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2024年5月17日 (金)

プレイバック風と雲と虹と・(40)夜襲(やしゅう)

承平7年、西暦937年の11月11日、富士が火を噴いた。民人は口々に“火雷(からい)天神さまが味方なさったからじゃ” “こんどはお山が火を噴いた!”と伝えていきます。螻蛄婆(けらばあ)と鹿島玄明は、火を噴く藤を見つめながら、驚きを隠せません。婆は、お告げがその通りになるのなら、あと一つ「世の中がでんぐり返る! 世の中が変わる!」が残っているとつぶやきます。

石井(いわい)の館から富士の方角を見つめる平 将門と家臣たちですが、神のお告げを信じないわけにはいきませんな、と伊和員経は驚きです。神には意思があるかもしれないという将門は、自らの心と意思に忠実に生きるしかないと諭します。それよりも将門が心配するのは、灰が降って降り積もり、作物に害が出る可能性です。将門は家臣たちをいったん里へ帰すことにします。

良兼軍もこんな事態に兵たちは集まるまいし、警護のために30名ほど残そうかと提案する平 将頼を止めて、10名でいいと将門は答えます。「何よりも大切なのは、田畑だ」 小次郎の心配は当たった。噴火が始まりその翌日の昼ごろになると、坂東平野一面に灰が降り始めたのである。そして半月の後、富士の噴火の噂は遠い伊予にまで届いた。

伊予・大津の藤原純友の館。富士噴火の被害について純友に話を伝えるのは小一条院家司です。これは、西海道南海道巡検使として伊予国に来ている中央の役人である。家司は純友が掾(じょう)として国司に出仕しない理由を尋ねます。いくら伊予守・紀 淑人(よしと)は立派だと言っても、淑人のやり方に一部からの批判もあり、あくまでも海賊を叩き潰すことだというのです。

もう一度言おう、と純友は家司を見据えます。ひとり紀 淑人がいたところで、この日の本のゆがんだ柱が立ち直るわけではないと。そして海賊の仲間になり“海賊大将軍”という呼び名を誇りにしている、と自ら明かします。「いいですか。そういう私を朝廷は、この日の本の中央政府はなお伊予掾として認めようというのだ。おもしろいですな」

そのころ武蔵は、純友の子・重太丸(じゅうたまる)の寝顔を眺めていました。そこにそっと入って来た純友とは久しぶりの再会です。「よく来てくれたな……」と純友が言うと、武蔵は我慢していた堰が一気に崩れたかのように恋しい気持ちを露わにし、純友の胸に顔をうずめます。武蔵は再び純友の胸の中に。二人の間の三年(みとせ)に近い月日の空白は、淡雪のように消えていた。

富士噴火の灰が降り積もった田畑の始末もそろそろけりがつき、田原藤太はそろそろ何かが起きるような気がしています。世の中、奥深いところで何かが変わりつつある。取り返しがつかないように……。「それを正しく捉える者こそ、坂東の主だ」 酒の相手をしていた爺は、藤太に大望があると直感しますが、迂闊なことを人に言うと許さぬと藤太は爺をたしなめます。

 

承平7年も押し迫った12月、小次郎の館の下人・子春丸は石田(しだ)への道を急いでいた。石田には彼の恋人がいたのである。歩を進める子春丸は足を引っかけ転ばされますが、気づくと兵に取り囲まれていました。悪いことをした記憶もなく、何が何だか分からないまま、佐野八郎の命でその兵たちに捕縛されてしまいます。

上総の良兼が密かに石田の里に来ている。もはや小次郎を倒す道は、彼の隙をつく奇襲以外にないと覚悟しての、隠密行動であった。岡崎の砦と石井の間を往復しているのがこの子春丸と知り、良兼はその健脚を評価しつつも、恋人は良兼支配下の民人であり、夜な夜な忍び入るのは許せぬと、磔か火あぶり、牛裂きの極刑にかけよと命じます。

「石井に夜討ちか」と小屋では源 扶(たすく)が酒をあおっていました。そこに戻って来た良兼は、少人数で寝込みを襲い将門の首を取るつもりです。石井にはそれ相応の備えがあると扶は考えますが、だからこそ今宵捕らえた子春丸を使うのです。そして良兼は子春丸の恋人を連行してきます。

恋人は良兼から衣を一反与えてもらい、子春丸も一の郎党にすると約束してくれたわけです。良兼は自分を磔にするつもりだと恐れおののく子春丸を、恋人は良兼の言うことを聞くように諭しますが、八郎は石井の館の様子を知りたいと子春丸を見据えます。「我らを手引きして、密かに石井に……」

