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2024年6月 4日 (火)

プレイバック風と雲と虹と・(45)叛逆(はんぎゃく)の道

厳しく貢ぎを取り立て、体を整えよという朝廷の命令を受けた坂東の各国府は、それを実行した。中でも藤原維幾(これちか)が介を務める常陸はひときわ厳しかった。ある男は捕らえられ鞭打たれ、ある男は刀で脅され、逃げ出す男は容赦なく斬り捨てられます。坂東に再び武蔵が来た。天慶2(939)年の夏である。

鹿島玄道と武蔵、そして季重は、鹿島玄明に螻蛄婆(けらばあ)のところへ案内されます。厳しい貢ぎの取り立てに、民人たちはこれ以上貢ぎをできまいとつぶやく玄明に、できないなら……と武蔵は尋ねますが、「せねばよい」と婆は答えます。こちらが拒ませずとも民人たちは拒むわけで、婆は玄道に役人たちから民人たちを守るよう訴えます。玄明は不動倉を打ち壊すことを提案します。

玄道たちは、すでに貢ぎとして差し出すべき何ものも持たない常陸の民人たちを、国府の役人たちの過酷な追及から守ろうとした。民人たちを鞭打つ役人を玄道らは蹴散らし、また貢ぎを運ぶ季重は道を外れ、問い詰める役人を武蔵が襲います。かつて都へ運ばれる貢ぎも、次々と奪われた。

 

小次郎は下総の国府に来ていた。都から中宮少進(ちゅうぐうのしょうしん)・多治真人助実が、太政大臣忠平の御教書(みぎょうしょ)を携えて来たためである。平 将門は、武蔵権守の興世王、足立郡司の武蔵武芝と3人で、武蔵介の六孫王経基を襲ったというのは思い違いだと主張します。助実は将門に、事の成り行きを書面にするよう勧め、近隣の府に下文を書かせるよう助言します。

伊和員経は、助実が“うわさではあるが”と断ったうえで、今の下総守の任期は今年で終わり、次の除目では将門に下総守に(なるだろう)と言ったと笑顔を見せます。老郎党(爺)や平 将頼、そして豊太丸を抱いた良子も目を輝かせます。将門は、忠平が自分にこれまで蓄えてきた力を国司を助けるために使わないかと言っていると解説します。

ただ、いま国司たちがやっていることと言えば、民人たちから貢ぎを厳しく取り立てることであり、兵をかき集めることであるのです。総じて民人たちを苦しめることにつながるわけで、一国の守(かみ)になることは名誉なことですが、将門としては素直に喜ぶわけにはいかないのです。将頼は、下文をもらう常陸介維幾は太郎貞盛の叔母婿(母秀子の妹の夫)にあたると指摘し、素直に応じるか心配します。

案の定、維幾は貞盛が将門追討使としての任を解かれておらず、その将門の弁護のために下文を書くことに抵抗します。しかし郎党は、公には将門を咎める気配がなく、次の除目では将門をどこかの国司にするかもしれず、下総国府からも書面が届いていると打ち明けると、維幾は考えておくと返答します。

郎党と入れ替わりに、子の藤原為憲が入ってきました。常陸国府の役人たちを武力で追い払う玄道・玄明兄弟の話を持ち出しますが、維幾が持っているのは“古くから名の通った賊だ”という情報だけです。為憲は、その玄道・玄明兄弟は将門の手先だと告げ、これらの事件は将門の差し金だと決定づけます。「奴らを捕えれば必ず泥を吐く。父上、常陸国司として手柄をお立てになるまたとない折では」

 

武蔵たちは取り入れの終わる時期を待ちかねたようにして、次の行動を起こした。玄道は、行方郡(なめかたごおり)郡家(ぐうけ)の不動倉を目指すと下知し、玄明や武蔵、季重たちとともに不動倉を襲撃します。異常を知らせる法螺(ほら)を吹く兵には婆が脅かして落下させ、米俵などを奪い去ります。

次は河内郡(かわちごおり)だ! と玄道は笑います。深い霧の中、船で移動する彼らですが、玄明はいつもの笛を奏でます。それを別の小舟で聞いていた武蔵は、幼いころに母が吹いていた笛を思い出します。武蔵の様子がおかしいのに季重は気づき、声をかけますが、「思い出せそうなのに……どうして」と目が泳いでいます。

河内郡の不動倉襲撃では激しい抵抗に遭った。行方郡から逃げた役人たちの報告で、警護を厳重にしていたのである。やむなく激しい闘争となり、郡家は炎上した。火の手が上がる中、民人を発見した玄明は「あなたたちには危害を加えない」と館の外へ逃げるよう言葉をかけますが、直後、館の中から聞こえる幼子の泣き声に気づきます。

その声に近づいてみると、幼子が親と思しき女に抱きついて泣きわめいています。女は矢で射抜かれて死んでいました。その光景を目の当たりにし、玄明は「同じだ……夢と」とつぶやきます。そしてその幼子をじっと見つめる武蔵の姿もありました。追いかける兵たちに襲われ、あえなく命を落とした母、母に泣きつく弟、それを見つめる私──。

