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2024年4月16日 (火)

プレイバック風と雲と虹と・(31)龍と虎と

重なる不幸についに遊女の身となった貴子と、小次郎は出会った。みじめな再会である。 どうしてこんなことに……と将門はやるせない思いですが、貴子は泣いて答えません。「私は坂東で太郎に言いました。あなたを不幸にしてくれるなと」 貴子はいたたまれず、部屋を飛び出します。廊で泣き崩れる貴子を、酒を運ぶ召使の婆は貴子を無言で見下ろし、通り過ぎていきます。

貴子の脳裏に、荒れ屋敷で宿をとる貴子たちが山賊に襲われたときのことが鮮明によみがえります。抵抗した乳母が斬り殺され、貴子がなぶりものにされたのでした。将門はそれを婆から聞き、怒りに震えます。貴子は山賊に拉致され、5日後に山賊から人買いに売られて京に戻り、都で遊び女宿に売られたというわけです。小次郎はすべてを知った。声を上げて泣きたい思いだった。

酒をあおり続ける将門は、婆が瓶子を取り換えている間にゴロンと横になります。そして酒の入った瓶子を貴子が持ってきました。「あなたはお客、私は遊び女」 将門はムクリと起き上がり、貴子に酒を注いでもらうと一気に飲み干します。貴子も酒を飲むと、将門は貴子の手を掴みます。イヤッ…小次郎さまとだけは…と貴子は拒絶しますが、将門は無理やり貴子を抱き寄せ、静かな夜は更けていきます。

夜明け近く、小次郎はその家を出た。貴子と婆「またいらして。きっと……」 貴子のまっすぐ見つめる目に、将門は大きく頷きます。小次郎は、貴子をこの境遇のまま置くことに耐えられなかった。しかし、今の彼はまず裁判に勝たねばならず、自由になる財物はとぼしかった。ふと玄明の笛が聞こえたような気がした。空耳のようであった。

 

ここは東山の、以前武蔵が暮らしていた家。海賊大将軍純友が、大胆にも都にいる。貴子姫の話を鹿島玄明に聞き、藤原純友も哀れだと表情を曇らせます。都の女──嵯峨帝の曾孫たる貴子のような──という者ほど生きるすべを知らない、と純友はつぶやきますが、将門の心を思えば何とも言えません。将門に知らせてよかったのか、玄明は今でも迷っています。「どうします?」

人々に“坂東の虎”と畏れられる将門が、“南海の龍”と呼ばれる自分の志に同じて起つ時、初めて自分の志は成る。将門の気が進まないものを無理やり強いて起たせようとしても無駄だと純友は考えます。「将門のことは将門に任せよう。俺にできることは」と立ち上がりますが、いろいろ考える玄明の前に戻って来ます。手には砂金袋が握られています。「……これで自由にしてやれ。その遊び女」

玄明はその袋を手に遊び女宿へ行き、貴子姫を迎えに行きます。先頭で片膝をつく玄明に「私をお救いくださった方のお名は?」と尋ねますが、申し上げられませんと断ります。今の彼女にとって思い当たる名と言えば、小次郎将門のほかにはなかった。行き先は姫君のお心任せ と玄明に言われ、貴子姫は躊躇しながら力者に答えます。「……平 小次郎将門さま」

貴子姫の突然の来訪に、将門は戸惑いつつ迎えに出ます。将門と再会した姫はうつむきますが、従者として控える者の中に玄明の姿を見た将門はすべてを察します。まずは伊和員経に中にお連れするように命じ、玄明に声をかけようと振り返りますが、その時にはすでに輿も、玄明の姿もありませんでした。将門はフッと笑みを残し、対面所に戻っていきます。

対面所に入って来た将門に、寂しさを吹っ切るかのように姫は抱きつきます。もう泣かなくていいと慰める将門に「貴子は……ここにいてもいいの?」とつぶやきます。貴子は自分ひとりを頼りきって来たのだと、小次郎は思った。彼女がひたすらあわれであった。「これから私がいる。もう決してあなたを二度と不幸にはしない」

しかし員経は、将門が貴子姫をこの屋敷に迎える意向を知り、坂東へ戻る時にはどうするつもりなのかと問いただします。坂東へ連れてゆくのかと畳みかけるように問いかける員経に、将門は声を荒げます。「分からぬ。俺はあの人を見捨てることはできぬ!」 将門を、員経は黙って見送るしかできませんでした。

その年も暮れて、貴子は昔の明るさを取り戻していた。彼女には昔のあの家で、昔のままの自分と小次郎がいるような、そしてそのままの素直な続きとして、自分と小次郎との現在があるような、そういう気持ちがしていた。将門と貝合わせで遊ぶ姫は、将門と出会ってからのことを思い出します。

病の床についていた姫を、将門が救ってくれたこと。その時将門に微笑んだのは、なぜか将門に安心感を覚えたこと。「いや…美しい」と将門に言われはにかんだこと、「私は坂東へは帰りません。京で身を立てます──」 抱いて! と姫は目の前の将門に抱きつきます。太郎貞盛とのことも、盗賊たちのことも、またそれからのさまざまなことも、全ては夢か幻のようであった。

