プレイバック風と雲と虹と・(50)藤太と将門
太郎貞盛は、常陸国府軍に加わっての敗戦以来、以前の領民たちの家を渡り歩いていた。民人たちは平 将門に気兼ねして、自分を喜んでは迎えないと貞盛はつぶやきますが、貞盛を待っていた村の女は、父親たちが何と言おうと貞盛は自分が守ると、笑顔で貞盛を迎え入れます。彼はいつも女たちに愛される。そのいわば特技が彼の身を安全にしていたのである。
太郎貞盛の妻・小督(こごう)。彼女は貞盛を探し求めていた。だが、次々と隠れ家を変える彼に追いつくのは、容易なことではなかった。貞盛がいる隠れ家を探し当て、対面する小督と貞盛ですが、貞盛には悪びれた様子は全くありません。「あなたに見つかるようでは、ここもいよいよ危ないかな」と笑います。
これからどうするのかと小督に問われた貞盛は、将門を倒す以外にはないと認めますが、貞盛は都で将門追討使という任務を背負ってしまったばかりに、将門に肩入れする坂東の豪族たちは、目の色を変えて貞盛を追っているのです。父を討たれ、叔父を死なせ、妻の男兄弟全てを討たれ、そんな貞盛が何もしないで世に顔向けが出来るのかと問いただし、何としても将門を討つよう説得します。
民人の家で一夜を過ごし、小督が眠っている間に家を出ようとする貞盛ですが、どちらへ? と小督は貞盛に声をかけます。「小次郎を討ちに行ってくる」とニヤリとする貞盛ですが、貞盛にそんな気などあるはずもなく。ともあれ、小次郎の勢力の及ばない土地を探さねばならなかった。待てよ? と貞盛は、木枯らしの吹き荒れる中、思い当たるところへ向かうことにします。
貞盛が向かったのは、田原藤太の館でした。従者もなく単身での訪問に、藤太は戸惑いつつ貞盛を客間に通します。田原藤太は近日中に石井(いわい)へ小次郎将門を訪ねる予定であった。そこへ太郎貞盛が飛び込んできたのである。藤太は、貞盛に膳と女もつけてやれと爺(老郎党)に命じ、自らは不在ということにして明朝まで館に留まらせ、あわよくば捕らえるつもりです。
その夜更けである。眠っている貞盛の枕元には、涙をぽろぽろこぼす少女が座っていました。少女は明朝貞盛を捕らえる時のために、彼の身に着けている刀を取り隠す役目を負わされていたのである。少女は生娘だったのか、その涙に事の次第を察知した貞盛は館を脱出し、それを知った藤太は石井へ向かいます。
先ぶれの使者により、藤太が石井の館に来ると知らせが入ります。将門はいつものように良子と豊太丸で出かけていますが、興世王はまず自分が会おうと言い出します。「とっくに参っておらねばならぬところ、さんざん気を持たせおった田原藤太じゃ。こっちも待たせてやる」と、興世王は多治経明に協力を求めます。
藤太は客間に通されます。客間には上座に茵(しとね)があり、円座が3つあります。藤太は一刻ほど待たされた。恭しく出てきたのは興世王らです。興世王はこれまでの藤太の行動を問い詰めますが、黙って聞いている藤太は、興世王こそ将門を帝に祀り上げようとしている張本人だと冷めた目で見つめています。
そこに将門が帰ってきました。何をしておる! と声を上げると、興世王は慌てて退室します。将門は藤太を見ますが、すぐに藤太であると気づきます。20年ほど前、民人のために役人を討ち、反逆の罪で流刑にされる藤太を下野国府前で見かけ、両手を縛られているのも気づかずに刀を餞(はなむけ)に差し上げようとしたのでした。藤太もあの時の童が、と目を細めます。
場所を移して将門と対面した藤太は帝になる意欲を尋ねますが、権威の嫌いな将門は笑って首を横に振ります。しかし坂東八か国を統べるには、何かしらの権威が必要になると、藤太は興世王のようなことを言いますが、それでも将門は民人たちを信じていると告げると、盃の酒をぐいっと飲み干します。
民人たちが税を納められないと娘たちを差し出させるのに我慢ならず、藤太は役人を殺めたわけです。しかし民人たちのために人を討っても、民人たちは国府牢にいる自分を救い出しに来てはくれませんでした。自分の若気の至りの結果は、何も生まなかったのです。私は人と争わなくなった──。その先を藤太は胸の中でつぶやいていた。そして自分は人を愛することもなくなった、と。
小次郎の熱心な話題は、やはり農地のことであった。坂東の大地とそこに適した作物、また開墾や灌漑(かんがい)の方法などのことになると、小次郎は話し得ることがないようであった。「良い男だ。正直だ。民人に愛されているのは当然だが」しかし、と藤太は次第に冷えていく心で思った。民人に愛されることで、やがて来るだろう中央の権力との苛酷な対決に、この男は勝ち抜けるのだろうか。
