大河ドラマ光る君へ・(19)放たれた矢 ~まひろ宮中へ・道長は…~
長徳元(995)年6月、一条天皇は道長を右大臣に任じた。道長は内大臣の伊周を越えて、公卿のトップの座に就いたのである。これからは太政官の長であり、力になってもらいたいと帝から言葉をもらい、姪にあたる中宮定子からもよろしく頼むと言われ、身命を賭してお仕えすると藤原道長は深々と一礼します。
道長は関白の座に執着しているわけではありません。陣定(じんのさだめ)に出られない関白ではなく、帝の政について公卿のひとりとして陣定に出て論じ合いたいのです。意見を述べる公卿たちの顔色を見て彼らの思惑を見抜けねば、補佐役は務まらないと考えているようで、帝はこれまでの関白とは異なるのだなと感心します。「はい、異なる道を歩みとうございます」
まひろは、弟の藤原惟規が借りて来てくれた白居易『白氏文集』の新楽府を写本しています。いとはその作業が楽しいのかと半ば呆れていますが、政のあるべき姿が書かれていて、まひろにとっては“ためになる”のです。いとは、そんな作業は惟規に任せ、婿に出会えるよう清水寺にお参りに行くよう提案しますが、そこに肥前のさわから文が届きます。さわは肥前で婿を取り、まひろは自分のことのように喜びます。
伯耆と石見から申し出があり、帝は両国の租税を4分の1免除してはと提案します。道長には異論なく、民を思う心がなければできないことだと帝の政に賛同します。陣定ではほとんど賛成で、二か国だけを免除すれば他国が黙っていないと藤原伊周が反論しますが、疫病に苦しむ民を救うのは上に立つ者の使命だと道長は主張して、それらを道長が代表して帝に伝えに行きます。
陣定が終わると伊周は道長に、藤原道隆や道兼を呪詛したのは右大臣かと難癖をつけます。「ありえぬ」と道長は相手にしませんが、姉の女院(詮子)を味方につけて帝をたぶらかしたのも右大臣だろうと伊周の暴言は止まりません。女院を使って中宮に無理強いするのもやめろと道長の肩を小突きますが、道長はその手を払いのけ伊周を床に転がします。道長は黙ってその場を後にします。
除目を考える道長のところに詮子が押しかけて来て、この人を入れておいてと道長に紙を渡します。名前を一目見た道長は「できませぬ」とそっと紙を閉じます。伊周一派の動きを封じるためには自分の知り合いを増やしておいた方がいいと説得する詮子ですが、道長は道隆のようなことはできないと、詮子の要求を突っぱねます。詮子は、素直に従うふりをして帝に直接人事のことを頼みに行ってしまいます。
しかしあの日以降、伊周と隆家は参内しなくなった。月を愛でながら、道長と幼なじみたちで酒を楽しみます。偉くなるのは大変だと道長はため息交じりですが、藤原公任は次の除目では自分のことは忘れてくれと言い出します。父藤原頼忠が関白だったころは、自分も関白にと狙ったときもありましたが、立派な道長を前に道長と競い合いたくないというのが本音なのです。
その上で公任は、除目を行う道長に、公卿たちの事情を知っておいた方がいいと進言します。達筆な藤原行成の女たちとの太いつながりを使って、公卿たちの睦言から外に知られたくない話を聞き出せというのです。藤原斉信もそろそろ参議にしてほしいとつぶやきますが、蔵人頭からは今回は源 俊賢を参議に上げる予定で、道長は斉信に許してくれと言葉をかけます。
さっそく行成から、藤原朝経が酒乱などという報告が上がります。それを記した紙は詠み終わったら焼き捨ててほしいと頼まれますが、道長は頭のいい行成とは違って一度には覚えられないと難色を示します。とはいえその紙が他者に渡ると危ないわけで、行成は道長なりの記録を作っておくことを勧めます。いわば日記のようなものですが、こまめな記録が苦手な道長はこめかみあたりをぽりぽり掻きます。
猫の小麻呂を追って源 倫子が道長の不在中にその仕事場に立ち入ります。文机の上には道長による『御堂御記抄』があり、「御牧(みまき)の御馬を引き分けて、私の直廬(じきろ)に持ってきた。使の近衛に疋絹(ひつけん)を下賜した」と書かれています。猫を抱き上げる時に倫子の目に入って、読んではならないと思いつつ、ついつい目で追って微笑ましく感じます。
除目は年に2回ある。秋の除目は大臣を除く中央官人の任命、春の除目は主に頭領など地方官人の任命であった。この秋の除目で実資が権中納言、俊賢が参議となった。そして行成が蔵人頭となった。俊賢は内大臣伊周、中納言藤原隆家のところにあいさつに出向きますが、道長に言われて様子を探りに来たかと伊周は吐き捨てます。
俊賢は道長の妻の兄といっても、源家再興のために道長に近づいているだけで、俊賢は伊周が高みに登る人物と見て、先々のために種まきしているのです。蔵人頭として帝のそば近くに仕える俊賢は、帝には、伊周に道長と対抗する力がなければ、内裏も陣定も偏りなく働かないと考えているようで、伊周と隆家に参内を強く勧めます。
実は俊賢は道長に言われて伊周と対面したようで、伊周と隆家が参内しなければ、道長が2人を蔑(ないがし)ろにしているという噂が立つわけです。それを無理やりにでも参内させることでその噂を立たせずに済みます。その役割を果たした俊賢に、道長は「よくやった」と労わります。「必ず参内されましょう。駄目であれば……第二の手を打ちまする」 次の陣定では予想通り、2人は出席しています。
疫病に苦しむ民のために租税を免除したり、若狭に70人も宋人が来たことについても受け入れ宿舎がある越前に送るように帝に申し上げたなどと、道長の評判についていちいちききょうがまひろに伝えに来ます。宋にある科挙制度を日本にも取り入れてほしいと考えるまひろは、中宮にも会ってみたいとこぼしますが、面白がったききょうは話をしてみると乗り気です。