 

小次郎が検非違使庁に出頭を命じられたのは、翌年の2月であった。将門とともに居並ぶのは源 護(まもる)と佗田真樹です。護の子・源 隆、源 繁を殺害し、平 国香と闘諍し殺害に及んだことについて、将門はおおよそは相違ないと認めます。ただ“私怨をもって”戦いを挑んできたのは先方であり、当方はやむなく相手になったにすぎないと主張します。

ことの起こりは、源 扶(たすく)に嫁ぐ予定だった平 良兼の娘を将門が奪ったことにあります。将門は詫びるために武装せず供回りもわずかで石田(しだ)へ向かったのですが、それは護の長女で良兼の妻である詮子から“自身で源家へ詫びに行けばことは平和に収まる”という文を受け取ったからです。将門は求めに応じて、その文を証拠として提出します。

石田へ向かう途中、護の子3人が将門を待ち伏せしていました。「武人にあるまじき卑怯を憎み、加えられた攻撃に対しこれを受けて戦うは、坂東武者の倣(なら)いであります!」 さらに将門は、自分が好んで合戦闘諍を成し放火や流血を喜ぶ者ではないことは、その後の下野国境の合戦の経過が下野国府の日記に記載されてあるはず、と主張します。

藤原忠平は、公卿たちから検非違使庁での裁判の様子を細かく聞き取ります。堂々とした態度で、これぞ誠の武士だと将門の評判は上がる一方です。まずは将門を褒め、純友征伐に西国へ派遣する提案をする者、かつての海賊追捕使で将門だけ生き残って帰って来たことから、将門と純友が通じ合っていると疑う者、忠平は両者の意見をひとまず聞いておくことにします。「会ってみよう。将門に」

そのころ藤原子高(たねたか)のところには、海賊追捕使として伊予に派遣されていた大中臣康継(おおなかとみの やすつぐ)が進物を手に訪問していました。また昔のように小一条院の家司として勤めたいという康継ですが、ちょっとしくじりが多すぎたと子高はやめておくよう突き放します。とぼとぼと対面所を後にする康継は、たくさんの進物を運び込む真樹たちとすれ違い、純友に恨みを抱きます。

挨拶を終えた真樹に、小一条院の家人が貴子姫について“耳寄りな情報”をちらつかせます。真樹は多少の砂金を掴ませ、教えてほしいと懇願します。うわさなのだがと断ったうえで、近ごろ元のさや(将門)に収まったと教えてくれます。しかも姫は遊び女に身を落としていたわけです。「お主のあるじは違う。どぶに落ちた女に未練を持つようなお人ではない。この件についてはお役御免というわけだ」

将門を呼んだ忠平は、将門は我が家人であると伝えたうえで、純友は友か? と尋ねます。「は。友であります」と将門は間を置かず返答します。現在の純友のことを風の噂で聞いている将門は、純友とは考えを異にしています。あくまでも坂東の大地と民人が大切な将門は、民人を害する賊なら誰であろうと討つ考えなわけで、もし純友が豊田に攻め込んできたとしたら討ちます、と説明します。

面会を終えた将門は、廊である人物とすれ違います。紀 淑人(よしと)──。この人物のために、純友とその海賊団は最大の困難に直面することになる。

 

都の市中をみすぼらしい恰好をして歩く純友は、武蔵に似た女を見かけます。武蔵のことを思い出しているな? と警護の螻蛄婆(けらばあ)にからかわれます。純友はこの格好でバレはしないから、ひとりにさせてほしいと言い、分かれることにします。「玄明に将門を呼ぶように言ってある。あいつにはどうしても会っておきたいから」 しかし、すれ違った康継が純友を見つけてしまいました。

夕方、玄明は将門の館を訪問します。貴子を救い出した“代(しろ)”を払いたいわけですが、誰が払ったかについては玄明は答えません。それよりも、都にいるはずもない人が会いたがっていると将門に伝えます。察しのいい将門はそれが伊予の純友で、払ったのも彼だと即座に理解します。「会おう。姫のことだけでなく、俺はあの人に会いたい」

夜、純友は武蔵の家に戻りますが、ずっと後をつけていた康継に家を着き止められます。康継は従者に見張るよう命じ、戻っていきます。そして将門と玄明は武蔵の家へ。そのころ康継の報告を受けて、子高らは武士を連れてその家に向かっています。両者が鉢合わせするのは、もはや時間の問題──。純友と将門、この二人が相会うはずの東山の家を、いま無数の役人たちが押し進もうとしている。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
吉永 小百合 (貴子)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
藤巻 潤 (佗田真樹)
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仲谷 昇 (藤原忠平)
細川 俊之 (紀 淑人)
入川 保則 (藤原子高)
吉行 和子 (けら婆)
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西村 晃 (源 護)
奈良岡 朋子 (乳母)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:小川 淳一
演出:重光 亨彦

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第32回「裁きの春」

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