石井の館からの帰り道、藤太はふと、民人に愛されているかと考えます。領内はもちろん近隣の民人たちからは敬われているものの、藤太は厳しい人物であるゆえに畏れられているのです。それでよいのだ、と答えを出した藤太は将門に会ってみて、「だめだな」と首を横に振ります。
将門が帝を自称しているとの報告が内裏で上がり、自分の弟や郎党たちを各国府に配置する除目まで行ったといううわさで、公卿たちは愕然とします。藤原忠平は苦虫をかみつぶしたような表情です。都の夜の闇に、玄明や武蔵たちの活躍はますます著しい。夜な夜な貴族の屋敷から兵糧や着物などを奪い、民人たちに分け与えるやり方で、喜ぶ民人たちを遠巻きに見て玄明や武蔵、季重は笑顔を見せます。
日振島(ひぶりじま)に集結した海賊集団は、純友の指揮下、一路瀬戸内を東へと進み、備前の国府からほど遠からぬ海上でその動きを止めた。備前介・藤原子高(たねたか)は怯え切っていた。子高は京に知らせるべく出立の用意を命じますが、現れたのがくらげ丸や鮫、鯒麻呂など見ない顔です。慌てた子高は兵を呼び集めますが、彼らのことも誰一人として知りません。
まさに一夜のうちに子高を除く国府の人間は総替えとなっていたのである。わしの命によらずしてこの国府へ誰の任命で! と声を荒げる子高ですが、「俺だ!」と背後から出てきたのは藤原純友でした。純友は子高の命を奪うことは考えていませんが、子高の好きな刑をすることにします。まず耳をそぎ落とし、鼻をそぎ落とす……。鮫の刀が子高の顔に振り下ろされます。
大慌てな都では西海をどうするかで話がまとまらず、純友を従五位下に叙すことが決まったぐらいです。しかし純友は貴族だの位だの吹き飛ばせという考えで、任官についてはくだらんと一蹴します。藤原恒利は、娘の千載を純友の正妻として定めてほしいと進言します。純友は千載のことが大好きですが、この話を断ります。「それもこれも、すべてことが成就してから後のことだ」
大浦秀成やくらげ丸は、恒利が検非違使別当や役人たちと親しいことに、度が過ぎると裏切りだと純友に進言します。純友は疑心暗鬼が最大の敵だと、そのことは口に出さないようにくぎを刺します。それよりも、純友は京にいる玄明からの報告を今か今かと待ち望んでいます。坂東の、あるいは将門の様子を知りたがっているのです。
忠平は藤原忠舒(ただのぶ)を東海道追捕使に、小野維幹(これもと)を東山道追捕使に決めます。朝廷は、ようやく将門に対する軍事方針を決したのである。
どんどん飲んでくれ、と将門は武将たちに酒を注いで回ります。興世王は仲間に入れず、単独で酒を飲んでいます。天慶3(940)年正月も末のころ、小次郎は石井に主だった武将や郎党を集め、兵たちとともに慰労の宴を張り、その席上重大な決定をした。将門は戦の体制を解き、兵たちにそれぞれの国へ、家へ帰るよう勧めます。
将門のそばにいたいから兵に加わったという男たちもいますが、戦をするのが仕事ではないと将門は諭します。この坂東から国司たちが去り、公が消えました。残った我々は将や兵である前に、大地に取り組むことが仕事なのです。今まで当たり前であったことが当たり前でなかったし、逆さまのことが実は当たり前だった……。「公の権威も勢力も消えた今の坂東、これが本然の姿なのだ」
原作:海音寺 潮五郎「平 将門」「海と風と虹と」より
脚本:福田 善之
音楽:山本 直純
語り:加瀬 次男 アナウンサー
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[出演]
加藤 剛 (平 小次郎将門)
山口 崇 (平 太郎貞盛)
真野 響子 (良子)
多岐川 裕美 (小督)
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草刈 正雄 (鹿島玄明)
米倉 斉加年 (興世王)
仲谷 昇 (藤原忠平)
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露口 茂 (田原藤太)
太地 喜和子 (武蔵)
緒形 拳 (藤原純友)
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制作:閑谷 雅行
演出:松尾 武
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』
第51回「激闘」
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