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2024年4月26日 (金)

プレイバック風と雲と虹と・(34)将門敗る

出陣にあたって、旗が風に飛んだ。最も不吉とされることであった。ほんの一瞬前までは誰もが戦えば必ず勝つ自信にあふれていた。旗を拾った伊和員経は、何ごともなかったかのように旗竿に旗を取りつけ、平 将門も「今度はしっかりと結んでおけよ」と大笑いします。しかし兵たちの表情は沈み、将門の叱咤と平 将頼らの冗談に白々しい笑いが起きる程度です。

将頼や三宅清忠たち後詰の武将と良子や爺(老郎党)、それに部屋の陰からこっそり貴子が将門たちを見送ります。初めこそ笑顔で見送る彼らですが、次第にその表情は不安なものに変わっていきます。しかし見送る人々の心に、やはりこの事件は暗い影を落としていた。小次郎勢は小貝の渡しに向けて兵を進めた。小貝の渡しとは、今日の茨城県結城郡塩川村大園木のあたりである。

小次郎勢は小貝川を越えた林の中に陣を取り、敵勢を待った。敵勢は向こうの林に現れ、伯父たちにしては珍しく早く来たと将門は余裕さを見せますが、その敵勢はこちらに向かって突進してきました。平良兼や良正、源 扶(たすく)が軍勢の中ほどにいるのを見て、将門は本隊をまっすぐに突けと下知します。突き崩すことが出来れば、敵勢は烏合の衆のためこちらの勝利は確実なのです。

員経は敵勢が妙なものを用意していることに気づきます。高祖高望王の木像を掲げているのです。高望王とは桓武天皇の曽孫、臣籍に下って平 高望となり、坂東に土着した。すなわち坂東平氏の開祖であり、小次郎には祖父にあたる。今なお平氏一族の尊崇を集めているこの像に対しては誰も弓を引くことが出来まいという、良兼たちの計算であった。

良兼は将門勢を袋のネズミにせよとゆっくり進軍させます。将門軍が木像に恐れおののき、卑怯だと将門は悔しがりますが、良正の挑発もあり将門は弓を構えます。「この小次郎の矢に貫かれれば、それはただの木像だ!」と矢を放とうとした瞬間、弓の弦(つる)が切れて矢がふわりと浮かんで落ちます。ご尊顔の冥罰(みょうばつ)が下ったと敵勢は勢いに増し、一気に攻めかかってきます。

将門や員経の声にも関わらず将門勢は散り散りに逃げ始め、将門は仕方なく退くしかありませんでした。どうにも踏みとどまることができなかった。小次郎にとって未だかつてない屈辱の敗戦であった。それも力の限り戦って敗れたのではないことが、腹の煮えかえるほどの無念であった。

 

勢いに乗じて敗走する将門たちを追っていこうとする良正ですが、良兼は軍勢を止めよと命じます。まさか情けをかけるつもりなのかと良正は良兼を睨みますが、良兼が出てきた以上は自分の下知に従ってもらうという約束だったのです。良正はくやしい思いをしますが、ここは従わざるを得ません。

小次郎たちは豊田の館からほど近い林まで来て、三郎将頼たち率いる援軍に出会った。ここで態勢を立て直し、敵を迎え撃つつもりであった。弓の弦が切れることはよくあると将門は兵たちを励まします。そこに将頼が来て、物見の報告では敵兵は追って来ないようです。員経は将門が坂東一の武者だからだと笑いますが、兵たちは一様にうつむき目をそらします。

将頼は、ここは兵を引くしかないと進言します。小次郎は戦いたかった。すぐにも敵と矢を合わせて今度こそ相手の大軍を射崩したかった。その自信が彼の体内にはなお満ちあふれていたのである。いったん館に帰り、味方を募って態勢を立て直そうとする将門たちですが、多治経明の羽生御厨(はにゅうのみくりや)の方角から煙が上がっているのを見つけます。

