« プレイバック風と雲と虹と・(31)龍と虎と | トップページ | 大河ドラマ光る君へ・(16)華の影 ~都で疫病がまん延・まひろは…~ »

2024年4月19日 (金)

プレイバック風と雲と虹と・(32)裁(さば)きの春

平 将門と鹿島玄明は武蔵の家に向かいます。小次郎と玄明は東山の道をゆく。この先の以前武蔵が住んでいた家に、京に潜入した純友が待っているはずであった。なぜ藤原純友は海賊の首領になったのか、将門はその答えを本人の口から聞きたいのです。純友の志が分からないわけでもないのですが、賊の手でこの国が変えられるかという疑問も正直あります。

「何なのかなぁ、賊とは」と玄明はつぶやきます。将門は“人を害し奪う者”を賊と定義しますが、だとすると公も賊だと言えそうです。純友が“内裏にすくうシロアリども”とよく口にしていましたが、中央の高官や公卿たちから地方の役人に至るまで、冷酷に人を害し無慈悲に奪うわけです。将門は、玄明が純友と同じ考えをするようになったのかと笑います。「さあ、急ぎましょう」

しかし、小次郎たちの向かう家には、役人たちがいま襲いかかろうとしている。馬上の人となった藤原子高や、都の市井で純友の姿を見かけた大中臣康継をはじめとする武士たちが駆け抜けていきます。その武蔵の家では純友が将門と玄明の到着が遅いことを心配していました。螻蛄婆(けらばあ)も戻ってきていません。ここで、少し時をさかのぼろう。

 

この日の午後。小一条院では太政大臣藤原忠平と紀 淑人(よしと)、それに忠平気に入りの家司・子高(たねたか)が話し込んでいた。藤原子高は山陽道巡検使の経験から、鼻を削ぎ耳を落とし目をえぐるなどの厳罰で当たるしかないと、従来の主張を繰り返します。賊は民人に化け、民人は賊を庇い逃がすわけで、無理に海賊と民人を分けることなく、疑わしきはすべて罰する姿勢で対するのです。

そうやっていけば民人は脅(おび)え、自分たちが厳罰に処されないためにも周辺に海賊が近づかないように願うようになります。これが唯一の解決策と子高は胸を張ります。自分がいけばたちどころに、と子高が苦笑している横で、忠平は淑人を伊予守に任命しようとしていました。「ただし一つだけお願いがございます。全ては私一個の、私自身の判断によって処理いたしたいのです」

公の指示を仰がずに、というわけです。よかろう と忠平は返答し、どれぐらいの武者が必要かを問います。しかし淑人は無表情のまま、無用と返答します。「夢物語をされておられるのか」と子高は声を荒げますが、忠平がそっとたしなめ、それも含めて全てを淑人に任せることにします。

これまでの追捕使が無能だと言わんばかりの淑人の発言に、子高が腹を立てているところに、康継が慌てた素振りで対面を求めます。追い返せ! と始めは相手をするつもりはなかった子高ですが、ついつい耳を傾けます。「純友が……この都に!」 まさか、と笑う子高は、康継の表情を見て千載一遇の機会と悟ります。

子高は検非違使庁に寄り、役人と武士たちを動員させ、康継とともにその東山の家に向かいます。目標の家が近づくと、下馬して軍勢を止め、物見を放ちます。戻って来た物見によれば、純友はまちがいなく家にいるようで、それを康継から報告を受けた子高は、検非違使たちに家に向かわせます。足音を立てず、家に近づいてゆく武士たち──。

待った、と玄明は立ち止まります。大勢の人の気配がするのです。「……まずい。囲まれてしまっている。小次郎どのはここにいてください」 玄明は俊足で武蔵の家に向かいます。しかしその時には武士たちが家に乱入し始めていました。

足を踏み入れると、そこには尼姿の螻蛄婆(けらばあ)が座っていました。「純友はどこだ! 大罪人藤原純友だ」と問いただすと、あ~、と尼は頷きます。「海賊大将軍、南海の龍? ……伊予」と白を斬ります。子高は尼を捕縛し、康継は屋敷内をくまなく探させます。カサカサという物音に気付いた兵は、ゆっくりと近づいていきますが、口を押さえられて連れ込まれます。