子春丸は、これでも祖父の代から豊田に仕える家柄と、裏切りはしたくないようですが、恋人が平手打ちして言うことを聞けというものだから、否応なく従わざるを得ません。褒美の衣を授かった子春丸ですが、一の郎党に取り立てる話を疑います。そこに現れた良兼は、証文でもなんでも書いてやると口約束をします。子春丸はこの夜の内に岡崎の砦へ帰された。

 

岡崎の砦は、小次郎が新しく本家とした石井の北五里、いわば前哨基地としてここを三郎将頼が守っている。ある日子春丸は、ここから石井へ炭を運ぶことを命ぜられた。簡素な門をくぐる時、門番は見ない顔だと怪しみますが、子春丸は荷物が多くて従兄弟に手伝いを頼んだと弁明します。

早朝に岡崎の砦を出た子春丸と海老丸は、昼過ぎに石井の営所に着いた。海老丸は館の中を進みながら、柵に取り付けられた矢、鳴子などの防衛の様子、それから館の内部も隈なく確認していきます。子春丸の父も祖父も知る老郎党が現れ、従兄弟がいたかと訝(いぶか)しみますが、子春丸は自分の“恋人の”従兄弟だと言い直します。ともかく危うく正体がバレるところでした。

子春丸は誰も見ていないからと、荷駄を運んだ馬に乗ることを提案します。主の馬には乗ってはならない決まりですが、海老丸はその誘いに応じて馬上の人となり、岡崎の砦へ向かいますが、員経と馬に乗っていた玄明はその駒音を聞いていました。音に近づいてみると、馬にしがみつく子春丸と、乗りこなす男が通り過ぎていきました。玄明は男を気にしながら、戻っていきます。

員経と玄明は国府に出向いていまして、国府での将門の評判は上々です。富士噴火の灰の害に対して田畑を守ろうと民人に呼びかけて、対策を打ったことが大きいようです。京の都からも先ごろの合戦について詳しい報告を出せと下総国府に対して言っているようで、国司は将門の悪いようにはしないと言いつつ、藤原忠平に手を打っておいた方がいいと勧めていたようです。

将門は、その好意をありがたく受けつつ、放っておくことにします。将門は、都の人を頼る心も信じる気持ちも失せているわけです。将門は員経と玄明にゆっくり休むように言いますが、玄明は何か言いたげに立ち止まります。しかし結局は何も言わず、将門の元を辞します。「ふふっ……おかしなやつだ」

しかしどうしても気になる玄明は、馬を走らせ地面に耳を当てます。遠くで馬の蹄や歩く音が聞こえてきます。大軍です。良兼が率いる将門奇襲軍で、そこには扶や八郎、海老丸の姿もあります。良正は病にかかりこの戦には参戦していません。玄明は最後尾の兵をひとり捕まえ、その身なりに変装し、一軍の最後尾からついていきます。

やがて玄明は全てを知った。敵の総勢は80、指揮者は良兼、子春丸の手引きで良兼の郎党が石井の営所に潜入し、出口・入口・抜け道そのほか防御のための仕掛けの類まですべて偵察してきた。今度こそ小次郎の首が取れる……。そう武者たちは抑えた体で語り合っていた。

一軍から離れ、着替えて石井の館に戻った玄明は、夜襲の件を将門に知らせます。将門はわずか十数名ながら兵たちを集め叱咤します。逃れようにも道はなく、戦うだけが生きる道である──。女や子どもたちは館の奥に隠れているように良子に命じ、それぞれ持ち場につかせます。

「火をかけては小次郎を取り逃がすことになる。目指すは小次郎だ」館前に到着した良兼軍は、音を立てずに内部に侵入し、仕掛けにつながるつたを切っていきます。館の奥に進む軍勢ですが、矢板の向こうで将門の兵たちがいきなり矢を射かけてきます。小勢とみた扶は一斉に襲撃させますが、「夜討ちとは卑怯な!」と将門が出て来て、斬りこんできます。

玄明は木の上から棒手裏剣を投げ、敵を一人ひとり倒していきます。玄明だけでなく員経や老郎党(爺)も善戦しますが、倒れた爺を助けた将門は敵兵に囲まれてしまいます。しかし囲みの後ろから玄明が助太刀し、争いは館の中へ。後から悠々と館に足を踏み入れる良兼ですが、現れたのは良子と侍女たちでした。良兼は良子との再会に顔をほころばせますが、薙刀を手にした良子は父親に刃を向けます。

「良子……そなた……」と良兼は衝撃を受けます。そしてそのころ、別の部屋では将門が敵兵に囲まれていました。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
真野 響子 (良子)
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長門 勇 (平 良兼)
峰岸 徹 (源 扶)
吉行 和子 (けら婆)
藤田 弓子 (子春丸の女)
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露口 茂 (田原藤太)
太地 喜和子 (武蔵)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:閑谷 雅行
演出:大原 誠

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第41回「貞盛追跡」

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