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2024年4月12日 (金)

プレイバック風と雲と虹と・(30)遊女姫みこ

平 将門は、良子や平 将頼らの見送りを受けて京に向けて出立します。承平6(936)年の秋も闌(た)けた10月、小次郎は再び都へ向かう。前年2月、源家一族および平 国香と合戦闘諍(とうじょう)に及んだ件について、太政官が裁きのため都へ呼び寄せたのである。

その道中を、季重が草むらに身を潜めて見守っていました。鹿島玄道は、季重がまだ将門を仇と付け狙うのかと笑います。将門が晴れ晴れとした明るい顔で都に向かったとつぶやきますが、それは季重も同意見です。明るいというか、さわやかというか……。「あれだけの男に討たれたと知ったら成仏するかもしれぬ。俺の弟も」

そのころ、純友は日振島(ひぶりしま)にいた。だが、この島に集う海賊集団の中には、すでに一つの危機が進行していた。海賊の鮫らは、紀 秋成たちの気取ったなりふりを我慢してきたわけですが、それが我慢の頂点に達して斬り合いの喧嘩に発展したのです。螻蛄婆(けらばあ)は止めに入り、無理やり両者を離します。婆が振り返ると、そこには鹿島玄明の姿がありました。

そもそも海賊たちのいら立ちは、産みを通る貢ぎ船が海賊を恐れて往来しなくなり、収穫がなくなって食べるものがないからですが、大浦秀成は高麗の方に出稼ぎに行くことを提案します。純友は高麗の様子を探らせようかと起き上がったところに、その必要はなくなりそうだと、婆と玄明が入ってきました。

「貢ぎが出るんですよ、それも船団を組んで」 九州諸国と長門国の貢ぎを満載した6艘、前後に護衛の武者30人ずつ乗せた船を4艘。1艘ずつ来れば海賊に狙われるからまとまって来ればと考えたのだなと純友はニヤリとします。これでひとまず危機は去る。そう純友は読んでいた。大きな獲物を咥(くわ)え込めば、当分の間海賊団の団結には心配がない──。

瀬戸内の海を東に。九州と長門の貢物を積んだ船団が、前後左右に護衛船を伴ってゆく。太政大臣忠平をはじめとする太政官の公卿たちが、論議の結果案出したこの船団と護衛船方式は、さすがに海賊たちを恐れさせたかのように見えた。今日の下関の港を発した船団が、何ごともなく周防灘、安芸灘を越え、海賊船らしい船影を見ることなく、やがて備後灘に差し掛かろうとしていた。

濃い霧の奥で海賊たちが船団を襲撃しているのを目撃した護衛船の武士は、一斉に射かけます。矢が当たって海に落ちるのではなく、逃げるために次々と海に身を投じる男たち。そして助け出された老臣は、2人の姫と1人の童に礼を言うよう促しています。その4人は、藤原恒利、千載、美濃、婆だったのです。

さて、その夕暮れのことである。4隻の警護船の警護の総大将が乗っている船が、予定の航路を外れて島影へと向かった。船団の全てが指揮者の乗る船に続いて島影へ。そしてその島影には……。純友ら海賊たちが待ち受けています。かくて螻蛄婆や恒利たちによって占領された船に誘導された全船団は、海賊団の張った網の真っただ中に入った。その結果は言うまでもない。

一部を共有の貯えにして残り全てを分けてしまえと純友は命じます。秀成は島の留守居にも配らねばと考えていますが、恒利は命を懸けて働いた者と仕事をしない者とで区別しろと主張します。恒利が分け前を一番もらうべきと考える総大将の純友が財宝をいらないと言って恒利を驚かせます。形はないがもっと大きなもの……。恒利は純友にはかなわないと、その考えに従うことにします。

 

小次郎が都に着いたのは11月のはじめ。もはや初冬のころであった。以前住んでいた屋敷が、2年半もの間 借り手も付かずにそのままの状態で残っていました。将門と伊和員経はさっそく、小一条院へあいさつに出向くことにします。小一条院に向かう途中に貴子の屋敷がある。近づくにつれて、やはり小次郎の胸はときめいた。が、同時にそんな自分に苦笑することのできる余裕が、今の小次郎にはあった。

その屋敷は火災で焼失し、門も壁もボロボロになり、草も生い茂っています。そこに今回の出頭に応じて佗田真樹が来ていました。敵味方になりましたね、と将門は寂しそうにつぶやきますが、真樹は平 貞盛からこの屋敷の姫に会うよう命じられていたのです。ということは貞盛も屋敷の消失、姫たちの行方知れずは知らないということになります。