大勢をもってしても純友は見つけられず、イライラを募らせた子高は尼を打ち据えます。検非違使は純友がいくら大胆でも都にいるはずがないと鼻で笑い、「確かに純友め、ここに……」と弁解する康継は、子高にギロリと睨まれます。純友が見つかっていない以上、その言葉に説得力はないのです。子高は小一条院の大臣第一の寵を受けると圧をかけ、検非違使に再度くまなく探し直させます。

待っていた将門のところに玄明が戻って来ました。大丈夫、と言っているところを見ると、純友は左記に到着した婆によって危機を脱したようです。役人たちに見つかると後が面倒と、この場を立ち去るように将門を促します。結局純友を挙げられなかった軍勢は、尼ひとりを連行して戻っていきますが、その最後尾からとぼとぼ歩いてくる兵が純友であることに、誰も気が付いていません。

ある屋敷横を進んでいると、純友は素知らぬ顔で隊列から離れ、屋敷に入っていきます。そして尼も役人を呼び止めます。「これ! ちょっと! 人には代わってもらえぬ用じゃ、道端でしますかの?」 察した武士は検非違使の尉に報告し、屋敷内の木の陰で用を足します。もちろんつながれた縄は遠く離れたところで武士が握ったままです。

ほんの少しして、縄を握る武士が振り返ると、縄の端は木の枝に結ばれていました。武士は慌てて軍勢を追いかけていきます。その後から出てきた純友は、やれやれといった表情ですが、やはりうっかり目は離されぬわ、と婆はつぶやきます。「もう言うなお婆。将門には会えなかったが……いつか時が来よう」

新任の伊予守として赴任する紀 淑人──。傀儡の男の調べでは、弾正台(だんじょうだい)の少弼(しょうひつ)は正五位下の位であり、伊予国は上国(じょうこく)なので従五位下相当です。つまり淑人は格下がりして赴任してくるわけです。忠平が特に小一条院に呼んで口説いただけの人物ではあります。

淑人は、紀という秀才の家ながら、おべっかを使うのが嫌いという本人の性格が影響しているようです。目下の者には評判がよく、ただの学者にととまらず人物もとても立派で、仕事も相当できる人です。そんな淑人が話し合いで収めようとしている……。「螻蛄婆、容易ならぬ人物だな、これは。頭目どもを呼び集めよう」

 

佗田真樹が将門の屋敷を訪問し、将門は喜んで迎え入れます。真樹は平 貞盛の命を受けて、将門が身元を引き受け養っている貴子姫の引き渡しを求めてきたのです。将門は姫が貞盛の女ではないと声を荒げます。「あなたが太郎からどのような命を受けて来られたかは知らぬが、太郎は姫を見捨てたのだ」 そのことだけでも将門は貞盛を許すことはできないわけです。

たとえ主に非があろうとも主の悪口は言えない──。真樹は、主が主であるに値しないとしても、一度受けた命は責任をもって果たしたい、その胸中を察してほしいと頭を下げます。目通りして姫に問い、将門を取るか貞盛を取るか、本人の口からの返事を自分の耳で聞きたいという真樹の願い出を、将門は受けることにします。

追い返してくださいまし、と姫は拒絶します。貞盛がこの世に生きていることでさえ姫は忘れたいほどです。将門は、それを真樹に伝えてやってほしいと優しく諭しますが、姫は首を振ります。無論、佗田真樹には分かっていた。もし貴子を小次郎から引き離すことが出来たにせよ、太郎貞盛が全ての事情を知れば、決して元通りに貴子を遇することはないだろうと。

対面所には将門だけが戻って来ました。会わぬという貴子の返答を聞き、真樹はこれ以上の要求は無理と判断します。玄関まで見送りに出た伊和員経に、あなたはいい主を持たれたと真樹は一礼します。「またお目にかかりましょう」「きっと、また」 この後、互いが相会う場所は、おそらく合戦の場だ。それが二人ともよく分かっていた。

対面直後、将門は久しぶりに小野道風を訪ねることにします。弟将平を弟子に送った時と同じ、ネコに囲まれて昼間から酒をあおる自由な暮らしぶりです。動物好きな将門は、1匹のネコを抱きかわいがります。小野道風とは久方ぶりの対面である。この男は、昨日も会っていたかのように話す。それが小次郎には楽しかった。

