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2024年6月 7日 (金)

プレイバック風と雲と虹と・(46)決断

玄明と玄道たちは、常陸国の行方郡(なめかたごおり)と河内郡(かわちごおり)の不動倉を襲い、重傷を負った玄道は小次郎の元へ来た。そこに急に興世王が来て、武蔵権守(ごんのかみ)の役職を辞めると言い出します。武蔵守として赴任した百済王貞連(さだつら)とそりが合わないわけですが、公ではやはり“興世王と将門が組んで経基を襲撃する”という疑いを持っているようなのです。

権守を辞めた後は、将門の厄介になりたいという興世王に、将門は2人目だと大笑いします。玄道・玄明兄弟が不動倉を襲ったことは興世王も知っていますが、匿うつもりの将門にさすがの興世王も「やめられい! 大ごとになるぞこれは」と忠告します。しかし将門が頼まれれば断れない気性を思い出し、困ったものだとため息をつきます。

玄道を看護する良子ですが、玄道は美しい良子を見ているだけで励みになります。良子は玄道に、どうして不動倉を襲撃したのかと尋ねます。ゆすり、たかり、女へのかどわかしなど悪行をしてきた玄道ですが、民人たちには傷つけないという強い信念がありました。だからこそ弱い者をいじめる者が大嫌いで、これを叛逆と呼びたければ呼ぶがいいと考えているのです。

しかし将門には迷惑をかけたとは自認しているようで、歩けるようになったらすぐ出ていくとつぶやきます。将門はこっそりと玄道の枕元に座り、彼の発言に微笑みます。国府の役人や富豪たちに嫌われながら、不思議と民人たちには人気のある男だった、と小次郎は思った。

常陸の不動倉を襲った大罪人が将門の屋敷にいるという情報を常陸国府は掴んでいて、下総国の役人を屋敷に派遣して即刻の引き渡しを求めてきました。「罪人など当家には匿っておりません」と将門は要求を撥ねつけます。役人も、下総側の人間にしてみれば常陸国で起こったことなど関係ないのだと笑います。将門は大きく深呼吸します。

伊和員経は、この屋敷で玄道を匿っていることは口外しないよう興世王に願い出ますが、将門と玄道が仲のよいことは周知の事実であり、将門と常陸国府はやがて正面衝突すると予測します。武蔵国司にぐうの音も言わせなかった将門が、今度は常陸国府を相手に──公の権威など恐れないと言うのが天下に知れ渡るわけです。「思いのほか早く来るな……わしの出番も。ハハハ」

屋敷には平 四郎将平が来ていました。声をかけようとする将門を良子が止めます。桔梗の友だち・かやと仲良く作業している様子を見て、微笑ましく感じた将門は、声をかけずそっとしておきます。どんな季節にも人々の恋の花は咲く。四郎将平とかやとの間に、今その恋の花がつぼみを膨らませているようであった。

その夜、玄道の安否を気遣って、武蔵と螻蛄婆(けらばあ)が訪ねて来た。将門は初めて京に上った時に出会った、面をつけた盗賊が武蔵であったと知り、懐かしそうに思い出します。あの時武蔵の手下(季光)を討ってしまいましたが、武蔵は手下の兄(季重)も今は恨んでいないと笑みを浮かべます。将門は、武蔵が玄明の実姉で、武蔵武芝の娘であることに不思議な縁を感じています。

玄明は武芝の屋敷を訪ねてみるつもりですが、今は常陸国府が玄明らに目をつけているので、ほとぼりが冷めたころになりそうです。すまぬと玄道は謝りますが、将門はにっこりして早く元気になるよう励まします。「玄明……よかったな、美しい姉ができて。その代わり俺は弟を失ったわけだ」 玄明は、兄者はやはり兄者だと答えます。

 

玄道・玄明兄弟はいないとの将門の返答を受け、藤原為憲(ためのり)は下総国府を通すからこうなるのだと、常陸国府から直接石井(いわい)の館へ目(さかん)自ら使者に立つよう命じます。さらに為憲は、4,000の兵を集めましょうと常陸介藤原維幾(これちか)に進言します。戦をせずとも、大罪人追捕の軍勢に将門が反抗するとも思えず、少なすぎれば侮られると為憲は考えているのです。

この時の小次郎について『将門記』は記す。「将門は素(もと)より侘(わ)び人を済(たす)けて気を述べ、便りなき者を顧みて力を託(つ)く」彼ら困っている者を助け力を貸し、勇気づける性格だったというのである。従えないと返書をしたためるつもりの将門に、興世王は“お尋ね者を見出した時は報告します”ぐらいにしてはどうか? と提案します。