敵勢は小貝川を渡って南と北に分かれ、南が羽生御厨に向かったようです。とすると北に向かった軍勢は来栖院(くるすのいん)を目指していると思われます。羽生御厨はその別当多治経明の所領であり、また来栖院は小次郎の領地の中でも最も豊かな荘であった。将門は将頼に清忠とともに来栖に向かわせ、文屋好立(ふんやのよしたつ)には豊田へ向かうよう命じます。

経明と員経と羽生に向かった将門は、燃え盛る羽生御厨を見て愕然とします。小次郎が御厨に着いた時には、もはや敵勢は影一つなかった。敵ながら見事な傭兵だと小次郎は思った。これまでは侮っていた伯父たちの知力を、改めて見直す思いであった。経明の留守居は敵の急襲の様子を伝えます。

経明は、敵を侮って大した用意をせずに出陣したのは失敗だったと認めますが、ヨロヨロ歩く爺は、一番の失敗は豊田に味方したことだとつぶやきます。誰にも味方せず、この里を守っていればよかったのだと。「みなお恨み申し上げておりまするぞ」と言う爺に将門は頭を下げて詫びますが、あたりに座り込む民人たちの将門を見る目が恨みそのものです。この仕返しはきっと、と将門は再起を誓います。

将頼と清忠が戻ってきて、来栖にも敵は残っていなかったようです。将門は、坂東武者として敵に背中を見せたことを恥じて沈んでいる兵士たちに「結局は俺も逃げたのだ」と励まします。相手の卑怯に怒り狂いながら、将門自身もどこかにためらいを感じていたわけです。祖父の罰が下るのならば、祖父を敬っていない伯父たちだと諭し、兵たちはようやく本来のやる気を取り戻します。

豊太丸の寝顔を見た後、貴子が不安がっていたと良子から聞いた将門は、その居室に向かいます。敵の襲来を不安に感じる貴子に、敵を蹴散らすさまを見ていただくと自信たっぷりの将門ですが、居室には市女笠が2つあるのに気づきます。貴子が侍女と将門の館を出て太郎貞盛の元へ向かおうとしていると知り、怒りに震えます。

そうだ、この人は都の女だった。ひたすら男を待ち、男を頼っていくしか道を知らぬ都の女。夏の虫が灯火にひかれて飛んでゆくように、有利な方へと身を寄せていかざるを得ない京の貴族の女。貴子が哀れであった。将門は冷ややかな目で貴子を見下ろし出ていきます。「あなたが死ぬ前に私を殺して……あなたの手で」と貴子は泣きつきますが、将門はそのまま出ていきます。

翌朝、将門や兵たちは武具の手入れをしています。敵は正面からの戦いを避け、民家に火を放って勝った結果だけを欲した形になりました。清忠は敵が撃ち崩したいのは、坂東一の武者としての将門に対する人々の信頼の念だとつぶやきます。だからこそ勝たなければならないと将門は決意します。

周辺の豪族たちに加勢を依頼して回った将頼ですが、戦の前までは無条件に味方する顔をしていながら、今回の負けを知るや、味方すると口では言いながら将門と直接会って返答したいと言葉を濁しているようです。わかった、と将門は直々に豪族たちを回ることにします。

 

8月、焼けつくような暑い日が続いた。その中を小次郎は行動した。近隣の豪族を回って、あるいは与力を依頼し、あるいは中立を要請した。将門は何度も汗を拭い、川の水で顔を洗い、道を進んでいきますが、将門も従者たちも意識がもうろうとしてきて、ついには将門が意識を失って落馬してしまいます。

将門が意識を取り戻すと、周りには従者のほか民人たちが取り囲んで、心配そうにのぞき込んでいました。よろめきながら将門が起ち上ると、民人たちが将門を守りながら豊田館まで送ってくれます。小次郎は思った。この人々のためにこそ勝たねばならないと。だが、この時の小次郎は自分の身体の異常をまだ十分に自覚してはいない。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
吉永 小百合 (貴子)
高岡 健二 (平 三郎将頼)
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真野 響子 (良子)
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峰岸 徹 (源 扶)
長門 勇 (平 良兼)
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制作:小川 淳一
演出:松尾 武

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第35回「豊田炎上」

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