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2024年4月 9日 (火)

プレイバック風と雲と虹と・(29)脅(おび)える都(みやこ)

小次郎は三たび勝った。上総の良兼勢、水守(みもり)の良正勢、そして彼らが下野の豪族たちからかき集めた兵を合わせて、総勢2,300。その中には太郎貞盛の姿もあった。だが小次郎はその20分の1の兵力をもって、見事に打ち破ったのである。そしてその夜──。下野国府に赴いた平 将門は、戦で騒がせた詫びと経緯について説明に来たと、下野守・大中臣全行(おおなかとみの またゆき)への面会を求めます。

なだめあしらう平 良兼とは違い、将門はとても丁重な接しぶりで、全行は権威を示すため政庁で対面することにします。下野守・大中臣全行、この春に赴任してきたばかりである。全行の前に進み出ようとした将門に、直答はならないと役人は注意します。小次郎は突然ばかばかしくなった。あの、いやな都の生活を思い出したのである。

小次郎は立ち上がり、「おうっ」と大声を上げます。全行はじめ役人たちはその声に驚いてのけぞり、ガタガタと震えています。それでも直答はしないように食い下がる役人を、口を差しはさまないようにギロリと睨みつけます。将門は名乗った後、語った経緯をすべて記録してほしいと申し出ます。全行は圧倒されて、役人に記録を命じます。

小次郎はこの下野国府の館近くに良兼たちを追いつめ、しかも囲みの一方を解いて彼らを逃げるに任せたことに至り、すべてを率直に語った。下野守はじめ国府の役人は、小次郎が良兼たちを逃がしたことを、国府の存在をはばかったものと理解して大いに喜んだし、そして何よりも小次郎の率直さが彼らを感動させていた。

「花も実もある武者とは豊田の殿のこと、これよりは坂東の武人の棟梁と仰がれることはゆめ疑いありませぬな」と全行は言葉をかけます。引き上げていく将門に、全行は役人に見送りを命じます。下野守・全行の言葉は当たっていた。うわさが広まると全坂東が小次郎の武名を称えて鳴りどよめいたのである。

 

同じころ、純友の率いる海賊団は瀬戸内の海を完全に制圧していた。船を見つけた純友は、行けの合図を送ります。別の船に乗る大浦秀成や藤原恒利も、純友の下知に合わせ攻撃を開始させます。貢ぎ船に次々と乗り移った海賊たちは、攻撃をかわしながら運び荷を得ます。かつて九州や山陽諸国からの貢ぎ船は、ことごとく純友の指揮する海賊団の餌食となったのである。

「都では貢ぎが入らずに堪えておるだろう、シロアリどもめ」と純友は不気味に笑いますが、その傍らには眠そうな螻蛄婆(けらばあ)が純友の言葉に頷いています。婆は勝負が決まっている合戦に興味はないわけで、眠れるほど余裕だったことがうかがえます。あと京への貢物が閉ざされるのは陸路ですが、東海道を抑えるために坂東の様子が知りたいと純友は考えています。

西の海は海賊に制圧され、東の方 坂東では合戦騒ぎ。中央政府はひとかたならぬ脅(おび)え方であった。藤原忠平は、1艘ずつ海を渡ってくるから海賊たちに襲われるわけで、船団を組んで一時に都に向かわせよと公卿に命じます。居並ぶ公卿たちは、今それを言おうと思っていたなどと適当なことを言っています。

そして坂東の情勢として、今回の戦のことが報告されますが、2,000余の軍勢に対し将門軍100が打ち破ったと聞き、公卿たちはにわかには信じられない様子です。将門のことは忠平もかすかに覚えていました。盗賊を討ち取り、伊予でただ一人生き残って坂東に帰った男。公卿は強すぎる将門を追討しようと忠平に進言します。「ま、それで将門を討てるか? 20倍する大軍をも打ち破った将門を」

藤原子高は、緒戦の源 護の一族および平 国香と将門との戦いに裁きを下すため、下総国府を通じて上洛を促してはどうかと忠平に進言します。忠平が見たところ、将門は反逆など大それたことはできそうになく、元は忠平の家人だった男に頭を撫でようかと笑っています。「あるいは、都でならどのような料理も」と押す子高に、血なまぐさいことは好かぬと忠平は受け流します。

 

坂東はすでに秋、取り入れの季節も近いほどであった。開墾作業の昼休み、良子は将門にいいことを教えてあげようと言いつつ、もったいぶります。子どものようだなと笑う将門に良子はふくれますが、「ややが産まれるの、あなたの」と打ち明け、将門は大喜びです。良子の胎内に俺の子どもが──将門は良子を抱き上げ、俺の子どもだ! と喜びを表現します。

