはなかったのである。
貞盛が坂東へ向かいます。玄明は貞盛には気の毒な気もしています。純友は、将門が対立しているのは一族でも坂東源氏でもなく、この国のくさり果てた現状、つまりは国家そのものだと考えています。「俺はやがて必ず起こるべきものを、少しでも早く起こしたい」 旗を上げる時も近いと、純友は伊予に帰ることにします。
そして貞盛が峠を越えて坂東入りしました。玄道からその報告を受けた将門は、来たるべき運命を目を見開いて受け入れます。やはり太郎貞盛と自分は戦わねばならないのだろうか、と小次郎は暗く重い心でつぶやいた。
原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
吉永 小百合 (貴子)
山口 崇 (平 太郎貞盛)
真野 響子 (良子)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
木の実 ナナ (美濃)
宍戸 錠 (鹿島玄道)
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佐野 浅夫 (平 国香)
奈良岡 朋子 (乳母)
仲谷 昇 (藤原忠平)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:小川 淳一
演出:重光 亨彦
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第24回「川曲の戦い」
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