道風は、将門の裁判が遅れていることを気にかけます。恐らくは公でも将門の処置に困っているのでしょう。公に巣くう公卿たちは、自分たちが日本を統べる地位にありながら民人のために何もしていないことをよく分かっているのです。いつ、民人が自分たちの無能に気づき、つむじ風のように一気に追い払われるのではないかと恐れているわけです。

西の海ではすでに高波が逆立ち、そして坂東が何やらざわめき始めている。将門はおもしろそうに笑みを浮かべます。しかし今、ここで将門に手をつければ、かえって坂東全体を燃え上がらせてしまうかもしれないわけで、そういう意味で将門の処置に困っていると道風は説明します。「お主に何かしてやれることがあれば、いいのだがなぁ」

じっと待っている将門は弓の鍛錬に余念がありません。庭の桜が花びらを雪のように降らせ、春の到来を感じさせます。故郷では田畑の仕事が忙しくなるころで、良子が身ごもった将門の子も、そろそろ産まれるころです。小次郎は、3月のはじめに1度、月半ばに1度、検非違使庁に呼ばれた。が、裁きに格別の進展はなかった。良子が子を産むのは4月のはずであった。

数日後、思いがけない訪問者を小次郎は迎えた。興世王(おきよおう)は将門の裁判について“吉報”を伝えます。その上で、都が嫌になった興世王は坂東へ行きたいと言い出し、着任の際はよろしくと挨拶するのです。「何しろ坂東一の勇者を友に持っていれば、心強いから」 小次郎は興世王という人物を好きになれない。だが向こうは勝手に小次郎の友人になりたがっている。

月が替わって4月7日、判決の言い渡しがあった。小次郎に対する判決文は、興世王のもたらした情報と同じであった。罪はあるが大赦によってこれを許すというのである。源 護(まもる)たちへの申し渡しも、ほぼ同文であった。だが──。将門のみに非があるとの護らの訴えは、公を欺き罪を相手にのみ据えようとしたもので、きつく叱り置くと太政官は付け加えます。すなわち、双方同罪としながら、将門の主張をより認めた判決であった。

小次郎は、右近の馬場の火雷(からい)天神で、御霊移しの儀式に列した。菅原道真の神霊を坂東に移す。それは小次郎が菅原景行から依頼されてきたことであった。

屋敷に戻った将門は神妙な面持ちで、裁判も終わったことで、都を発たなければならないと姫に打ち明けます。お供します、と姫は返答します。「小次郎さまのいらっしゃるところ、どこへでも。貴子にはその他の道はないの。たとえそれが、どんなにつらい道でも」 将門は、声には出しませんがとても嬉しそうで、穏やかに笑みを浮かべます。

 

常陸府中・源 護の館──。裁きの判決が早馬でもたらされます。病が癒え左目に眼帯をする源 扶(たすく)は、判決の内容に激怒します。詮子は、合戦で受けた恥は合戦で雪ぐしかないと主張し、扶は、裁きに勝って有頂天になる将門の隙を狙うと提案します。公の意に背くことになると平 良正は難色を示しますが、扶はニヤリとします。「勝てばよいのだ。小次郎を討ち取れば後のことは何とでもなる」

翌朝、将門の館から元気な赤子の鳴き声が響き渡ります。男の子と聞いて郎党や民人たちは大いに沸き立ちます。平 小次郎将門の子、後に豊太丸と名付けられる男子の出生である。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
──────────
[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
吉永 小百合 (貴子)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
真野 響子 (良子)
──────────
仲谷 昇 (藤原忠平)
細川 俊之 (紀 淑人)
米倉 斉加年 (興世王)
小池 朝雄 (小野道風)
──────────
西村 晃 (源 護)
星 由里子 (詮子)
緒形 拳 (藤原純友)
──────────
制作:小川 淳一
演出:榎本 一生

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第33回「凶兆」

|

« プレイバック風と雲と虹と・(31)龍と虎と | トップページ | 大河ドラマ光る君へ・(16)華の影 ~都で疫病がまん延・まひろは…~ »

NHK大河1976・風と雲と虹と」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« プレイバック風と雲と虹と・(31)龍と虎と | トップページ | 大河ドラマ光る君へ・(16)華の影 ~都で疫病がまん延・まひろは…~ »