9月に入って、都から裁きのため早急に上洛出頭せよとの命令は、常陸府中の源 護にも届いた。もとは将門に護の子・隆と繁を討たれ、国香も殺し、放火して領民を殺傷した件であり、都の太政官に訴えを起こしていたものがようやく取り上げられたわけです。護は裁判にあたり平 良正や平 貞盛、詮子を通じて引きこもっている良兼にも金銭的援助を請い求めます。

佗田真樹によれば、将門は下総国府に自ら出頭して、取り入れの終わった10月半ばに必ず出立すると申し出たそうです。そこに乱入してきたのは、目に矢を受け療養している源 扶(たすく)でした。扶は深酒していて、合戦では勝てないから裁きかと吐き捨てます。源 扶は、小次郎に受けた傷が化膿して悪化した。それがもとで長く病の床についていた。

そして10月。作業が終わって水浴びをする将門に、良子はどうしても京へいかなければならないのかと尋ねますが、公が呼んでいる以上、背くわけにはいかないと将門は良子を諭します。「心配するな。俺は昔の俺ではない。堂々と、正義を正義として通してみせる」 良子は、もしかしたら将門がいない時に子を産まなければならない不安に押しつぶされそうになっているのです。

取り入れが終わった時、将門の出立の宴が催されることになりますが、平 将頼や伊和員経はその客人(まろうど)の人選について将門に相談します。今回の戦の活躍ぶりで訪問客がごった返し、場合によっては屋敷に入りきれないことも想定されます。まさかと大笑いした将門は、いつものように内輪の家人と民人だけで質素にするよう命じます。

下野の田原藤太の館にも、将門の出立の宴に参加を希望する豪族たちが殺到しているらしいと伝わります。内輪の宴を理由に断りを入れていると聞き、郎党はせめて餞別をと進言しますが、藤太は表情を変えないまま「考えておこう」とだけ返事します。立ち聞きしていた武蔵は、将門と誼を通じるのは裁きが終わってからでも遅くはないと藤太が考えている、と微笑みます。

小次郎の旅立ちの宴は、やはり盛大なものになった。断っても断り切れぬ人々が続々と押しかけたのである。中でも羽生の御厨の別当・多治経明、そして相馬の豪族・文屋好立(ふんやのよしたつ)、この2人は前の下野境の合戦の後 繁々と出入りして、いわば勝手に小次郎の弟分の顔をしていた。

その宴の途中、菅原景行は将門を別室に呼び、貞盛から書状をもらったと打ち明けます。以前の約束のように将門との仲を戻したいと書状にあります。貞盛としては将門と戦うのが本意ではなく、だから戦いを避けて逃げたと。将門は、一度敵味方に分かれたのならば力の限りを尽くして戦うべきで、それをしないで逃げ、気持ちを汲んでくれという貞盛を許さないと景行に答えます。

将門の気持ちを理解した景行は、この話を二度としないと誓います。その上で、私事のことで将門にお願いがあると打ち明けます。景行の頼みとは、彼の父・菅原道真の霊をこの坂東の地にも祀りたいので、京の火雷(からい)天神から感状、すなわち分霊を受けてきてもらいたいというものであった。小次郎は快く承諾した。

その夜、小次郎は酔って熟睡していた。その寝顔を傍らでじっと見つめている良子ですが、ほほを涙が伝います。ふと目覚めた将門は、泣いている良子を見て驚きますが、良子は長い間離れ離れになることが悲しいのです。ここにこい、と将門は良子をしっかりと抱きしめますが、良子は亡き止みません。「都に行けば、きっとお会いになるわ。私よりも美しい方……貴子という姫君」

恐らくは員経から聞いたのでしょう。そして貴子姫は将門を裏切り、貞盛に乗り換えたことも知っていました。それで将門は自分とは何のかかわりもないと断言するのですが、良子の嫉妬に似たあふれ出る感情は、将門では抑えられません。小次郎は衝撃を受けていた。良子は小次郎のことを、今は小次郎自身よりもよく知っているのかもしれなかった。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 太郎貞盛)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
真野 響子 (良子)
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露口 茂 (田原藤太)
長門 勇 (平 良兼)
太地 喜和子 (武蔵)
高橋 昌也 (菅原景行)
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星 由里子 (詮子)
西村 晃 (源 護)
仲谷 昇 (藤原忠平)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:小川 淳一
演出:大原 誠

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第30回「遊女姫みこ」

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