その返書をもって目が常陸国府に戻り、しばらくするとまた石井館にやって来ました。それに対しても再び返書を出すという繰り返しです。将門と常陸国府との書面による押し問答は、数回にわたって行われた。この情勢は下野の田原藤太の元にも聞こえた。藤太は、将門が自分の思うような人物であれば、衝突は必ず起きると予想します。

数回にわたる押し問答の果てに、少し趣向を変えてみたと興世王は胸を張ります。玄道・玄明らについて当方でも探索していたところ、向こうより名乗り出て来た。前非を悔い許しを願っているため、この小次郎に免じて彼らの罪を許して見逃してもらいたい。ついては将来のことは自分が引き受け、罪を犯すようなことはさせないから──。

こんな返書で常陸国府が納得するだろうか? と平 将頼や員経らから不安な声が上がります。興世王も無論、常陸国府が納得するわけがないと分かった上でこの返書をしたためたわけですが、興世王はそれでいいのだと気にしていません。なぜなら将門が坂東一の武者だからです。この返書により相手がどう出るか。将門は笑顔で立ち上がり、「やりましょう」と頷きます。

公を馬鹿にしおって! と維幾は返書を投げ捨てます。為憲は、将門の背意はもはや歴然で、力をもって屈せしめるより他に道はないと維幾を見据えます。将門追討使としての任を負ったままの平 太郎貞盛を常陸国府に呼びますが、将門と戦って勝てると思っているのかと「無謀だ!」と返答します。

維幾は、実際に戦うのではなく、大軍で国府の決意を示したいというわけです。貞盛は、合戦の法則を忘れていると指摘します。気の優しい羊が猛き虎となり、普段熊や狼のような人間が浮足立つと臆病な兎にもなり得るわけです。為憲は自分たちは公の兵、帝の尊厳を後ろ盾にしている兵だとし、自分たちに盾突けば将門は公、日の本に対する反逆者となると主張します。

貞盛は、この時に慄然とする思いで将門のことを考えていたのである。小次郎という男は、ひとたび固く玄明たちを守ろうと決意したなら、それを押し通すだろう。それがたとえ国家に対する叛逆であろうと。何も反論しない貞盛を見て、為憲はニヤリとします。

 

その時から常陸では兵たちの徴集が始まります。家の中に押し入って男たちの首を掴み、畑仕事をする男たちを捕まえていきます。為憲の、ほとんど執念といってよいような熱意に、常陸の国内からついに4,000の兵を集めた。凶作に苦しむ常陸の民人にとって、国府はますます怨嗟(えんさ)の的となったこと、言うまでもない。

そして貞盛は今度もやはり巻き込まれて、心ならずも為憲の副将の役を務めることとなった。維幾親子の意に逆らっては、生きるすべもないのが彼の現代であった。集められた兵たちを眺め、ことのほか沈んでいる彼らに、貞盛は大きくため息をついて首を横に振ります。

将門は、まず4,000もの兵が集められたと聞いて、実りが薄かった土地が多いのにと常陸の民人たちのことを心配します。そしてその大軍が下総に来れば、ここの土地は踏み荒らされてしまうため、将門はいま集められるだけの兵でこちらから出て行くことにします。その軍勢が常陸国府にたどり着く前に、玄道・玄明兄弟の嘆願のために来たと使者を送るつもりです。

「私は戦いは好まぬ。しかし……しかし俺は、我慢がならぬのだ」 玄明たちが常陸の民人たちにどれだけのことをしてあげられたかは、将門も、玄明たち自身も分かりません。ただ飢えに苦しむ民人たちは、穀物を分け与えられて喜んでいたことだけは確かです。国府が民人に何をしてくれたのかと考えれば、将門の決意は十分すぎるほどの理由になります。

常陸では大勢の民人たちが飢えで苦しんでいる。だから不動倉を開いたわけです。不動倉というものは民人が開いてはいけない、という公の法を民人が犯したわけですが、公の法の下では民人は生きていけません。そして常陸のことはいずれ下総のこととなります。「小次郎将門は、ここで引くことはできぬ。ま、ともかく一足踏み出してみようよ」


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 太郎貞盛)
真野 響子 (良子)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
宍戸 錠 (鹿島玄道)
吉行 和子 (けら婆)
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米倉 斉加年 (興世王)
太地 喜和子 (武蔵)
露口 茂 (田原藤太)
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制作:閑谷 雅行
演出:松尾 武

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第47回「国府占領」

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