「あなたの笛、母が吹いてた……いつも。母は殺された、私の目の前で。そばに、幼い弟がいた」 見つめ合う武蔵と玄明を、あらかた運び終えたから早く(撤収を)! と玄道は呼びに来ますが、追ってきた兵に刺されてしまいます。玄明が玄道を抱えて逃げている間、武蔵が兵たちの相手をして時間を稼ぎます。

途中の山道で玄道を寝かせますが、出血がひどく衰弱する一方です。婆もどこかで休ませた方がいいと提案しますが、玄道はもう先が長くないと覚悟しているようです。「そうだ……小次郎に会いたいな……奴に会ったら自慢してやるんだ……どうだい、俺だってなかなかのことをやるだろ? って……奴は俺の友だちだからな……」 玄明は全速力で駆け抜け、将門の館に向かいます。

小次郎には事態の重大さが無論分かっていた。将門は玄明に賊を働いたのかと問い詰めます。かつて京の都で、賊とは人を害し奪うものだと言い、その時玄明は「公も賊だ」と返していますが、将門は玄明が藤原純友と同じ考えをしているとも言っていました。「公にとって海賊大将軍純友はまさしく賊でしょう? この私も。しかしもし公が賊なら、私たちは賊ではない」

いつかどんな意味でも私たちが賊と呼ばれない日──賊が賊でなくなる日──が来る……。来てほしい、と玄明は思っています。玄明は玄道のところへとんぼ返りしますが、将門は「賊が賊でなくなる日が……」と、玄明の言葉をつぶやきます。

戸板に乗せられた玄道が将門の館に運び込まれます。将門の顔を見て、玄道も安心したように笑顔を見せます。将門は、しっかり手当てをすれば大丈夫だろうと、ひとまず玄道を館の中に運ばせます。そのまま立ち去ろうとする玄明ですが、尋ねている人にやっと会えたようだ、と将門に告げます。「また戻ります」

しかし将門は、玄道の怪我がかなりのものだと、しばらく養生させるつもりですが、爺は玄道が常陸でかなり暴れているといううわさを聞いていて難色を示します。将門は「案ずるな!」と言いますが、爺は、玄道が将門に災いを持ち込むような気がしてなりません。彼らの不安は、やがて常陸の不動倉を玄道たちが襲撃した事実を知るに及んで、大きなものとなった。

 

「あなたの名は雪丸……雪の降る日に生まれたから」と姉の武蔵は弟の玄明に教えてくれます。武蔵の名は小笛で、それは母が笛が好きだったからです。その母は小笛と雪丸を連れて、鹿島玄茂(はるしげ)を頼るつもりで武芝の館を出ていったようです。

それは不幸な出来事であった。子どもたちと武芝の館を抜け出た美しい母の姿は、まもなく浮かれ人なりの役人たちの目に止まった。彼らは飢えた狼のように母を襲ったのである。鹿島玄茂さまのもとへ──そう息が絶える寸前の母が言う。それを、子の親の名と思った老人が、名の知れぬ孤児である雪丸に「玄明」と似た名をつけて育てたのであったかもしれない。

小笛は若い夫婦に拾われて山で育てられ、12歳の時にかつて武蔵掾(じょう)を務めたことのある人の養女になり、“琵琶どのの大臣(おとど)”藤原仲平の女房として仕え、16歳のときに家人である純友と出会うのです。その純友が都を離れた時、彼女はこらえきれずに後を追い、そして季重たちの夜盗の群れに出会った。山で育ったための、いや傀儡(くぐつ)であった母の血か、優れた身のこなしと鞭の技が彼女を季重たちの首領とした。

姉上なんだな……一通り聞いた玄明は事実を受け入れます。旅の傀儡の娘は自分と出会い、群れと離れて2人の子(姉と弟)を産んだ。しかし母親とともに2人の子は消えていなくなった──。そう玄明に教えてくれた武芝の話とも、この姉の話は合致します。玄明は笛を吹きながら、父の武芝のことを思い出していました。

ついに弟は姉に巡り合った。父なる人も分かった。だがその人はもはやこの世にいない。めぐり逢いは嬉しいが、同時に密やかな風のようなものが2人の胸を吹き渡っている。それはどこか虚しさに似ていた。日の本を揺り動かすべき嵐はすでに吹き募り始めている。その只中にこの姉と弟はいる。

将門の館では、玄道・玄明兄弟の扱いについて話し合いが行われていました。都の太政官の許可なくては開けられない不動倉を襲撃した大罪人です。将門が玄道を引き受ければ、将門自身が叛逆者の汚名をかぶってしまうことにもなりかねません。将門は「それでもよい」と力強く頷きます。これを叛逆と人が呼ぶなら呼べ。それは小次郎将門の明確な決意であった。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
真野 響子 (良子)
高岡 健二 (平 三郎将頼)
福田 豊土 (伊和員経)
近藤 洋介 (三宅清忠)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
吉行 和子 (けら婆)
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宮口 精二 (武蔵武芝)
宍戸 錠 (鹿島玄道)
太地 喜和子 (武蔵)
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制作:閑谷 雅行
演出:重光 亨彦

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第46回「決断」

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