« プレイバック風と雲と虹と・(47)国府占領(こくふせんりょう) | トップページ | 大河ドラマ光る君へ・(24)忘れえぬ人 ~揺れるまひろの心に周明が~ »

2024年6月14日 (金)

プレイバック風と雲と虹と・(48)坂東独立

この公然たる叛逆を、見捨てることが公にできようはずはない。やがて必ず──。興世王の指摘にも平 将門は動じません。日の本の軍勢がこの将門を討ちに寄せてくるとき、それを防ぐ手立ては足柄と臼井、この二つの峠を切りふさぎ、坂東八か国を固めるよりほかに道はありません! と将門は立ち上がります。

将門は常陸の民人を国府に集め、自分は国司に代わろうと考えて兵を起こしたのではないと説明します。貢ぎも、それを取りたてる国司がいなくなったのだから必要ないと笑います。「国司はこの国における公の代理だ。それがなくなったということは、公もなくなったということだ。この坂東には坂東の空があり大地がある。そこで働く人々がいる。それでやっていけるはずだ」

民人は、面白いが夢のような話だとうなります。「が……夢を見てみるのもええかもしれねぇ」と年老いた民人がつぶやくと、皆から笑いが起こります。別の民人から郡司はどうするのかと声が上がります。郡司はその地域の豪族が担っている場合が多いわけですが、民人を苦しめる存在としては国司と同じです。民人たちは将門に、やっつけるかね? と見据えます。

将門は、それは民人たちが決めることだと任せます。坂東八か国は国境で他国に行きづらいということがなく、他国から攻め込まれやすいわけですが、兵たちは四六時中戦の用意をしておかなければならず、不安の声を上げます。それをなくすために、兵たちは下野、上野、武蔵と相模、各国府を落とそうと将門に進言します。「俺の考えていたことも、みんなと同じだ」

興世王は、坂東八か国の郡司たる豪族たちに送る檄文を書き上げます。“……発せずんばすなわち止む。すでに発す。豈(あに)閉じにして止まんや。天の命ずるところを奉じ民の願うところにより、まさに八州の国司を討たんとす。憤りを同じくするの士、望むらくは慕って将門に力を合わせられんことを” 坂東八か国の豪族に送られた檄文にはこう記されていた。

それを受け取った田原藤太は、誰しも胸に抱いたうっぷんながら誰も実際に行動には移せなかったのを、将門は思い切ってやってのけたと感心します。しかし藤太は、鷹狩りして那須に湯治に行くと旅の用意を始めます。「爺、わしはこの書面が着く前に、すでに那須に立っておる」 那須では下野国司が将門から国府を守るために力を貸せと言ってくるでしょうが、それにも応えないつもりです。

とはいえ、将門が藤太を敬っているのは間違いありません。将門が幼少のころ、若い藤太に会ったこともあると爺に言われて、藤太は昔を思い出します。遠い昔、若い田原藤太は民人にむごく当たった国府の役人を討ち殺し、叛逆の罪をもって流刑となった。その過去を持つ藤太が、いま叛逆の軍を進める将門から敢えて身を避けようとしている。

 

下野守・大中臣全行(おおなかとみの またゆき)は、国府の全ての人々同様、動転していた。下野国府では、将門軍が明日にも襲来するというのに藤太が旅に出ていると聞いて、全行は焦りを隠せません。おろおろとした挙句、よし! とこぶしを握り締めますが、次の瞬間には意気消沈して、役人たちは顔を見合わせて困惑しています。

小次郎の軍勢が下野の府中へ着いたのは、天慶2(939)年12月の12日。厳しい冬のさなかであった。将門には懐かしい下野府中です。あれは3年前、平 良兼軍と戦い、騒がせた詫びと経緯について説明に赴いた将門は、権威を示す全行に嫌気が差し、大声で威圧して経緯を記録させたのです。将門も伊和員経もそれを思い出すと苦笑しています。

道中、全行の使者が現れ、降伏の意を表し国府で待っていると告げます。興世王は全行自らは国府に安座して待つとは誅殺に値すると非難します。使者は慌てて引き返していき、将門は降伏してきた者に脅す必要はないと興世王はたしなめますが、都育ちの役人のことは自分が一番よく分かっていると悪びれる様子もありません。「まぁ任せておきなさい。そのほうが簡単でことは穏やかに済むのだ」

興世王のやり方でことが平和に片付くものなら、と小次郎はそれ以上言わなかった。しかし、何か胸にうそ寒い風が吹き始めたようであった。

下野国府では、平伏する全行が将門に印鑰(いんやく)を差し出します。印鑰とは、国府の印と国府付属の倉庫や書類箱などの鍵のことである。すなわち、これらを身につけていればこその国司であり、これを手放すことは下野守全行が国司の権力を全く放棄したことを示していた。興世王が目配せし、将門は仕方なく鍵を受け取ります。

 

12月15日、小次郎の軍勢は上野国府に向かった。上野の国府は今の群馬県前橋市元総社町、前橋市の中心部から西へ約1.5kmの地点にあった。道中、豪族たちのはせ参ずる者がますます多く、総勢はすでに1万5,000を超えていた。12月18日。上野国府でも国司が差し出した印鑰を興世王が恭しく受け取り、将門の前に。将門は下野の時のように受け取り、民人たちから歓声が上がります。

夜、上野国府で盛んな宴が催された。国府の隣に上野総社があり、その巫女たちはこうした場合、接待役に駆り出されるのが常であった。その一人、小米(こよね)は将門の顔を見てうっとりしています。そこに平 将頼が到着し、将門は席を外して将頼を出迎えに出ていきます。