しかし真樹は、主命を理由に何としても姫を探し出すと、一礼して去っていきます。小次郎の胸の中に、煮えたぎるものがあった。彼はかつてはっきりと太郎貞盛に言った。「俺の言いたいことは一つだけだ。あの人を不幸にしてくれるな」 将門は、屋敷跡の奥から近づいてくる貴子姫の幻影を見た気がしました。

小一条院に到着した将門は、さっそく藤原子高(たねたか)に進物を献上します。子高は坂東は遠国であることから、流言飛語が飛び交っている現状を伝えます。つまり武者の鑑と褒めたたえる者がいる一方、公に対して異心ありやと問う者もいるわけです。「この子高よりもよく申し上げておき申す。無論正邪曲直は自ずから明らかとなる。ご案じなさるには及ばぬ」

ちょくちょく顔を出すのがよい、と子高は勧めます。せっせと進物を持ってこいというナゾだと小次郎は思った。小一条院を辞した将門は、員経から源 護(まもる)と真樹は鞍をつけた馬を10頭持っていったと聞かされます。員経はこちらも進物の量を弾まないわけにはいかないと危惧します。きりがないな、と将門は笑います。

裁判とは、恥知らずに貪欲な中央政府の高官たちを肥え太らせるための競争のようなものだと、小次郎は思った。員経が調べたところ、貴子姫の屋敷は今年の春に厨(くりや)から火を出し、姫や乳母は行方知れずだそうです。貞盛が坂東に帰ってから、暮らしぶりはかなりひっ迫していたと聞き、将門はいたたまれなくなって、散歩と称して再び廃屋敷を訪問します。

 

荒れ果てた屋敷に立ち入り、骨組みの前で立ち尽くし物思いにふけっていると、聞きなれた笛の音が聞こえてきました。将門は旧友に会ったような笑顔で振り返ります。笛の主はもちろん玄明です。船団を一網打尽にした純友と玄明は、貢ぎ船が入らなかったことで京の都でどう騒いでいるか偵察に来たのです。玄明には、そろそろ将門が京に着くという理由もあります。

再び吹き始める玄明は歩いていき、将門は屋敷を出てついていきますが、玄明はあるところで立ち止まります。「この道を向こうへまっすぐに行くと会えます。あの人……貴子姫に」小次郎は立ち尽くしていた。この道を行けば貴子に会える。しかし貴子に会うことは恐ろしかった。会ってはならないと思った。

玄明がいう方へは進まず、来た道を引き返す将門ですが、突然の襲撃を受けます。刺客は7人、将門は数名を斬り、残りは撤退していきます。そこに現れた興世王は、先年将門が討った盗賊たちの仲間と推測します。興世王は、将門の坂東での武勇を面白く思わない公卿が多く、早くその芽を摘んでおかなければ思わぬことになるとつぶやきます。「しかし、強すぎたよ、ハハハ。強すぎた。では」

いつの間にか、小次郎の立っているところは、先ほど玄明から教えられた道であった。今の事件で彼の血は騒ぎ立っていた。抑えても抑えきれない衝動であった。将門は、玄明に教えられたように道を進んでいきます。しばらく歩くと戸が半開きになった屋敷があり、中の光が漏れています。その前に立つと戸が開き、どうぞ、と婆やが中へ案内します。

草に覆われた中を奥に進み、橋を渡るとようやく客間です。そこに腰を下ろした将門ですが、誰に聞いたのか婆は自分が何者か知っているようです。しばらくすると戯れる男女を目撃し、ここは遊び女宿ではないか、と将門は気づきます。小次郎は、こんなところに貴子がいるはずがないと思った。一度帰りかかるも、思い直して客間に戻ります。

濃い脂粉の香りが小次郎の鼻をついた。女が入ってきて、「暗いのは嫌い、私」と灯火の明るさを調節しています。明るくなったとき、女の横顔がはっきりと写し出されます。貴子です。将門の方を振り返った貴子は将門の顔を見て固まり、突っ伏して顔を隠します。小次郎と、変わり果てた貴子の無残な再会であった。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
吉永 小百合 (貴子)
山口 崇 (平 太郎貞盛)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
宍戸 錠 (鹿島玄道)
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真野 響子 (良子)
米倉 斉加年 (興世王)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:小川 淳一
演出:松尾 武

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第31回「龍と虎と」

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