それが叶い、まひろは参内して定子のところへ行くことになりました。廊では鋲(びょう)が落ちている嫌がらせもありますが、3日に1回は踏んでしまうききょうはそんなことはもろともせず、逆に聞こえよがしに言い放ちます。「そんなこと私は平気です。中宮さまが楽しそうにお笑いになるのを見ると、嫌なことはみーんな吹き飛んでしまいますゆえ!」
定子は、まひろを清少納言(ききょう)が心酔する友と言われていたようで、和歌や漢文のほか政にも考えがあると紹介されて、興味を示します。そこに帝が“会いたくなってしまった”と来ました。手を取り合って奥に向かう帝と中宮に、まひろはどこに行ったのかと疑問に思いますが、少納言はニヤリとします。「お上と中宮さまは重いご使命を担っておられますので」
しばらくして戻って来た帝に、定子はまひろを紹介します。政にも考えがあると言われ、帝はまひろの考えを尋ねます。まひろは宋の国の科挙制度を挙げ、わが国でもそのような仕組みが整えばと自身の夢を語ります。帝はまひろが新楽府を読んだと感づきます。『高者未だ必ずしも賢ならず、下者未だ必ずしも愚ならず』と諳んじるまひろに、帝は「そなたの夢、覚えておこう」と微笑みます。
そこに伊周と隆家が現れます。いま下がるところだったと少納言とまひろは下がっていきますが、隆家はあのような女を近づけるなと苦言を呈します。伊周も、どうせ呼ぶなら女御になれるぐらいの女子に、そうでなければ中宮に皇子をと進言します。伊周の言葉が帝のプレッシャーになっていると、定子は帝を心配します。「伊周はそれしか申さぬのだな……もうよい、今日は疲れた。下がれ」
屋敷に戻ったまひろは、正月の除目について父の藤原為時に、越前守を望んでは? と勧めます。越前では宋人がたくさんいて、宋の国の言葉も話せる為時の活躍の場があると考えたのです。ただ守の位は五位以上であり、正六位の為時には難しい話ですが、まひろは望みが大胆であるほど帝の目に止まると強く勧めます。乗り気でない為時に「宮中に参ったら何やらおかしくなったの」と言われてしまいます。
その夜、伊周は斉信の妹・光子のもとへ忍んでいた。
帝は、政を考える女もいるのだなと道長に打ち明けます。身分の高くない……「前式部丞蔵人の娘……名はちひろ? まひろと申しておった」と言われ、帝に対して畏れ多いと道長は目をぱちくりさせます。あの者が男であったら登用してみたいとつぶやく帝の言葉を受け、道長は思い出したように動き出します。提出された除目の申文を全て確認し、為時から提出されたものを見つけ出します。
為時はすぐに従五位下に出世します。右大臣からの推挙と言葉が添えられ、10年間放っておかれたのにと為時自身も困惑しきりです。それよりも、内裏に上がる五位以上の者が身につける赤い束帯が、屋敷にはないといとは言い出します。まひろは藤原宣孝に借りようと支度をして急いで出ていきます。為時といとは、まひろと道長の間には何かがあると考えずにはいられません。
翌日、赤い束帯を身に着けて道長の前に参上した為時は、個別に推挙してもらったことと、娘が悲田院で助けてもらった礼を言って頭を下げます。道長は為時に言葉をかけ、さっさと出て行ってしまいます。そしてその間、気持ちよさそうに琵琶を奏でるまひろですが、弦が1本切れてしまいます。あまりの突然のことに戸惑うまひろです。
斉信には妹が二人おり、伊周が忍ぶ光子と、その妹の儼子(たけこ)です。その夜も伊周が忍んで来ますが、門の前に止まっている牛車を見て、光子に裏切られたと屋敷に戻ってやけ酒です。「見事な設(しつらえ)えの牛車であった……関白になれなかったゆえ、女まで俺を軽んじるのだ」と泣きはじめる伊周は、隆家に背中を押されて懲らしめに向かうことにします。
再び向かうと、牛車はまだ停まったままです。ちょうど出てきた僧姿の男に、隆家は矢をかすめさせて脅します。「いかがされました! 院!」と慌てて出て来る斉信の声に、伊周は「院?」と怪訝な表情を浮かべます。矢を射かけられたのは花山院。長徳の変の始まりである。
作:大石 静
音楽:冬野 ユミ
語り:伊東 敏恵 アナウンサー
題字:根本 知
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[出演]
吉高 由里子 (まひろ)
柄本 佑 (藤原道長)
黒木 華 (源 倫子)
吉田 羊 (藤原詮子)
高畑 充希 (藤原定子)
三浦 翔平 (藤原伊周)
町田 啓太 (藤原公任)
渡辺 大知 (藤原行成)
竜星 涼 (藤原隆家)
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塩野 瑛久 (一条天皇)
上地 雄輔 (藤原道綱)
本郷 奏多 (花山院)
ファーストサマーウイカ (ききょう/清少納言)
秋山 竜次 (藤原実資)
石野 真子 (藤原穆子)
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岸谷 五朗 (藤原為時)
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制作統括:内田 ゆき・松園 武大
プロデューサー:大越 大士・川口 俊介
演出:黛 りんたろう
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『光る君へ』
第20回「望みの先に」
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