将頼は、将門が出てからの下野の様子は変わりがありませんが、藤太が北下野にもめ事が起こったため抑えに向かったと使者が来たことを伝えます。興世王は藤太がどさくさに紛れて所領を拡大しておこうとしていると忠告しますが、下野は陸奥と接していて、その方面の治安を固めているとしても不思議ではないと、 将門は大笑いして否定します。

興世王は、将門が今まさに坂東八か国の“主”になろうとしていると指摘します。公が統(す)べる日の本に対して坂東八か国はれっきとした一つの独立国であり、その主として将門以外にはいないと興世王は主張します。将門は、国に主は必要か? と考えていますが、興世王は主なき国は夢だと断言します。「ならばあの常陸国府で年老いた民人が言ったと同じことを私も答えよう。夢を見てみよう、と」

そこに入って来た鹿島玄明は、武蔵守の百済貞連(くだらのさだつら)が将門の噂を聞いて、都へ逃げ出したと伝えます。相模国司も恐らく同様のようです。これで常陸・下野・上野・下総は将門が制したことになります。こうなればわざわざ将門を先頭に各国府に出向くことはあるまいと言う興世王は、ここで除目を執り行うことを提案します。

通常除目は、春正月の諸国国司などを任命する「県召(あがためし)の除目」、秋には都の司人を任命する「司召(つかさめし)の除目」が行われます。公がなく都の威光が通用しない坂東で除目を行うのです。多治経明や文屋好立(ふんやのよしたつ)は、自分が守になった気になって喜びますが、将門は一喝します。「おやめなさい。言ったはずだ。我らは国司に代わるために軍を起こしたのではない」

その指摘に興世王はムッとします。方便ということも心得てくれねば──。威をもってあたる自分たちがいかに下野や上野で功を奏したかを考えれば、今から他諸国へ乗り込む経明や好立たちに肩書がなければと説得します。この方法が最も手っ取り早く、最善なのです。威をもって従わせるのは嫌いだと主張する将門は、興世王に好き嫌いでは片付かないと言われても、首を横に振り続けます。

酒を飲む民人たちは、将門は坂東で……いや日の本で一番偉い人になると盛り上がります。日の本で一番偉い人は帝、と聞いて、小米は徳利を持って立ち上がり、しかし雷を討たれたように立ち止まって駆けだします。

将門は「俺は俺自身であることしかできない」と説明します。興世王の主張に理があったとしても、公を認めず坂東から追い払ったのち、自分たちがその真似事で除目を行うなど、こののち口に出すなと厳命します。将門たちは宴の席に戻っていきますが、興世王は員経につぶやきます。「所詮同じことに。守と呼ばず国司と呼ばずとも同じ役割を果たす者がいずれ必要に。ま、これは今は言うまい。今は」

将門たちが宴の席に戻ると、小米が神がかりしていました。八幡大菩薩、八幡大菩薩とつぶやきながら、かがり火の周りをぐるぐると回っています。員経は、いつぞやの火雷(からい)天神と同じだと将門に耳打ちします。「我は八幡大菩薩なるぞ! 平 小次郎将門、我の位を授けるぞよ。早う帝になれ。帝の位を授けるぞよ。そなたおらの子どもじゃ! 帝じゃ!」と叫ぶと、小米はパタリと倒れます。

神託者、神のお告げが将門に下った……。それでも将門は首を横に振ります。小次郎に神を畏れ敬う心がないのではない。むしろ彼にはそれが篤かったと言ってもよい。しかしこの時、彼は感じ取っていたのである。これはこの娘の率直な、しかし心中深く抱いている願いなのだ、と。「神は神、俺は俺だ」と将門は考えています。

そのころ、小次郎の常陸国府占領の知らせが、武蔵によって伊予の純友に届いていた。伊予守・紀 淑人(よしと)は、ふと不審に思った。それは純友からの手紙であった。大津を去って再び海に浮かび、あえて朝廷に対してこれを打倒すべく合戦を挑まんとするという、いわば公然たる叛逆の宣言書であった。手紙を届けた武蔵は、淑人と藤原純友を対面させます。「仲間になりませんか。私の」

 

小次郎勢は帰路についた。臼井峠の固めに文屋好立を充て、武蔵・相模へ三郎将頼を送って、なお従う兵1万あまり。言うまでもなく坂東の史上、空前の大軍である。民人たちは将門に歓声を送り、将門は手を振って応えます。将門に従う兵たちも誇らしげです。興世王の姿がありませんが、将門の凱旋を迎える支度をしに、一足早く石井(いわい)に向かっています。


原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
──────────
[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
草刈 正雄 (鹿島玄明)
高岡 健二 (平 三郎将頼)
──────────
米倉 斉加年 (興世王)
細川 俊之 (紀 淑人)
──────────
露口 茂 (田原藤太)
太地 喜和子 (武蔵)
緒形 拳 (藤原純友)
──────────
制作:閑谷 雅行
演出:岸田 利彦

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第49回「大進発」

|

« プレイバック風と雲と虹と・(47)国府占領(こくふせんりょう) | トップページ | 大河ドラマ光る君へ・(24)忘れえぬ人 ~揺れるまひろの心に周明が~ »

NHK大河1976・風と雲と虹と」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« プレイバック風と雲と虹と・(47)国府占領(こくふせんりょう) | トップページ | 大河ドラマ光る君へ・(24)忘れえぬ人 ~揺れるまひろの心に周明が~ »